3rdステージ
荒野のど真ん中、大型のタンク型エネミーが六体。その周囲には、人型の歩兵タイプのエネミーが数十体展開していた。それらは何かをうなずきあうと、全身を開始し始めた。
すると突然、数条の天空から光の槍が降り注いだ。先頭を走っていたタンク型エネミーはそれにに撃ち抜かれ、轟音をあげながら、爆発飛散した。
「……!」
エネミーキャラの電子音があがり、生き残った三体のタンクが後退をはじめた。その時、ピンク色のVarmが歩兵キャラの中に躍り込んだ。
「イヤッホーーイ!!」
突然のことに混乱するエネミーキャラの間をすり抜けるように移動しながらレイエッジで斬りつけていく。ついで、ユキナの黒いVarmとアキの白いVarmも飛び込んできた。
「アキ、右を始末しろ!」
ユキナの短い指示に、したがって、アキは、右側を後退するタンクエネミーの側面に回り込む。アキのVarmは最近になって装備した、キャタピラダッシャーシステムのおかげで、重量級とは思えない機動性を発揮していた。
「もらい!」
追い抜きざまに、レーザーバズーカを撃ち込みつつ、その先のタンクにプラズマを浴びせる。
あれよあれよという間に二体のタンクエネミーが爆発した。
「よし!」
満足げな表情に、そんな言葉がおもわずもれる。そのむこうで黒いVarmが両肩に装備された、ギガンティックシザースでタンクエネミーを抱え上げ、もう一体にたたきつけたところだ。
「ふん」
アキとは違い、ユキナは感慨もなく敵をひねりつぶす。クールな容貌に似合わず、パワーファイターだ。
最後に残ったタンクエネミーは一矢報いようと砲塔を旋回させた。だが、その砲身が一瞬後には切り落とされていた。タンクエネミーの動きが止まり、その目の前に、モスグリーンの影が飛び込んだ。
「おそい」
サキはつぶやくのと同時にタンクエネミーの頭上を飛び越えるように跳躍する。そして、背後に降り立つと同時に、マルチブレードランチャーからビームが放たれた。
ビームは的確に、タンクエネミーの後部につきささり、タンクエネミーは震え上がるようにして爆発した。
「こんなものか……よし、みんな掃討戦に移行するわよ!」
サキのその言葉に四人は大きくうなずいた。
「カエデさん! 撃破数トップはもらいますよ!!」
アキはカエデに笑いかけた。すると、カエデも不適に笑って応ずる。
「ほほー、アキぴょんも言うよーになったねー。どれ、ここはひとつ先輩のちからってやつを見せてやりましょーか!」
ピンクと白いVarmは勇躍して戦場を駆け抜けた。
アキは、『チームヴァルキュリア』の面々とともに、数々のミッションをくぐり抜け、着実に実力をのばしていった。今日も彼女らは、ミッションを一つ終わらせて帰還したところだった。
『チームヴァルキュリア』の専用ロビー入り口に入室のサインがあって、人影があらわれる。
カエデとアキだ。
「うーん♪ 快勝快勝! やっぱ、撃破数トップのあたしのおかげだね。そーおもうっしょ? アキぴょん」
背伸びをしながら入室してきたカエデが、アキに声を掛ける。アキは、そうですね。と答えて苦笑した。つづいて、ユキナが入ってくる。
「ミドリさん、だいじょうぶですかね?」
アキはすこしマユを寄せながらユキナに尋ねた。
「心配ない。ミドリも撃破されるのは初めてではないしな」
「そーそー、ユキナやサキさんだって、やられたことあんだもん。心配ナイナイ」
軽い口調で答えるカエデの言葉を聞きながら、アキは先ほどのミッションを思い返していた。それほど難しいミッションではなかった。
だが、目標制圧時にミドリが不意を打たれて大破してしまったのだ。さいわい、大事に至らずにすんでいたが、用心のため、メディカルセンターでメンタルストレスの検査を受けているところだ。
メンタルストレスとは、V-ウォーズにおいてよく発生する軽度の精神障害のことだ。
もちろん、そんな危険のあるゲームが世間的に認められるはずがなく、専属契約プレイヤーが契約時になってはじめて知らされる重要事項の一つだ。通常はフェイルセーフシステムによって、撃墜時のストレスが発生する前にリンクアウトする仕組みになっている。
しかし、ミッションバトルではギリギリまで戦場にとどまれる。そうやって、残敵を掃討し、ポイントを稼ぐわけだが、ときおり待ち伏せをされたりしてヒドイ目にあうこともある。
今回のミドリがまさにそれで、きれいに罠にはまってしまった。
ミドリはチーム内でも一番、空中機動力を重視している。そのため、もっとも防御力が低いVarmを使用しているのだ。だから、火力を集中されると、あっというまに大破させられてしまう。軽量級ゆえの弱点だった。
アキたちが話し込んでいると、入室のサインがあってサキとミドリが入ってきた。
「すいません、みなさん。わたしのせいで……」
ミドリは、入ってくるなり謝罪し始めた。目標制圧によるポイントはカウントされているが、残敵掃討によるポイントを稼げなかったことを言っているのだ。たしかに、細かいポイントでもバカにできないものがある。
だが、カエデは思いっきり戦えたのでご満悦だったし、ユキナはポイントにこだわっていないので、軽く笑いかけただけだった。
