遠慮してんだぜ
190cmを越える長身、校内で見かける…と言うか嫌でも目にする同級生だった。バスケ部のセンターだ。
「バスケ部やめて野球部に?」
「掛け持ち、だ」
沢村が代わりに答える。
「昨日のオールスター見てたら血が騒いでな」
昨夜、依田日向選手が二打席連続ホーマーを放ち、試合後に結婚を発表した。
・・・
「放送席。本日ホームラン2本でリーグの勝利に貢献した、依田日向選手です」
「打者として今夜の活躍について一言」
「全国の野球ファンに野球が楽しいと思っていただけるように打席に入りました。それと…頑張る姿を彼女に見せたくて」
あからさまな言葉に場内が湧く。
「彼女…ですか」
いろいろと今後騒がしくなる前に、と前置きして
「皆さん、まだ覚えているか、北玲と一緒になります」
再びざわめく場内。
「ご結婚される?」
「北玲が現役復帰するんで彼女ともどもご声援いただけたらと思います」
「驚きましたね。盟友の遊佐選手が残念ながら今回辞退されましたが…」
「あいつは先輩だからいろいろ聞いてみようかと思ってます。これからもご声援よろしくお願いします」
退潮著しいプロ野球メディアにとって恰好のネタになったのは間違いない。
そして仲睦まじく放送を見ていた遊佐晶と葉が頭を抱えているだろうと、日向はほくそ笑んだ。
少しはアキラに追いつくだろうか、と。そして俺の性格の悪さが妹も似ていることに、なんとなく六条家を思った。こんな風に好きな発言をできるのも、玲をいけすかない糞田舎に縛りつけることもないのも、自分を養子に出したあの親父だからかと。実家に帰ると決意を固めつつある妹をどのように守るべきか、難しい話になっちまったけれど。
・・・
昨夜の依田選手の話。
バスケ部の主力の山形があっさりと言う。
「甲子園でホームラン打ったら一生自慢できるだろ?」
「バスケ部の連中それでいいのか?」
「いいんじゃね?女目当てに茶道部とか華道部掛け持ちしてるやつらもいるし。逆に俺なんか半年もバスケ一筋だったんだからよ」
「適当なもんだな」
と沢村は笑う。
「何言ってんだ。おまえが誘ってきたんだろうがよ」
「まあ、なあ…」
「さすがに美人揃いの水泳部は遠慮してんだぜ、これでも」
山形は俺を見据え
「早名、幸平だっけ。『女神様』のカレなんだろ?」
強いな、こいつと俺は判断した。
「違う。『旦那』だ」
あっけにとられた山形はしばらくして
「やっぱすげえわ、おまえ」
と笑った。