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第十一章 BAY

 フライ艦隊の前に防御壁となるようにヒューマの機体が並び、その背後では艦隊を包み込むシールドが張られ全ての衝撃に堪えられるよう準備が整えられている。出撃口から飛び出した機体たちが指示通りの配置に付き、攻撃を仕掛けるその時までその場に停滞した。

 ――目の前に見えるのは巨大艦艇の姿。

 タグーたちの乗った小型艇は、戦闘の隙を縫ってみんなにカバーしてもらいながら敵艦まで赴くことになっている。それまでになんとしても敵の数を減らし、無抵抗にしてしまいたいところだが。

 ロックは操縦桿から手を離すことなく、メットをかぶったそのフルフェイスの奥、ゆっくりと呼吸をし、真っ直ぐな目で外部モニターを見つめた。

 ……これが最後だ。……、そう。これで終わる。……そうだろ……、……。

 メットの中、口元に少し笑みを浮かべた。

 ……わかってきたよ。……あんたが言ってた……言葉の意味が――

 全ての戦闘機が配置に付いた。しかし、敵艦艇の様子は一向に変わらない。こちらには気が付いているはずだが……。

《……なにもないですね》

 キーファーが訝しげに呟くが、誰もそれに応えない。

《ひょっとして……無人なんでしょうか。もう逃げてしまったとか……》

《……そんなはずはないッスよ》

 ――カールの声だ。

《逃げるようなマネはしないッス。……相手が相手ッスからね》

《……誇り高きノアの番人だから?》

 キーファーが嫌味っぽく鼻で笑うが、カールの方は至って冷静。

《アーサーの話じゃ、ノアの番人たちの中でも優秀な人物、デイビットっていうノアの番人はそれこそ負けず嫌いの人間だったらしいッスから。……そいつがタイムゲートを作ったらしいッス。……たくさんの仲間を殺したのもこいつッスからね。……そう簡単には逃げないッスよ》

《……、生け捕りにして、全ての罪を償って欲しいな》

《……罪だと認識していればこんなことは起こってないと思うッス》

《……そうですね》

 ……デイビット――。ロックは少し目を細めた。……そいつが元凶ってヤツか。

《……相手の反応がない。……やるならそろそろ行きましょう》

《よし、インペンド一軍、付いてこい》

《後方支援頼む》

《了解》

 数機のインペンドが動き出し、ゆっくりと警戒しながら敵艦艇に近付いていく。

《――敵艦船首部より熱量確認!!》

 オペレーターの声にバクンっ、と一瞬心臓が高鳴った。それと同時に外部モニターに真っ白な閃光が走り、微かに機体が振動する。

 「来たか!?」とロックは操縦桿を引いた。熱弾を避けて一斉に機体が飛び回り、それで封を切ったように敵艦艇から次々と敵機が出現してくる。

《小型機はインペンドに任せるぞ!!》

《了解です!》

《インペンド二軍、敵艦右方より攻撃開始します!!》

 それぞれがチームを組んで向かう。

《ロックさん! 行きます!!》

 横のアポロンも光剣ライトソードを手に素早い速さで飛んでいく。グランドアレスはブンッ! とアックスを振り、一歩遅れて次第に乱戦状態となっていくそこへと飛び込んだ。



「敵艦艇より機動兵器続々と出てきます!」

「小型機は以前同様無人機です!! 機動兵器内の新型器も生命反応ありません!!」

「小型機群接近!! 甲板砲撃手応戦します!!」

「敵艦艇より熱量確認!! 各クルー気を付けてください!!」

 司令塔ではオペレーターたちが随時情報を伝える。

 クリスは総督席から立ち上がって、爆撃の光が飛び込んでくる強化ガラスの向こうを睨んだ。

「敵艦艇後方を叩け!! 出撃させるだけさせるんだ!! 艦艇を奪取することを優先にしろ!!」



「……っ!」

 管制塔にも爆撃による閃光が入り込み、オペレーターたちが小さく悲鳴を上げる中、アリスは光に目をやられぬように少し顔を伏せ、焦りの色を浮かべて再びガラスの向こうを凝視した。

 ――やっぱり数が多い。無人なだけに戦闘力は弱いけど、数が多すぎるとそれだけ時間が掛かるし、息を吐く間もない。……これじゃあクルーの負担になるだけだわ。

 対応に追われるフライスを振り返るとそこに駆け寄った。

「フライ! ……私にディアナを任せて!!」

 デスクの隅に手を付いて身を乗り出し訴える。だが、フライスは顔を上げることなく、ただ情報を司令塔へと伝えている。

「……フライ! 敵の数が多いのよ! ディアナで一掃した方が早いわ!!」

 すがるような思いで、焦りに駆られ顔を覗き込むがやはり無視。

「……フライ!!」

「ダメだって言ってるだろう!!」

 突然睨み怒鳴られて、ビクッと肩を震わせ目を見開き硬直する。

「今はみんなに任せるんだ!! キミの出番じゃない!!」

 ――こんな怒られ方をされたのは初めてだ。

 フライスの剥き出しにした怒りに心を掴まれ、それ以上何も言えなくなってしまった。傍に突っ立ったまま、動くこともできない。

 戸惑い、悲しみで目を泳がせていると、その視界に人影が近寄ってきた。

「じゃあ、私が行くよ」

 真顔でリタが現れ、アリスは目を見開き、フライスは伝達の手を止めて「……はあ」と深く息を吐いた。怒りを鎮めようとしているのか、呆れているのか。その心情は定かではないが、リタを振り返るなり、彼女をギロッと睨み付けた。

「個室に戻っていろ!! 出てくるな!!」

「嫌」

 怒鳴られても臆することなく、リタは即答すると、真剣な目で睨むフライスを見返した。

「アリスお姉ちゃんが出ないなら、私が行く」

「リタ!!」

「私、ここでおとなしくしてるつもりはないよ」

 リタは真顔でそう答えると、椅子を立って捕まえようと険しい表情で近寄ってきたフライスを見上げ、彼が伸ばした手に背後に隠していた何かを向けた。一瞬、フライスは肩を震わせ、眉をつり上げてすぐ何かを言おうとしたが、途端に意識が遠退き足をもつれさせ、近場のデスクに手を付いた。

「フライ!!」

 アリスが目を見開いてすぐに近寄り背後から倒れ掛けた彼を抱き留めたが、重みに耐えきれず、一緒に床に座り込んでしまった。その気配に、周りのオペレーターたちが「えっ? なに!?」と戸惑いを見せ始める。

「フライ!! ……フライ!?」

 力もなく、ぐったりと項垂れる体を背後から抱き留めたまま、アリスは戸惑い、メディシンガンを置いたリタを見上げた。

「……何をしたのっ?」

「麻酔。眠ってもらったんだよ」

 ケロッとした顔で答えるリタに、アリスは「……もう!」と呆れと戸惑いを浮かべた。

「駄目よリタっ。……ディアナに乗るなら私が乗るからっ」

「私に敵いっこないよ。私の方がマニュアル読破してるんだからね」

 つーんと顎を上げて高飛車な態度を見せる。そんなリタにムッとしつつ、アリスはフライスを腕に抱いたまま身を乗り出した。

「けど、力の差があるわ!」

「ブブゥー。アリスお姉ちゃんが乗ったらフルパワーでしょ? 私は違うよ。ちゃんとディアナを有効利用できるんだから」

 分の悪さは感じたが、それでもここで簡単に退くわけにはいかない。

「……無理よ! それにあんな所に行ったら危険だし! ……どうなるかわからないのよ!?」

 説得できる言葉が見つけられず、ただ悲痛な表情で止めようと必死に訴えるが、しかし、リタには一切の迷いはない。

「わかってるよ。けど、……アリスお姉ちゃんたちだって、十年前、ああいうところにいた」

 リタは冷静な顔で強化ガラスの向こう、混戦している空間を見つめた。

「私と変わらない年齢だったよね? それでも戦ってたよね?」

「それはっ……ロックとタグーがいたから! ディアナは独りなのよ!?」

「独りじゃないよ」

 真顔で向けられた目が心を射貫くよう――。アリスは言葉を詰まらせた。

 ……彼女の言いたいことはわかる。……痛いほど。

 周りのオペレーターたちも戸惑い、どうしたらいいか、と目を見合わせる中、リタは少し微笑んでみせた。

「大丈夫。……私もみんなと一緒に戦いたい。……めっちゃくちゃにしたいんだ。……ディアナならそれができるでしょ?」

「……」

「ちゃんと戻ってくるよ。じゃないと、ママにもみんなにも怒られるからね」

 リタはいたずらっぽく笑って腰を下ろすと、アリスの腕の中、気を失っているフライスの胸にそっと寄り添って頬を付け、目を閉じた。

「……パパ、行ってくる。……あとでたくさん説教してね……」

 そう囁くと、ためらうことなく立ち上がって走って行った。

 アリスはグッと奥歯を噛み締め悔しさを露わにしたが、ティアナの力が必要だというのは間違いないのだ。だから、オペレーターたちも誰ひとり止めなかった。――それでも腹が立つ。

 心の中で「覚えてなさいよ!!」と怒鳴りながら、「誰か気付け薬を持ってきて!!」と、忙しい中をオペレーターに向かって叫んだ。



 たかが無人機、所詮無人機、とは言っても機敏な動きは変わらない。インペンドたちが無人小型機を追いかけるがなかなか追いつけず、先回りしていた別のインペンドがそれを叩き落とす。攻撃を仕掛けるばかりじゃない。無人なのに敵機動兵器に追いかけられて防戦一方の後、切り裂かれる仲間の機体もいる。

 グランドアレスはその破壊力で、傍に寄ろうものなら次々と殴り壊し、アックスで切り裂いた。装甲がしっかりしているだけに多少攻撃を食らっても大したダメージにはならない。

《ロック!! リタがディアナで出たわ!!》

 アリスの焦る声に目を見開き、「……またかあいつは!!」と、眉をつり上げ、ギリッと操縦桿を潰すほどの力で握り動かす。

《暴れるだけ暴れさせてあげて!! ……けどカバーして!!》

「……どっちだこの野郎!!」

 続けて怒鳴ろうとした瞬間、無数の弾がグランドアレスを背後から通り越していった。味方機の間をすり抜け、そして敵機のみ追撃する。《ディアナ!!》とスピーカーからクルーの嬉しそうな声が漏れた。

《弾切れ起こすまでやってやるんだから!! 邪魔するなァー!!》

 リタのやる気充分な声に、ロックは「……ったく!」と呆れてため息を吐きつつニヤリと笑みを浮かべ、敵に攻撃を仕掛けていく。

 ディアナの参加で一気に無人小型機の数が減っていく。無人機だとわかっていると容赦することなく撃ち落とすことができるため、確実に急所を狙い撃つディアナは大活躍だ。

 邪魔な小型機さえいなくなれば、後は機動兵器たちだけ。それらもディアナがダメージを与えてくれる。クルーたちにとっては絶好のチャンスで敵機に攻撃を仕掛けることができる。「これでこいつらを一掃できる!」そう確信に近い物を感じつつあった。――その時!

《新手です!! 二機!! 気を付けてください!!》

 クルーの声にロックは「どこだ!?」とモニターを切り替え確認しようとしたが、いきなり大きな衝撃があり、「!!」と何かを言う間もなくシートベルトに体を食い込ませ息を詰めた。

【背部装甲ダメージ10%】

 機械音の言葉に「チッ……!」と舌を打つと、操縦桿を素早く引き背後を振り返った。だが、そこには見慣れた敵機しかいない。

《ロックさん!! 上ッス!!》

 言われるがまま「くそ!!」とグランドアレスは咄嗟にアックスを頭上に構えた。ガキィィーン!! と、ずっしりとした圧力が掛かり、グランドアレスの腕がしなる。赤い敵機動兵器が太い鉄剣アイアンソードを振り下ろしたところ。それをアックスでギリギリ受け止めた。

「このっ……くそヤロォ!!」

 ブンッ! と敵ごとアックスで振り払うと、連動銃を向けて流れるように数発発射。だが、敵は身構えると同時にそれを素早く避けきった。そしてそのまま、近場にいたインペンドに向かって鉄剣アイアンソードで胸部を貫く。

「クルー!! 脱出しろ!!」

 ロックはモニター上に叫んで、「こいつ!!」と赤い機体を追いかけながら銃を向けた。



 ジュードはホログラフの入り交じるコクピットの中、息を切らしつつも敵に攻撃を仕掛けていた。何度か攻撃や爆撃を食らい、そのたびに体に衝撃が走る。それでも外装ダメージはまだ大丈夫だ。

「敵艦に向かってる攻撃隊は!? 成功してるのか!?」

《混戦中です!》

 ジュードは「チッ!」と舌を打った。

 あまり時間が掛かるとタグーたちが“破壊活動”に赴けない。時間が――。

「ハル!! オレはあっちに行くからな!!」

《……だったらオレも行く》

「くっついてくンな!!」

《……行く》

 ジュード機にハル機がすぐに近寄ってきた。ジュードはハル機のホログラフを見て「ったく!」と不愉快げに眉をつり上げたが、《お兄ちゃんたち危ない!!》というリタの注意を促す声と同時に二人の間に頭上から黄色い何かが割って入ってきて、その勢いで二体は押され、すぐに逆噴射して体制を整えた。

 ジュードは無重力空間の中、足下を見下ろした。小さなホログラフが段々と大きくなってくる。異人クロスの機体に似た黄色い敵機動兵器だ。

「ハル! こっちに来るぞ!!」

《……オレは左から行く》

「じゃあオレは右からだ!」

 二体が左右にわかれ、こちらに向かってくる黄色い敵機動兵器に逆に仕掛けてやろうと挟み撃ちでそれぞれ光剣ライトソードを手に攻撃を仕掛けた。だが、敵機は両腕を背後に回し何かを掴むと、グンッ! と引き抜き、彼らが振りかざしてきた剣の前にかざした。ガキィーン! と互いの剣が触れる。攻撃を受け止められて「二刀流か!?」と悟った次の瞬間、突然敵機の両腕から銃口が現れ、二体に向かって砲弾が発射された。気付くのが遅く直撃を食らった二体は爆撃に押されるままそこから遠退く。敵機は銃口を仕舞い両手に握られているそれぞれの剣を下ろしたが、背後からインペンドが現れ光剣ライトソードを振り下ろし掛かってきて突然のことにも怯むことなく振り返り様にふたつの剣でそれを受け止めた。だが、インペンドはそこから素早く敵機の腹部に蹴りを食らわし、そのままムーンサルト状態で顔部に膝蹴りを入れて敵機が背後に飛ぶと光弾銃を引き抜いてそちらに向け撃ち放った。しかし、それを察した敵機は素早く弾を避けきる。

