2ndステージ
小さく喜びを表しているアキの姿は、パーク内の巨大なホロスクリーンに大映しにされていたが、数人のプレイヤー以外は特に気にした風でもなかった。
「へぇ~、やるじゃない。ねーサキ、あの娘、うちのメンバーに入れちゃおうよ」
注目していたプレイヤーの中で一番背が低い少女が明るい調子で背後のポニーテールの女性に話しかける。話すたびに大きな動作をするのでクセのある栗色の髪がふわふわと揺れていた。
「そうね。でも、もうちょっと見てましょうか。まだ、バトルロイヤルは終了していないんだから」
そういって、ポニーテールの女性は画面に向かってあごをしゃくった。
すると、そのとなりに立っている、ポニーテールの女性より背の高い、長い黒髪の女性がそれに同調するようにうなずいた。
「まったくだ。ただのまぐれ、ということもあるし、性急に事をはこぼうとするのはよい事ではないぞ? カエデ」
そのたしなめる調子が、カエデのカンにさわったようだ。
「む。なによ、ユキナったら、すました顔して。あ~! わかった~。自分より背の低い子が入ってくると、自分がデカいのが目立っちゃうモンねぇ?」
そういって、口元を押さえながらふくみ笑いをしてみせる。
「なっ!? そっそんなワケあるはずがないだろう!」
ユキナは先ほどまでの落ち着いた様子とはうってかわって狼狽している。
だが、それも長くは続かず、顔を横にそらしながら視線だけをむけると、嘲笑するように言いはなった。
「ふん。おまえこそ困るのではないか?自分より背の高いのが増えると、一層際だつぞ?いや、だれが入ってきても一緒か。おまえより背がひくいのはクラス1の子供たちぐらいだからな」
それを聞いたカエデは食ってかかる。
「むっか~~! なによなによ!あたしたちの歳で身長が178㎝もあるのなんてユキナぐらいじゃないのよ! このデカおんな!」
「178㎝じゃない! 177.4㎝だ! 間違えるな! それに年齢の事をいうなら、おまえみたいに138㎝しかないやつだっておまえ以外にいるはずがなかろう!!」
「138㎝じゃない! 138.7㎝よ! ユキナこそ間違えないでよね!!」
じりじりとする緊張があたりを支配しようとしていたが、そこへ割ってはいる女性がいた。セミロングの黒髪を後ろで一本にまとめている。やさしい雰囲気の女性だ。
「もうやめてください。まわりの方々が見てますよ?」
その言葉を聞いたユキナとカエデは、周囲を見回し赤くなる。
それを見ていたセミロングの女性は、今どきめずらしいグラスタイプのホログラスの位置をなおして、ほほえんだ。
「はい。仲直りしましょうね」
そう言って、ふたりの手を取ると握手させようとする。
するとユキナとカエデがおもいっきりいやそうな顔をした。
それを見た女性の顔がくもった。その様子に気づいたふたりはあわてて握手する。
「ミ、ミドリ。仲直りする、仲直りするから、な?」
「うんうん、あたしもユキナの事、ゆるすから。ね? おちついて」
いままでのやりとりからは信じられないほどの、ひょう変ぶりだ。それを見たミドリはニッコリとほほえんだ。
「お二人とも仲直りしてくれたんですね。ありがとうございます」
ミドリがほほえむのを見てふたりはホッと胸をなでおろした。
そのさわぎも気にした風でなく、サキはホロスクリーンを見つめていた。
画面は、バトルロイヤルに参加中のプレイヤーたちに白いVarmが、じょじょに追いつめられていくところだった。それでも、その動きからは、まだ、あきらめの気配はない。
「うん。いい根性してるわね」
サキはそうつぶやいて笑顔になると、足早にカウンターへと向かった。
結局、アキは、トレーニングシートの無料貸し出し時間一杯まで、バトルロイヤルモードをプレイできなかった。十人ほどのプレイヤーに包囲されて袋だたきにされたのだ。それでも四人道連れにしたのだから、大したものだろう。しかし、アキ自身はくやしかったらしく、トレーニングシートの横でふくれっ面をしてぶ然としていた。
「なによなによ! 初心者相手によってたかって、大人気無いったらありゃしないじゃない!」
アキは一人で悪態をついた。すると、その背後に人影が現れる。
「それは、あなたが強かったからでしょう?」
