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2-1

リディア王国には複数のエルフの集落が存在する。一千年前から森の中で狩猟を繰り返し、あるいは魔法の修練を続けるエルフの種族はリディア王国にとっても大切な財産であった。

エルフは人間に対してかなり非協力的ではあるが、彼らの肉体的な能力や魔力は人間よりも上回って居る。

問題は、人間よりも数が少なく文明の進歩を半ば放棄しているような閉塞感は確かにあった。

ミリア・ユニスフィールも17年はその小さなエルフの集落の中に育ち、ずっと狩猟を続けている。

エルフの長い年月に渡る魔術への執着は成果を見せているわけでもなく、エルフという種族自体が自信過剰に陥って居るせいで人間よりも貧しい生活を強いられている。

個人レベルの力量しか考慮していないエルフは一族間の争いも激しく、リディア王国がエルフの集落を放置している原因になっていた。

彼らに手を出さなければ人間たちには火の粉はかからない。逆を言えば、彼らをコントロールするためには大きな代償を得る可能性がある。

「リディアのエルフって、小さな勢力争いをずっと続けている事で有名なんだよな。300年前にもあったか?」

「さぁ。当時はエルフが何処に居るかもあまり把握していなかったから。エルフの能力は素晴らしいけれど、彼らを相手に戦うのは悪魔よりきついかもしれない。」

「狡猾そうだしな。とりあえず、ここから脱出する方法を探さないと。」

サキュバスが小さな窓から出て外を見て回るのもいいかもしれない。

エルフはサキュバスを小さな妖精としか思っていないみたいだし、そう怪しまれないはずだ。

「サキュバス。外に出て何か調べられるか?」

「私はいいけれど。私が居ない間に変な事しないでよね。」

「するか。」

一体サキュバスは人を何だと思っているんだろうか。ため息をついている間にサキュバスは浮遊して外に出ようとした。

その直後だ。

「ぎゃぁああああ!!?」

ぷしゅー、と開いていた窓の外からスプレーか何かを吹きかけられ、サキュバスは地面に落下してしまう。

「大丈夫か!?」

窓の外には、女の子のエルフの顔が一瞬見えていた。

やっぱり外からも監視されているため、そう簡単には出られそうにないのだろう。

「し、しびれ・・る・・」

「何を吹きかけたんだ・・?」

「さぁ。適当な痺れ草じゃない?まぁ、いざとなれば私がこの部屋を木っ端みじんに破壊してあげられるけれど。」

以前に使ったハルバートはリゼット自身の魔術回路に格納されているらしい。

「リゼットが使っていたあの武器って、一体なんなんだ?」

「さぁ。名前はあるはずなんだけど。サキュバスも知らないのよね。」

「何でそんなものをサキュバスが持っていたんだ?」

「かなり使い勝手がいいから、適当に盗んだそうよ。誰からかは聞いてくれないんだけど。」

「案外、黒幕か何かなんじゃないか?」

「黒いものね・・。」

サキュバスは謎の痺れるスプレーを吹きかけられてから、ずっと床の上に寝ている状態になっている。

この部屋からどうやって脱出するか、破壊する以外に何か方法はあるはずだ。




イシス、というエルフの部族の間にミリアは産まれそして狩猟の技術を中心に教育される。

人間社会から隔離された空間の中で、ミリアにとっては言葉を交わすことよりも戦う事のほうが多かった。

狂暴な魔物を相手にした討伐戦は日常的で、その戦いの中で仲間が死んだ事も何度かはあった。

死を気にしていないわけでもなく、エルフにある思想に縛られているせいで安全な生活が出来ない状況にあったからだ。

人間は集団を形成し、防御力の高い城壁の中で暮らしている。例え村であっても10人か20人ほどのギルド職人が在住している事が多い。

それに比べ、エルフは少数精鋭にもほどがあった。エルフは狩猟の神を信仰し、独力による生存による行為が全てだと思い込んでいた。

人間も最初はエルフと似た生活をしていたらしいが、それも一万年前の話だという。

魔法と狩猟だけではいつか限界が来る。魔力が高すぎる人間やエルフはいつか魔族へと姿を変えるらしい。例えどんなに魔力が優れていようと、生命能力の全てをカバーできるわけではない。

