ルート49 結婚しませんか? そして僕はずっと彼らに守られる
「ソプラノちゃん、俺結構我慢してきたと思うんだけど」
「なぁに、ウォーマ」
(大事な話って何だろう)
僕はウォーマの部屋で、彼に抱きしめられながら思った。
「ソプラノちゃん、俺と結婚してくれませんか」
ウォーマが僕に顔を近づけながら、そう言った。
「ウォーマ!!」
僕は嬉しくて舞い上がりそうだった。
(結婚!? 結婚!!!)
顔がニヤニヤとしてしまう。
「今度指輪プレゼントするね」
「うん!!」
僕はウォーマと抱きしめ合った。
そして――――。
(いよいよ今日だ!!)
今日はウォーマが指輪をくれる日だ。
結婚。結婚なんて僕するのかな。
どこか他人事のような感覚だ。
そう思っていると。
「ソプラノ」
ライトに呼び止められた。
「……ライト君」
彼は僕がゼツボーと知ってから、時が経った今でも少し僕に気を使ってるところがある。
だから、こうやって二人きりになると少し気まずい。でも、同時に彼と話せて嬉しいなとも思う。
「これ、あんたに似合うと思うんだけどどうかな」
「イヤリング?」
(わぁ、可愛い)
ライトの手には、キラキラと光るイヤリングがあった。
ライトの細長い指先と同じように、少し細長い六角形の水晶型をしている。
パチリと彼が僕の耳にイヤリングをつけた。
「すげぇ綺麗だ。やっぱ似合うな」
耳をすりといじられ、低音でかみしめるように言われて、僕はドキドキと胸が高鳴る。
そんな僕に、ライトが言った。
「可愛いよ」
真剣な瞳を向けられてそわそわとする。
「あのさ、俺と結婚してくれないか」
「え――え!?」
驚きすぎて変な声が出そうになる。
な、なになに。ウォーマだけでなく、ライトにまで結婚なんて事を言われた。
嬉しい。とても嬉しいと思うけど。
(どうしよう――)
僕はウォーマと結婚するはずだと思っていたけど、ライトにそんな事を言われ、僕は頭がぐるぐるとし始める。
「あの、ライト君、えと、その」
悩み始めた僕を見たライトがふっと笑んだ。
彼は昔より、大人っぽく笑うようになった。
「わりぃな。突然言っても驚くよな。俺返事待つから。いつまででも――」
そう言って、彼は通路の奥へと姿を消す。彼のスマートな後ろ姿に、ドキドキと胸が高鳴った。
思考が止まって、ぼんやりとダンジョン内のベンチに座っているとアースに声をかけられた。
「チョーカーいつの間にか付けなくなっちゃったね」
「あ、うん。ずっと付けて痛んできたから、今は部屋の箱の中に入れて保管してるよ」
アースが僕の隣に並んでベンチに腰かける。
「まだ昔の事恨んでる?」
「え」
アースが僕の首筋を見ながらそんな事を言った。
時の経過と共にすっかり忘れていた感情を、少し揺さぶられた。
「ごめんね、意地悪言ったね」
黙ってしまった僕にアースがふんわりと笑いながら言った。
そして、彼は手に持っていた箱をパカリと開けた。
(なんだろ。ネックレス?)
「ソプラノさん、ちょっと後ろむいて」
「う、うん」
首筋に冷たくて気持ちのいい感触が走る。
「はい、できました」
そう言って用意良く小さな手鏡で、僕の姿を映してくれる。
小さくて上品なネックレスが僕の首元にあった。
「わぁ、可愛いし綺麗……」
うっとりと呟くと、アースが僕に言った。
「ねぇ、ソプラノさん。俺と家族になって欲しいな」
「か、家族?」
ま、まさか。
アースが大きい手で僕の髪をさらりとすくった。
「結婚してほしい」
かーと頭に血が上る。
なんだって皆して今日そんな事を言ってくるのか。
僕が緊張で息苦しくなっていると、あははと爽やかな笑顔でアースが笑った。
「大丈夫。すぐにとは言わないから。ソプラノさんが俺と結婚してもいいって思ってくれるまで待ってるから」
そう言ってアースは、かしこまってしまった僕の頭をポンポンと撫でてくれた。
結婚。結婚てなんなんだろ。
なんとなく、僕はウォーマとするのかと思っていた。
僕はウォーマが大好きだし。ウォーマも僕を大好きだと思ってくれているし。
だけど、まさか――。
ライトとアースも、僕と結婚したいと思ってくれてるなんて。
「あれ、今日はオシャレさんだね。ソプラノちゃんアクセサリーたくさん付いてる」
ウォーマの部屋に行くと、彼が僕を見て穏やかに言った。
僕はウォーマの言葉にビクリと体を震わせる。
「あ、あのねウォーマ。僕、結婚についてちゃんと考えてなかったみたい」
「どうしたの? ソプラノちゃん」