とうとつに声をかけられたアキは、なにごとかと振り向く。そこには、一人の女性が立っていた。黒髪を高い位置で結ったポニーテールにしており、その先端は腰に届いている。背が高く、体つきがしっかりしている印象を受けるボディラインだ。ボディスーツは若草色で、パンツスーツにクリーム色のジャケット羽織っている。目つきがどことなく鋭さをかもし出しているが口の当たりの様子から察するに笑っているようだ。
プリティやビューティという形容では無く、ハンサムと言うのが似合いそうな女性だった。
アキが不思議そうな顔で女性を見つめていると、女性はバツの悪そうな顔になった。
「あ、ゴメンなさい。ぶしつけだったわよね。まずは、自己紹介から。わたしはサキ、新宮 サキよ。よろしくね」
そう言って右手を差し出した。それを見たアキは少し躊躇したが、「来島 アキです」と言って、サキの手を握った。
「あの…どういうご用件でしょうか」
アキは、すこし警戒しているようだった。
しかし、サキは笑顔を崩さずに話しはじめた。
「単刀直入に言うとね、スカウトに来たのよ。あなたを」
その言葉に、アキはきょとんとした。そういう事があること自体知らなかった。
「まず、わたしは『チームヴァルキュリア』のチームリーダーなの。いまメンバーはわたしを含めて四人いるのだけど、本来は五人でチームを組むのが通例なのよ」
それから十数分の間、アキはサキの説明を聞いていた。
アキは、企業どころか、政府までもが専属プレイヤーをもっているという事実に仰天したが、その中で生じたいくつかの疑問を、サキにぶつけてみる。しかし、その答えのいくつかは、釈然としないものであった。
アキはしばらく考え込んでいた。サキはせかすでもなく、答えを待っていた。やがて、アキは顔をあげると口をひらいた。
「すいません。しばらく……考えさせてください」
その言葉にサキは、軽くため息をつく。
「まあ、しかたないわね。急な話だったし……。でも、いい返事を期待しているわ」
サキはウインクをしながら、歩み去っていった。
「専属契約かぁ……」
アキは、ぽつりとつぶやいた。
たしかに、良い条件だったと思う。しかし、不透明な部分も多く感じられた。
アキはしばらく考えていたが、あまりにも突然すぎて、ショックを隠せないのが本音ようだ。
アキは、何かをふっ切るように、トレーニングシートのコンソールを操作すると、シートの貸し出し時間の延長を申し込んだ。
このまま、ここからゲームを再開できるのだ。
先ほどの敵を討つべく、アキはバトルロイヤルに乱入した。
「こんどは、負けないんだから……」
ちいさなつぶやきに、決意を秘め、アキはふたたび戦場に降り立った。
センサーの情報によれば、索敵可能圏に九体のVarmが存在している。そのなかの五体が連携した動きをしていることに、アキは気付いた。
「これって、チーム?」
そうこうしているうちに、四体のVarmの反応が消えた。
「強い……」
アキはぼう然とつぶやいた。わずか、三十秒ほどの間に四体のVarmが倒されたのだ。その五体のVarmチームが、自分に向かって接近してくるのをアキは感じていた。
「来る……!」
空中を飛翔するVarmが、牽制の攻撃を放ってくる。遠距離からの攻撃なので、当たるおそれはないが、動きは制限される。
そうこうしていると、前方から高機動型のVarmが二体突進してくる。
「くっ!」
アキは体勢を立て直すために、跳躍しようとしたが、その着地点に雨あられとミサイルが降り注ぐ。
「あああああーっ!?」
爆風の衝撃によって、バランスが崩れる。そこへ、白兵用のレーザーソード、『レイエッジ』を構えた高機動型のVarmが切り込んできた。
「しまっ……!」
閃く光の刃に、アキは目を閉じた。
しかし、斬撃による損傷警報は発生しなかった。
「?」
アキがおそるおそる目を開けると、目の前にモスグリーンの背中があった。
「だれ……?」
そうつぶやくアキに答えるように、モスグリーンのVarmがふりむく。ついで、コールがあった。
眼前のVarmからだった。
「だいじょうぶ? アキさん」
バイザーにちいさく映し出されたのは、サキだった。
「サキ……さん?」
ぼうぜんとするアキに対して、サキは軽くウインクすると、敵に対して一歩踏み出した。
レイエッジを持ったVarmの姿はすでになく、もう一体の高機動型は、黒い重量級のVarmにつかまっていた。見上げれば、ブルーのVarmが飛翔する相手側のVarmと空中戦を演じている。奥の方では重量級の支援機がピンク色の軽量型Varmにほんろうされていた。たがいにバラバラに動いているようにも見えるが、スキを見ては味方に援護攻撃を行っている。それも一見、目の前の敵に攻撃しているようにも見えるのだ。見事な連携である。