 今までのインペンドとは明らかに違う動きに、ジュードは「誰だ!?」と訝しげに声に出した。

《無事か? 装甲に異常がないかを確認して戦闘に加われ》

 ――フライスの声だ。

 ジュードは目を見開いて「……は、はい!」と返事をする。それを同時に聞いていたのだろう、「うげっ! ヤバイ!!」と、ディアナが逃げるように遠く離れて別のところで戦いに参戦し出す。

 黄色い敵機は両手に剣を構えたまま、両腕の銃口を出し、フライスが操るインペンド、そしてジュード機とハル機、辺り構わず銃弾を撃ち放った。それぞれが銃弾を避ける中、フライス機はジェットエンジンを吹かせ、光剣ライトソードを手に敵機に突進した。敵機はすぐに両腕の銃口を向け一点に絞って撃ち放つが、スピードをフル加速させてそれを完全に避けきったフライス機は敵機の胸部めがけて光剣ライトソードを振り下ろした。――空振りだ。敵機は背後に飛び退いてそれを避けるが、すぐにそこから猛スピードで高く飛び上がった。光剣ライトソードを手に側まで来ていたジュード機はそれを見上げ、「くそ! 気付かれた!」と舌を打つ。

「あいつは無人じゃないよな!?」

《生命反応はありません!!》

 オペレーターの返答にジュードは息を切らしながら顔をしかめた。

「あんなの無人機の動きじゃない!!」

《確かです!! 人間は乗ってません!!》



 ……“人間”は乗ってないってコトは――。

 モニター内、インペンドに襲い掛かる赤い敵機を見て、ロックはグランドアレスをそこへと向かわせた。

《ロック! 目の敵にしないで!》

 何かに気付いたアリスがすぐに止めに掛かる。

《必要以上に追いかけるものじゃないわ!》

「これはケンカだ!!」

《何ワケのわかんないこと言ってるのよ!!》



 フライスは「チッ」と舌を打った。

「……ロックが暴走しそうだ。メリッサ、クイック値を上げてくれ」

「了解」

 目の前のゲージが上がっていくのを見て、ザックが素早くパワーを分散していく。

「ボルトブレード、パワー90%。クイックラインオーバー」

「あの黄色い機体のパイロットも“同じ”だとすると厄介だな」

 フライスは冷静に操縦桿を動かした。グンッとGが掛かり、他のインペンドに襲い掛かっている敵機に突進する。

「……リタ、お前は敵艦の攻撃の方に加われ」

《……は、……はい!》

「ジュード、ハル、お前たちもだ」

《あの敵はどうしますか!?》

「あいつは任せておけ」

《わかりました!!》

《……了解です》



 ディアナがギュンッ!! と猛スピードで進む。その際に背部のミサイルコンテナを大きく開き、撃ち放った光弾が彼女に斬り掛かろうとする敵機を撃ち抜いていく。

 敵艦に近付くに連れ、その巨大さに愕然としたが、怯む気持ちを振り切るとすぐに艦艇の周りを飛び、砲撃口にミサイルを撃って使い物にならないよう爆破する。敵艦の周りを飛んでいると守備を固める敵機にやたらと遭遇し、そのたびに“逃げた”。ミサイルを操ることはできても、剣を手に戦うことは実戦がないだけに無理がある。ミサイルの残量を確認しつつ、効率よく攻撃をしなければ――!

 下手に敵機に構ってられない、そんなディアナに気付いたのか、彼女の側にジュード機がやって来た。

「こんな奴らよりも艦艇の方に集中して外部攻撃を断ち切ってくれ!! いつまで経ってもタグーさんたちが乗り込めない!!」

《ありがとう!!》

 ディアナがヒュンッ! とためらいなく飛んでいく。そのホログラフを確認したジュードは、ディアナを追いかけようとした敵へと目を向け、襲い掛かった。相変わらずの素早い動きだが、“二体掛かり”となると相手も上手く動けずに餌食となる。

 ハル機はジュードに追いかけられていた敵機に銃弾を浴びせ、それが爆発を起こすとすぐにジュード機に近寄った。二体はそのまま立ち向かってくる敵機を相手に剣を奮い、銃口を向ける。

《……艦艇にはあとどれくらいの敵機がいるんだろう》

「さぁな! 相手に聞いてみろよ!」

《……教えてくれるかな?》

「ンなワケねぇだろ!!」

 冗談なのか本気なのか。こんな時まで冷静な口調に「こいつは!」と呆れながら敵に挑んだ。



「総督!! ノバのバーストタイムが迫ってます!!」

 オペレーターが振り返って焦りを露わにすると、クリスは舌を打ち、身を乗り出した。

「……タグー!! 準備はいいか!?」

《僕たちはいつでもOKだよ》

「まだ混戦が続いている!! 衝撃を食らうかも知れないが辛抱してくれ!!」

《了解》

「アポロン!! 輸送船を援護してくれ!!」

《しかし、敵艦艇は未だに……! 今彼らを送り込むのは危険です!!》

「時間が迫っているんだ!! 悠長なことを言ってる場合じゃない!! ……護ってやってくれ!!」

《……了解しました!!》

《インペンド三軍、護衛します!!》

 クリスは「……くそ!」と、逸る気持ちを抑えてカウントされていくデジタル時計を睨んだ。

 その頃管制塔では、フライスと席を替わったアリスがケイティから出て行く輸送船の姿を外部モニターで捕らえるなり、ぐっと祈るように両手を組んだ。

 ……お願い……! 何も起こらないで……!!



《ディアナ!! 敵艦の出撃口の周りを綺麗にしてくれ!! 武装兵がそっちに向かうんだ!!》

 キーファーの声に「え!?」と顔を上げた。

「ま、まだダメだよ!! 敵が多いし、出撃口からは敵が出てきてるんだよ!? そんなトコに入っていったら!!」

《出撃口のひとつだけでいい!! 援護を付けてある!! キミもできるだけ多く敵を仕留めておいてくれ!!》

「……無謀だよ!!」

 ……それでタグーたちが死んだらどうするの!?

 心の中で苛つきながら、数ある出撃口のひとつに狙いを定め、その周りにある外部砲撃口を撃ち落としていく。

「……けど、もし中に敵がたくさんいたらどうするの!? ムチャクチャいたら!? タグーたちが捕まっちゃったら!?」

 連動弾を放ちながら汗を流し、リタが焦るように口走る。

「敵が待ち構えていたらどうするの!? ねえ!!」



 ジュードは敵を相手にしながら舌を打ち、背後のジェットエンジンを吹かすとディアナの元に行く。《ジュード!》と、まだまだ敵機を相手にしているハル機が彼を振り返った。

「リタ! 中の様子はオレが見てくる!!」

《ジュード兄ちゃん!? む、無理だよ!!》

《オレたちも行きます!》

 と、方々から味方の機体が集まる。そして《行こう!》と、ディアナが周囲を綺麗に片付けた出撃口の中に突っ込んで行った。

《ジュード兄ちゃん!!》

 ディアナもすぐに後を追い、敵もそれを追いかけようとしたが、それを近くにいたインペンドたちが壁になって塞いだ。



「相手はこの俺だ!!」

 グランドアレスは背を向けた赤い機体に向けてアックスを振り下ろした。すぐに気が付いた敵機はそこを飛び退き、グランドアレスに向かって銃弾を放つ。それを腕のシールドで防ぐと、マシンガンを持って敵機に撃ち放った。ドダダダッ!! と、弾が逃げる敵機を追いかけ、遠くに消える。赤い敵機はそのままグランドアレスに向かって突進してきた。

 ロックは「へっ」と笑う。

「やり合う気になったか!?」

 グランドアレスがアックスを振り、向かってくる敵機に同じように向かい掛かった。ガキイィーン!! と、アックスと鉄剣アイアンソードが激しくぶつかり、ググッとお互いに退く様子もなく押し合う。力比べなら負けねぇぞ!! と、ロックは重くなる操縦桿を握りしめた。

「この……操り人形!! 俺に勝てると思ったら大間違いだぞ!!」

 負けてたまるか!! そんな意地を露わに、腕の自動銃を撃ち放とうとしてそのスイッチを目が探した。その時、ふいに外部モニターの画像が視界に映り、一瞬その目を留めた。――モニターを凝視すると愕然となる。

 そこに映っているのは正面にいる赤い敵機。拡大された敵機の、モニターの隅に映っているのは……

「……トニー!?」



《トニー!! お前!! ……お前生きてたのか!?》

 驚きと戸惑いを含めたロックの声に、アリスは目を見開いて顔を上げた。管制塔のオペレーターたちも「え? トニーって……」と、彼の声に困惑する。

《トニー!! 聞こえないのか!? ……俺だ!! ロックだ!! ……なんでそんなトコに!!》



《どうしたんだ!! ……なんでそんなトコにいるんだよ!! 返事をしろ!! おい!! 交信できないのか!?》

 ハルは敵機に追い回されながらすぐに辺りを見回し、“それ”を見つけるなり、すぐにそちらへと向かった。



《ザッ……ザザッ……ニー! ……って……だ!!》

 トンネル状になっている出撃口の奥に進めば進むほど、交信状態が悪くなる。

 リタはみんなの後を追いかけながら、モニター上で艦内を窺った。

 ――機動兵器が一機通れるほどの狭さでラインライトが道標のように下から光り、壁はのっぺりとしていて何も備え付けられていない。本当にただの出撃路だ。

 前方から敵機が現れることもなく進み続けると正面に壁が見え、彼らの進入に併せてそこが自動で開き、中に入り込むなり背後で閉じた。ハッチだろう。更に進むとまたハッチがあったが、彼らの進入で開いて、中に入ると閉じてしまった。そこで行き止まりだ。

 四角く空いたスペースに出た。三体のインペンド、そしてジュード機とディアナが充分に停滞できるほどの広さだ。

 重力の効いている床に足を着け、それぞれ用心深く見回す。

「……何もないね」

 外部モニターで確認しながら呟くが、誰からも返事が返ってこない。「ん?」と顔をしかめてチェックすると、通信電波状態が0%だ。完全に交信ができない状態になっている。電波妨害か――。リタは「……困ったな」と、とりあえずジュード機の側に近寄った。そしてスイッチを押していき、外部の状態を把握する。

「……空気は有り、か。熱量……無し」

 様々なところにレーンがあり、そして人が通れるほどの出入り口も壁際にある。一見、普通の出撃庫だ。戦闘機などは全くない。すべて出払っている。格納庫に続く通路などが見受けられないことから、ここが格納庫兼、出撃庫になっていたのだろうと察しが付く。

 インペンドがゆっくりと動き出し、異常がないかを確認していく。

 ……あとはこの奥、か――。

 外部モニター上で見つめるのは、人が通れるほどの出入り口。艦内に続いているのは間違いないだろうが、その向こうには何があるのか。

「……これなら、あとはタグーたちを無事にここまで誘導できればなんとかなるかな」

 誰も聞いてはいない空間、少しホッとして呟いていた。

 とりあえず敵もいないし、安全そうだ。そう思った瞬間、突然、なんの前触れもなくゾクッと背筋に何かが走った。操縦桿を握っていた手がブルッと震え、瞬時に体に力が入り、その力がディアナにも流れた。――その時、モニターから眩しいほどの閃光が入り込み、リタは「キャッ!!」と体を強ばらせて目を閉じた。機体がガタガタと大きく振動する。

 ……なに!? 何が起こってるの!?

 状況が掴めないことに気が焦る。

 ――それは数秒ほど続いた。やっと振動も収まり、目蓋の向こうのまぶしさがなくなるとゆっくり目を開けた。心臓がドキドキして呼吸が乱れているが、状況を把握しなくては。

 少々パニック気味だが、戸惑いながらもモニターで周囲を窺った、その目が止まった。

 外部を映し出すモニター上、バラバラに砕けた機体の欠片が床に転がっている。残されているのはディアナと、その隣いたジュード機、そして傍にいたインペンドの一体のみ。

 愕然と目を見開き、震える瞳が捉えた。彼ら三体の周りだけ、欠片も何もない。

 咄嗟に理解した。異変を感じたと同時にディアナに力を入れた。恐怖心がシールドになって、自分と、その周りにいたジュード機とインペンドだけを護ったのだ。

 ……うそ。……なに? 何が起こったの?

 わけがわからずにただ硬直していると、突然、傍にいたジュード機が動き出した。剣を手にすると、壁に備えられている銃口を斬り落としていく。インペンドも同じように剣を奮いだした。隠し武器だ。――もし、自分たちが先にここに来ていなかったら、タグーたちは今頃……。

 リタは目に一杯の涙を浮かべて息を詰まらせたが、他に隠し武器がないか、懸命に神経を張り巡らせて探った。



「くそっ……!! いったいどうなってんだ!?」

 力の競り合いを続ける中、赤い機体がググッと押しつけてくる。モニターに映ったのは間違いなくトニーだった。それは間違いない。ただ……

 赤い機体がふいにそこから飛び退き、グランドアレスは勢い余ってアックスを空振りさせた。

《……ロックさん!》

 ハル機が身構えるグランドアレスに並ぶ。

《……今、トニーって!》

 戸惑うようなハルの声に、ロックは「チッ!」と舌を打った。

「間違いない!! あの機体に乗ってるのはトニーだ!! ……トニーだけど!」

《……なんですっ?》

 ハルの焦りを含んだ問い掛けにロックは戸惑い口をつぐむ。

 彼自身にもわからないのだ。いったい、なにがどうなっているのか。

 だが、その沈黙をアリスの冷静な声が破った。

《……機動力》

 ロックはピクッと目蓋を動かした。

《機動力にされてる……。生命反応はない……》

《……、どういうことですか?》

 感情のない声に、間を置き、アリスが更に続けた。

《……胃の中と一緒。……栄養分を取られてる……。……タイムゲートの造りと一緒だわ。……人の霊力を取って、それをエネルギーに変えて……、……起動させてる》

《……》

《……霊力には、人の全ての特性が生かされる。……トニーの持つ、闘争心……、それを操ってるのよ……。……トニーは生きてない。……、……生きてない……》

 ロックは再び近場のインペンドに襲い掛かる赤い機体をモニター上で見つめた。確かに、モニターの片隅に見えたトニーの体にはあらゆるコードが付けられ、そして、液体の中に入っていたようにも見えた。――ということは、今まで無人だと思っていた機体にも、もしかしたら……

 ロックはグッと操縦桿を握り、怒りで顔を紅潮させた。

「……人を……なんだと思ってンだァ!!」



 ハルは怒りのこもった声に視線を落とし、ふいに背後を振り返った。

 ――フライスのインペンドと黄色い機体の戦う姿。……まさか、あれには……

 身動きできないでいるハル機の傍を、アポロンと数機のインペンドに固められた小型艇が用心深く移動していく。

《ハル! あいつは俺に任せろ! お前は別に行け!!》

 ハルはグランドアレスのホロスコープを振り返ると、間を置いて小さく首を横に振った。

「……オレも一緒に行きます。……、トニーを解放しないと」

《……。よし、わかった。……一気にやるぞ!》

「……はい」

 グランドアレスとハル機は、それぞれ武器を手に赤い機体へと猛スピードで向かった。

 インペンドに剣を奮っていた赤い機体は、足下からやって来る二体に気付くとすぐにそちらへと光弾銃を向け、撃ち放った。二体は左右にわかれてそこから敵機に襲い掛かる。

《ハル! 俺がヤツを追いつめて押さえ込んでやる!!》

 グランドアレスが連動銃を取り出し、敵機に向かってそのまま連射。敵機は身を翻しそれを避けると、再び銃口をグランドアレスに向けた。その隙にハル機が背後に回るが、別の敵機動兵器が斬り掛かってきた。ハル機はその鉄剣アイアンソードを受け止め弾き返すと、素早く光弾銃を抜いて撃ち放つ。だが、敵機はそれをいとも簡単に避けきる。

 ハル機が別の敵機を相手にしているのを見て、ロックは「チッ」と舌を打った。

 ……仕方ない! ……一人でやるか!

