42 最強種族ヤギ
「ヤギだ!恐るべきヤギどもが、とうとうこの村の近くに出現しおった!この村はお終いだー!」
羊牧場でペットのアルパカをもらった後、村の中で叫びまわるおっさんが登場した。
「なんだって、ヤギだと!」
「まさか、あの悪魔どもが!」
「あああ、お終いだ!世界の終わりが来たー!」
叫ぶおっさんに合わせて、村中の人たちが絶望の声を上げ始める。
なんかイベントが始まったっぽいな。
その程度の気分で見ている俺。
「というか、なぜヤギごときでここまでの騒動になる。ここの村人どもは頭がおかしいのか?」
あまりの騒々しさに、俺は突っ込まずにいられないよ。
「ああ、そこを行く旅人のお方。どうかこの村をヤギの恐怖からお救い下さい。あの邪悪なヤギどもを追い払うことが出来るなら、報酬はどのようなものでも用意いたします」
そんなことしてる間に、おっさんに捕まってしまった。
「ヤギぐらい自分たちで何とかしろよ」
「そ、そこを何とか、旅のお方ー!」
ぶっちゃけどうでもいいイベントにしか思えない。
俺はおっさんを振り切って逃げようとしたけど、それより早くおさんが俺の服を掴み、必死の形相で張り付いてきた。
鬱陶しすぎる。
おっさんに引っ付かれるような趣味は俺にはないぞ。
「なんなら、村一番の美人を旅人様の為に用意しましょう」
そんな事をしている間も、おっさんは懇願してくる。
というか、美人を差し出すって、地味に人身御供的な展開になってないか。
「おいおい、おっさんがそんなこと勝手に決めていいのかよ?」
「ワシはこれでもこの村の村長。村の為ならば致し方ない犠牲として割り切りますぞ」
ウワー、この村長自分の村の人間差し出すとか、マジで半端ないわ。
ドン引きだ!
「生憎、俺は美人に興味はない。……で、その美人の胸は、どのくらいのサイズ?」
「胸の大きさが気になりますか。では、この村で一番の大きさを持つ、宿屋の若女将ミリアなどいかがでしょう」
宿屋の若女将ミリアちゃんか。
確か、彼女って30過ぎのおっさんと結婚している、俺的にはちょっとサイズが足りないけれど、あと一年すれば合格ラインにしてOKなサイズの子だったな。
「しかし彼女人妻だよ?」
「人妻ではダメですか?」
「背徳感があるので、ぜひともいただきたいです」
「分かりました。では旅人様が見事ヤギを追い払われた暁には、我が弟と離婚させてでも、ミリアを旅人様に進呈いたしましょう」
てな感じで、俺とおっさん村長の間で話が進んでいく。
おっさんにドン引きはしたけど、それはそれ、これはこれ。
俺って自分の本音に正直だから。
しかし、今弟って言って言わなかったか?
「弟ってことは、もしかしてあんたは?」
「この村で宿屋を経営しているのは、ワシの弟。ワシはその兄なんです」
「なるほど、三〇過ぎのくせして、一〇代の年下妻を手に入れたけしからん男の兄だったか」
それじゃあ、このおっさん村長も腹が立つだろう。
三〇過ぎてて一〇歳以上年下の娘と結婚しているような奴には、天誅が必要だよな。
離婚は当然じゃ!
「まあ、ワシの妻もまだ一〇代なんですがな」
なんて思ってたら、このおっさんの奥さんも物凄く年下とのことだった。
なんなのこの兄弟。
一〇歳以上年下の若い妻を娶ってるとか、マジで信じられん!
どういう遺伝子してるんだ?
うらやましすぎだろ!
