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第十章 開始前

 ――たぶん、……ううん、きっと人は何かを失くさなきゃ強くなれない。

 物でも、人でも。

 それは、今まで出会ってきた人たちがそうだった。

 “教え子”と“仲間”を失ったダグラス。その彼を失ったロック。キッドを失った時のフライ。セシル教官を亡くしたクリス。そして……アリス。

 みんながそのたびに強くなった。たくましく、前を向いて。

 ……けど……それは本当にいいことなのか。

 失くした悲しみを堪えて、堪える強さは人を強くしていく。……堪え続けなくちゃいけないために強くなくちゃいけないなんて……。

 ――どこまで堪えなくちゃいけないんだろう。どこまで強くならなくちゃいけないんだろう。……なんのために……――











 アリスは足音にゆっくりと振り返った。隣に静かに腰を下ろすと、コーヒーカップの中身を軽く揺らしながら“ゴミ”の浮かぶ宇宙空間を見つめ、大きく息を吐く。そんなジュードに何かを言う言葉を見つけられず、彼と同じように宇宙空間を見つめた。

 司令塔の近くにある休憩室。二人以外にクルーはいない。みんな休んでいる場合じゃないから。そのことは二人だってちゃんと理解している。

 ……しかし……――

「……オレの予想では」

 不意にジュードが切り出す。

「まず……短気なオレがやられて、その次に突っ走るトニー、次にハル、最後にロマノかな……ってトコだった」

「……」

「……予想って、アテが外れるモンだね」

「……」

「……ちょっと残念なのは……あいつが最後に何も言わなかったってことかな……。……オレの名前でも呼んでくれりゃ最高だけど……、他にも何か……トニーみたいにさ、……こいつら殺せとか。……テレビじゃ言うじゃん。……いろいろ……」

 どこかおどけた口調の彼の言葉を聞きながら、アリスは少し視線を落とした。

「……ハルもさ、あいつのこと好きだったんだよね。……って言うより……オレが取ったんだけど」

「……」

「……だってさ、ハルはホント……誰にでも平等なんだよ。面倒見がいい分、そうなのかも知れなかったんだけど、……そんなあいつがムカついてさ、それで取ったんだ。……ちゃんと言ったンだぜ? お前がもらわないならオレがもらうって。……あいつ、うなずくだけでイヤだって言わないの。……バッカだよなぁ。……損するよ、あいつは……、ホントに。……そン時になんて言ったと思う? オレは根暗だし、楽しくないし、何もできないし、得意なのはものを作ることとケガの治療くらいだから、って。……その通りなんだけどさぁ、……やーっぱバカなんだよなぁ……」