 グランドアレスは赤い機体からの銃撃をシールドで防ぎながら近寄り、アックスを振り上げた。敵機は近寄ってきたグランドアレスに鉄剣アイアンソードを胸部めがけて振りかざす。それをギリギリ避けながらアックスを力一杯振り下ろしたが、相手はそれをするりと避け、体制を整えようとするグランドアレスの顔面に銃口を向けた。

《危ないッス!!》

 カールの声と同時に赤い敵機の銃に光弾が当たり、それが弾き飛ばされた。そのまま下からやって来たカール機が銃弾を浴びせるが、敵機はやはりそれを避け、そこから飛び退いた。

《大丈夫ッスか!?》

「カール! タグーの方は!?」

《アポロンたちが付いてるから大丈夫ッス! それよりあいつは!!》

「あの赤いのは任せろ!! お前は周りを片付けてくれ!!」

《……わかったッス!!》

 カール機が別の敵機に向かう。

 ロックは、飛ばされた銃を手に取り、もう使えないとわかったのかそれを捨てた赤い敵機をモニター上で睨み付けた。

「……おとなしくしろこのクソガキ!!」

 連動銃で赤い敵機を狙い撃つ。砲弾に追いかけられながら敵機は飛び回っていたが、その前に剣を構えたハル機が立ちふさがり、太刀打ちする。互いに斬り掛かり、そして振り払う。

 ハルはホログラフを相手に剣を奮うが、今まで違って動きが鈍い。――ためらいが見える。

《躊躇するな!!》

 ロックの怒鳴り声が響いた。

《遊びじゃねぇんだぞ!! 相手は剣ひとつだ!! お前には銃だってあるだろーが!! その機体なら速さは互角のはずだぞ!!》

 確かに武器の数は多い。スピードだって勝るとも劣らない。本気を出せば、きっと……。

 ロックは「……くそ!」と剣を交える二体の元へと飛んだ。途中別の敵機が向かってくるが、「邪魔だどけぇ!!」とアックスを振りかざし、光弾銃を撃つ。

 ハルは息を切らしながら敵機のホログラフを見つめた。――無我夢中に剣を奮ってくる。弾き返されても、それでも尚。……まるで、駄々を捏ねる子どものように。

《ハル!! 避けろ!!》

 その声にハルは咄嗟にそこから退いた。そのすぐ後に足下から光弾が放たれてきて敵機が怯んだ。

《撃て!!》

 ロックの声にハル機は銃を取り出すと、グランドアレスからの銃撃に逃げる赤い敵機に銃口を向けた。そしてズキューン!! とトリガーを引く。それは見事に敵機の足に当たり、そこから火花が飛び散った。

《挟むぞ!!》

 グランドアレスが動きの鈍った赤い敵機の背後に回る。ハル機も剣を構えて敵機の前に向かった。――その時、

《熱量確認!! 気を付けてください!!》

 オペレーターの声に、「くそ!!」と敵艦艇の方を振り返った。――艦艇の砲撃口から光が漏れている。

 すぐに操縦桿を引いてそれから避けようとした。だが、目の前の赤い敵機に剣を向けられ、ハル機が逃げ遅れる。

 敵艦から無数の熱弾が発射され、怯んだものがその餌食となっていく。

「ハル!!」

 間一髪、カール機に引っ張られ助かったロックは、モニターに映る二体の機動兵器の姿に身を乗り出した。

 ハルはコクピットの中、敵機の剣を受け止めながらこちらに向かって無差別に放たれる連射熱弾を感じて舌を打った。すぐに赤い敵機の剣を弾き飛ばし、そこから逃げるべく後退したが、その瞬間、赤い敵機は肩に熱弾の直撃を食らってしまった。――どうやらエンジンをやられたようだ。上手く動けない赤い敵機はそのまま停滞している。

「……トニー!!」

 このままじゃ、放出され続けている熱弾の餌食だ。

 ハルは目を見開いて後退していた機体を止めた。

《やめろ!! ハル!!》

 ロックの制止も聞かずに、ハルはすぐにそこに戻って、それでも剣を構える赤い敵機に向かって腕を伸ばした。――斬られるかもしれない。そんなことは微塵も考えず。

「危ないトニィー!!」

《ハル!!》

 ――コクピットの中が真っ白になった。熱弾の直撃を食らったと、瞬時に理解した。

 目の前が何も見えなくなり、何かがぶつかるようにガツンッ! と機体が大きく振動した。その後もガガガッ!! と、まるでドリルで穴を空けるような低い音と振動が続き、覚悟を決めて目を閉じた瞬間、体中に熱いものを感じた。「やられたんだ」ということを思うこともなく、ただ、されるがまま、何もせずにいた。無気力でいた。……だが――

「……」

 ……数秒後、――まだ全ての感覚がある。呼吸もしている。とても速い心音を捉えることもできる。――生きてる。

 そっと目を開けて顔を上げた彼の視界に飛び込んできたのは、わけのわからないホログラフだった。

 何かが目の前にいる。いや、目の前にいて――ハル機を抱きしめている。

 状況がわからないまま、体を動かそうとしたが動けない。何者かが抱きしめているからじゃない。きっと、さっきの熱弾の被害だ。心音が落ち着かないまま、呼吸を乱したまま戸惑い視線を動かしていると、目の前の機体の背後にも別の機体のホログラフがゆっくりと現れた。……いや、“機体”とは言えない。腕も足も頭もない。胴体も引き千切られ、まさしく“破壊され尽くした後”の残骸だ。

 ――わけがわからない。ただ、動けない……。

 周囲では、熱弾を避けきったものたちが再び交戦している。そんな中、カール機に敵を蹴散らしてもらいながら頭上からグランドアレスが近付いてきた。ホログラフのグランドアレスが、ハル機に抱きついている機体の腕を掴み、引き離した。それを見たハルの眉が動いた。――赤い敵機だ。背中の方から火花を散らし、装甲などが剥がれてしまっているのが前方からでも見てわかる。そして更に、その赤い機体の背後で砕けているのは黄色い機体。

 グランドアレスは赤い機体を手離した。それは無力さを醸し出すようにそのまま漂う。

《……ちょっと食らったな。……もう動けないだろ。……連れて帰ってやる》

 ロックの冷静な声と同時に、グランドアレスが動けないハル機の腕を掴み、引っ張り出した。ケイティに戻るに連れ、そこがどんどん遠ざかる。

 ――ハルは息を震わした。顔が熱くなって、視界がボヤけていく。体を動かそうとしたが、壊れた機体と繋がっているために動けない。

 ……遠くなる二体の敵機の欠片……。

「……。トニィ!! ……ロマノォ!!」



《……ごめん!! ……ごめん!! ……ごめん……! ……ごめん…………》

「……」

 ザックは視線を落としていたが、顔を上げ、外部状況を確認してフライスに切り出した。

「……行くぞ。……まだ終わってない」

「……。ああ……」

 ――敵艦艇から熱弾が発射されると同時に、なぜか突然、黄色い機体が交戦をやめてどこかに向かった。“逃げた”と思った。なぜ、熱弾の中に飛び込んでしまったのか、わからなかった。

 フライスは顔を上げると、外部モニター上、敵艦艇を睨み付けて操縦桿を握りしめた。



 小型輸送機内――。

 ガイはじっとしていたが、ゆっくりとこの待機室にいるクルーたちを見回した。

 すべての交信はスピーカーから流れてきている。窓から見ない限り外を窺うことはできないが、彼らの言葉だけでも充分状況は理解できる。

 俯き、神妙な顔で視線を落としている彼らを見回した後、隣の椅子で額を押さえて背中を丸めているタグーを見下ろした。

「タグー」

「……。……わかってる。……大丈夫だよ」

 そう答えると、拭うように手を動かし、その顔を上げた。

「……大丈夫だ」

「……。人間は素晴らしい生き物ですね」

「……」

「死して尚、例え操られていようとも強い想いは力になる。闘争本能よりも友を思う気持ちが勝った。愚かな人間もいますが、それでも素晴らしい人間を見ると、まだ望みがあるのだということをはっきりと認識することができます。……ヒューマの皆さんが最後の最後まで自らの手で制裁を加えないのも、信じているからでしょう」

「……。そうだね。……そう思うよ。……、けど」

 タグーは小窓から見える敵艦艇を睨み付けた。

「……絶対に許せない……」

「みゅー! そろそろみゅー!!」

 操縦をするフローレルがみんなを振り返る。

「準備はいいみゅー!? しっかりがんばるみゅ!!」

 空気を変えようとしているのか、明るく元気よく、にっこりと笑った。

 周囲をアポロンたちにカバーしてもらいながら敵艦艇に近付く。時々大きく揺れるが、周囲のクルーたちを信じ切っている彼らには恐怖心はない。

「あそこみゅー!」

 操縦桿を動かして出撃口に入り込む。先頭にアポロンが付き、後方にはインペンドたち。用心をしつつそこに向かっていたが、次第に視界が悪くなってきた。

「……何か爆発したみゅー?」

 訝しげに「アポロン、応答するみゅー」と交信を入れるが、雑音が入るだけで応答はない。顔をしかめながら、「仕方がない……」とアポロンの後を付いていく。しばらく進み続けると二度、ハッチに突き当たり、広い空間へと辿り着いた。――が、

「……な、何が起こったみゅ……」

 フローレルの困惑気な言葉に、乗っていたみんなが小窓から外を見た。

 バラバラの機体の残骸が散らばる中、そこに佇むディアナと異人クロスの機体とインペンド。

 タグーは椅子を立ってすぐにフローレルに近寄った。

「交信は?」

「つながらないみゅー」

 半べそ気味に答えながら、アポロンが立った場所の側に機体を下ろし、エンジンを切ることなく、外部モニターで状況を確認するタグーを目で追った。

「……なにかやばいことでもあったみゅー。……すごく危険みゅー」

「……それは承知の上だよ。……あそこの出入り口の所まで近付けて」

 モニター上から指を差すと、フローレルは言われるまま操縦し、機体を人間用の出入り口の側まで近付け着地させた。その間に、歩兵たちが「よし! 出るぞ!」と椅子を立って武器の使用準備を始め、タグーも彼らに交じって最後の機材確認をする。

 フローレルはエンジンを切って椅子を立ち、険しい表情を浮かべる彼らに近寄ると、不安げな目で見回しながら右往左往しだした。

「す、すごく危ないかもしれないみゅー」

「フローレル、内部構造の確認して」

「み、みゅ」

 タグーに顎をしゃくられるまま、再び座席に戻って操作する。

「……酸素濃度99%。重力100%。構造は至って単純みゅ。……ケイティと似たり寄ったりみゅ」

「熱量は? コアの部分を探して」

「みゅー……。……地下部分に熱量確認。……機動力程度の熱量みゅ」

「タイムゲートは映らないはずだろうから、……あと、生命反応は?」

「ンみゅー……。……少しあるみゅ。散り散りみゅ」

「怪しそうな空間はない?」

「みゅー……。……インペンドから届いた情報を調べると、……司令塔らしき影があるみゅ。……三階みゅ。……そこに生命反応が……ひとつ。……動かないみゅ」

 ガイは宇宙服に身を包んだタグーを見下ろした。

「司令官でしょう」

 「だろうね」と、窮屈な首元を緩めながら息を詰まらせ返事をする。

「……よし。まずはそこに行こう。……準備はできた?」

 クルーたちを振り返ると、それぞれ銃器を持ち上げてうなずいた。

 フローレルは席を立ってオロオロとタグーに近寄る。

「け、けど交信もできないみゅ。どうする? フローレル、ずっとここで待ってたらいいみゅ? 何かあったら、どうしたらいいかわからないみゅー」

 半べそ気味に情けなく戸惑う、そんなフローレルに構うことなく、タグーはガイを見上げた。

「……ノバのバーストまで時間がなかったね……」

「はい。あまり猶予はありません」

「……」

 タグーは少し視線を落として考え込み、困惑しているフローレルに目を向けた。

「地球時間の三十分、ここで僕たちを待って。……帰ってこなかったら、先にここを出るんだ」

 フローレルは顔をしかめた。

「じゃあ、……タグーたちはどうやって脱出するみゅ?」

「どこかに小型艇くらいはあると思う。ノバまでワープできたら、そこからすぐに小型艇で脱出するよ」

「だったらフローレルも一緒に残ってみんなと脱出するみゅ」

「……。いざって時、キミはアテにならないんだよね」

 目を細めて馬鹿にする雰囲気に、フローレルは目を据わらせる。

「だから、三十分待って戻ってこなかったら先にここを出るんだ。くれぐれも言って置くけど、キミがここに残ってたら邪魔になるだけなんだからね」

「……。ひどいみゅ。フローレル、ちゃんと役に立つのに」

 拗ねて口を尖らせるが、「役立たずなんだよ」とあっさり突っ返され、ムカッと眉をつり上げた。

「わかったみゅっ。三十分間だけ待ってあげるみゅっ。それ以上は待ってあげないみゅっ!」

「なんなら今、もう帰ってくれてもいいんだけどね。それじゃさすがにかわいそうだから待たせてあげるよ」

「……。早く任務を遂行するみゅっ!!」

 怒鳴られ、タグーは「はいはい」と苦笑しつつクルーたちと一緒にハッチに向かった。そして、フンッ! と腕を組んでそっぽ向いてしまったフローレルを振り返る。

「フローレル?」

「なにっ」

「じゃーね」

「……」

 キョトンとして、バッと振り返った時にはハッチはすでに閉められていた。すぐにそこに駆け寄るが、エアの抜かれる音がしてドアの前に佇む。フローレルはハッチに手を当て、「……みゅー……」と、もの寂しそうに、そこにペタンと座り込んだ。

