弟と仲違い
えー、ここで注意書きです。
この話では、海雅は実家に住み着いているという設定です。その点だけ心に留めて置いてください。
とある駅。そこに一人の男が降り立った。
長身でがっしりした体格。色黒でワイルドな顔つき。ちなみに、サングラスを掛けていた。
「ひゃ〜〜あぁ! 帰ってきたぁ!」
男は荷物を放り出し、その場の空気を味わうように、一際大きく深呼吸する。
「良いねえ、この空気……。俺のふるさと・海津の空気だ……」
深呼吸したままのけぞり、冬空を仰いで感慨にふける。
「懐かしい……。すげえ、懐かしい……」
気付けば、彼の眼から一筋の涙が頬を伝っていた。
「……。兄貴達、元気にしてっかなあ!!」
姿勢を元に戻ししばしの沈黙の後、手を腰に置き仁王立ちする。
「……。風画! 海雅! 親父、母さん! レックス! 三男・競賀。只今帰りましたぁ!」
彼、白狼競賀は、懐かしの我が家に向けて走り出した。
「あ!」
競賀は何かを思いだして立ち止まる。
「荷物忘れた……」
そう言うと、彼は道ばたに放り投げた荷物を拾い集め、再び走り出した。
「ヒャホーイ。待ってろよォ!」
競賀が駅に着く相当前。エアメールを読んだ二人は、リビングにあるテーブルで向かい合わせに座っていた。二人ともテーブルに突っ伏し、頭を抱え、歯をガチガチさせて、薬物中毒者の様にげっそりとしていた。
「ヤバイ……。まさか親父が来るなんて……」
海雅は恐れに恐れ、まるで迷子の仔ウサギの様に怯えていた。
「どうしよう……。俺、今日部活がないから、美奈とデートする約束なんだ……」
風画からいつもの元気は消え失せ、朝からすっかり憔悴していた。
「イブのデート! うらやま……いや、ダメだ、絶対断れ!」
「出来るか! イブのデートだぞ! それに来年は受験があるし、今年しかできないだろ!」
風画はテーブルを強く叩き、立ち上がって怒鳴り散らす。しかし、そんな風画を海雅が制した。
「馬鹿野郎!」
海雅は立ち上がり様に、風画の眉間にストレートを放つ。
「あべしっ!」
某アクションマンガの様なリアクションをとり、風画は椅子を巻き込んで倒れた。
「親父が来るのに『デート』だあ!? ふざけんな! んなことしてみろ、親父に殺されるぞ!」
「で、でもよう……」
「うるせえ! 死にたいのか!」
額をさすりながら反論する風画を見下ろして、海雅は言う。
「今日家に居ないと、親父に殺されるんだ。でも、デートを断っても、嫌われるが殺されはしない! 親父に殺されるのと、ええと、美奈ちゃんに嫌われる、どっちかだ!」
「うう、死にたくないが、美奈に嫌われたくもない……」
床をグーで叩きながら、マンガの様な泣き方をする。
そんな風画の肩に、海雅がそっと手を置いた。
「いずれにせよタダでは済まないさ。死ぬときゃ一緒だ! 風画!」
「兄貴ィィ!」
その場で熱い抱擁を交わす二人。寒空の元、二人だけが異様に暑苦しかった。
そのおり、風画の携帯が鳴った。
「……」
「もしもし……」
電話に応対する風画と、それを見守る海雅。
『もしもーし。風画クン?』
電話の相手は、美奈だった。
「や、やあ、美奈。どうかしたの?」
必死に冷静さを装うが、声はかなりうわずっていた。
『風画クンこそどうかしたの? なんかいつもと違うけど?』
「う、うん、実はね……」
風画は海雅を見た。海雅は風画と眼を合わせ、一回だけうなずく。
「……。美奈。ゴメン。今日のデート、行けません!」
電話口で土下座し、精一杯声を張り上げ謝罪する。
『…………』
「…………」
しばしの沈黙。
『大っキライ!』
直後、電話の切れる音。
「ゴメン……、ゴメン……、ゴメン……」
風画はうわごとの様に繰り返す。そんな風画の前に、悠然と立つ海雅。
「風画。世界の半分は女だ! めげるな!」
「兄貴ィィィィ!」
再び暑苦しい二人。そんな二人の一部始終を、レックスはしかと見届けていた。
「くぅ〜ん……」
レックスが日本語を喋れたら、『可哀想に』と嘆いていた事であろう。
キャラ紹介します。
白狼競賀 男 身長…180センチ 体重…80キロ
IQ200以上の天才。早い時期に親戚の養子になるが、小学校入学時に天才児と判明し、それからは世界各国の大学を渡り歩く生活を送っている。海雅、風画の弟で、白狼家の三男であり末っ子。風画の一つ下。正確は、この兄弟の血統なのか、相当な快活である。