このひと月でミドリと親しくなっていたアキは、彼女の無事な姿を認めてホッとしている。
「ミドリさんなんともないんですね?よかった」
アキはそう言いながら、ミドリのそばへ歩み寄った。その屈託のない笑みに、ミドリの表情も明るくなる。
「ありがとう、アキさん。心配かけたお詫びに、リンクアウトしたら、お食事をごちそうしますわ」
その言葉にカエデが色めき立った。
「ほんとー?! マジラッキー!」
つんざくような声の横で、ユキナがあきらめたように自分の耳に指をつっこんだ。
「カエデ、少しは静かにできんのか」
ユキナの言葉にカエデがキッとにらみつける。
「なによユキナ。うれしいときは、はしゃぐのがふつうの反応じゃない。あんたみたいに、なにがあってもお面みたいに顔が堅いと、モテないわよ。どうせ、アレのときだって、これっぽっちも顔がかわらないに決まってるんだから」
そこまで言われて、ユキナは真っ赤になった。
「なっ! ななななな! なにを言っている! おまえは! そ、そんな、は、破廉恥な話を!」
「あっれ~? あたし、いつ破廉恥な話したっけ~? あたしはアレって言っただけだけど~?」
「ぐ!」
ユキナは絶句した。
「や~~ん、ユキナってば、ムッツリ、す・け・べなんだからもうc」
カエデは、口に右のこぶしを当てて、やらしく笑った。その横でユキナは、真っ赤になりながらなにも言えずに、立ちつくしてしまった。
「はいはい、カエデ、悪ふざけはその辺にしておきなさい」
サキは頃合いを見て間に入った。
「次のミッションはまだ未定だし、たまには羽根を伸ばすのもいいわね。食事の件、わたしからもポイントを提供するから豪勢にやりましょ」
そう言って、ウインクしてみせる。
それを聞いたカエデはガッツポーズをとっていた。ユキナもまんざらでもない表情をしている。アキとミドリは顔を見合わせると、くすりと笑いあった。
「そんじゃ、お先に外でまってるね!」
そう言ったカエデの姿がかき消える。ついでユキナも無言のまま姿が見えなくなった。ふたりともリンクアウトしたのだ。
その様子を見ていたサキも、アキとミドリに、「さ、私たちもいきましょ」とうながしてリンクアウトした。
アキがそれに続こうとするとミドリが呼び止めた。
「どうしたんです? ミドリさん」
アキは不思議そうにミドリの顔を見つめた。
ミドリはすこし迷うようなそぶりを見せてから口をひらいた。
「アキさん。V-ウォーズ、楽しいですか?」
妙な質問だった。アキは奇妙な感覚を味わいながら首をかしげる。
「は、はい。楽しいと思いますけど……。あの、どうしてそんなことを?」
そう問い返され、ミドリは笑顔になる。
「いえ、なんでもないんです。なんでも……それより、もういきましょうか。きっと、カエデさんが待ちくたびれてますわ」
そう言うと、ミドリはリンクアウトしてしまった。
アキはなんとなく釈然としないものを感じつつそれにつづいた。
その夜は皆で、高級レストランで食事をとった。カエデが調子に乗りすぎて追い出されそうになったが、店員に平謝りしてなんとか切り抜け、そのままカラオケに移行してしまった。そのあいだ中、アキはミドリのことが気になっていた。ロビーでの話では何が聞きたかったのだろう。ストレートな質問ではなく、もっと深い意味があるような気がしてならなかった。
ミニパーティーが終わるのを待って、アキはミドリに聞き直そうとしたが、カエデの暴走によって、うやむやのうちにパーティーはおひらきとなり、そのままアキはカエデに引きずり回される羽目となった。
その後、トークフォンで連絡を取ろうと思ったが、夜遅くに迷惑だろうと思いなおし、結局、アキはミドリと話す機会を逸してしまった。
翌朝、目を覚ましたアキはメールが届いていることに気付いた。
「んー、だれからだろ」
未だしょぼつく目をこすりながらアキはぼやいていた。ホログラスのフレームを手にとり、リンクコントロールする。ホログラムビジョンが展開し、リストが表示される。
「? サキさん?」
メールはサキからだった。
『アキさんおはよう。朝早くからごめんなさい。実は急なミッションが入ったのよ。0900までにパークへと来てもらえないかしら。ほかのみんなには、わたしから連絡しておくわ』
メールの内容は以上だった。
アキは首をかしげていたが気を取り直して支度を始めた。このひと月で、さまざまなミッションを受けてきたが、こういうケースは初めてだ。
「なんだろ…ヘンな感じ……」
すこし不安ではあるが、遅れるわけにもいかず、支度を始めた。
ゆったりとした寝間着を脱ぐと、全身にピッタリフィットしたボディスーツにつつまれたからだが現れた。そこには十代後半の肉感よりも一層スマートなボディラインが浮かぶ。
手早くパレオを巻き、髪を簡易タイプの洗髪機に頭をつっこんで洗髪する。
同年代の異性には絶対見せられないような、あられもない姿だ。
そのまま、ヘアーセットシステムで髪を整えると、パーカーを羽織ってからポーチをひっつかんで、玄関に向かう。
「いってきまーっす!」
元気なあいさつは両親の耳に届いたかどうか、そんなことすら確認することもせずにアキはあわてて家を飛び出した。