 ――外に出ると呼吸ができることを確認し、すぐに歩兵たちが前に出て辺りを窺い互いに確認しながら武器を構えて進む。慎重な彼らにタグーは内心「オーバーだなぁ……」と思いながらガイを引き連れてその後を付いていくが、「タグーさん!!」と、宇宙服を着たジュードが機体の破片を避けながら走ってきて、足を止め、振り返った。

「オレも一緒に行くよ!」

 タグーは訝しげに眉を寄せた。

「ダメだよ、キミはリタたちと一緒にここから出るんだ」

「ここまで来たんだから付き合いますよ。リタもさっき出てこようとしてたけど、閉じ込めてきましたから」

「……閉じ込め?」

 顔をしかめて繰り返したタグーに、ジュードはいたずらな笑みを浮かべた。

「ハッチに小細工したんです。そうやって候補生の時にいたずらして遊んでたモンですから」

「……。余計な知恵ばかり付いてるわけだね」

 タグーはため息混じりに肩を落とすが、顔を上げると真顔で首を振った。

「けど、何が起こるかわからないから。キミにもしものことがあったらハルに怒られるよ」

「大丈夫です。今はそんなコト言ってる場合じゃないでしょ? オレも多少機械をいじってきたから、何か手伝いができるかもしれないし。早く済ませないといけないんですから」

「そりゃ……」

「行きましょ。ほら、早く」

 先に進んでこちらを待っている歩兵たちの方へとタグーとガイの背中を押す。

 タグーは「やれやれ……」と呆れてガイを見上げた。

「……ガイ、ごめん。ジュードのこと、見てて」

「わかりました」

 うなずくガイの傍、ジュードは苦笑した。

「大丈夫ですって。なんならオレがタグーさん護ってあげるし」

 タグーは深く息を吐き、「……行こう」と足を踏み出す。

 歩兵リーダーが、やって来たタグーを振り返った。

「三階を目指します。それでいいんですね?」

「うん。司令塔まで行けば、後は僕に任せてくれていい」

「わかりました」

 歩兵リーダーはクルーたちに合図を送り、壁伝いに窺いつつ慎重に足を進めていく。ガイは最後尾を歩いて、背後からの襲撃がないようにと警戒しているようだ。

 歩兵たちの後を追いながら、ジュードはぐるりと内部を見回した。見た目は一般的な艦艇と変わりない。

「……普通の艦とあまり大差はないですね……」

「……見た目はね」

 と、タグーは歩きながら何かの機械を手にそれを見ている。

「……けど、結構複雑な作りしてるよ。細かいし。……機材が地球のものだから違和感はないけど、蓋を開けたらまったくの別物。やっぱりノアコアの造りと似てるね」

「タイムゲートは探しますか?」

 ガイが訊ねると、タグーは「んー……」と少し考え込む。

「司令塔のコンピューターを探って調べてみよう。……捕まってる人たちがまだ生きてるかも知れないもんね。……生きてたら助けなくちゃ」

「交信が可能になれば救助要請をするのですが」

「それもどうにかできないか試してみよう」

「はい」

 ――とても静かな建物内。生命反応は確かにどこかにあるのだが、彼らが近付くとそれらは遠くに逃げてしまう。向こうもこちらの気配を察しているのだろう。

「……敵対するつもりがないなら逃げてしまえばいいのに」

 タグーがため息混じりに呟く。

「警報発して逃げないのならそれでもいいけど。……どういうつもりなのか……」

「用心はしましょう。何か意味があるのかも知れません」

「そうだね……」

 階段を見つけると歩兵たちが先に上り、後から「来ても大丈夫だ」と顎をしゃくられる。そのまま三階まで進むと、また壁伝いに司令塔まで進む。

 ジュードは辺りを見回していた目をタグーに向けた。

「……オレに何かできることはないですか?」

「……たくさんあると思うよ。……けど、……いいね? キミをここでくたばらせるわけにはいかないんだから」

「わかってます。それはタグーさんもガイさんも、みんな一緒ですからね」

 笑顔でうなずくジュードに、「……ホントにわかってるのかな」と、タグーは内心不安を覚えるが、今はそれを問い詰めている時間はない。

 誰かとすれ違うことも、襲撃に遭うこともなく艦内を進む。何も起こらないのは幸運だが、この静けさが逆に不気味だった。――そう、“罠”に掛かる前の、エサを目の前に置かれた獲物はこんな状況なんじゃないだろうか、と。

 だが、乗り込んだ以上、引き返すわけにはいかない。

「……この奥に何者かがいます」

 いったん通路の壁際で足を止め、歩兵リーダーが声を潜めてタグーに告げる。

「先に我々が突入しますので。相手が降伏するようでしたらあなた方をお呼びします」

「……その人には危害を加えないようにね。司令官かも知れない。……話を聞きたいから」

「わかりました」

 リーダーの指示に従い、歩兵たちが奥の部屋へと進んでいく。

 ガイはその姿からタグーへと目を向けた。

「中にいるのはデイビットというノアの番人でしょうか?」

「……だと思うよ。……きっとそうだろうね」

 うなずきながら、歩兵たちが様子を探るドアの方を見つめた。

「……おとなしく話し合いができることを祈るよ……」

「何を話し合う必要があるんですか?」

 ジュードが顔をしかめると、タグーは彼を振り返ることなく言う。

「……今まではクロスたちとヒューマの話のみで、ノアの番人たちから直接話は聞けなかったろ? ……聞きたいんだ。本当の話を」

 神妙な面持ちのタグーを見つめ、奥のドアを開ける歩兵たちを見守る。

 ――いとも簡単にドアが開くと、歩兵たちは壁に寄り、攻撃がないことを確認。素早く中を見て、リーダーの合図で中に入り込んだ。タグーたちはその姿をただじっと見守り続ける。……と、歩兵の一人が出てきて「こっちへ!」と手を挙げた。少し緊張しながらそこに近寄り、ガイが先に入って中の様子を見回して、まだ中に入りきれないタグーとジュードを振り返った。

「……無惨な光景が広がっています。お気を確かに入ってください」

 ガイの言うことの意味はなんとなく理解できた。二人はそろっと中に踏み込む。

 ――とても広い空間、様々なコンピューターとデスクが並んでいる。そして、それらにもたれ、または床に倒れて血を流す遺体たち……。ジュードは少し息を止めて思わず目を逸らしてしまった。タグーも表情を強張らせたが、ゆっくりと、歩兵たちが武器を向ける誰かへと目を向けた。

 司令席だろうと思われる中央場所に男が立っている。何もせずに、ただ無表情に。年の頃で言うと50代だろうか。

 タグーは戸惑うジュードに「……ここにいて」と真顔で制すると、数歩、男に近寄った。

「……あなたが司令官ですか?」

 男はチラっと横目でタグーを見て、「フッ」とバカにするように鼻で笑った。

「そう見えるか? ……だとしても光栄でもなんでもないけどな」

「……。あなたがここのみんなを?」

 訝しげに眉を寄せて目を細めると、男は薄ら笑いを浮かべたまま「そうさ」と顎を上げた。どこか威張ったような、あっけらかんとしたような雰囲気に、タグーは真顔で続けた。

「……ノアの……番人?」

「昔はそう呼ばれてたっけ。今じゃ政府の犬って影で呼ばれてる。笑えるだろ?」

「……。デイビット?」

 男は表情を消し、真っ直ぐな目でタグーを見返した。

「名前なんか、必要なのか?」

「……タイムゲートはどこにある? 生きている人はいるのか?」

「ゲート? ……フッ。そんなもの、とうにコアから外されて運ばれてるさ。残されてるのは“抜け殻”だけってワケだ」

「……。どういう意味?」

「そんなにカリカリするな。オレは丸腰なんだぞ?」

 睨むタグーと、銃口を向けて取り囲む歩兵たちに両手を挙げ、いったん降伏のポーズを取って、男は不敵な笑みを浮かべながら手を下ろした。

「タイムゲートのコアはすでに別の艦艇に運ばれてる。そろそろデイビットたちも乗り込みを完了する頃だろ。それでお前たちを滅ぼすつもりなのさ。この艦はいわば、そのための束の間の鎧みたいなものか……」

「……。キミがデイビットじゃないのか」

「デイビットがこんなトコでぼんやりするワケないだろ。あいつは野心家だからな」

「……じゃあ、キミは何者なんだ?」

「さぁねぇ……。何者なのか、もう忘れた。……何者でもいいんじゃないのか? この際」

「……けど、ノアの番人には違いないんだな?」

「ノアか……。……あそこは良いトコだったな……」

 どこか遠くを見つめ、口元に笑みを浮かべる。

 タグーは数歩近寄った。だが、途中で「寄るな」と言わんばかりに歩兵に手をかざされ、足を止めてその場から男を見つめた。

「……教えて欲しいんだ。キミたちはいったいなんの目的でノアにいたんだ? 本当の目的は? いったいなんだったんだ?」

 焦りを含めながらも真剣に訊くと、男は肩をすくめた。

「知ってるんだろ? M2で内乱起こして、ヒューマに助けられてノアに向かい受けられた。そこでM2を完全に潰す計画を練ってたのさ。……オレたちは真剣だった」

 男は少し視線を落とし、眉を寄せるタグーを見た。

「お前たちがどういう話しを聞いているかは知らない。……だが、これだけははっきり言ってやる。……政府はクソだってな」

 方眉を上げて馬鹿にするが、その目は怒りと悲しみに満ちている――。

 男は再び視線を落とした。

「……M2壊滅のためにノアに身を潜めていた。そこに水を差してきたのが政府の奴らだ。ヒューマと連絡を取り合って、ただの仲間割れだからって。オレたちがかわいそうな人間なんだってコトをヒューマに言いふらし、ノアをオレたちが安全に住むため土地改良をして欲しいって。M2という組織を解散させるってコトをヒューマと約束してね。……偽善者面して、あいつらはヒューマを騙したのさ。政府はM2より、M2で作られる戦闘ロボットなんかよりヒューマの技術が欲しかったんだ。ノアが、そして、そこに逃げたオレたちの、ヒューマの技術を取り込んだオレたちの技術がさ」

 歩兵たちはチラッと互いの顔を窺い出す。

 だが、男は気にすることなく続けた。

「そのうち、環境庁から派遣社員たちがやってきて、ノアは見る見るうちに地球の擬似化が進んだ。その時の社員の一人が政府の使いで、そいつにおいしい話を持ちかけられてそれに乗ったのが……デイビットだ。ヒューマの技術を盗むだけ盗んで、自分の知識に変えた。いずれ、政府に自分を高値で売り飛ばそうって魂胆でな」

 鼻で嘲り笑う男の姿に、タグーは少し視線を落とした。

「そういうのを知っていたのは一部だけで、他の奴らはずっとM2と戦うんだって思ってたっけ。ノアは第二の地球になるんだって信じ込んで。環境庁の社員たちをヒューマだと勘違いしてたヤツもいたしな。ヒューマが地球化してくれてるんだって喜んでな。最終的にはそういう脳天気な奴らと環境庁のバカ共は殺したけど」

「……。タイムゲートはなんのために……」

「なんのためだと思う?」

 問い掛けに問い掛ける男にタグーは口を噤んだ。何も答えられない彼に、男はニヤリと笑った。

「元々はヒューマが地球との交通手段で作ったらしいな。けど、オレたちは地球から逃げた身だ。今さらそんなモンは必要なかった。だから作り替えてやった。一部の奴らはノアに生身の人間を集めるためだって思ってたみたいだけど、ありゃデイビットが政府に言われて作って実験してただけさ。いつか、地球から宇宙に向けて未知の物を捕獲するためのな」

 タグーは愕然と目を見開いた。――そんなことをしてしまえば、本当に地球外生物たちを怒らせてしまう。

 だが、男はそんな緊迫した空気にも構うことなく続けた。

「それでも最初は、そうやって捕まえた奴らはノアに放してやってたんだぜ。好きに生きろって。けど途中でヒューマがいなくなって、タイムゲートの動力源が足りなくなってきた。それでデイビットは更に改造を加えたんだ。人間を動力にしようってな。人間ってヤツはすごいぜ? こんなちっぽけな生き物のクセに馬鹿でかい力を持ってるんだ」

 自分自身を“それ”に見立てて両腕を広げて見せ、パタッと力なく下ろした。

「政府の要望のまま、デイビットは研究を続けていた。けど、クロスがヒューマの手によって送り込まれて……仲間の中でも、クロスをかわいがるヤツとか出てきて。このままじゃ不抜けたところになるってんで、戦闘ロボットを作ったり。……クロスの反乱者が現れ、仲間の中でも反乱者が現れ、あそこは荒れに荒れたモンさ。……そして、お前たちが来たんだ」

 顎をしゃくられてタグーは顔を上げた。

「いつも通りの雑魚だと思っていたが、それが甘かったんだな。ただでさえ仲間内で揉め合っていただけに、更にお前たちが現れてデイビットは怒り狂った。いらない奴らを殺して、お前らを殺そうとして……逆にやられた。その後、地球の政府に拾われたのさ。そして……現状だ」

 ため息混じりに肩をすくめる男に、タグーは目を細めた。

「……どうしてノアを襲いに来なかった? どうしてあの環境をそのまま残したんだ? みんなを殺すつもりなら、全てを破壊することもできたはずだろ」

「いい質問だな。……そもそも、オレたちが地球を離れた理由がなんなのかを考えれば、自ずと答えは出るモンだ」

 どこか穏やかな表情で俯く男に、タグーは悲しげに目を見開いた。

「狂った奴らが多かったが……狂わせたのは政府の人間だ。デイビットも、政府が介入するまでは純粋にM2を破壊することに真剣になってた」

「じゃあどうして」

「恐れだ」

「……」

「誰だってそうだろ。失うかも知れないと思った時、恐れを抱く。デイビットもそうだ。人として地球に戻ることができなくなってしまうって思った時、突然襲い掛かってきたんだ、……ふるさと……地球の映像が。……そこで誘惑されたら、帰れるって思えば、……もし力を貸してくれれば助かるって言われれば誰だって飛びつくさ。……後は洗脳されて堕ちるだけ。……子どもみたいなヤツだったからな。その性質故の……過ちみたいなモンだ」