「……」

「……あんなに泣くくらいなら、最初っから泣いてりゃよかったんだ……」

 アリスは少し目を細めた。目の前には大小さまざまなゴミが浮いているだけ。

 ジュードは軽くコーヒーを飲んで、一息吐いた。

「……ま、……けどあいつは……しっかりしたヤツだから。……落ち着けばちゃんと目の前を見るヤツだから。……すぐ立ち直って、いつものようになるよ」

「……」

「問題は……アリスさんの方だね」

 ジュードは少し息を吐いて背中を丸め、苦笑気味にアリスを覗き込んだ。

「……大丈夫?」

 そう笑顔で問い掛けられたが、彼と目を合わすこともできない。

 悲しげに口を閉じる姿に、ジュードは苦笑した。

「……アリスさんの元気を取り戻さなきゃさぁ、トニーに恨まれるじゃん?」

「……」

「アリスさんのせいじゃないし、……誰のせいでもないんだ。……戦争ってヤツが悪いのさ。……人のせいじゃない。だろ? ……誰も恨めないよ。……戦いが悪いんだ……」

 アリスは俯くが、ジュードはそんな彼女の顎下に手をやり、強制的に顔を上げさせた。

「俯くのは良くないぜ?」

 そう言われ、アリスはゆっくりと横目を向ける。

 ジュードは少し笑い、手を離すとガラスの向こうを見て、コーヒーカップを軽く掲げた。

「……我が友、トニー・スパイドとロマノ・ロゥ、……二人が安らかなる眠りにつけることを祈り……、そのために敵をブッ潰すことをここに誓う」

 そう真顔で告げて、ガラスの向こう、宇宙空間に向かってカップを傾け中身を飲み干した。






 総督執務室――。

 タグーはガイと一緒に壁際に立って、それぞれを窺っている。数名の幹部、そしてフライスにカールにフローレルにアーサー。彼らは対面ソファに腰掛け、じっとしている。

 執務席からクリスは真顔でみんなを見回した。

「……。どうするべきか、決めなければならない」

「……どうするも何も……やることは決まっている」

 フライスはそう答え、睨むようにクリスを振り返った。

「……全面対決しよう」

 クリスは「そうだな……」と小さくうなずき、目の前に置いてある機械へ目を移した。――ロックが仕込んだ探知機の反応が現れている。

「……太陽系内か……。惑星滞在基地じゃないところを見ると……艦隊か、それとも……ノアのような擬似惑星か……」

「そこが本拠地とは限りませんよ……」

 アーニーが目を細めると、クリスは「……ああ」と返事をして、デスクに肘を突いた。

「……けど、この数時間、ずっとここに停滞しているところを見ると、ここに何かがあるということなんだろう……」

 カールはそれぞれを見回した。

「……オレたちはどうしたらいいッスか……? 一緒に行くッスか?」

「いや。……キミたちは行かない方がいい。……真っ先にキミたちが犠牲になる確率が高い……」

 先程のこともある。

 気遣いと言うよりも、止めに入る真顔のクリスに、カールは微笑み首を振った。

「気にすることはないッスよ。……オレたちは皆さんの仲間ッス。最後まで付き合うッス」

 強くうなずくカールに感化され、フローレルも「みゅっ」とうなずいた。

「フローレルも手伝うみゅ。がんばるみゅ」

 二人の意気込みに、クリスは寂しい笑みを浮かべただけ。

 フライスは真剣さを消さぬまま、少し身を乗り出した。

「時間をおかない方がいい。……移動を開始しよう」

 クリスはうなずくと、壁際にいるタグーに目を移した。

「……作戦を練る。ロックを呼んできてくれないか」

「……、わかった」

 タグーは「……行こう」とガイを連れて足早にそこを出た。

「ロックはどこですか?」

「ンさぁ。あれから全然姿を見てないけど……。アリスの話じゃ、トイレに閉じこもってるらしいから」

 タグーは静かな通路を歩き保って答えながらガイを見上げた。

「……これが最後になるかも知れないね」

「最後にしたいものです」

「……そうだね。……これを最後にしよう。……絶対に」

 まずは司令塔に近い男子トイレへと向かう。――が、その途中の十字路でロックとぶつかり、タグーは足を止めて顔を上げた。

「あ、ロック。……と……ハル」

 彼の後ろに、俯いているハルが――。

 ためらいながら「……どうなの?」とロックに目で問い掛ける。だが、彼はそのことには触れず、至って普通に首を傾げた。

「どこに行くんだよ?」

「え? あ、ああ……キミを捜してたんだよ」

「どうした?」

「……作戦を練るって。総督執務室だよ」

「そうか……。わかった」

 ロックはうなずくと背後のハルを振り返った。

「お前も来いよ」

 ハルは少し視線を斜め下に向けていたが、ロックをそっと見上げた。

「……先に行っててください。……ジュードに会ってから、そっちに行きます」

 いつもと変わらぬ無表情さ。ロックは少し笑みを浮かべてうなずいた。

「ついでにジュードも連れて来い」

 そう言って執務室に向かう。タグーはロックの背中を見てハルに目を戻すと、「……先に行ってるね」と小さく告げて後を追いかけた。ガイもペコリとお辞儀をひとつして背を向ける。残されたハルはしばらくその場でたたずみ、足を踏み出した。――とは言ったものの、ジュードの居場所なんてわからない。内線を使って呼び出すには……勇気がいる。

 十字路に立ってゆっくりと辺りを見回すが、見えるのは遠くを走るクルーたちだけ。しばらくその場で考え込んだ。

「……ハル兄ちゃん?」

 小さな声に振り返ると、壁伝いにリタがゆっくりと近寄ってくるところ。まだ少し薬が効いているのか、表情がぼんやりとしている。

「……どうしたの? ……なにしてるの? ……みんなは? ……どこにいるの? ……トニーお兄ちゃんとロマノお姉ちゃんは? ……連絡取れた? 何か進んでる?」

 次々に質問を投げかけられるが、一度に答えることはできない。

 ハルはしばらくして口を開いた。

「……ジュードを探してる。……見なかったか?」

「……。ジュードお兄ちゃんなら……」

 リタは何かを探るようにしばらく口を閉じ、顔を上げた。

「司令塔の近くにいる。……アリスお姉ちゃんと一緒みたい」

「……わかった」

 そのまま司令塔の方へと歩いていくが、服を掴まれて足を止め、振り返った。リタはまだぼんやりとした顔で、何やら訝しげに眉を寄せ、ゆっくりと視線を動かした。

「……みんなはどこ? どこにいるの? ……どうしてこんなに雰囲気が暗いの? ……捕まっちゃったから? 他にも何かあった?」

 問い掛けるだけで他には何も言わない。ただ何かを探すように目を動かしている。ハルはそんなリタと向き合うと真っ直ぐな目を向けた。

「……さっき、戦った奴らと交信した」

 リタは少し顔をしかめてハルを見上げた。

「……交信が取れて、降伏するように言われたんだ。……降伏しなくちゃ、捕まったみんなが殺されるって……」

「……」

「……総督たちが今、話し合ってる最中だ」

 リタはおとなしく話を聞いていたが、少し眉間にしわを寄せ、別のところに目を向けた。

「……それだけじゃない気がする。……もっと、何かあった気がする……」

 独り言のように呟きながら、目を動かして真剣に何かを探る、そんな姿に、ハルは間を置きポンっと頭に手を置いた。リタはキョトッとした顔で目を上げる。

「……戦いっていうのは、こういうものなんだ。……オレたちは無知すぎた。……教訓にするにはもう遅いけど……、でも、泣いてばかりもいられない」

「……」

「……何ができるかわからないし……何もできないかも知れないけど、……やらなくちゃ」

「……」

「……だから……お前も力を貸してくれ。ここで諦めたくないんだ。……あいつらを許したくない」

 いつもと同じ無表情さ。しかし、何かを察したのだろう――。リタは見上げていた目を少しずつ下げた。鼻の頭が赤くなりうっすらと目に涙が浮かぶが、それをこぼすことなく鼻をすすりうなずく。

