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七福の馬刺をおごらせろ!!

 競賀は喫茶店を後にし、そのまましばらく歩き続けた。海津駅周辺はクリスマスムード一色で、軒を連ねる商店はイルミネーションを施し、駅前の広場には五メートルはあるクリスマスツリーが立っていた。

「いいねえ、クリスマスだねえ。しかし、俺はこんな聖夜をむさ苦しい男共と過ごすのかぁ……」

 遠い目で呆けた面をし、のたのたとした足取りでキャスター付きのトランクを引きずる。

 彼はクリスマスツリーの正面まで来た。一度ツリー全体を睥睨してから、辺りを見回す。そこら中にカップルの姿が見え、どれもこれもいちゃいちゃしている。

「はぁ〜あ。他に行くとこねえのかよ……。まぁ、いいか」

 競賀は踵を返し、自宅へ向かおうと歩き出す。すると、彼の耳に聞き慣れた男の名前が聞こえた。

「風画……クン……!?」

「ん?」

 競賀は自分の兄の名が聞こえたことに驚き、声のした方を向く。そこには両目の下に涙の跡のある、沈んだ表情の女性が立っていた。

「もしかして……、美奈姉ちゃん……?」

 競賀はサングラスを外して美奈の顔をよく見る。美奈の整った顔立ちの中に、くっきりと残る涙の跡。

「風画クンじゃ……ないの?」

 美奈は競賀に近寄る。

「ああ。風画は俺の兄貴で、俺は競賀。幼稚園の時くらいに養子になったんだけど、覚えてる?」

「風画クンの弟の競賀クン……。あっ! 思い出した!」

 美奈の表情がパッと明るくなり、いつもの明るい美奈に戻る。

「覚えてくれてたの? いやあ、良かった。しばらく海外にいてさ、今日の朝早く、日本に帰ってきたんだ。んにしても懐かしいなあ」

「ワタシも! もう、十年くらいぶりだね」

「そうだねぇ。兄貴は元気にしてる?」

 競賀がそう訊いたとき、美奈の表情が一度よどんだ。競賀はそれを見逃さなかった。

「どうしたの?」

 競賀にしてみれば、明るいイメージの強い美奈がこんな表情をするのは予想外であった。登場したときから残る涙の跡も気になる。

「うん。風画クンにね、今日のデート断られちゃった……。ずっと、楽しみにしてたのに……」

 美奈は俯き様に泣き出した。

「今日……、二人とも部活無くて……、一日中一緒に居られると思ってたのに……。『おはよう』って言おうとして電話したら、いきなり『来れない』って……」

 美奈の涙の跡の理由が分かった。自分の兄は、彼女とのデートを断ったのだ。そう思うと、自分の中で無性に怒りがこみ上げてくる。

 競賀は険しい表情を浮かべ、そっと美奈の方に手を置いた。

「美奈姉ちゃん……。安心して。あんな馬鹿兄貴は、俺が思いっきりぶっ飛ばしてヤルよ」

「競賀クン……」

 競賀は自分の前で拳を作り、それで自分の胸板を叩く。

「ありがと……」

 涙を堪え、俯いたまま謝意を述べる。

「競賀クン。風画クンに合ったらこう伝えて」

「何?」

「お正月に『七福』の馬刺おごって、って」

 七福とは、この辺では名の知れた居酒屋である。ここの馬刺は結構旨いが、その分値が張る。馬刺に目の無い美奈にとって、七福の馬刺は高級品なのだ。

「うん……、分かった……」

 七福は比較的新しく出来た居酒屋なので、競賀は当然の事ながら知らない。しかし、頼みとあっては断れず、『七福って何?』と訊くのも野暮だったので、競賀は当惑しつつも了承した。

(まあ、店に詳しい兄貴の事だから、言えば分かるだろう)

 というのが、競賀の心情だった。

馬刺ねえ、私も結構好きです。まあ、それを出す店は知りませんが(^_^;

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