「す……すごい」
アキは思わずつぶやいていた。すると、サキが話しかけてくる。
「これが『チームヴァルキュリア』。わたしのチームメイトたちよ」
その顔はとても誇らしげだった。
だが、業を煮やしたらしい相手チームのリーダーが、レイエッジを起動すると、サキに向かって跳躍した。
「あっ、あぶな……」
アキのその言葉が終わらないうちに相手リーダーはサキに斬りつける。しかし、サキは最小限の動きで体をずらしてかわすと、腕をとりながら足をかけて倒す。そして、とらえた手をねじるようにして、レイエッジを背中に突き刺して押し込んだ。流れるような動きだったが、やってることはすさまじく恐ろしい。
それだけで、相手のVarmがかき消えた。損傷限界値に達したのだ。ほぼ同時に、ほかの三人もあいてを撃破する。
たった数十秒のことだった。自分一人では、おそらくやられていただろう。
「あ……ありがとう……ございます。でも、なんで助けてくれたんですか?」
お礼を述べたアキは素直に疑問を口にした。
サキは軽くほほえむと、「あなたに、チームプレイというものを知ってほしかったから……」と答えた。
そんな問答をしているうちに、まわりに黒と青、そしてピンクのVarmが集まってきた。
「サキさん、周囲に敵影は無いようです」
黒いVarmからおちついた声が聞こえた。さらに、コールがあって、バイザーにはじめてみる顔が三つほど並んだ。
「はじめまして、アキさん。わたしはミドリ。遠間 ミドリです」
ブルーのVarmが、かるく会釈する。そこへ、小柄なピンクのVarmが割り込んだ。
「ハァイ。あたし、山岸 カエデ。カエデでいーよ」
声もけっこう大きく、とても見た目につり合っているとは思えない。
ついで、黒いVarmが、進み出てお辞儀した。背が高いうえに、重量級のVarmなので、かなり威圧感がある。
「黒崎 ユキナだ。よろしく」
最後に、サキが進み出る。
「改めて、自己紹介させてもらうわ。わたしは新宮 サキ。よろしくね」
バイザーに映し出された顔はほほえんでいた。
みなに注目されたアキは、あわてて頭を下げる。
「くっ、来島 アキです。たすけてくれて、ありがとうございました」
それを見た、ヴァルキュリアの面々はクスリと笑った。
「?」
アキが不思議そうにしていると、ユキナが口をひらく。
「助けたというか、なんというかなんだがな。いま、あなたを襲ったチームは『チームセントール』という、初心者たたきをする悪質なチームなんだ」
その言葉にカエデが同調する。
「そうそう。まだ仲間もいない、腕もあまりよくない初心者をカモにしてポイントを稼ぐ、ひっきょーな連中でさぁ。その割には、連携とかしっかりしてるからハンパなチームだと返り討ちになっちゃうんだよね」
「ですから、彼らがエントリーするのを見て、あわててエントリーしたんです」
カエデの言葉を、ミドリが継いだ。そして、サキが口をひらく。
「わたしがアキさんのところに行っていた時だったらしくてね。出遅れたというわけ。ほかの子は倒されてしまったようだけど、アキさんだけでも無事で良かったわ。」
そんな彼女たちを見ていて、アキはうれしくなった。スカウトしようとした相手だから助けたのではなく、ゲーム内の非道を正そうとしているのがわかったから。彼女らはこのゲームを愛しているのだと。
「サキさん」
アキは、サキに声をかけた。
「正直、疑問はいっぱいです。不安もいっぱいです。でも、わたし、サキさんとなら、いえ、チームヴァルキュリアのみんなとなら、うまくやっていけるかもしれません。ですから……」
そう言うアキの頬は赤く染まっていた。げんきんだと思われたかもしれない、はずかしげもなくよく言えるとも思う。でも……。
そんな雰囲気が、アキの態度からにじみ出ている。それを感じ取ったサキは、右手を差し出した。
「これから、よろしくね。アキ」
その言葉に、顔をあげると、「はい!サキさん。そして、ヴァルキュリアのみなさん!」
そう答えたアキはニッコリとほほえみながらサキの手を握った。
こうして、アキは『チームヴァルキュリア』に入ることとなった。
そして、アキにとって、おもいでに残るその日から、約一ヶ月が経過することとなる。