「……それじゃ済まされないだろ」

 軽く首を振る男を、タグーは睨み付けた。

「キミたちは多くの人たちを犠牲にした。……僕たちの仲間を。……性質故の過ちだって?」

「ああ。その一言だ。それ以外には何もない。だからノアも残したんだ。それも性質のひとつだろ。地球をどれだけ恋しがっていたか、どれだけ人間が絶滅するんじゃないかと不安になっていたか。それだってひとつの性質の現れだ。誰も否定することはできない。お前たちがオレたちを目の敵にするのもそうだろう。オレたちを一方的に悪者だと罵っていたはずだ。……悪者ではないとは言い切れない。人を殺すのも平気になってきた。……けれど、悪者扱いするのなら、デイビットを変えてしまった政府もそうだし、途中で見捨てたヒューマもそうだ」

「そんなこと言ってたらキリがない。僕から言わせてみれば、自分たちの保身を考えすぎた結果じゃないか。……僕たちがキミたちを目の敵にするのは、仲間を奪われ、殺されたからだ。そして、キミたちの行動が地球発の戦争を引き起こす引き金になるって知ってるからだ。そのためだけだ。政府がどうとかヒューマがどうとか、それはキミたちが生み出してしまった都合だろ。嫌なら政府に楯突けば良かったんだ。ヒューマに助けてくれって言えば良かったんだ。そうしなかったキミらの都合のいい“喧嘩”に、僕らは今更合わせられないぞ」

 睨みながら怯むことなく返すタグーを見て、男は小さく笑った。

「都合、か……。……じゃあどうする? ……こんなことをして、お前ら、地球には戻れないぞ? 追われる身になるぞ?」

「みんな、覚悟の上だ」

 試すように笑う男に、タグーは真顔で答えた。

「地球に戻ろうなんて思ってない。……僕たちは、キミたちをここで潰して、政府を、連邦をねじ伏せる」

 迷いもなく吐き捨てた言葉に、歩兵たちの表情もグッと険しくなった。

 ジュードは、タグーの背中をじっと見つめた――。

 男は目を逸らさないタグーにニヤリと笑った。

「おもしろいな、お前ら。さすが思った通り、あのフライス・クエイドが引き連れていただけはある」

 タグーが顔をしかめ、男は更に笑った。

「お前らの存在は知っていた。フライスの存在もな。あいつのパイロットとしての腕も。いずれは連合総督になってもおかしくはないヤツだと思っていたが……、まさか、その地位を捨てて上官に辞表を叩き付けて殴るとは、誰も予想してなかっただろうよ」

「……」

「おもしろい男だと思った。……こいつなら、もしかしたら、そう思った。……だから、あいつの艦に技術士を送り込んだ」

 タグーは間を置いて深く息を吐いた。

「……やっぱりか。……あの三体の機動兵器は……」

「これが、オレたちの“最後の希望”だ。まさか、“飼い犬”に手を噛まれるとはデイビットも思っちゃいなかっただろうがな。まあ、あいつも狂っちまったから、それくらいがちょうどいいか」

 男は少し笑ったが、鼻から息を吐くと、チラッとデスクの上の時間を確認した。

「……都合任せの人生も、もう飽きたな」

 そう呟いて、顔を上げたタグーを振り返った。

「ついでに教えてやろう。ここから早く脱出した方が利口だと思うぞ? いろんなトコに爆弾仕掛けてるぜ」

 歩兵たちは目を見開いて顔を見合わせた。――生命反応に表れていた者たちが仕掛けていたのか!

「嘘だと思うならそれでもいいさ、一緒に死ぬだけの話だからな。……全てが爆発し終わるのが……10分程度かなぁ……」

 どこか白々しい態度に、タグーは怪訝に眉を寄せた。

「どうしてそんなこと……」

「政府の回し者さ。緊急事態に備えてのマニュアルでもあったんだろ、いざという時の処置方、証拠は全て消してしまえってな。……臆病者の考えることだ。ここにいる奴らも逃げだそうとしたから、だから殺してやったんだ」

 男は愉快そうに笑っていたが、どこかで低い爆発音が聞こえ、「ん?」と顔を上げた。

「……始まったか」

 諦めにも似た声と同時に俯く。

 タグーは愕然と歩兵リーダーを振り返って腕を振り上げた。

「あとは僕たちに任せて! キミたちは先に脱出の用意をして!!」

「しかし!!」

 歩兵たちが銃口を男に向けたまま戸惑うが、タグーはそんな彼らに構うことなく、肩から提げていた機材鞄をデスクに下ろした。

「ガイがいるから大丈夫だ!! ジュード! キミも一緒にみんなと戻るんだよ!!」

 鞄の口を開けながら真顔で顎をしゃくられ、ジュードは間を置いて首を振った。

「……オレは残ります」

 ジュードはそう答えてタグーに近寄った。

「作業を手伝います。一人でするより二人の方が早いでしょ?」

「作業? 何をするつもりだ?」

 男が訝しげに口を挟むと、タグーは彼を振り返った。

「……この艦を遠くにワープさせる」

「ワープ? そんなコトしてどうしようって言うんだ?」

「ここにはキミたちの技術が眠ってる。内部爆発だけ数カ所で起こさせて艦を乗り捨てたら、いつか政府が回収に来て地球で新たなタイムゲートが作成される恐れがある」

「フッ……頭が冴えてるな。……ま、いいだろ。見守ってやるよ」

 余裕っぽく肩をすくめるが、すぐにニヤリと笑った。

「けど、忘れていないか? デイビットは別の艦にコアを運び入れてもうすぐ逃げるぜ? お前らに攻撃仕掛けてな」

「……、やっつけてやる。絶対に」

 タグーは真顔でそう答え、鞄の中を探り出した。

 歩兵たちは戸惑い、リーダーに「どうするんですか!?」と目で訴える。その気配を感じ、タグーは顔を上げて彼らを見回した。

「……キミたちは他のみんなを連れてすぐにここを出て。彼の話がホントなら、別の艦からタイムゲートのエネルギーを熱弾に変えて攻撃を仕掛けるかも知れない、気を付けるんだ」

「……しかし、あなたたちは」

「そんなことを言ってる場合じゃないだろ。早くしろ」

 険しく突っ返して機材を取り出す姿に歩兵リーダーはためらいがちに視線を泳がすが、グッと顔を上げるとうなずいた。そして部下たちを振り返って後退の合図を出す。歩兵たちはリーダーの指示で困惑気味にそこからゆっくりと離れる。またどこかで爆発音が響き、微かに足下が揺れた。

「キミ、一緒に来るんだ」

 歩兵の一人がジュードの肩を掴むが、ジュードはそれを軽く振り払った。

「オレはタグーさんと一緒にここに残ります」

「何を言ってるんだ。キミまでここに残る必要は」

 そう諭すように強く言いかけたその直後、バァーン!! と、突然司令塔の奥が爆発を起こし、悲鳴を上げる間もなく爆風の勢いに飲まれてみんな吹き飛んだ。黒い煙が広がり、警報音が鳴り響く。頭上から鉄屑が降ってきて、辺り構わず床に落ちた。

「……みんな!! ……大丈夫か!?」

 誰かの悲痛な声が響く中、一人、また一人と、体をふらつかせながらなんとか立ち上がる。ジュードも「……ケホッ」と咳をしながらゆっくりと立ち上がった。濛々《もうもう》と煙が立ちこめる中、奥の壁が破壊され、辺りもその残骸が散らばっている。見回せば、遺体が瓦礫に潰され、飛んできた鉄板が突き刺さっているような遺体もあり、すぐそちらから目を逸らしてタグーの姿を探した。その目の先、少し離れたところでタグーもゆっくりと体を起こしている。無事な姿に内心ホッとした。

「ここは危険です!! 早く脱出しましょう!!」

 歩兵の一人が負傷した仲間を担いで大声で誘導する。――と、またどこかで爆発が起こり、足下が大きく揺れた。

「撤退しろ!! 急げ!!」

 警報音にも負けないリーダーの言葉で軽傷を負いながらも歩兵たちが転がる鉄屑を避けながら足早にそこを出ていく。

 ジュードはかすり傷の痛みに耐えながら、デスクに手を付いて立ち上がるタグーに駆け寄った。

「タグーさんっ、大丈夫ですかっ?」

「……キ、キミは?」

「オレは平気……」

 そう答えて目を留めた。タグーの左上腕に10センチほどの鉄板が刺さっている。

 ジュードは目を見開いて「……ガイさん!!」と声を上げた。ガイは瓦礫を押し除けてすぐに駆け寄ってくると、タグーの怪我を確認した。

「このままにしておきましょう。今抜いてしまうと返って血が溢れてしまいます」

「……。治療は?」

「……すみません。先程の爆発で一部体内の機能がショートしました」

「大丈夫ですか!?」

 と、ジュードが目を見開き不安げに身を乗り出すが、ガイは軽く首を振った。

「支障はありません。ご心配なく」

「キミたち!!」

 歩兵リーダーが近寄ってきて、焦りの表情で彼らを窺う。

「こんな状態で作業ができるのか!?」

 タグーは少し痛々しく顔を歪めながら、それでも息を大きく吸い、男がいた場所へと向かう。鉄板が方々に重なり、それを避けながら近付いていたが、頭から血を流し倒れている彼を見つけるなりすぐに側に腰を下ろして顔を覗き込んだ。

「……キミ! ……しっかりしろ!!」

 戸惑い目を見開いて肩を掴み揺さぶると、男の顔が歪み、その目が開いた。

「……くそ。……即死、できると、思ったのに……」

「……。ワープするための機能はどこだ!? 教えてくれ!!」

 困惑げに、必死さを露わに問うが、男は息も絶え絶えにニヤリと笑った。

「……そんな、ことを……教えると、思ってるのか……?」

「教えてくれ!! 頼むよ!!」

「……お前ら、も……道連れだ……――」

 男は少し笑うと、そのまま目を閉じてガクンッと力をなくした――。

 タグーは「くそっ!」と吐き出して、悔しげな顔でガイたち三人の元へと戻ってきた。

「なんとか探してみる!! キミたちは早くここから逃げるんだ!! 通路が塞がれたら逃げられなくなる!!」

「わたしは残ります」

 と、リーダーが首を振った。

「ここまで来たんですから……。お付き合いします」

「そんなこと言ってる場合じゃないってば!!」

 怒鳴っていると、またどこかで爆発音が響いた。今度は遠くの方だ。

 タグーは舌を打つと、この中でも一際大きなコンピューターの方へと駆け寄った。そして、腕の怪我を庇うことなくそこに重なる鉄屑を払い落とすと、目で全てのスイッチやレバーを確認していく。ガイたちもすぐに瓦礫や遺体を避けて近寄った。

「みんなで探しましょう!」

 ジュードが焦りを浮かべてタグーを振り返った。

「どんなものを探したらいいんですか!? 教えてください!!」

 歩兵リーダーも武器を下ろして手伝う準備をする。

 ガイは、遠く聞こえた爆発音に顔を上げ、睨むように機器類を確認していくタグーを見下ろした。

「タグー、時間がありません」

 ガイはそっとタグーの肩に手を置いた。

「ここは、私に任せてくれませんか?」

 タグーは汗を流しながら顔を上げた。

「えっ、なにっ?」

「わたしの外部入力とこのコンピューターを繋げて探索してみます。見つかったらそのままワープまで強行しますので」

「……わかったっ。だったら僕が繋げるっ」

「いいえ。一人でもできます」

 すぐにガイの胸部に手を掛けようとしたタグーの手を掴み止める。その手に、タグーは顔をしかめて見上げた。

「……何言ってるんだ。これは僕の役目なんだから」

「猶予はありません。ノバのバーストまで時間もギリギリです」

「……それがどういうことかわかってるんだろ」

「わかっているから言っているんです」

「……納得行かない」

 タグーは不愉快そうに眉をつり上げ、手首を掴むガイの手を押し下げて彼の胸部の隙間に指を差し入れた。

「キミが残るなら僕も残る。絶対に残る」

 戸惑うジュードと歩兵リーダーが見守る中、ガイの胸部のパネルを開ける。ガイはそんなタグーを見下ろし、手を掴んだ。また中断させられ、タグーはムッと彼を見上げた。

「何を言ったって無駄だよ。僕の決心は付いてるんだから」

「わたしはあなたとは違うんです」

「なんのことだよ?」

「わたしは何度死んでも再生することは可能ですが、あなたは一度死んでしまえば甦ることはできません」

「……。だからなんだよ」

「ジュードたちと一緒にここを脱出してください」

「……イヤだって言ってるだろ。……こんなコト言ってる場合じゃないんだ。早くしないと」

 またガイの手を押し下げて離し、パネルの開いた胸部の奥を覗き込む、そんなタグーをガイは見下ろした。

「タグー」

「黙ってろ。すぐ繋げるから。……このコードだな」

「あなたはわたしの親友です」

 ドンッ、と、ガイはタグーの後頭部、首の付け根に手刀を下ろし、声を漏らすことなく気を失って倒れ掛けたタグーを抱き留めた。

「だから、生き抜いてください」

 力のない彼を腕の中で抱き、項垂れるように見下ろすと、愕然としているリーダーにそっと顔を向けた。

「脱出できますか?」

「……、……ああ。……必ず彼はケイティに戻す」

 リーダーは真顔で強くうなずき、ガイからタグーを引き取って背負った。

 ジュードは困惑げに目を泳がせ、身を乗り出してガイを見上げた。

「……ガイさん!!」

 大きく見開いた目に涙を溜め、すがるように見上げるジュードに、ガイは表情のない鉄の顔を向けた。

「タグーのことをお願いします」

「……。けど!!」

「ノアの番人たちの技術を壊滅させるのなら、それはわたしも同じなんです。わたしはノアの番人の手によって作られたのですから。内蔵された部分にヒューマの技術が眠っているとも限りません。わたしはあなたたち人間とは違って回路をひとつ触れば誰の言うことでも聞いてしまうロボットです。いつ誰が利用するとも限らない。でしたら今、あなた方のためにわたしを使いましょう」

「……。使うって……。……そんな……!!」

 悲痛な表情で愕然とするジュードにガイは首を振り、彼の肩をそっと押した。

「さぁ、早く行ってください。わたしもすぐに取り掛かります。早く脱出するんです」

 リーダーは目を閉じているタグーを背中に乗せたまま、ガイを見上げた。

「……ありがとう。……キミのことは絶対に忘れない」

 真剣な表情でじっと見つめ、ためらうことなく背を向け足早に歩いていく。ガイはリーダーに背負われたままのタグーの背中を見つめ、そっと自分の首元から何かを引っ張り千切ってジュードに差し出した。

「これを」

 ジュードはそれを受け取り、手のひらの上に乗せて見た。――歪な形をした透明な石が付いたペンダントだ。

「タグーに渡してください。……お守りです」

 それをじっと見つめていたジュードはグッと握り締め、ガイを見上げた。すがるような目を向ける、そんな彼にガイはコクリとうなずいた。

「行ってください」

 ジュードは息を震わせて顔を紅潮させていたが、涙をこぼして笑みを浮かべ、数回うなずいた。

「……タグーさんが、ガイさんを大切にしてた理由がわかったよ。……すっげー絆だ」

「……」

「……脱出が可能なら……絶対に脱出してください。……絶対に」

「……わかりました」

 ジュードはうなずくガイを見つめ、少し俯き、その後何も言わずにそこを後にした――。



 なに!? なんなの!?