そんなことがあって、俺は村を襲おうとするヤギと戦うことになった。
「待ってろよ、宿屋のミリアちゃん。俺がむさ苦しいおっさんに代わって、新しいダーリンになってあげるから~」
「メー」
なお、この話をしている間、絶はアルパカの姿になって、アルパカを満喫していた。
人語が喋れないから、俺たちの会話に割り込むことが出来ずにいたぞ。
◇ ◇ ◇
村を襲うヤギ。
正確にはまだ村が襲われているわけでなく、村の近くの平原にヤギどもが屯している。
俺は、そこまで黒馬の姿になった絶に跨って移動した。
なおアルパカは無理。
そもそも足が遅いから。
で、いざヤギたちの傍まで来て、絶から降りる。
俺、馬上戦闘スキルは壊滅的だから、馬状態の絶に乗ったまま戦うなんて無理。
「うーん、可愛くないー」
平原に屯しているヤギたちを見て、絶がガッカリした声を出す。
「というか、凄く牧歌的なんだけど。なんでこんなのを村人が怖がるんだ?」
俺にとっては、可愛いも可愛くないも関係ない。
平原にいるヤギたちは、草をついばみながら、暢気にその辺を歩き回っていた。
「これ、絶対におかしい。運営は何を考えて、こんなイベント仕込んだんだよ」
俺は呆れつつも、とりあえず平原に落ちている小石を拾って、近くにいるヤギに放り投げた。
俺に動物愛護精神を期待しないでくれ。
ただし全力で投げたわけじゃないから、これでヤギの体が傷つくようなことはない。
――ペチリ
「メー」
小石が当たったヤギは不満そうに鳴き声を上げたが、それでも興味がないといった様子で、平原に生えている草をモシャモシャと食べ続けた。
「……こいつら、精神が図太いな」
「モコモコじゃないー」
俺はヤギたちに呆れる。絶はヤギの見た目がお気に召さない。
でも、このヤギどもを追い払わないと、宿屋のミリアちゃんとハーレムフラグが成立しない。
俺はヤギどもを追い払うため、腰に吊るしている片手刀を抜き放った。
――ブメェエエエェェェー!!!
突如平原に、ヤギの大声が轟いた。
俺が武器を抜き放つと同時に、目の前にいるヤギたちが二列に整列をする。
「?」
何がしたいのかまるで分らん。
絶も唖然とした顔をしている。
そんな俺たちの前で、二列に整列したヤギどもが、お互いに顔を向け合ってから、頭を垂れた。
向かい合うヤギたちの間には、ヤギ数匹分が通れる程度の道が出来上がる。
そして、ヤギたちの向こうに、突如黒く禍々しい炎が巻き起こった。
あまりにも場にそぐわない演出だが、炎からはとてつもなく禍々しい気配が漂ってくる。
漂ってはくるんだけど、何しろヤギだからなー。
緊張感なんて、微塵も持つことが出来ない。
そうしているうちに、炎の中に魔方陣が現れて、そこから出現した。
「メェー」
ヤギが。
「……もう帰りたい。なんなのこのクソイベント」
現れたヤギは、他のヤギたちと違って、悪魔のように湾曲した二本の角を持ち、足からは炎が燃え上っていた。
目はただのヤギたちと違って、確実に何人か殺てますって目をしていた。
でもさー、
「メェー」
鳴き声がこれだよ。
怖いっていうより、チグハグすぎてコメディーにしか見えない。
それも笑いのとれない、出来の悪いコメディーだ。
「メェー」
そして現れたコメディーヤギは、二列に割れて頭を垂れているヤギたちの間を、ゆっくりと闊歩して歩き出した。
あのコメディーヤギは、ヤギたちの王様だったのね。
それで、他のヤギは臣下ヤギだから、王様の為に頭を垂れている……と。
なんとなくだが、ヤギたちの姿を見ていて理解できた。
理解できたが、だからどうしろというのだ?
なんだよ、このクソゲー展開は。
このゲームを作った人間たちは、頭大丈夫か?