「……。がんばる。……負けない」

「……うん」

 ハルはうなずくと、リタの頭から手を除けた。

「……ジュートのトコに行く。……タグーさんたちは執務室だ」

「……。わかった。……話しに混ぜてもらう」

「……うん」

 ハルはそのまま背を向けて歩き出した。

「……ハル兄ちゃん」

 呼ばれて足を止め、ゆっくり振り返った。リタは彼を見て何かを言おうとしたが、口を開いただけで言葉を発せない。

 ハルはじっ……とリタを見ていたが、

「……誰もお前のこと恨んでないし、怒ってない」

「……」

「……あの二人、あんまり優秀じゃなかったけど……お前を護るって仕事をちゃんとやり遂げた。……お前だって、みんなを護った。……オレもジュードも、みんなも、お前たちのこと、立派なクルーだって誇りに思うよ」

 そう言って、背を向け歩いていく。

 リタは彼の背中を見つめ、少し視線を落としたが、グッと顔を上げると走っていった。



「……オレたち、もし降伏したらどうなるんでしょうね……」

「私の場合は、どうなるかはわかってるけど」

「……。まるで、人間じゃないみたいだ」

「……そうね。けど……人間じゃない気がする」

 休憩室の片隅に腰掛けたまま、変わらない宇宙の景色を見つめていたジュードは俯くアリスに目を向けた。

「……特殊な力があるから?」

「……。ヒューマたち、地球外生物が与えた力を持っているんだから……クロスたちと大して変わらない。……よく蔑まされていたけど……当たり前ね」

「……当たり前なんかじゃないよ。クロスだろうが特殊な力を持っていようが……アリスさんには変わりないしね」

 遠くに目を戻して、微かに笑みをこぼす。そんな彼の慰めるような気配を感じながら、アリスは間を置いて深く息を吐いた。

「……どちらにしても、降伏してこのまま終わりだなんて、そんなの絶対に嫌だわ。……嫌だけど……」

 ジュードはクシャった紙コップを軽く転がした。

「もし降伏したとして、あいつらに良いようにされるなら……、オレ、最低でも二人は道連れにするよ」

 とても真剣な顔で遠くを見ている――。その横顔に、アリスは真顔で首を振った。

「でも、生きるチャンスがあるなら……絶対に諦めないで」

「……」

「諦めないで絶対に生きて。……たとえ、そのために誰かを犠牲にしても」

 まるで厳しく命令するような目に、ジュードは怪訝に眉を寄せた。

「……そんなの嫌に決まってるじゃん」

「嫌でも生き抜いて欲しいのよ」

 すがるように訴える、そんなアリスに、ジュードはしばらく間を置いて切り出した。

「周りがみんな……いなくなるから?」

 アリスの目蓋が少し動き、それで悟ったジュードは苦笑した。

「アリスさんてさ、ホント……こういうトコには向いてないよ。……人がいなくなるのはアリスさんのせいじゃないんだからさ、もうちょっと肩の力を抜いた方がいいと思うよ? じゃないと負担になるばかりだから」

「……。でも……傍にいて何もできないのは……辛いわ」

 自虐的な笑みを浮かべて目を細めるアリスに、ジュードはテーブルの上で組み合わせた手元に視線を落とした。

「前の、教官だった人とか……?」

「……そうね。……けど……その前からかも知れない」

「……、ロックさん?」

 その問いにアリスは答えなかった。答えることなく、宇宙に目を移して寂しい笑みを浮かべた。

「……ロマノが言ってたわ。みんなには役目があるって。……私は、見て、忘れないように……優しさに変えるんだって。……でも、それってホントはきっと……臆病なだけなのよね。臆病だから、人に優しくなれるのよね……。……みんなそう。……みんな……。それに気付くのが遅かったわ……。……キミも、同じ」

