二人きりの約束
野球部と言う名の同好会。
わが高高のチームは人数不足もいいところだ。
沢村光秀の名前より有名なナカジマ(常に部員勧誘してるからな)。自信家に見えるが確かに130kmを越える球と堅実は守備とバッティングは頼もしい。
田所と言う捕手。ガタイが良くキャッチングと配球にステータスをほとんど振っている。打撃は宝くじだ。当たれば大きいが。
川上は左投げ左打ち。やや肥満気味だが温厚な性格が愛されていた。技術、体力ともに発展途上。
黄田。社会人野球経験者の親を持ち抜群の俊足の左打ちである。大真面目なプロ志望だと言う。
そして「こーくん、お疲れ様」とドリンクを俺に渡してくるロリ巨乳マネ。名を折井若葉。以前にプールでヒメさんと二人で俺を絞め落として、千種に切って捨てられた不幸キャラである。幼馴染なんだけどね。
野球部の練習に初めて参加した時、最初は驚いていた。練習後に久しぶりに話したんだけど、第一声が
「早名さん、大丈夫?」
だった。そして常に周りに千種がいないか確認していた。どんなトラウマを植え付けたんだか、千種。ちなみにそれは千種と結納をした日のこと。
若葉に対しては、両親の葬儀の夜ずっと抱きしめてくれていた優しさを、俺は忘れられない。さらにもっと前、父親と二人で近所のグラウンドで遊びがてらキャッチボールや素振りを近くで眺めていたなんてこともあった。
そしてたぶん初恋だけが俺にはなかった。
美也子のことはたびたび口にする姉も、若葉に関してはそれが一度もない(シスコンなのか、ブラコンなのかは千種に聞けてない)。
結納の日。料亭での混乱から帰宅し、千種の部屋で彼女は俺の右腕を抱いていた。しばらく前から二人だけの時に千種は甘える素振りをする。
折井若葉がマネしてた…と報告すると
「一度話したいな」
と、意外なことを言った。
謝らなければいけないことがある、と。
接点もないはずの若葉になにを、と問うと
あなたとの再会を必要以上に切ないものに変えてしまったことだと言う。
あの子にとって大切な思い出をあたしが矮小化してしまったから、と苦い表情をして吐き出した。
「あたしの嫉妬のせいで」
「幸平が口説いてるわけじゃないから誰も責められないけど」
ため息のような囁きで
「いつでも強くいられるわけじゃないんだよ」
滅多に聞けない千種の本音。
「たまにでいいからさ、言って」
愛を、と。
しばらく考えた俺は、髪を縛るリボンにたまに触る許可を求めた。
無期限で良いと彼女は答えた。
さり気ない仕草が二人きりの約束であることを誰かに言う必要はないだろう。
捨てるキャラあれば拾うキャラあり