初戦
秋空だ。
野球日和。
初めて最内ナイン(と呼ぶ6人)に会う。投手の東原、捕手の袋井、内野手の一条、菅、菊川、児島。なるほど内野手はみんな小柄で俊敏なタイプか。中学でショートを守ってたイメージの4人。
沢村の作戦はあながち間違いではないようだ。
「スタメンはピッチャー東原…」
監督は早速スタメンを発表する。
投手、捕手、内野は最内。外野は左から田所、黄田、沢村。俺と川上はお留守番。
一応俺も外野でノックを受ける。
この感じ。久しぶりだが気持ちいい。
素直なフライがレフトにあげられ楽々捕球した俺はショートに返す。力余って強めに返したらショートの児島がびっくりしてた。
児島?
川上が覚束ない足取りでフライをキャッチする。彼が出場するならおそらく投手で、だろう。
左投げってだけで監督から投手やれって言われてたな。本人がかなりビビってたけど。
見た感じショートアームの出所が見にくいフォーム。セットなら左バッターは合わせるのに工夫がいるはずだ。
シートノックが終わり開始を待つ間、気になって児島くんに話しかける。
なあ兄弟…
「そっちに姉さんたちが行ってる」
双子の姉妹?
「ずいぶんモテるんだってな」
冷やかすように児島弟。間違いないだろう。そんな不名誉な噂は…みささんだよなあ。
「これから…いろいろ頼むぜ」
なにをだろうね…。
試合は高校らしくロースコア…僅差で進む。相手はうちと同じくらいのレベルらしく、たまにエラーも絡んだりして終盤で4対3とリードされていた。
強豪ならコールド負けもあるかと予想していたけどなかなか健闘してる。
さっき山形も間に合った。バスケの練習後にここに駆けつけたらしい。
9回裏、1点差。
「代打攻勢だ」
監督が勇ましい。
7番の代打、川上。
あえなく三振。
8番の代打、山形。
当たればホームラン級のスイングで華麗に三振。
9番の代打、早名。
左に立つ。
「あれ幸平って左打ちか」
スイッチだよ。知ってるの若葉くらいか。
その若葉も声をあげる。
「打て〜!」
あいつ野球になると熱くなるやつだった。
初球。外角に来た球がわずかに沈んだ。
やべっ。
体が反応していた。ショート左へ強い打球。
回り込んで捕球をしかけたショートの前で、ボールは不自然なほどに弾み、エラーで俺は出塁した。
いきなりエンドランのサイン。落ち着く間もなく仕掛けるのか。あの監督すごいわ。
左打ちの一番黄田に合わせてショートが動くはず。三遊間へ。
そう黄田に目で促すとわずかに頷く。
牽制する素振りも見せず、投手はセットから打者へ。
明らかに動揺している。
モーションを盗んでスタート。ショートが入る。空いた三遊間に綺麗に流し打ち。
長打警戒で深めの位置にレフト。あまり肩は強くないことを試合中に確かめていた。
勢いを殺さず三塁へ。
捕球したレフトは三塁へ…悪送球。コーチャーの回す腕を見て一気に本塁へ。
同点。
そして黄田は…三塁にいた。
あー確かにあれは異次元だわ。早い。
そして二番沢村の初球。呆気なく幕は閉じた。
捕手のパスボール。あるいはワイルドピッチか。
後にボールが転がる間に、黄田は逆転サヨナラのホームを踏んだ。