「……」

「……これ以上、誰かがいなくならないことを祈るわ……」

 アリスはそう視線を落とすと、椅子から立ち上がってそこを出ようとして足を止めた。――出入り口のドアを背にハルが立っている。

「……。ハル」

 小さく彼の名前を呼ぶとジュードは振り返り、間を置いて椅子から立ち上がると、近寄ってきたハルを見て少し口元に笑みを浮かべた。

「……よ」

「……うん」

 アリスは戸惑い、二人を交互に窺った。

 ――他には何も言葉がない。女の子同士なら、ここで一言二言、何か言い合うものなのだが……。

 ハルは変わらずの様子で言う。

「……計画を練るらしい。……一緒に来るか?」

 ジュードは少し笑った。

「もちろん! そうこなくっちゃな!」

 ジュードは元気よくうなずいて、キョトンとしているアリスを振り返った。

「アリスさんも来るだろっ? 一緒に行こうぜっ」

 誘われて、アリスは少し微笑んだ。

「そうね……。……このままでいるより、なにかをしなくちゃね」

 「そうそう」とジュードも笑顔でうなずく。

「このままおとなしくしてるオレたちじゃないし」

 な? とハルに相槌を問うと、彼もうなずいた。

「……できること、精一杯がんばる」

「よし! ンじゃぁ行こうぜ!」

 ジュードがハルの体の向きを変えて背中を押す。

 ハルは一歩足を進め、二人を振り返った。

「……リタはもう知ってるから」

 二人は「……え?」と一瞬表情を消した。

「……あいつはあいつでがんばろうとしてる。……それだけ」

 背を向けてドアを開けるハルに、ジュードは「……そうか」と小さく笑みを浮かべて後を追った。アリスも二人の後を追うように足を進めたが、ハルが「……あ」と何かを思い出したように顔を上げて足を止め、二人も歩くのを止めた。