そんな中、コメディー王様ヤギが俺の前まで歩いてきた。
「メェー」
直後、コメディー王様ヤギの頭上から、ボタボタと数体のヤギが降ってきた。
召喚魔法なのだろうか?
ただ、召喚されてるのは普通のヤギだ。
意味なさすぎるだろ!
おまけに召喚されて空から落ちてきたヤギたちは、地面に激突するとそのままピクリとも動かなくなる。
「死んでやがる……」
落下した際、頭を打ち付けて首があらぬ方向へ曲がってる。
これは即死だな。
「ねえ、スレイ。僕怖いよ」
「安心しろ、俺もこの意味不明過ぎる展開が怖い」
体に震えは来ないが、人知を超えたアホすぎる展開に、俺も絶も思考がついていけない。
というか、ついていきたくもない。
「あー、面倒臭いからさっさと終わらせるか」
アホ展開に付き合うのが嫌になって、俺は片手刀をコメディー王様ヤギの首筋に叩きこんだ。
――キンッ
だが、首筋に狙いたがわず叩きこんだ刀の一撃が、弾かれた。
「ハッ?」
直後、俺の視界全体が、ピンボケした真っ赤な色に染まる。
魔力感知スキルによる光景だ。
ただ、その赤い色は俺の視界全てを埋め尽くしている。
「ヤバッ!」
理解できないコメディー展開に、俺の脳細胞は弛緩しきっていたが、大慌てでその場から逃げ出す。
絶を放置するわけにもいかず、その手を掴んで急いで走るが、魔力感知で赤くなった範囲はとてつもなく広い。
俺は近接戦闘能力においてはチートだが、だからと言って無敵じゃない。
アーク・アース・オンラインの時代から、弱点の一つは魔法などによる広範囲攻撃だった。
面で攻撃してくる攻撃に対して、1、2発は避けることができても、連発されてしまうと避けきれなくなってしまう。
まして、今回のコメディー王様ヤギの攻撃範囲は、俺の全速力を持っても、その範囲から逃げ出せる可能性が低い。
「絶、すまん!」
「えっ?」
次の瞬間、大地から炎の壁が出現し、俺と絶は炎に飲み込まれてしまった。
『The END』
どれだけ強くても、ゲーム開始時点の俺の魔法への耐性なんてたかが知れている。
全身に激しい痛みが襲いかかり、俺の意識は途絶した。
『スキル不死により、プレーヤースレイは復活しました』
「はい?」
全身炎に包まれて、とんでもない痛みに襲われたのに、なぜかシステムボイスがして、俺は意識を取り戻した。
周りを見ると、俺の周囲には焼き払われて黒焦げになった草原が広がる。
そして、例のコメディー王様ヤギの姿もある。
しかし絶のHPは完全に0になったようで、この場にいない。
余談として、コメディー王様ヤギの手下と思しきヤギ軍団も、さっきの魔法で全部黒焦げになってしまったようで、消し炭すら残らず焼き払われていた。
しかし、スキル不死。
種族が吸血鬼・真祖になった際に獲得したスキルだが、まさか死んでも復活できるとはとんでもないチートスキルだ。
「ハ、ハハ、生きてる。いや、死んだけど、スキルで生き返ったわけか?」
俺は驚きながらも、目の前にはいまだにコメディー王様ヤギの姿がある。
コメディー王様ヤギに対して、もはや油断はしない。
だから俺は、全力で尻尾を巻いてこの場から逃げ出すことにした。
「あんなのに勝てるわけないだろ!なんなんだよ、このゲームの運営どもは!」
運営への愚痴を叫ぶ。
だが、次の瞬間またしても周囲全体が、真っ赤にピンボケした光景に包まれる。
あ、これはダメだ。
またやられ死られる。
直後地面から炎が吹き上がり、俺はまたしても体全体に激烈な痛みを感じることになった。
まあ大丈夫さ、ここで死んでもまた生き返るんだし。
不死様。あなたは本物のチートスキルです。




