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2-11

風が吹いている。その風が涼しいだけならまだいいが、立て付けの悪い家の物音が響くせいで鬱陶しい。

このセレスに来て突然拘留されてから三日以上は経ったが、食品は魔物の肉やら怪しげな薬草を食べているせいで味覚がおかしくなりそうだった。

しかも、基本的に住んでいるエルフも何処か暗い雰囲気があった。

「この適当な暮らしぶりをみて、貴方はどう思うかしら。」

「どうって言われても。これ、限界集落より酷いな。」

「子供も居るから、限界というよりは臨界ね。」

意味不明な言葉遊びになってしまったが、結局このセレスからおさらばしたほうがいいんじゃないか。

「何処かに行きたいのはいいけど、あいつは本当に何処に行ったのかしら。」

サキュバスはリゼットの命令により偵察に出て行ったらしいが、そのまま戻ってこないのが現状だった。

「偵察に向いてないんじゃないかあいつ。」

「もし何かあったら倫理的に釈明しようがないわね。」

「サキュバスは不特定多数の人間にそんなやばい事はしないはずだ。」

「そう?かけてみる?」

「何をだ・・。」

「私たちにとっては、この聖地は全く関係の無い場所だもの。貴方だって地元に帰りたいでしょう?」

「今更帰ったら幽霊扱いされそうだけどな。」

「そういえば、貴方って結局どういう状態なのかしら。私と契約して、ある意味生き返ったと考えてもいいのよね。」

「まぁ、そうなるのかな。」

高台の上から見た風景はあまりいいとは言えなかったが、とりあえず森の方の景色だけは立派だと考えていた。

サキュバスは今どこに居るのか探しているのもあるが、彼女はまだ見つからない。

そのため、現状四苦八苦しているエルフなど気にせず人間にとって十分な暮らしができる場所へ行くという選択が取れなかった。

「いっその事、吹き飛ばしてもいいんじゃないかしら。この村。」

「いや、吹き飛ばすなよ!?」

実際に可能な行為のため、ナツキにとっては少し冷や汗ものだった。

「冗談よ。」

「そういえば・・あいつに蹴られた時なんだけど。山の上にヘラっていう魔物が居るせいでエルフの本領が発揮できないらしい。」

「何でそれを早く言わなかったの?」

「言う前にこの村の酷さで忘れてね・・。」

「ヘラ・・可愛い名前だけど。その魔物を倒したら全てが変わるのかしら。」

「変わるんじゃないか?」

「その前に、私たちって一体何処に居るのかまったく分からないのよね。リディア王国の僻地って一体何処なのかしら。」

「300年前でも地理関係はそこまで激変しないだろ。」

「甘い認識ね。過去に周辺国家に6等分されて、数十年後に国が戻っても経済状態は前より酷い所があるんだけど。そこをリディア王国が滅ぼしかけた事があるのよね。」

「そういう事は覚えていて何で肝心な所は忘れるんだ・・?」

「前リディア王国の初期部分は知識として入ってるから・・。私が生まれる前の話よ。」

「つまり、リゼットが生まれた頃は既にその6等分された国は・・。」

「リディアの一部になっているわね。要らないけど、でも他の国には奪われたくないからしっかりフォローしてあげるから奴隷のように使ってあげる・・そんな条約を締結したらしいけど。」