 リタは艦内で所々起こる爆発にうろたえる。交信ができないだけに、みんなと話ができず、ただ一人混乱するだけ。

 なにかあったんだ!! きっとそう!! ど、どうしよう!! どうしよう!!

 シートに座り込んだままオロオロと周りを見回す。何かが見えるわけではないが、気が落ち着かない。……と、その時、出入り口の方から数名の歩兵たちがボロボロの姿で出てきて、すぐに小型艇に乗り込む姿が見えた。その際、待ち構えていたキーファーが何か話を聞き、そしてアポロンに乗り込む。

 なに!? なに、あの姿!! ……の前にタグーたちの姿がなかったよ!?

 外部モニターを見ながら身を乗り出す。しばらくすると、アポロンがインペンドたちの方を振り返り、何か合図を送った。その数秒後、すべてのインペンドたちがそこから出撃口へと向かい出ていく。リタは「……え? え!?」とわけがわからずにうろたえるが、アポロンはディアナに近付いてきて、腕を掴み、強引に出撃口の方を向かせた。その少し後、小型艇のエンジンが掛かり、飛び立って出撃口から出ていく。それを追うように、アポロンがトンッとディアナを押した。まるで「小型艇を護衛しろ」と言わんばかりに。

「な、何やってンのよ!! タグーたちがまだなのに!!」

 怒鳴るが相手に聞こえるはずもない。

 動かないディアナを、アポロンが強引に押す。

「イヤったらイヤ!! タグーたち戻るまで私もここにいるモン!! 出ていかないんだから!!」

 駄々を捏ねるが、それでもアポロンがディアナを押しやる。足を踏ん張りたいが、そこまで操縦慣れしていない。

「やめてよ!! 押さないでよ!! 壊れちゃうじゃない!!」

 本当なら飛んで進む出撃路をズルズルと押しやられて、結局、ドンッ! とハッチの外にまで押し出された。

「……覚えてなさいよ!! あとで殴るからね!!」

 ハッチの前に佇んで腕を組み通せんぼをするアポロンに捨て台詞を吐いて、リタは苛立ちを露わに背を向けて出撃口から外に向かって飛んだ。そして、宇宙空間に飛び出した途端、「キャッ!!」と顔を伏せた。いきなり敵機が目の前を通り過ぎた。それも、今まで戦っていたのとはまた違う機体だ。

 い、いつの間にこんな敵が――!!



「……くそっ、ここは通れないか……」

 爆発で塞がれた通路の前、リーダーが深く息を吐く。なんとか二階まで下りることができたが、そこから先が進めない。

 リーダーはタグーを壁際に下ろして、塞がれた通路の様子を探った。ジュードも同じように崩れた鉄屑を触って舌を打つ。

「……遠回りしますか?」

「……通路がわからないだけに、閉じ込められてしまう恐れがあるぞ」

「……。けど、このままここで立ち往生していても……」

「……。よし。ちょっと彼を連れて離れていろ」

 ジュードは言われるがまま、タグーを抱え、通路の奥の方まで離れた。リーダーは鉄屑でできた壁の様子を探っていたが、腰を下ろすと肩に掛けていた銃から弾を取り、弾薬を抜き取った。――数秒後、リーダーが二人の元に駆け寄ってきた。

「壁に隠れて」

「はい」

 寄り添うように物陰に隠れると、リーダーは胸ポケットからジッポライターを取りだし、火を付けて投げた。ドンッ!! と爆音と共に、こちらまで鉄屑が飛んでくる。伏せていた顔を上げ、すぐに通路の方を見た。

「……よし!」

 人、一人分が通れるほどの隙間が下に空き、二人掛かりでタグーを抱え、すぐにそちらに向かう。リーダーが先に2メートルほどはある隙間を試すように潜り、向こう側に顔を出して大丈夫だと確認すると、そこを這い出て上半身を隙間に通して腕を伸ばし、ジュードの手からタグーを引っ張り、床に寝かせた。

「よし! 来い!」

 リーダーの合図でジュードも穴を潜る。――が、宇宙服の一部が引っ掛かって動けなくなった。焦るジュードを見て、リーダーがすぐに手を伸ばす。

「大丈夫だ! 落ち着け! ゆっくりと動かすんだ!」

 彼の言うことに従って動かすが、その弾みで積み上がっていた鉄屑の一部が動き出した。それを感じたジュードはピタっと動きを、息を止める。リーダーも舌を打って、焦りの表情で鉄屑を見上げた。

 ――体の上には鉄くずの山。そこが崩れてしまえば……。

 ジュードは動けないまま、視線を落とした。

「……。先に行ってください」

 その声に、リーダーは隙間の中を覗き込んだ。ジュードはグッと真顔で彼を見据えた。

「オレに構わないで、タグーさんを連れて行ってください」

「何を言ってるんだ、諦めるな。ここまで来てそんなことができるワケないだろ」

 リーダーはなんとか笑顔で励まし、「待っていろ」と声を掛け、懸命に鉄屑が崩れないようにと手を探る。そして、「……よし!」と一部手で持ち上げられる部分を見つけると、力を込めてそれを上げた。

「これでどうだ!? 行けるだろう!!」

 ジュードは恐る恐る体を動かす。……時、どこかで爆発が起こり、足下が揺れた。その衝撃で積み重なっていた鉄屑の一部が落ち、ジュードは「!?」と顔を歪めた。

「大丈夫か!? ……早くしろ!! がんばるんだ!!」

 励まされ、傷の痛みを堪えながらなんとかそこから脱出する。隙間から体を這い出すと、すぐにそこから離れ、息を切らして傷を確認した。右ふくらはぎを深く切っている――。ジュードは呼吸を乱しながらもリーダーを見上げた。

「すみません!!」

「……いや、いい。……行け」

 背後に顎をしゃくられ、ジュードは「……。え?」と少し目を見開いた。

「……行くんだ。……ここはもう保たない」

 紅潮した顔に汗が流れる。

 ジュードは少し顔をしかめ、そして彼が支える鉄屑を見上げた。上の方がグラ付いて、いつ崩れるともわからない。ジュードは痛む足を堪えながら慌てて立ち上がった。

「バカ!! やめろ!!」

 一緒に支えようとしたジュードにリーダーが大きく怒鳴る。

「ここで共倒れしてどうするんだ!!」

 ジュードは肩を震わせ、戸惑いを露わにした。

「け、けど!!」

「彼を連れて行くんだ!! 次に爆発があれば崩れてしまう!!」

「……そんなっ……!!」

 ためらい目を泳がせるジュードに、リーダーは少し笑って見せた。

「気にするな。これがわたしの役目だ」

「……」

「それよりも……無事にここから脱出するんだぞ。……責任重大だ。……できるな?」

「……」

「お前ならできる。……フライ艦隊群のクルーだから。……そうだろ?」

 ジュードは歯を食いしばり、唇を震わせると顔を上げ「……はい!」と大きく返事をした。

「……よし。……後は任せた。……生き延びるんだ」

「……。はい……!」

 ジュードは大きく返事をすると腰を下ろしてタグーを肩で支え上げ、リーダーを見て敬礼をした。

「……。……ありがとうございました!!」

「……健闘を祈る」

「……」

 ジュードは息を詰まらせると、そのままタグーを引きずって背を向け歩き出した。



「みゅー!!」

「みゅーみゅーうるせえってんだろ!!」

「みゅーっ!!」

 フローレルが半べそ状態でみんなにすがり寄る。

「助けて!! 助けて!! タグーたち助けてぇ!! 早く助けるみゅーっ!!」

 すがり寄られて、ロックは「うるせぇ!!」と眉をつり上げて頭を押しやった。

 ケイティ内出撃庫。

 リタはためらいを露わに、唇を噛むアリスを見上げ、服を引っ張った。

「艦内でたくさん爆発が起こってたの!! 交信とかできなくて!! どうしよう!! タグーたちが……!!」

「アポロンが最後まで残るって言ってましたけど、コクピットにみんなを乗せることは不可能です!!」

 目にうっすらと涙を浮かべるリタに続いて、爆発の影響で黒くなっている歩兵が懸命に腕を広げる。

「あそこには他に小型艇はなかったし!! なんとかなるって言ってましたけど……! 無茶ですよ!!」

 アリスはじっと睨むように視線を落としていたが、フローレルたちが乗って帰ってきた小型艇へと走った。

「おい!!」

 それをすぐにロックが追いかけて捕まえる。

「何するんだ!!」

「助けに行くのよ!!」

「外は今混戦してる!! そんなモンで出ていったら一発だぞ!!」

「じゃあこのまま放っておけって言うの!?」

 身を乗り出して突っ掛かりながら、腕を掴むロックの手を振り払った。険しい表情で睨まれ、ロックは舌を打つと出撃庫内を見回した。

 弾切れを起こして戻ってきて弾倉を補填中のグランドアレスも個人機だ。彼らを乗せて運ぶのは無理だろう。小型機ごと運んで、アポロンをバックアップにすれば、なんとかここまで戻ってこられるか――。そんなことを考えていた目が留まった。

「……あいつだ」

「え?」

 ロックは少し目を見開き、アリスを振り返った。

「お前、ライフリンクだろ?」

「……そうよ」

「よし! インペンドに乗るぞ!! あれなら奴らを乗せることができるし、そのまま戦闘に移ることもできる!!」

「けどエンジニアがっ」

「……オレ、行きます」

 ハルが奥の部屋から出てきた。少し赤く腫らした目をそのままに、無表情な顔を上げる。

「……少しくらいなら、なんとかなると思うから」

 ロックは「……よし!」とうなずき、狼狽えているリタに顎をしゃくった。

「リタ! お前も援護に来い!!」

「わ、わかった!!」

 リタは大きくうなずいてディアナに走っていく。ロックたちもすぐに空いているインペンドを見つけると、許可をもらうことなくそれに乗り込んだ。アリスはすぐにパワーカプセルに、ハルはコントロール部に、ロックはパイロット部に。

 アリスはカプセルの中に入ると忙しなく吸盤をくっつけながらロックの後頭部に目を移した。

「ロック! 大丈夫なんでしょうね!?」

「なにが!?」

「ちゃんと操縦できる!?」

「俺を誰だと思ってンだ!? ロック様だぞ!!」

「……意味がわかりません」

 と、ハルはシートベルトを締めて機動スイッチを押していく。ハッチが閉まり、コクピット内に明かりが灯った。

 ロックはメットをかぶって戦闘服バトルスーツと一体化させるチャックを閉めると、シートベルトを締めてグローブを引っ張り指の間にフィットさせた。

「アリス!! 一気に飛ばしていく!! QUICKを上げてくれ!!」

 アリスは返事をすることなく目を閉じた。

「……パワー上昇。クイック80%」

 ハルが冷静に対応しながら様々なスイッチを入れていく。

「……エンジン点火します」

 そう言うと同時に機体が大きく振動し出す。ロックが操縦桿を動かすとインペンドがゆっくり動き出した。

「ボルトブレードの電圧を上げておけよ!! 邪魔するヤツは斬るだけ斬って行く!!」

「……斬られないように気を付けてください」

「……。お前が相手だとペースが乱れるーっ!!」



 ジュードは「……はぁっ」と深く息を吐いた。――足の傷の痛みは感じなくなった。けれど、それだけの出血がある。数回の爆発があったが、それにめげることなく、タグーを引きずり、出撃庫を目指した。

 ……そう、ここでめげるわけにはいかない。……ここでめげるわけには……。……。

 一瞬視界がボヤて意識が遠退きかけ、「っ……」と立ち眩んで壁に寄り掛かる。目を閉じて軽く首を横に振り、数回深呼吸をした。そして「……よし」と気合いを入れ直し、タグーを支え直して歩き出す。

 ……早く……脱出しないと……。……しないと……――

 焦る気持ちとは裏腹に、足がもつれてその場に倒れこんでしまった。足の傷が痛み、「っ!!」と顔を歪めるが、すぐに「……あっ、タグーさん!」と、隣に倒れた彼を窺い、手を差し伸べ掛けて止めた。倒れた衝撃で、タグーは「うっ……」と少し眉を寄せ、ゆっくりと目を開けた。虚ろな目で、目の前、ジュードをぼんやりと見つめている。

 ジュードは必死になって足を引きずり体を起こすと、タグーの肩を抱いて彼を起こし、壁に背もたれさせた。

「タグーさん! 大丈夫ですか!?」

 顔を覗き込んで問い掛けると、タグーはまだしばらくぼんやりとし、瞬きを繰り返した。

「……ジュード……。……ここは。……。……なんっ!」

 腕に激痛が走って言葉を切らし、顔を歪めてそれを押さえる。その瞬間に思い出したのだろう。ハッと顔を上げて目を見開き、焦りの色を浮かべてジュードを見た。

「そ、そうだ! ワープは!? ……ガイは!? ……リーダーは!?」

 真顔の中に戸惑いも滲ませる、そんなタグーに、ジュードは軽く首を振った。

「……ガイさんは、司令塔に残りました。……ワープを遂行します」

 タグーは慌てて立ち上がり、辺りを見回した。

「戻らなくちゃ!!」

「……無理ですよ」

 ジュードはそう答えて壁にもたれ、彼を見上げた。

「……爆発で通路が塞がってますから……。……どこにも行けないんです……」

「リーダーは!? ガイと残ったのか!?」

「……。……オレたち、助けるために……」

 タグーは愕然とした顔で項垂れるジュードを見下ろし、少し眉を寄せた。

「……ジュード? ……どうしたんだ?」

 腰を下ろして顔色の悪い彼の顔を覗き込む。ジュードは少し笑った。

「……すみません……。……そろそろ……ヤバイです……」

 その言葉に初めて彼の足の怪我に気付いた。――もう血も流れていない。

 タグーは愕然と目を見開いて「……くそ!!」と吐き捨て、ジュードの肩を掴んだ。

「そんな傷で僕を!!」

「……いいんです……。……この先が、出撃庫だから……早く行ってください……」

 項垂れて首を振るジュードに、タグーは顔を紅潮させて眉をつり上げた。

「バカを言うな!!」

「……タグーさん死なせると……ガイさんにも怒られるし、……ロックさんや、アリスさんにも怒られるから……。……みんなに恨まれる……。……ここまで来たら、もう大丈夫でしょ……?」

