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聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します  作者: 陽炎氷柱
第三章

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60.呪具

 フブキの言葉に、ジェラルドが信じられないというように目を見開く。

 意味は分からずとも、呪いという言葉や国王の状態からそれがまともなものだとは思えない。そんな私の考えを裏付けるように、フブキは全身の毛を逆立たせた。黒い死にすらここまで拒絶感を示さなかったのに…。



『呪いは魔力を誓わず、対象に何かしらの魔法現象を起こす手段だ。もちろん行使に代償は必要だが、魂やら血肉やら贄を求める場合が多い。術者に魔力がなくても強力な効果を期待できるが、代償が代償ゆえに負の効果をもたらすのがほとんどだ』

「ち、血肉」

『そういった呪いが込められた道具が呪具。……この指輪ほどのものなら、犠牲になったニンゲンは一人二人じゃないな』



 私が想像していたよりもずっと血なまぐさい内容だ。

 フブキの言葉に、クロヴィスは険しい顔で黙り込む。



「相当入念に計画が練られているみたいだねえ。絶対に王を殺すって執念を感じる」

『心当たりはあるか?』

「まあ、いろいろあるけど……ここまで執念深いのはお隣のヨークブランだけじゃないかな?」



 その名前に、思わず息をのむ。

 確かグロスモントはヨークブランと停戦中だけど、元は同じ国から別れたはず。そんなグロスモントの領土を取り戻そうと戦争仕掛けたのに、自分たちの方が押されている。脳裏に浮かぶあそこの偉い人達の姿に、確かにムキになっていそうだと納得する。

 簡単に負けを受け入れるタイプではないだろうし、このまま引いてはただ消耗したことになる。



(そういえば、ヨークブランは貴族や教会の搾取や浪費で国庫が大変なんだっけ)



 エダやミハイルから学んだ知識を思い返しつつ、私は遠い目をした。

 しかし、ヨークブランが背後にいるとすれば、相手はグロスモントの中心部にかなり食い込んでいるということではないだろうか。

 私が見た限り、グロスモント王宮の警備はそう隙があるように見えない。特殊な状況ゆえに私は簡単に入らせてもらえたけど、宮使いの人たちも忠誠心が高そうだった。それでもなお、この指輪は国王の手元へ届いた。

 思ったよりも深刻そうな状況に、クロヴィスは拳を握り締める。



「父上の傍にいたのに、少しも気づかなかったなんて……」



 悔しさを押し殺すような声に、ミハイルが肩を竦める。



「ぼくですら近くで見なきゃ気付かなかったんだよ。そもそも人手不足の中、戦争やら黒い死で隙ができてもおかしくないね」

『その通りだ。そも、呪いは忌み嫌われる技術。知識を持つ者など多くない』



 二人のフォローに、クロヴィスが少しだけ目を見開く。



「もうここまで事態は進んでしまったし、まずは最悪を回避できたことを喜ぼうよ。反省とか後処理とか大変だと思うけど、全部終わった後にやり直しができることでしょう?」



 今さら後悔したところで、起きたこと何も変わらない。異世界で追放された私が得た大事な経験だ。

 クロヴィスもそれを分かってくれたようで、しばらく沈黙の後、小さく息を吐いた。



「そうだね。ここで膿を出しきらなければ、やり直す機会すら一生訪れなさそうだ」



 握っていた拳がゆっくりと開かれる。クロヴィスの目には再び強い光が戻っていた。



「まずは早急に王宮内の裏切り者を探し出さないとね。ジェラルド」

「はっ。短刀と合わせて、俺の方で騎士団や使用人を調べます」



 今度こそ部屋から出ていくジェラルドを横目に、私は考え込む。

 クロヴィスがわざわざ自分で動いたのは、国王が黒い死を患ったから。そこを狙ったように襲撃されたから、相手はクロヴィスの行動を読み切っていたはず。

 事情を聴く限り、並大抵の病気じゃクロヴィス自身が動くことはないだろう。となると、国王が黒い死にかかるような呪いをかけたのだろうか……?



「フブキ、指輪にかかった呪いの種類って分かる?」

『断定はできん』



 フブキは耳を伏せながら指輪を見つめた。



『壊れているせいで大部分が消えている。が、生命力を削る類の呪いであることは間違いない』

「生命力を削る?でも王が黒い死にかかっていたのは間違いなかったよ?」

『長い時間をかけて衰弱させる呪いだな。直接殺すのではなく、病や老いを加速させるようなもの、と言えばいいか』



 一時的に免疫力を下げる、みたいなことだろうか。



「でもそれだと、あらかじめ病気になっていないと意味ないんじゃない?」

「……失念していたな。父上は持病を持ってないし、老化を早められた程度で倒れるような年齢でもない。ここまで用意周到な相手が、なぜそんな不安定な呪いを?」

「黒い死に感染するって、分かっていたから?」



 不意に浮かんだ考えを口にすれば、みんなに続きを促される。



「用意周到だからこそ、簡単にしっぽを掴まれないように一つ一つ工程を分けたんじゃないかな」



いつもブクマ、評価、誤字報告ありがとうございます!

大変励みになっております


以前書いた短編を長編化しました。

二本連載作ることで己を追い詰めて更新をしていこう、という考え。

『フラグが見える悪役令嬢は溺愛から逃げられない』

https://ncode.syosetu.com/n0126mi/

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