「どうした、ハル」

「……思い出した」

「……何を?」

 首を傾げるジュードの後ろのアリスに、ハルは目を向けた。

「……次に会った時は殴るって」

 アリスは「!!」と思わず身を引き、ジュードは「……おい」と目を据わらせた。

「お前、まだそんなこと言ってるのか……」

「……約束だったから」

「それはお前の一方的な約束だろ」

 ジュードが呆れてため息を吐く。

 アリスは「……な、殴るの?」と頬を引きつらせて首を縮め、ハルを見上げた。だが、彼はじっとアリスを見ているが、一向に手を挙げる気配はない。

「……けど、今回は許します。……勝手に乗り込んできた身分だし」

「……」

「……でも、この戦いが終わったら覚悟してください」

 アリスは「……なんでよ?」と顔をしかめるが、ハルはそのままドアを開けて部屋を出た。

 ジュードは少し笑って、目を据わらせているアリスを振り返った。

「アレがあいつなりの……約束みたいなモン」

「え?」

「殴るにしてもなんにしても、生きてなくちゃできないからね」

 ジュードは少し微笑み、ハルの後を追う。アリスはキョトンとしていたが、少し間を置いて深く息を吐くと、小さく笑みをこぼして後を追いかけた。











「どうしました?」

 そう問い掛けられて、ロックは横に立ったガイを見上げ、少し口元に笑みを浮かべながらグランドアレスを見上げた。

「どうもしねーよ。こいつと話をしてただけだ」

「グランドアレスは話をできませんが?」

「雰囲気ってヤツだろ」

 格納庫にて修理の終わった機体が次々と出撃庫へ運ばれていく。

 クルーたちと異人クロス、そしてヒューマの徹底した作業で修理や改善が進み、そして目前の“敵”との距離も僅か……。

 ロックはグランドアレスからガイへと目を向けた。

「お前の役割も大変だな」

「皆さんと同等ですよ。多少の危険は承知の上です」

「そりゃぁな」

「それに、わたしは戦闘タイプロボットでもありますから。この役割が妥当な義務だと思われます」

「……にしても、あいつじゃあなぁ……」

「……わたしもそれが唯一の心配です」

「まぁ……お前がいるからな。きっと上手く行くだろうけど」

「努力します」

 そう言葉を交わす二人の背後、ポンと肩を叩かれて振り返ると、アリスが小さく笑みを浮かべて立っていた。

「いよいよね。心の準備はいい?」

「俺にはそんなモン必要ねぇよ」

 威張った態度でそっぽ向かれ、アリスは「ホント、こいつは……」と言わんばかりに呆れてため息を吐き、ガイを見上げた。

「ガイは大丈夫?」

「はい。ご心配には及びません」

「……タグーのこと、お願いね」

「はい」

 うなずく彼にアリスは笑顔を見せて、ロックへと不愉快げな目を向けた。

「あんたも気を付けなくちゃダメよ」

「わぁーってるよ。ま、俺がボコボコにしてやっから」

「……されそうな気がするわ」

「お前はホントにかわいくねぇヤツだな?」

 ガイは互いに睨み合う二人を交互に見ていたが、アリスに首を傾げた。

「アリスはどうするんですか?」

「……ディアナに乗りたいんだけど、やっぱり誰も許してくれないのよね」

 「当たり前だろ」とロックが目を据わらせる。だが、アリスはそんな彼を無視してため息混じりに首を振った。

「これが最後になるなら、ここで自分の力をフル活用したいんだけどな……」

「そのフル活用というものが問題なのですね」

「それくらいしなくちゃ。みんな危ないところに出ていくのに、ここで控えてなきゃいけないなんて」

「それだけお前が必要じゃないってことだろ」

 アリスはムッと、そっぽ向くロックを睨み付けた。

 不穏な空気を感じてか、ガイがすぐに話題を変える。

「ここはヒューマの皆さんが徹底守備するそうですね?」

「そうみたいね……」

「調子のいい話だぜ。技術を盗まれたのはてめぇらの責任でもあるだろーが。俺たちに尻拭いをさせやがって。平和ボケした宇宙人共め」

「そういう優しい種族も必要よ。それに……ヒューマがいる間は他の地球外生命体は地球に手出ししないし。……ヒューマが壁になっている間に、あいつらをどうにかしないと」

 不愉快そうに口を尖らせるロックに、アリスは少しため息混じりに苦笑した。

「あ、いたいた!」

 遠くからジュードが走ってくる。その後ろからはのんびりとハルの姿も。

「そろそろらしいですよ。準備はOKですか?」

「ああ。お前たちはまたクロスからか?」

「はい。あっちの機体の方が慣れちゃってるし」

 ジュードは笑顔でうなずきアリスに目を向けた。

「アリスさん、またディアナに乗るのダメだって言われたね?」

「……私もクロスの機体を借りようかな?」

 「やめとけ」「……駄目です」「やめてください」とガイ以外の三人に言われ、目を据わらせる。

「いいわよ、いいわよ。……順番を待つからっ」

 拗ねて足下を蹴るアリスを見てジュードは笑い、そして、一息吐いて彼らを見回した。

「ンじゃ……、そろそろあっち行きますから」

「……気を付けてね」

「皆さんも」

 ジュードは笑顔で「じゃっ」と異人クロスたちの艦へと走っていった。ハルもペコリとお辞儀をして彼の後を付いていくが、途中、追いかけたロックに肩を掴まれて足を止め、何かを言われてじっと話を聞くと、うなずいて、走っていった。

 アリスは面倒臭そうに戻ってきたロックに首を傾げた。

「……どうしたの?」

「ンぁ? ……ああ、大したことじゃねぇんだけどな」

「……なに?」

「……ジュードのことだ」

「……ジュード?」

 アリスが眉間にしわを寄せつつ繰り返すと、ロックは腰に手を置いてうなずいた。

「あいつ、ムチャしそうな感じだからな」

「……」

「トニーとロマノが死んで、それでも冷静装ってる。……ああいうヤツが一番危険だ。腹の内で何を考えてるかわからない」

「……そうね……」

 アリスは少し神妙な顔で視線を落とした。

 確かにずっと一緒にいたが、泣くことも、悲しがることも、怒りを露わにすることもなかった――。

 ガイは段々と静かになってきた格納庫を見回し、二人に目を向けた。

「わたしもそろそろ行きます。……ロック、がんばってください」

「お前もな」

「はい。……アリス、あなたも」

「うん。……ガイも気を付けてね。……早く終わらせて、一緒に帰ろう」

「はい」

 ガイはうなずくと「それでは」と出撃庫の方へと歩いていった。二人はそのままその背中を見送る。

「……ガイがいれば、タグーは大丈夫ね」

「大丈夫だろ」

 そう返事をしたロックへと、アリスは横目を向けた。

「……暴れるのは構わないけど、……いいわね? 自分を犠牲にするようなことは絶対にしないでよ?」

「わぁーってるよ」

「……わかってない気がする……」

 疑い深く目を細めると、ロックは「ったく……」と不愉快そうにため息を吐いた。

「俺のことはいい。グランドアレスがいるしな。……それより、あのガキ共だ。あいつらから目を離すなよ」

「わかってるわよ……」

「よし。じゃ、お前は管制塔でゆっくりと見物でもしてろ」

 ポンポンと頭を叩かれて目を据わらせるアリスにロックは少し笑うと、グランドアレスを出撃庫に運ぶため、ハッチに向かう足掛けに近寄った。

「……ねぇっ、ロックっ」

 呼び止められて「ん?」と振り返ると、アリスは一歩近寄ってそこで足を止め、ためらうように視線を泳がし、顔を上げた。

「……ちゃんと帰ろうね、……ノアに」

 不安げな小声に、ロックは少し間を置き笑った。

「わぁーってるって」

 そう元気よく返事をして足掛けでハッチまで昇っていく。アリスはその姿を見上げていたが、ハッチの中に消えてしまうと、少し俯いて管制塔へと向かった。






「……様子に変化は?」

「ありません」

 司令塔の総督席に腰掛けるクリスにオペレーターが答える。

「戦闘員、各クルーの出撃準備整っています」

「そうか……」

 クリスは小さく返事をすると、強化ガラスの向こうを見つめた。その目に映るのは、宇宙空間に浮かぶのは巨大艦艇の姿。

 ――木星の付近までワープしてやって来た。そして敵艦の姿を見つけるなり、作戦会議を開いた。ヒューマの最新鋭の技術を用いてわかったことは、敵の巨大艦艇がノアコアと類似しているということ。これで間違いなく相手がノアの番人だということはわかった。あとはあそこが本拠地なのかどうなのか。