不老不死へと至ったとしても、その存在は悪魔と見なされ迫害されるだろう。

ミリアは、いずれエルフに限界が訪れるとは理解していた。

人間は一部の都市に暮らすことでより富を得るが、エルフは村落以上の経済を形成することは出来なかった。

知能が無いわけではなく、エルフの能力が信仰によってのみ強化され続けていたのが原因でもあった。

「彼らも人間なら、私は動物並みかもしれない。」

三日前、友人が魔物の奇襲に遭い絶命した。その事実から目を背けるようにミリアは狩猟や討伐に没頭していた時だった。古い遺跡の中を探索していた時、二人の男女をミリアは発見した。

リゼットとナツキという二人の人間は、一体どういう理由であんな場所に居たのか分からない。

禁則を破ったとはいえ、あの二人をあの部屋の中に閉じ込めて置くのはどうかと思うが。長老の命令は絶対のため、幽閉しておく事しかミリアにはできなかった。


「ミリア・ユニスフィールです。」

村長の執務室に入り、ミリアは敬礼した。目の前には長いひげを持つ老人が椅子に座って居る。もう一人、ソファーに14歳程度のエルフの女の子・・レジーナが座って居るが、恐らく何らかの会議をしていたのだろう。

「提示報告を通告します。村に侵入してきた若い男女の身元はまだ分かって居ません。二人とも、魔力の推定能力はかなり高いと思われています。」

「そうか。あの二人の正体がまだ分からない以上は、誰にも話さないように。面倒だが、ミリアも彼女たちの監視についてくれ。今後の狩猟や討伐の任務は別の者に任せる。」

「分かりました。」

「ねぇねぇ、侵入者はどんな人だった?」

レジーナは面白そうな顔で二人の会話に割って入った。

「仕事の話です。少しは礼儀正しくするように。」

「はーい。それで、どんな人?」

「・・普通の男女ですよ。」

ミリアは素っ気なく言ったが、実際の所どう考えても普通ではない。

あの二人は殆ど武器以外の装備が無かったため、この山奥の村落にたどり着けるはずがない。

よっぽどの事が無い限り、偶然この場所まで来れるはずが無いのだ。

「あの二人の事は気にしないで、レジーナは自分の仕事をしてください。」

「えー?任務なんかより冒険がしたいんだけど。」

「そんな事をしたところで意味は無いかと。」

「酷い言い方だね。ミリアも村長も、もう少し人生楽しんだら?」

14歳の女の子に言われる筋合いはないが、ミリアも確かにあまり楽しんでいられない事が多い。

「他の部族との戦闘があった話する?」

「レジーナ・・!」

「戦闘?」

村長が慌てている様子だったが、まさか他の部族と戦闘になっている話をさっきまでしていたのだろうか。

「勝手な事をするな。」

「村長、まさかタルタロスとまた交戦を・・?」

「部族同士の戦いなどよくある話だ。」

「戦いはよくあるけど、村長と話したのはそのタルタロスから疑惑をかけられているんだよ。本当なら争いたくないんだけどね。」

村長を無視してレジーナはミリアに話し続ける。何かミリアに隠し事をしていた様子はあったが、しかし何の疑惑なんだろうか。

「タルタロスは3、40年ほど前からずっと対立している部族であることは聞いているけれど。その大本は魔術の習得権利の奪い合いが発端だった。今回もそれが原因なの?」

「いや、違う。」

村長は首を振って、ミリアの推測を否定する。ミリアはただその言動を聞くしかないが、内心侵入者以上の厄介な事件が発生する予感はあった。


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