第372話 桜庭水音の「現状」と「目的」
(み、水音の奴ぅ……)
と、春風が心の中でそう恨み言を呟いたその瞬間、エルードのとある森の中で、
「ふえ……ふえっくしょん!」
少年、桜庭水音が盛大にくしゃみをした。
「うお! びっくりしたぁ!」
と、水音のくしゃみに「仲間」である少年、近道進が驚きの声をあげたので、
「あ、ご、ごめん進君」
と、水音はすぐに進に向かって謝罪した。
そんな水音に向かって、
「だ、大丈夫水音君? 風邪、ひいたの?」
と、同じく「仲間」である少女、時雨祈がそう尋ねると、
「ん? ああ、大丈夫。大したことじゃないと思う」
と、水音がそう答えたので、
「もしかすると、誰かが水音君の噂でもしてるのかな?」
と、同じく「仲間」である少年、遠畑耕がそう尋ねてきた。
その質問に対して、
「あ、あはは、そうなのかな……?」
と、水音が引き攣った笑みを浮かべながらそう答えると、空を見上げて、
(春風……じゃないよな?)
と、疑問に思った。
ところ変わって、中立都市フロントラルの、宿屋「白い風見鶏」の食堂。
「はぁ。まったくもう……」
と、歩夢らクラスメイト達に、自身の隠していた一面を知られてしまった春風が、溜め息を吐きながらそう呟くと、
「……あの、キャロライン皇妃様」
と、キャロラインの方を向きながら、彼女に向かってそう声をかけたので、
「あら、何かしら春風ちゃん?」
と、声をかけられたキャロラインがそう返事すると、春風はキャロライン方へと全身を向けて、
「桜庭君……水音と、近道君達は、お元気ですか?」
と、恐る恐るそう尋ねた。ただ、ちょっと尋ね方がおかしくなっているが。
そんな春風の質問に、キャロラインは目をパチクリとさせると、「ふふ」と笑って、
「ええ。水音ちゃんも進ちゃんも耕ちゃんも祭ちゃん、絆ちゃん、祈ちゃんも、みんな帝国で元気に生活しているわよ」
と、笑顔でそう答えたので、その答えを聞いて、
「……そう、ですか」
と、春風はそう返事した。その表情は何処かホッとしているようで、そんな表情をする春風を見て、歩夢をはじめとしたクラスメイト達もホッと胸を撫で下ろすと、
「特に水音ちゃん、春風ちゃんと決闘する為に、頑張ってレベルを上げてるんだから」
と、キャロラインが笑顔のままそう言ったので、
「そうですか、俺と決闘を……」
と、その言葉に春風がそう返事すると、
「……ん?」
と、首を傾げて、
「お、俺と……決闘!?」
と、大きく目を見開きながら、再びキャロラインに向かってそう尋ねた。
いや、春風だけではない。歩夢らクラスメイト達も、今初めて聞いたのか皆、春風と同じくキャロラインの言葉に目を大きく見開いていた。勿論、春風と水音の「師匠」である凛咲も、春風達と同じような表情をしていた。
そんな春風達を前に、
「ええ、そうよ。春風ちゃんには、水音ちゃんと決闘してもらうんだから」
と、キャロラインはやはり笑顔のまま、春風の質問にそう答えたので、
「き、キャロライン皇妃様! それは、一体何の冗談なのですか!?」
と、今度はイヴリーヌがそう尋ねてきた。
そんなイヴリーヌの質問に対して、キャロラインは「うふふ」と笑うと、
「冗談じゃないわよ、イヴりんちゃん」
と、イヴリーヌをニックネームっぽく呼んだので、
「その呼び方やめてください……!」
と、イヴリーヌは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして怒鳴ったが、すぐにハッとなって首をブンブンと左右に振ると、
「キャロライン皇妃様、そのような話は聞いておりません。一体、何故そのようなことになってしまったのですか?」
と、どうにか落ち着いた口調でキャロラインに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、春風達も「うんうん!」と頷くと、
「それは勿論、春風ちゃんの所為ね。だって、何も言わずに水音ちゃん達のもとを去ったんだから」
と、キャロラインはチラッと春風を見ながらそう答えたので、
『あぁ』
と、イヴリーヌも歩夢達も、皆、春風を見ながら納得の表情を浮かべて、
「はは、やっぱ俺の所為なのね」
と、春風は盛大に頬を引き攣らせた。
そんな春風に向かって、
「ええ、そうよ。春風ちゃんが悪いんだからね」
と、キャロラインが頬を膨らませながら、可愛らしい怒り顔でそう言うと、
「水音ちゃん言ってたわよぉ。春風ちゃんが困ってることになってたら助けたいし、悪いことをしようものなら全力で止めたいってね」
と、すぐに表情を真面目なものに変えながらそう付け加えたので、
「そ、それは……」
と、キャロラインの言葉に春風が表情を暗くすると、
「でも、今の自分は神々に『力』を封じられてる状態で、春風ちゃんを相手にするにはルーセンティア王国じゃ強くなれないって言うから……」
と、キャロラインは真面目な表情のままそう話を続けた。
その話を聞いて、
「そうですか、水音は『力』を……」
と、春風が暗い表情でそう呟くと、
「……て、ちょっと待ってください! 今、サラリと新しい情報が入ってきたんですが!? え!? 水音、『力』を封じられてるって!?」
と、キャロラインに向かってツッコミを入れるようにそう尋ねた。
すると、
「むむ、それはどういう意味ですか?」
と、それまで黙って話を聞いていたフレデリックがそう尋ねてきたので、それに春風が、
「そ、それは……」
と、答えようとすると、
「少し前に話したわよね? 私達の故郷『地球』には、『スキル』にあたる特別な力を秘めた人間がいるって。で、今話に出てきた私のもう1人の弟子である桜庭水音は、その特別な力を秘めた一族の末裔で、彼自身もその力を持っているの」
と、春風の代わりに凛咲がそう説明したので、その説明にフレデリックが、
「ほほう、なるほど」
と、納得の表情を浮かべた。
だが、そのすぐ後、
「でも、『封じられてる』って、一体どういうことかしら?」
と、凛咲がそう疑問を口にしたので、
「教えてください、一体、水音に何があったんですか?」
と、春風がキャロラインに向かってそう尋ねると、
「なんでも水音ちゃん曰く、勇者召喚によってこの世界に召喚される前に、この世界の神様である5柱の神々によって力を封じられてしまって、まともに使うことが出来なくなったんですって。で、その為に水音ちゃんは5柱の神々に対して怒ってるそうなのよ」
と、キャロラインはわざとらしく「うーん」と唸りながらそう答えた。
その答えを聞いて、
(そ、そんな、水音が……)
と、春風はショックで顔を真っ青にしたが、すぐに歯をギリッと鳴らすと、
(親玉共め、水音になんてことしやがる!)
と、グッと拳を握り締めながら、怒りに満ちた表情を浮かべた。
そして、そんな春風を、
(春風……)
と、レナは心配そうな表情で見つめていた。