 ここまで地球に近付いたのだから、あらゆる地球艦の交信を傍受できるはずだと、全ての手を使い交信内容を盗み聞きしていたのだが、それをどこかの艦艇に悟られた。警告を発してきたその艦艇に、クリスがすぐに交信。そして艦艇の最高責任者である艦長と直に話し合うことができた。



《貴艦からの信号? ……私共にはまったく届いていませんよ》

「……そんなはずはありません。真意を確かめようと、交信コードをオフにして全ての艦艇に届くようにしていたんですから」

《念のために記録を調べてみましょう。……それよりも、先程の話は本当ですか? 貴艦のクルーたちが惨殺されたというのは。軍事裁判どころの話じゃありません。戦争じゃないですか》

「……何か情報を頂けませんか?」

《情報といわれましても……》

「お願いします。……火星の側にいる巨大艦艇を知ってますか? 小さなことでも良いんです。お願いします、情報を提供してください」

《……》

《……艦長、あの艦艇に関わるのは危険ですよ……》

《……。確かに、連邦から火星と地球間に試作の軍用艦艇を停留させるということは聞いています。その詳しい内容等は公にはされていないのですが、……とてつもない武器を抱えているらしく、攻撃を受けたものは一瞬で消えてしまうらしいんです。ですから、我々は地球に帰還する際、進路を変えているんですよ》

「ええ、その武器は知っています。その艦艇は……地球と連携していますか?」

《と、いいますと?》

「……わたしたちは多くのクルーを、罪もない地球人を彼らに殺されました。……このまま引き下がるわけにはいきません。――総攻撃をかけるつもりです」

《ムチャですよ……!》

《まったくです。無謀ですよ、あの艦艇に攻撃を仕掛けるなんて》

「……わたしたちはそのためにここにいるんです。……彼らを完全に絶ちたいんです。……しかし、もし地球に本拠地があり、あの艦艇がセカンドシップなら……それを撃破できたとしても、また新たに次が誕生する。……今、壊滅できるのなら徹底して壊滅したい。……それが駄目な時は……地球外生命体たちが、地球に総攻撃を仕掛けるつもりなんです」

《……地球外生命体……》

「ご存じですか?」

《存在は確かに聞いたことがあります。……連邦と、なんらかの形で協定を結んでいるという噂も。……実は、その火星の側にいる艦艇が、その地球外生命体との共同で作成された物なんじゃないかという噂だったんですが……》

「わたしたちは、彼らと共に戦っています」

《……、ンしかし……もしそれが知れたら、地球艦として認証を受けている貴艦は反逆者として……》

「構いません。二度と地球に戻れないとしても。……その覚悟はできています。……わたしたちがやらなければ、地球外生命体たちが地球が壊滅する。……連邦も知っているはずなのに立ち向かえると思い込んでいます。……彼らの、地球外生命体たちの戦力は、我々の想像を遙かに超えています。……地球が彼らに襲われたら……誰も生き残れません。我々に協力をしてくれている地球外生命体が、最後の望みです。……わたしたちは、連邦の、地球の武力体制と、地球の発展を願う異星人との間にいる……最後の砦だと思っています」

《……》

「……あの艦艇を潰したら……次はないものでしょうか? ……教えてください、お願いします」

《……》

「……」

《……、宇宙連合軍に知り合いがいます。情報を確かめてもいいのですが……、貴艦が共に戦っているという……地球外生命体。……彼らとコンタクトはできますか?》

「はい。できます」

《わかりました。……あなた方が何かを食い止めるため戦いに身を投じるというのなら、わたしたちもできる限りの協力は惜しみません。それで地球の危機が失せるのなら尚更。……少々お待ちください。至急連絡を取ります。……回線はこのまま維持を続けてください。貴艦からの交信が取れなかったのが何者かの仕業なら、一度交信を切って次が繋がるという保証はありませんので》

「わかりました。……ありがとうございます。……本当に」

《礼には及びません。それでは、しばらくお待ちください》

 ――その後、数十分後に再び交信が入り、相手からの返答は、巨大艦艇は一部の技術者たちによって作られた一隻限りの物だということ。内部の構造は明らかにされておらず、艦艇の主導権はあくまでその技術者たちが担っていること。連邦はその成功を見守り、また資金や資材を提供している、いわば援助をしているだけだということがわかった。そしてさらに、宇宙連合軍でも地球外生命体たちによる“監視の目”が一段と厳しくなりつつあることを憂慮していたらしい。

《ずるい考えでしょう。あの艦艇が機能的にも充分な素質があると判断すれば連邦は間違いなく懐に取り入れるでしょうね。しかし、もしなんらかの事故が起きた時は責任も持たないという。……軍事というものはそういうものだと承知の上ですが、しかし……異星人たちが憤りを感じていることは連合軍もわかっていたようですから。その上で連邦がなんの指示も出さないというのは……。このままでは宇宙戦争にもなりかねないと、知り合いも気を揉んでいました》