僕はライトとアースに言われた事をウォーマに伝えた。
「そっか。まだ決められない?」
優しいウォーマの声がする。
僕は申し訳なくてウォーマの顔が見れなかった。
ふぅとウォーマがため息をつき、おどけたように言った。
「俺ずっと待ってるんだけどな~。本当はソプラノちゃんが魔王ルートを選んで黒のドレス着た時に、結婚しようとしてたんだよ。そんな雰囲気じゃなくてやめたけど」
「……それは、だいぶ待ってくれてるんだねぇ……」
「そうだよ、俺ずっと待ってるんだよ」
ウォーマに抱きしめられ、わしゃわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「きゃ、ウォーマやめて、あはは、なんだかくすぐったいよ」
僕が笑うともう一度ウォーマに深く抱きしめられた。
ウォーマは優しい瞳を閉じた後、ふと息を吐き出し穏やかな笑みで僕を見た。
「わかった。ここまで待ったんだ。俺だけを好きになってくれるまでずっと待ってるよ。俺のお姫様」
そう言ってウォーマは僕にキスをした後、僕の左手に彼の用意していた指輪をはめてくれた。
(指輪、素敵だなぁ……)
ウォーマの部屋から出て、薬指にはまった指輪を眺めながら歩いていたせいで誰かとぶつかった。
「あ、ごめんなさい」
体を離そうとしてギュッと抱きしめられた。
「ぜんっぜん、ごめんなさいじゃないよ!!」
ぶつかった相手はルビーだった。
「もう! ちょっと、離して!!」
僕がルビーの腕の中でもがくと、ルビーはますます僕を強く抱きしめてきた。
「ソプラノちゃん、誰に貰ったのその指輪」
「!」
ルビーは相も変わらず僕の事をよく見ている。
「ウォーマだよ!」
「ふぅん」
手、貸してとルビーが言い、僕の左手がルビーにとらえられる。
「ちっ、あの野郎」
「あ、ダメ! 抜かないで!」
指輪を掴まれ抜かれてしまうと思って、僕は慌てた。
「……抜かないで欲しいの?」
「うん」
「じゃあ、俺にキスして? ちゃんと口に」
「え、えー」
なんて事を言い出すんだと思ったが、僕はウォーマに貰った指輪を守るためにルビーに勢いよくチュッと口づけた。
そうしていると、キュッと僕の指を何かが滑った感触がした。
抜かれてしまったのかと慌てて指を見ると――。
「あ、指輪だ」
ウォーマに貰った指輪の上に、もう一つ別の指輪がはまっていた。
「俺からのプレゼント。どう? 嬉しい?」
「……嬉しい。ありがとう」
左手の薬指に二つもリングをはめているなんておかしいけども、二つとも大事に愛おしく思えた。
ルビーが笑って軽く言う。
「ソプラノちゃん俺と結婚して?」
「ダメ」
「ソプラノちゃん!!」
「いや」
「ひーめっ!!」
キッと振り向くと、今度はルビーからキスされた。そして僕に言い聞かせるようにゆっくりと言った。
「俺のものになりなよ」
ライトに貰ったイヤリングを耳にして、アースがプレゼントしてくれたネックレスを首につける。
そして左手の薬指にはウォーマとルビーがはめてくれた指輪をした僕。
そんな僕の側にいてくれるルビーとライトとアースとウォーマ。
いつもの光景に、ダークエルフが飛び込んできた。
「大変です! ウォーマ様!!」
美しい容姿をしたダークエルフが焦った様子で現れた。
「何事だ!」
ウォーマが問う。
「勇者が現れました!!」
「なるほど……以前の時とは違い、そこそこ強そうだ」
ダークエルフが持ち帰った情報にウォーマが目を通している。
「あぁ? どういう意味だよ。俺らの時も強かっただろうが!」
ルビーが憤る。
強かったかはわからないけど、あの時はレベル50まで頑張って上げたよなぁ。
僕が昔の思い出に耽っていると、ダークエルフの声がした。
「勇者の名前は、アルト、テノール、バスとの調べがつきました」
「ご苦労」
ウォーマがいつもの優しい声と違い、低い声で短く言う。
こういう時のウォーマは、いつもと違う魅力があって僕は大好きだ。
「ソプラノちゃんの名前と関係しててなんかムカつくなぁ」
「ボッコボコにしてやろうぜ」
「泣いて詫びるくらい痛い目見せてあげないとね」
魔王の幹部でもある三人組は、勇者と戦う気満々のようだ。
「まぁ、俺がいるから大丈夫だよ、ソプラノちゃん」
ウォーマが自信に満ちた声で僕に微笑む。
そうしてイケメン三人組とウォーマが僕の周りを囲み、ルビーが勢いよく言った。
「ソプラノちゃんは俺らが守るから、安心してね!!」
ムーンライトに番外編R18を置いています。