「・・・・。」

まるでリゼットがその条約を締結したみたいに感じるが、そもそもリゼットが生まれる前の話のためもしかしたら母親かもしれない。

「契約書をよく読まないとああいう馬鹿な国になるって言っていたけど。誰も読めないわよね、あんな文書。」

あんな文書と言われても300年前の事だから恐らく、意味不明で難解な文字が何十ページにも渡って書いてあったんだろう。

「それで、リゼットとしてはこの後どうしたいんだ?」

「・・・」

「リゼット?」

突然黙り込んだリゼットは、突然ナツキを押し倒した。

何が起きたのか、と考えてしまったが。木板に突き刺さった矢を見て、ナツキは状況を理解する。

「矢・・!?」

「どうやら、お楽しみはこれからのようね。」

「お楽しみって・・。」

また数度矢が飛んでくる。それをナツキは抜剣してはじき返した。

「かなり遠い場所から狙っている。」

建物から、ではなく森の方からその矢は飛来してきていた。

どう考えても普通の弓矢やクロスボウではあの場所から狙い撃ちはできない。

「魔法による狙撃ね。的が確定していれば、その矢は魔力が続く限り飛来できる。」

矢に術式を入力することで、その矢は目標に向かって飛び続く。その時にリゼットは自分に魔法で確定された一種の変異を感じ、矢が飛んでくる方角を一瞬で捉えていた。

「・・魔力が感知しなくなったわね。」

矢が飛んでこなくなった所を見ると、場所を変えたのだろうか。

「一体誰がこんな事を・・。」

「きっと、私たちに嫉妬したのよね。」

「自意識過剰過ぎる・・!?」

「本当なら追うところだろうけど。セレスにも迷惑はかけられないだろうし。サキュバスを探すしかないわね。」

「あいつ、今頃何処にいると思うんだ?」

「・・大声で叫んでみる?」

「嫌だ。」

「そう。じゃぁ、ゆっくり待っているしか方法が無いのね。いっそのこと貴方とサキュバスも魔力構成をリンクさせようかしら。」

「それってつまり・・。」

「あぁ、大丈夫よ。サキュバスが貴方の血液を吸えばいいだけだから。サキュバスは精神、主に性方面の魔法しか使えないけど。私は別に問題ないもの。」

「あ、あぁ。」

「で、一体どういう妄想をしたのかしら。」

「え、えぇと。」

「サキュバスにもし淫行しようとするのなら、注意したほうがいいわね。」

「別にそんなことは考えていない。」

「サキュバスは別の世界の住人だもの。彼女の持つ体全てがそもそもこの世界のルーツに無いから。本当なら、彼女はむしろ置いてこの場所を去ってもいいのよ。」

「置いていきたいのか!?」

「でも、村中のエルフがサキュバスの淫夢のせいで頭がおかしい人たちになったら嫌でしょう?」

「そんな心配事が理由でサキュバスを探していたのか?300年は一緒だったんだから少しは信頼しろよ!?」

「信頼って難しいのよね。サキュバスにしたって時々本の中に淫らな絵画を混ぜてくるし。あの子が描いた写実的な油絵はあまり見ないほうがいいわね。」

「サキュバスは、えぇと・・一体何を描いたんだ?」

「いい?写実的な油絵というものは魔法以上に厄介なんだから。構図全てが彼女の妄想を反映して描かれているから、その時は徹底的に燃やしてあげたわ。」

「えぇと・・・聞かない方がいいか。」

「聞かない方がいいわね。私も、サキュバスを悪い子だとは思っていないんだけど。彼女は人間にとっては害悪でしかないのよ。」

「えぇと。サキュバスはそこまで悪い子ではないんだから。害悪じゃないんじゃ?」

「分からないようだから、言っておくけど。サキュバスは私たちが会ったオールド・デビルンや男性の悪魔と同じ存在なの。本来であればかなり危険な生き物のはずだし、どうして私や貴方みたいな人間に優しいのかが分からないんだから。」

「つまり・・?」

「貴方、あの場所に居て考えなかったの?彼女もまた300年を生きて私を面倒みてきたのよ。」

「まぁ、その辺り全く分からないからな。リディア王国の宮殿とかに行って調べるとか・・。」

「300年も経っているのだから、その辺りは不明瞭でしょうね。いっその事、本当にサキュバスなんか置いて出て行こうかしら。」

「・・・・。」

ナツキは苦笑いしたまま動かなかった。リゼットの目を見ても、その表情は全く偽りが無かった。


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