 呆れと怒りを含めた報告に、クリスは内心ホッとした。

《連合軍の知り合いも、ウエに報告するでしょう。わたしたちも貴艦と合流します。なんの役に立つかはわかりませんが、事実を知ってしまった以上、このまま居続けるわけにもいきませんから》

 クリスは「いいえ」と即答した。

「お気持ちだけありがたく受け取ります。……あの艦艇がどれほどの物かを知っています。……先程も申したとおり、わたしたちはクルーを大半亡くしてしまいました。これ以上の犠牲は望みません」

《しかし……》

「大丈夫です。……必ず、宇宙戦争は阻止します。……地球外生命体たちにも、まだ望みはあるんだと、そう伝えます」

《……》

「お話ができて良かったです。……艦長の勇気には感謝します。……ありがとうございました」

《……わたしはサイモン。失礼ですが……》

「わたしはクリスです。……サイモン艦長、これからも良き艦隊を作り上げてください」

《……クリス、……この戦いが終わったならば、地球にて一杯やりませんか。わたしがおごりますよ。いい店を知っているんです》

「そうですね。……わかりました。その時は是非」

《……健闘を祈ってます》



 交信が切れ、作戦会議が行われた。最終的に決まったのは……



「――その役目は僕がやろう」

 タグーは真顔でみんなを見回した。

「あの艦艇がノアコアに似てるなら、その中身もあまり変わらないかも知れないし。だとしたら、この数年間、ノアコアに立ち向かっていた僕が一番妥当だよね」

 確かに彼の言うとおりだが……

「……しかし、……艦内では何が起こるかわからないぞ」

「そんなこと言ってる場合じゃない。……大丈夫。僕に任せてよ」

「……タグーが行くのならわたしも行きましょう」

 斜め背後に立っていたガイが申し出た。

「タグーには技術はありますが、戦力はありません。その点はわたしがカバーします。彼の身の安全はお任せください」

 タグーはガイを振り返って少し嬉しそうに笑った。

「ガイが行くなら私も行く!!」

 リタが身を乗り出すが「……リタ」とフライスに睨まれて身を縮めた。

 タグーがやるべきこと。――それは、艦艇の完全破壊。

「超新星爆発の予定が迫ってる。……それを狙おう。そこに艦艇をワープさせれば、爆発で完全に破壊することができる」

 その提案にタグーが乗った。

「そんなの簡単だよ。ワープさせて脱出して、またワープして帰ってきたらいいんだろ?」

「……しかし、紙一重でもある。……超新星爆発が起こるまでに帰ってこなければ、お前はそのまま飲まれてしまうんだぞ」

「僕だってまだ死にたくないからね。ヘマはしないよ。大丈夫」

 心配の目を余所に、タグーは自信たっぷりな笑顔でうなずいた。



 そして、“完全壊滅”に向けて総攻撃をかけることに決定した――。






「……相手は静かだな」

 背後に寄ってきたフライスを振り返ることなく、アリスは強化ガラスに手を付いたまま真っ直ぐを見つめた。

「……私たちがここに来たことで、連邦に見捨てられたのかも知れない……」

「ヒューマも来てるからな。……有り得るだろう」

「……。かわいそうな人たち……」

 アリスは遠く佇む巨大艦艇を、目を細めて見つめた。

「誰よりも高い技術力を持っているのに、それをこんなことで……。……ヒューマに見捨てられて、……地球からも見捨てられるなんて……」

「……。彼らがそうした結果だ。……ヒューマに見捨てられた時に気が付くべきだったんだよ。戦うことばかりが全てじゃないことを……」

「……そうですね……。……」

「……。そろそろ出撃が始まる。……衝撃に備えておいた方がいい」

 ポン、と肩に手を置いて自分の席に戻る。アリスは彼の背中を見送って再び宇宙空間を見つめた。

 ……ここも……悲しみで溢れている……――



「……静かなモンだな」

「用心しているんでしょう。わたしたちが降伏すると思っていたのに、ここまで来たんですから。驚いているでしょうね」

「……。お前、なんか……、いいよな」

 笑みを浮かべていたキーファーは、横目で呟くロックに少し顔をしかめた。

 出撃庫にて――。いつ命令があってもいいように、各戦闘クルーは機体の足下に待機、またはコクピットに乗り込んでいる。キーファーはメットを片手にピリピリとした様子のみんなを見回した。

