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現し世の方が

ヤバいタイミングと言うべきか、晴さんは興味津々な顔で近づいてきた。

数瞬戸惑う。

姉を見ると諦めたかのような視線。

こうなったら仕方ない。

受け入れて秘密(と言っていいのか)の共有者になってもらう他にないのかも。


「あなた誰なの?」

あー、千種に別人格が密かに根付いてるのを気付いてたのか。

あれだけアドレナリンが出る状況でも淡々としてれば不審にも思うか。

慣れすぎていて迂闊だったわ。今もこうして観察してるような目線なのもその影響かね。


「やれやれ。また増えるのか?」

千種の中のミコさんはそうやって嘆息する。

「断っておくが一度たりとも自ら望んだことはないぞ」

「私たちの親を…あなたのせいで」

姉は端的に刃を抜いた。

「ならば我を裁くか?」

できるわけない。本体は千種だ。


「あなた昔の人みたいね」

晴さんは呑気に話す。

「昔じゃなくて大昔ね」

生の感情が混じってるせいか、姉はストレートに言う。

「たかだか二千年ほどのこと」

「………ああ。東夷伝の」

「ちっ。かつては自分らも蛮族であったやつらの記録など信じる方が愚かなもの」

「でも足取りは途中までかなり正確に比定されてるんじゃ」

「途中からは我が故郷への道筋。伝え聞いた者が混同しおった」

「じゃある意味正確だったんですね」


「ずっと南の故郷を離れたどり着いた地に今もおる」

珍しく姉が聞き役に回っていて、割り込んだ。

「それが御地」

「肉体が死んだ自覚はなかったが」

「男恋しさに色ボケしてたからよ」

さすがに姉ちゃん口が悪くないか。


「だいたい我はそんなに特殊でもない。日蝕やら天候、個人の将来、そんなものをただ…ただ見ただけのこと」

「やだ、鬼道ってもっと怨念めいてないとロマンがないじゃない」

「言霊すらもて遊ぶ現し世(うつしよ)の方がよほど狂うておる」

「事実なんてタネ明かししたら単純なのね」

「どのくらいの数の人間がそれで糧を得たと思うておる。擁護はせぬが」


「あなたの求めた相手が二千年も経って目の前に現れた…と」

姉は俺を見て言う。

「私にはできの悪い弟なんだけど」

晴さんはイタズラっぽく笑う。

「あら、結構…」

「「ダメ」」

千種と姉は同時に反応する。

なんだろう…なんかこそばゆい。


「今からじゃ、ね。二千年待った人とお姉さんを敵に回すほど身近じゃないから」

あっさりと笑う晴さん。


「心配しなくても良い。ほんの少しずつこの娘と溶け合っておる」

「いつまで千種ちゃんに居座るつもり?」

「消えはせん。意思疎通が完全にできるようになれば我が表に出る必要がなくなる。あと10年もすれば」

長いな、おい。


「この娘の力は我よりも濃い。だがその道をお主は望んではおらんだろ」

早名女脱走のことか。

姉は千種の中に問う。

「あなたはどうなの」

「無論。この方と共にあれば良い」

「巫女に未練は?」

「既に資格などない」

姉は俺をきつく睨んだ。

「あんた、もう?」

まさか千種にばらされるとは。


正直にだって気持ちいいんだもの、とは言えなかった。

愛と体が同時進行は罪だったかどうか、後にいくら考えても記憶してる聖書の中に答えは見つからなかった。


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