「何言ってンだよ!! ……キミが死んだらハルはどうなるんだ!!」

「……」

 ゆっくりと視線を落とす。もう荒々しく呼吸をすることもない。意識が遠退きかけているようだ。

 タグーは「……くそ!」とジュードの腕を取って肩に回し、彼を支え立ち上がった。腕に力を入れるたびに傷が痛むが、それでもそこから一歩ずつ歩き出す。

「……がんばるんだよ!! ……ここで死ぬな!! ここで死んじゃダメなんだ!!」

 タグーの声を聞きながら、ジュードは引きずられ、目を細めた。

「……。……ハルは……、……オレを、恨んでるかも知れない……」

「……何言ってンだよっ」

「……軍隊、入ろうって、みんな誘ったの……オレ、だったんです。……すぐ……市民権、得られるし……。簡単に……考えてた……。罰が、当たったんだ……。……ロマノも……トニーも、死んで……、……ハルは……きっと、オレを……」

「……恨まないよ。……キミとハルは友だちだろ? ……ハルにはキミが必要だ。……だから、ここで挫けるな。……挫けちゃいけない。……いけないんだ」

 言いながら、彼を引きずりながら目に一杯の涙を浮かべる。

「……僕たちは……生きるチャンスを与えられてここにいるんだから。……諦めちゃいけないんだ……」

「……」

「……がんばれ……。……がんばれ……」

 自分に言い聞かせるように言う。ジュードはもう何も言わない。一緒に足を踏み出していたが、少しずつ力が抜け、仕舞いには全てをタグーに任せていた。ジュードを支え引きずり歩き続け、タグーも段々と疲れてくる。どこかではまた爆発音が響き、足下が大きく揺れる。時々、通り過ぎた背後で壁が剥がれ落ち、その音に驚くが、それでも立ち止まることなく歩き続けた。――その時

【乗組員に告ぐ。五分後にワープ決行します】

 機械音にタグーは顔を上げた。

【各自所定の位置に着きシートベルトを締め待機してください。繰り返します。五分後にワープ決行します】

「……」

 ……ガイ……――

 タグーは落とし掛けた視線をグッと上げ、スピードを上げて足を進めた。

 ……誰かが待っているかどうかはわからない。けれど……最後の最後まで諦めるわけにはいかない。……最後まで――

 警告音が鳴り響く中、息を切らし、懸命にジュードを引きずり歩き続けた。そして……

「……タグーさん!!」

 遠くからキーファーが走ってくる。その姿を見てタグーは深く息を吐いた。途端、体の力が抜け、その場に座り込む。

「大丈夫ですか!?」

「……い、急いで……。……。ワープが始まる……」

「立てますか!?」

 キーファーは気を失ったままのジュードを抱え上げる。タグーはうなずくとフラつきながらも立ち上がった。

「こっちです!! がんばって!!」

 声を掛けながら誘導する。

 タグーは荒く息をしながらも懸命に彼の後を追いかけた。やっと出撃庫らしき広い空間が見えると、そこから誰かが走ってくる。

「タグー!!」

 ロックとハルだ。

 ロックはすぐにタグーを支え、ハルはキーファーに支えられうなだれたままのジュードの肩を掴んだ。

「ジュード!? ……ジュード!!」

「……大怪我をしてるんだ」

 タグーが息を切らして言う。

「……早く、輸血しないと……」

 ロックは「急げ!!」とタグーを背中に抱えると走り出した。キーファーもジュードを抱えたままで走り出し、ハルがその後を追う。

 出撃庫に戻ってくると、アポロンとディアナ、そしてインペンドと異人クロスの機体が立っている。その異人クロスの機体からカールが降りて出てきて、キーファーに抱えられているジュードを見た。

「一緒に乗ってケイティまですっ飛ぶッス!!」

「操縦大丈夫なのか!?」

 異人クロスの機体は基本一人だ。それを心配して訊くロックに、カールは笑顔で強くうなずいた。

「任せるッス!! 不細工な格好で飛ぶッスけど、問題ないッス!!」

 そう答えてキーファーからジュードを引き受ける。

「バックアップする!」

「お願いするッス!!」

 キーファーの申し出にうなずき、急いで機体へ向かう。

 カールがジュードを担いだまま足掛けに掴まってコクピットに入る、その姿を見守るハルに、ロックは肩を叩いた。

「行くぞ、ハル!」

「……」

「ジュードは大丈夫だ! お前を置いて死ぬわけねーだろ!!」

「……。はい」

 タグーを抱え、インペンドに乗り込む。コクピットに入ると、カプセルの中のアリスがそこに手を付いてタグーを見た。

「タグー!!」

 心配げに目を見開くアリスに、タグーは顔を上げて「はは……」と笑った。

「……やぁ、アリス……」

 ロックは壁際にタグーを下ろし、固定するようにカプセルから伸びるコードを彼に巻き付けた。

 ハルがすぐにハッチを閉め、それぞれ座席に着く。

「タグー、ちょっと揺れるかも知れないけど堪えろよ!」

「……堪えられるような操縦をして欲しいよ」

「我慢しろ!!」

 怒鳴りながら操縦桿を握る。ハルは「起動します」とスイッチを入れていく。インペンドが起動する頃に異人クロスの機体も動きだしたが、まるで何かを背中に背負っているような格好だ。そのままで器用に動きだし、ディアナがそれぞれの準備ができたことを確認すると、すぐに出撃口に飛び出した。その後を異人クロスの機体が、そしてアポロンが追い、最後尾にインペンドが着く。

「……ワープが始まります!!」

 ハルが外部の様子を確認しながら言う。その言葉が終わるか終わらないかの時、アポロンが超高速移動でギュンッ! と進み出した。

「俺たちは置いてけぼりかーっ!!」

 あいつー!! と、ロックは眉をつり上げた。

「アリス!! QUICKを上げろ!!」

 ハルの目の前のコントロール部のパネルが上昇していく。

「……クイックラインオーバー。そこまでにしておいてください」

「飛ばすぞ!!」

 ロックが操縦桿を引くと、いきなりGが体に掛かった。

「タグー!! 飛ばされるなよ!!」

 タグーはしっかりコードを掴みながら、何も言えずにグッとGに堪える。

 段々と艦内がボヤけだし、光の粒が浮かび出す。ロックは「……くっそぉ!!」と精一杯インペンドをフル加速で飛ばした。

「……飛ばしすぎです。頭部装甲に圧力が掛かりすぎてます」

「言ってられっかよ!!」

 やっと出口が見えてきて、そこを飛び出すと、次に待ち構えていたのは混戦の真っ直中。「うわ!! くそ!!」とすぐに体制を整えようとするが上手く行かず、敵の機体に体当たりを食らわした。

 体を伝う振動にそれぞれが堪え、そして、舌を打ったロックが機体バランスを整えて身構える中、タグーはコードを離すと、立ち上がってハルの座るシートまでふらつきながら赴き、背後から外部モニターを見つめた。

 敵艦艇の姿がぼやけ、そのままスッ――、と消え去った。

 ……ノバのバーストに間に合った――

「……タグー、座ってろ」

 視線を落として俯く姿を見ることなく、ロックが背後に顎をしゃくった。

「……このまま残りの奴らをブッ叩くぞ」

 タグーは落としていた視線を上げるとハルの肩に手を置いた。

「……ハル、……僕が変わるよ」

 ハルはタグーを振り返り、腕の傷を見た。

「……無茶です。……その傷じゃ」

「……大丈夫。……悪いね。……その席は僕の席なんだ」

 笑みを浮かべるタグーをハルはじっと見つめ、ロックを振り返った。

「……そこ、退いてください」

 冷静に言われ、「……、はっ?」とロックは顔をしかめた。

「……オレ、パイロットですから」

「……。ふざけンなよハル坊っ。お前は後ろで縮こまってりゃいいんだよっ!」

 このガキ! と言わんばかりに吐き捨てられ、ハルは少し不愉快そうに目を据わらせると、シートベルトを外してタグーに席を譲った。そして先程までタグーのいた場所へと行き、そこに座り込む。

「……お手並み拝見と行きます」

「おお。拝見してろ」

 ロックが威張って答える間にタグーはシートベルトを締めると、深く息を吐いた。そんな彼をロックは横目で見る。

「……大丈夫か?」

「……。大丈夫だよ」

「そうか」

「うん……」

「……やるか?」

「……そうだね」

「……よし。……ボコるぞ」

「……OK」

 タグーの言葉でロックはグッ、と操縦桿を握りしめた。そして……

「ボルトブレードの電圧を上げろ! ディフェンスもだ!!」

 インペンドはボルトブレードを引き抜くと、新たな艦艇から出てくる敵機に向かって攻撃を仕掛けた。ロックインペンドの攻撃に気付いた敵機はすぐに彼の方に向き直り、光弾を連射。それを避けきるとブレードを振りかざした。胸部スレスレで空振りになるが、それを再び振り下ろす。敵機は遠く飛び退くとそこから光弾を連射した。ロックは舌を打って素早く操縦桿を引き、光弾を食らうギリギリで避けながら「クイック値を上げろ!!」と声を張り上げた。

 タグーは、傷の痛みを耐えながらデータを集める。

「敵機動兵器は無人のPSYコントロールだ。完全にヒューマの技術を盗んで作ってる」

「じゃあ操ってるヤツを根本的に倒さなきゃどんどん出て来るじゃねーか!!」

「そういうことだね」

「……あの艦だな!?」

 敵の光弾を避けながら、敵艦へと向かう。

「バカ!! 敵はタイムゲートのエネルギーを熱弾に変えて!」

「避けりゃいいんだろ!!」

「避けきれる距離じゃないだろ!!」

「アリス!! もっとクイックを上げろ!! タグー!! シールド強化だ!!」

「……了解!!」

 文句の言い合いのように手を動かす。

 ギュンッ!! とロックインペンドが敵艦に近付くと、《ロックさん!》とキーファーから連絡が入る。

《無事にケイティまで辿り着きました! あの少年は集中治療室に運ばれました!》

 ハルは顔を上げる。

 ロックはモニターに映るキーファーを睨んだ。

「あいつを殺したらお前を八つ裂きにしてやるぞ!!」

《……。どうしてそう突っ掛かるんですかっ》

「お前も早くこっちに来い!! わかったか!!」

《……わかりましたっ!!》

 拗ねるように通信が切れる。

 ロックインペンドは敵艦に向かいながら襲い掛かってくる敵には容赦なくボルトブレードを振り、そして光弾銃を撃ち放つ。

「あの艦のコアは!?」

 問われたタグーはすぐにデータを集める。

「……中央部! 後方ドッキング部からの通路発見! ……けど、そこを破らなきゃ!」

「そんなの簡単だ!!」

《熱量確認!! 気を付けてください!!》

 オペレーターからの声にロックは「くそ!!」と素早く操縦桿を動かした。

 敵艦の砲撃口から、突然無数の光の球が飛びだし、その勢いに飲まれて機体が消えていく。ロックインペンドもギリギリそれを避けきったが、

「左腕装甲損傷! 油圧ケーブル破損! このままじゃ左腕が動けるのは十分程度だよ!!」

「それくらいあれば充分だ!! ドッキング部に行くぞ!! パワーを上げろ!!」

「パワー値90!! ……ロック! 後方から光弾反応!!」

 ロックは舌を打つと素早くインペンドを動かし、それを避けた。だが、そのすぐ後、いきなり背後に凄まじい衝撃があり、「うわ!!」とそれぞれが体を大きく揺らす。タグーのコントロールパネルが赤く点滅し、警報機が鳴り響く。すぐに外傷を調べるタグーの隣り、ロックは「このやろぉ!!」と襲い掛かってきた敵機を振り返るなりボルトブレードで斬り掛かった。相手はそれを鉄剣アイアンソードで素早く弾き飛ばし、すぐにそのままロックインペンドに斬り掛かる。

「やろぉ!!」

 ロックインペンドはそれを避けようとはせず、そのままで回し蹴りを食らわせた。敵機はそのまま蹴り飛ばされ遠くに行く。しかし、斬り掛かられた際に微かに腕に傷が入り、そこから火花が散った。

「背部装甲ダメージ30!! シールド値ダウン!! ジェットエンジン機能値低下!!」

「マジか!?」

「右肩損傷! ……ひどすぎるぞ!! もっと大事に扱え!!」

「うるせぇ!!」

 ロックは吐き捨てながら蹴られても尚立ち向かってくる敵機に向けて光弾銃を発射した。敵機は身軽にそれを避け、鉄剣アイアンソードを振りかざしてくる。「凝りねぇ野郎だな!!」とロックインペンドは敵機に向かって身構えるが、

《ロック兄ちゃん伏せて!!》

 突然の大声にロックは「うお!?」と操縦桿を動かす。ロックインペンドが下に沈むと、その頭上をミサイルが通過し、敵機の腕に命中。そのあと追尾ミサイルが数弾飛び、直撃を食らった敵機は爆発を起こした。

「リタ!! 危ねぇだろーが!!」

《ごめーんっ。タグー、大丈夫!?》

「……大丈夫だよ、リタ」

 タグーが呆れ気味に苦笑する。

《私が護ってあげるからね!!》

「ガキに護られる覚えはねぇんだよ!!」

 ロックが無愛想に突き放す。そして再び敵艦の後方部へ回ろうとフルスピードで向かうが、途中、ディアナによって撃破された敵機の爆発でインペンドが更に損傷を負ったらしく、ガクンッ、と不安定になった。その隙を狙って敵機が攻撃を仕掛けてくるが、高速移動してきたアポロンが光剣ライトソードを振りかざし、敵機を切り裂いた。