「これが最後だというのに。志気が感じられないのはわたしだけでしょうか?」

「さぁねぇ……」

「……ロックさんも相変わらずですね。やる気はあるんですか?」

「ねぇよ、元からそんなモン」

「……」

「ま、やる気だかなんだか知らねぇけど、よーは勝って生きてりゃいーんだろ」

 無愛想に肩をすくめ、グランドアレスの足掛けに掴まる。

「俺は先に準備してるぞ」

「あっ、ちょっとっ」

 キーファーは慌てて近寄ると右手を差し出した。それを見てロックは顔をしかめる。

「なんだよ?」

「……勝利と無事を祈って」

「……」

 ロックはめんどくさそうにため息を吐き、キーファーの手を握り、合わせて、腕相撲するようにグッと掴む。キーファーは笑顔で敬礼した。

「それじゃ、後でまた会いましょう!」

「はいはい……」

 愛想なく返事をして昇っていく。コクピットに乗り込むと、ハッチを閉めて各スイッチを入れ、シートベルトを掛けて全てが起動しているかを目で確認していく。

《やぁ、ロック》

 モニターにタグーが映り、ロックは少し笑って見せた。

「よぉ、そっちはどうだ?」

《準備は万端だよ。……歩兵たちが一緒なんだけど、かなりビビってるみたい》

 こそっと、彼らに聞こえないようにカメラに顔を近付けて囁くタグーにロックは苦笑した。

「お前が緊張なさすぎなんだろ。少しは緊張しておいた方がいいぞ」

《ここを出る頃には緊張すると思うよ。……そっちの調子は? 大丈夫?》

「ああ。絶好調だぜ」

《……キミの絶好調は怖いけど、でも……これが最後なら……いいか》

「そういうこった」

 お互いに少し笑い合うと、タグーは少し息を吐いて顔を上げた。

《……ねぇ、ロック、……今までどうだった?》

「今まで?」

《……目覚めてから。……キミは感情なんていらないって言ってたろ。……今はどう? 今もそう思ってる?》

 穏やかな笑みで聞かれ、ロックは「……さあな」と小さく答えてすぐに顔をしかめた。

「って、なんで今、そんな話をしなくちゃいけないんだよ」

《ロック、いいかい》

 タグーは急に真顔になってカメラに指差した。

《キミは、生きてノアに帰らなくちゃいけないんだ。……それを忘れるな》

「わかってるって。……ったく、どいつもこいつも」

 呆れてため息を吐き、そっぽ向く。ガリガリと面倒臭そうに首根っこを引っ掻く姿に、《……それと……》と、タグーはそっと伺った。

《……アリスのことは、どう?》

 ロックは顔をしかめてモニターを見た。

「どうって?」

《うん。……どう思う?》

「なんだ、そりゃ?」

《なんとも思わないの?》

「なんとも、ねぇ……」

 ロックは視線を上に向けて考え、肩をすくめた。

「クソ生意気な女だよな」

《そうじゃなくてさ。……好きとか嫌いとかさ》

 遠慮気味にそろっと目を向けるタグーに、「はぁっ?」と訝しげに軽く身を乗り出した。

「何言ってンだお前? どうかしてるぞ?」

《……なんとも思わないの?》

「あいつは仲間だろ。お前もそうだし、他の奴らもそう。それだけだろ」

 素っ気なくため息混じりに答えるが、タグーはじっとこちらを窺っている。どこか疑うような雰囲気に、ロックはチラリと目を向けた。

「……、なんだよ?」

《……。ううん、なんでもないよ》

 タグーは鼻から深く息を吐いて気を取り直すと、真顔を向けた。

《……がんばろう、ロック》

「ああ。……お前も気を付けろよ。早めに脱出してこっちに戻ってこい」

《うん。そうする》

 タグーは笑顔でうなずき、そのまま切り出した。

《……ロック、……僕、キミやアリスや、みんなに会えて良かったよ》

「……。お前なぁ、なにこれが最後みたいな事言ってンだよ。殴るぞ」

 睨んでカメラの前に拳を上げてみせるが、タグーはそれでも笑みを絶やさぬまま。

《……アリスも同じだと思うよ。……だから……また、後で会おう》

「当たり前だろ。ふざけたことを言うな」

《うん。……グランドアレスで無茶しないようにね。……、……それじゃ》

「おお」

 モニターのタグーが微笑み、そして……

「……おい、タグー」

 通信が切れる前に声を掛けると、タグーは顔を上げた。

「……。……俺も、お前たちに会えて良かったって思ってるんだぜ」

《……》

「……お前たちにはホントに感謝してるんだ。……ホントに」

 少し言葉が途切れ、ロックは照れくさそうに目を逸らした。

「まぁ、そのぉ……、うん、そうだな。とりあえずここで勝って、ノアに戻ったら……、そン時ゃぁもっとマシなコト言ってやる」

 タグーは少し吹き出し笑った。

《楽しみにしてるよ》

「おお、楽しみにしてろよ」

《……負けるなよ、ロック》

「ああ」

 笑顔のまま、タグーの顔が消え、ロックは黒くなったモニターに深く息を吐くと操縦桿を見つめた。

 ……感謝、……か……――



【全戦闘員クルーに告ぐ。只今より敵機に総攻撃を掛ける。準備が整い次第出撃。指示に従うように。……健闘を祈る。――ここで、また会おう】











 ――きっと永遠に続く。繰り返される。歯車を止められる者はいない。どんな力を持っていても、どんな知識を持っていても。

 それでも、立ち向かうしかないんだ。その時その時、その時代に生まれたものが。

 今、この時に鉢合わせてしまったことが不運なら、それをひっくり返してしまおう。

 この時代に生まれてしまった、この時代に力を持ってしまった、僕たちが立ち向かうべき相手は――自分自身だ。

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