《ロックさん! 何を企んでるんです!?》

「敵艦後方のドッキング部から内部に進入できる通路があるんだ!」

 操縦の忙しいロックの代わりにタグーが答える。

「その奥にコアがある! それを爆破すればコアバーストで敵艦は壊滅する!!」

《では、そこを集中すれば良いんですね!?》

「けど……問題がある!」

 揺れる機体の中、タグーはコンピューターを素早く叩く。

「コアはエネルギーの固まりだから、それを爆破するとなると敵艦は勿論、その周囲にいるみんなが巻き込まれる可能性がある! 爆破するならするでみんなを撤退させて誘導弾を撃ち込むしかないよ! それに、コアの周りは頑丈に作られているから簡単な爆撃じゃビクともしない! ……それこそ、艦艇を丸ごと破壊できるくらいの威力がないと!」

《シャイニングブレスを使ってはどうですか!?》

「ゲートシールドに回してるからケイティにはそれだけのエネルギーはない! 威力が半減したシャイニングブレスじゃコアまで届かない!!」

 タグーはロックの荒々しい操縦の中、堪えながら顔を上げた。

「……中に入って大量の爆弾を送り込むにしても、そこから逃げられる確率は……1%だ。コアの爆発の威力には勝てない」

《……アポロンなら逃げ切れるかも知れません!》

「……。確かにアポロンの高速パワーはどの機体よりすごいけど……。……。ヒューマの機体一体を犠牲にしようか。PSYコントロールだし、あとは……銃器を大量に積めばいい」

《けれど、彼らの機体を改良している時間はありませんよ! ……ここはわたしに任せてくれませんか!? ケイティに戻って銃器を持ってきますから!》

 キーファーが焦るような声を上げる。――それをみんな聞いているはずだ。だが、誰も止めに入らない。対策を考えているのか、どうなのか……。

 ロックは襲いかかってくる敵機を相手にしながら前を見据えた。

「……オレが行くか」

 タグーは操縦を続けるロックを振り返った。

「……グランドアレスを出せばいい。それで全て上手くいくだろ」

 アリスはカプセルの中で大きく目を見開き、ロックの後頭部を見つめた。

 タグーは「……何言ってンだよ」と不愉快げに彼を睨み付けた。

「グランドアレスじゃ逃げ切れない」

「推進装置があるだろ」

「イチかバチかなんだ。……ヒューマに機体を借りよう。その方がいい」

《……では、その前にドッキング部の破壊だけ先に行います!》

「いや。やる時にやらないと相手に悟られる……。今は少しでも多く敵の数を減らそう」

《……了解!》

 冷静なタグーにロックは舌を打った。

「俺がグランドアレスで出りゃ済む話だろーが!!」

 苛立ちを露わに食って掛かるロックに、タグーは真顔で彼を睨んだ。

「キミが出るって言うなら、このままインペンドで向かってよ」

「はぁ!?」

「……キミを一人で死なせないぞ」

 真剣に告げる。そんなタグーを見てロックは「……ったく」と一言吐き捨て、攻撃に集中した。そんな二人を背後から見ていたアリスは少し目を細め、そしてゆっくりと閉じた。

 周囲ではまだまだ戦闘の勢いが衰えることなく続く。しかし、どんどん味方機の数が減っていくのも現状。ケイティの方にも敵機が向かい、ヒューマが対峙するが、造りが似ているためか、五分五分でやられ、そして数を減らす。早く敵艦を壊滅させないと! そういう思いは強いが、それが適わずにただ焦るばかり。

 ロックは操縦桿を素早く動かすと、敵機の攻撃を避けながら敵艦へと突き進んだ。

「ロック! どこに行くの!」

 タグーが愕然と外部モニターを確認すると、ロックは「ケッ!!」と吐き捨てた。

「あいさつだ!!」

「誰に!?」

「敵に!!」

「はぁ!?」

 ワケがわからず顔をしかめる。

「アリス! ディフェンスを上げろ!! 今からかなり揺れるぞ!!」

「何するんだよ!!」

 タグーは戸惑いながら、どんどん上昇していくパワーを分散していく。

「クイックラインオーバー!! ディフェンス99!! アリス! もうやめろ!!」

 タグーが堪らず叫ぶと同時にコントロールパネルの警告ランプが点灯し出す。

 ロックインペンドは敵艦に猛スピードで近付くとその前方に回った。艦艇の外部砲撃口から銃弾が放たれるが、フル加速でそれを避け、光弾銃をお見舞いする。そして、「……あった!!」と攻撃を受けながらそこに向かった。――敵艦の司令塔らしき部分だ。まさかこんな所にやって来るとは思っていなかったのか、敵艦の砲撃がロックインペンドに集中する。多数食らいながら、それでもロックインペンドはそこに突進した。

「装甲ダメージ50!! ロック!! 逃げろ!!」

「あいさつだ!!」

 ロックは言うと、敵艦の強化ガラスが見えるところで止まった。その奥が見えるわけではないが……

「……いるわ」

 アリスが小さく言う。

「……薄ら笑い浮かべてる。……デイビットよ」

 その言葉の後に、ロックインペンドは光弾銃をそこに向け、撃ち放った。だが、シールドの張られたそこには届かず、全て跳ね返される。それでも、弾切れを起こすまで撃ち続けた。逆に銃弾も浴びせられる。

「ロック!! もう限界だ!!」

 タグーが堪らず身を乗り出し叫んだ。

「シールド耐久率20%!! 機体にダメージが及ぶぞ!!」

「……一緒に衝撃食らおうぜ!!」

「イヤだ!!」と即答するが、ロックはそれでも攻撃をやめない。

「ロック!! いい加減にしろって!!」

 タグーが操縦桿を握る彼の腕を掴み引っ張る。それと同時にロックインペンドの光弾銃が逸れ、別の所へと光弾が飛ぶ。……と、敵艦の上部にそれが見事に当たった。爆発を起こしたそこを見て、ロックは「……よし!!」と拳を握り、タグーは「……結果オーライだよ」と頬を引きつらせた。――が、その時

《フライ艦隊群戦闘クルーは直ちに帰艦しろ》

 クリスの声に、それぞれが「……え?」と顔を上げる。

《繰り返す。戦場に出ているクルーは直ちに帰艦。攻撃をやめて戻るんだ》

「……クリス!! どういうこった!?」

 ロックが未だに狙い撃ち落とそうとする敵艦からフルスピードで逃げ、怪訝に眉を寄せると、タグーが「……あ!!」と目を見開いて声を上げた。

「グランドアレス!!」

「……なんだと!?」

 タグーがすぐにモニターの位置を変える。――それぞれの外部モニターにグランドアレスが映った。

 ロックは「チッ」と舌を打つ。

「グランドアレスは俺ンだろ!!」

《命令だ。今すぐ帰還しろ》

 冷静な声にロックは「ふざけんな!」と返事をした。そんなロックインペンドの脇をグランドアレスが追い越していく。

「このやろぉ!! 勝手に乗り回すな!!」

 ロックインペンドがすぐに後を追いかけた。

《クリス!! 撃退する方法は他にも考えることはできるんだ!!》

 フライスの焦るような声が響いた。周囲の味方機たちは困惑げに敵機と対峙してそこから退けずにいる。

《タグーの言うとおり、コアを破壊しよう。その方法が一番確実だ》

《だったらヒューマに協力を要請して!!》

《もう、時間がないんだ。戦える機体も数少ない。……準備をしている間にみんながくたばってしまう》

《オレたちはまだ戦える!! 早まるな!!》

《……命令だ。全ての戦闘クルーは直ちに帰艦しろ。今から敵艦艇を撃破する》

 敵艦に向かうグランドアレスの後を数体のインペンドが追尾し、敵機が攻撃を仕掛けてもそれぞれがそれに対峙する。

「いい加減にしろよクリス!!」

 敵機にボルトブレードを振りかざし後を追う。そんな彼らの周りにディアナがミサイルを放って敵を討つ。

「クリス!! ホントにグランドアレスじゃコアバーストの威力に飲まれてしまうんだ!!」

 タグーが額から汗を流しながら焦って身を乗り出した。

「無謀なマネはするモンじゃないよ!!」

《タグーの言うとおりだクリス!!》

 フライスも後に続く。

《もっとよく考えろ!!》

《……フライ、もしお前が同じ立場だったらどうしていた?》

《……。そんな馬鹿なマネはしない!!》

《いいや、していたはずだ》

《……。そんな話はどうでもいい!!》

《最後の勤めを果たすだけさ》

「ふざけんな!!」

 ロックが顔を紅潮させて大きく怒鳴った。

「何が最後の勤めだよ!! かっこよくもなんともありゃしねぇぞ!!」

 敵機を散らしながら敵艦の後方に回るグランドアレスを追いかける。

「総督なら最後の最後まで見届けろよ!! それがお前の役目だろ!!」

《総督の席はアーニーに任せてきたよ》

「あのおばさんに何ができるってんだ!!」

《何を言っても無駄だ。……お前たちも早く戻れ。巻き添いを食らうだけだぞ》

「だったらお前も戻れ!!」

 くそ!! と諦めずに後を追う。

 敵機もグランドアレスがどこに向かうのかがわかったのか、彼の前に立ちふさがり進路を邪魔する。しかし、グランドアレスにはたっぷりと銃器が積んである。銃弾を放ち、アックスを振りかざしそれらを撃退していく。

 タグーは「……くそ!!」と悲痛な表情で顔を上げた。

「クリス!! ……キミが死んだらジェイミーはどうなるんだよ!! あの子はもう気付いてるよ!! 一人にしちゃうのか!?」

《……。ジェイミーは一人じゃない。それに……、……父親はフライだ》

「バカ!! クリスとセシル教官の子どもじゃないか!! ジェイミーにこれ以上悲しみを背負わせるな!!」

《……お前たちがいれば大丈夫さ》

「そんなわけないだろ!! 僕たちじゃ補えないものもある!! クリスじゃなきゃ駄目なものがあるんだ!!」

《……ありがとう、タグー。……、……けれど、これでいいんだ》

「何がいいんだよ!!」

 ロックは襲い掛かってくる敵機を無我夢中に蹴散らしながらグランドアレスを追うモニターを睨んだ。

《……たくさんのクルーをなくした。……大切な人もなくした》

 アリスは目を見開いた。

《……総督としてではなく、いちクルーとして何かがしたかったんだ。……十年前もそうだった。……今、やっとチャンスが回ってきたんだ》

「ワケわかんねぇよ!!」

 操縦桿を動かしながら首を振る。

「総督だって立派なクルーだろ!! 俺たちのために決断を下して……オレたちのためにいろいろ考えて!! その役目が一番重要で辛いんじゃないのかよ!! お前に負担を掛けさせてる俺たち下っ端クルーの方が何倍もお前に悪いと思ってンだぞ!! そのお前が……何かがしたかったなんて、苦しんでたなんて……俺たちはどうしたらいいんだよ!! お前の代わりはどこにもいないんだぞ!!」

《……ロック、その言葉をそのままそっくり、お前に返してやるよ》

「……」

《おしゃべりはここまでだ。……逃げろよ》

 後方部に辿り着いたグランドアレスはすぐに“そこ”に向かってミサイルを放った。ロックが「……くそ!!」とその後を追う。が……

《……ロック、……ケイティに戻るんだ》

 フライスの冷静な声が響いた――。

《……巻き添えを食らうぞ。……戻れ》

「戻らない!!」

 意地になって操縦桿を握り締めた。

「絶対に戻らない!! ……戻らない!!」

《……タグーたちも犠牲にするつもりなのか?》

「……」

《お前一人の意志で、タグーたちを犠牲にするつもりなのか?》

 ロックはギリッ……と悔しげに歯を食い縛って操縦桿を握りしめた。

「……。僕はロックに従うよ」

 タグーの呟きに、ロックは少し目を見開いて彼を見た。

「……仲間の行くところについていくさ。最後の最後までね」

 どこかすっきりとした雰囲気で肩をすくめる、そんな彼の言葉を聞いて、アリスは深くため息を吐いた。

「……わかったわよ。……私も付き合ってあげるわよ」

 仕方がないわね、と言わんばかりの声。

 ロックは少し視線を落とし、口元に笑みを浮かべた。

 フライスのため息が聞こえる。

《……好きにしろ》

「……好きにしてやる!」

《……ヒヨっこのクセに》

「うるせぇ!!」

 グランドアレスが後部を破壊し、艦内に進入した。敵機がそれを追いかける。ロックインペンドもそれを追いかけようとして後部に回り込むが、そこにアポロンが現れて立ち塞がった。

《ロックさん!! 進むのは危険です!!》

「どけ!! 邪魔するな!!」

《ダメです!! 通しません!!》

「通せって言ってンだろ!!」

 アポロンを弾き飛ばそうとしたが、敵機からの光弾に危うくそこを避ける。

「キーファー!! お前だけ退いてろ!!」

《ダメです!!》

「キーファー!!」

《これ以上クルーを失うわけにはいかないんです!! ……失いたくはないんです!!》

 アポロンはすぐにロックインペンドに近寄ると、その腕を掴み取った。

「くそ!! 離せ!!」

 操縦桿を動かすが、ただでさえ左腕の機能が落ちている。それに加えてアポロンの方が性能がいい。もがき暴れる二体に敵機が襲い掛かろうとするが、それを他の味方機たちが助け、アポロン同様にロックインペンドを掴み引っ張る。

《戻りましょう!! 命令だったんですから!!》

《早くしないと巻き込まれます!!》

「お前らだけで戻りゃいいだろ!!」

 ロックが「くそぉ!!」と嫌がるように操縦桿を動かし怒鳴る。

「俺たちにこんなコトするならどうしてクリスにしなかったんだよ!! クリスにそうしなかったんだから俺たちも放って置けよ!!」

 更に別の機体にまで捕まえられる。

「こんなの勝手すぎるじゃねぇか!!」

 操縦桿を動かすが、いうことをきかない。

「離せ!! 離せよ!!」

 何度も大きく叫びながらインペンドを暴れさせる。そんなロックの抵抗に振動する機体の中――、タグーは視線を落とし、コントロールパネルの上でグッと拳を握りしめた。そしてカプセルの中、アリスは下にしゃがみ込み、両腕で頭を抱え込む。

「あいつを一人で行かせるな!! ……行かせるなよ!!」

 操縦桿を離して、胸にシートベルトを食い込ませながら身を乗り出しモニターを叩く。

「やめろ!! クリス!! ……行くな!! ……行くなぁぁ!!」

 カッ……! と、モニターから目を眩ませるほどの光が溢れ、みんな「……っ!!」と顔を背けた――

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