世界の外側
第3章 — 世界の外側
7. 誰も知らない痕跡
数日後。
リクトは街の外れで、壊れた武器を拾い集めていた。
そのとき、地面の崩れた場所に、古い地下通路を見つける。
街の人々からは、危険だから近づくなと言われている場所だった。
リクトは迷った末、通路の中へ入る。
奥には、壁一面に奇妙な模様が刻まれた部屋があった。
中央には、古びた剣が一本、石台に突き刺さっている。
剣には刃がなかった。
柄も朽ちかけている。
だが、リクトはなぜか目を離せなかった。
近づき、手を伸ばす。
指先が剣に触れた瞬間。
世界が止まった。
音が消える。
空気が凍りつく。
そして、リクトの目の前に、無数の光景が流れ込んできた。
剣を鍛える職人。
戦場を駆ける兵士。
家族を守るために剣を握った父親。
敗北し、地面に倒れた名もなき戦士。
誰にも知られず、誰にも称えられず、それでも最後まで戦った人間たち。
彼らの人生が、一瞬のうちにリクトの中を通り過ぎる。
だが、それは残響とは違っていた。
過去の技術が身体に流れ込むわけではない。
知識を得たわけでもない。
彼はただ、彼らが何を経験し、何を失い、何を守ろうとしたのかを感じ取っていた。
そして、その光景の中に、一つだけ異様なものがあった。
何も映らない、真っ黒な空間。
その向こう側から、誰かの声が聞こえた。
「……まだ、残っていたのか」
リクトは息を呑む。
「誰だ……?」
返事はない。
次の瞬間、すべての光景が消えた。
リクトは床に倒れ込む。
頭痛が襲い、鼻から血が流れる。
しばらくして、彼は震える手で身体を起こした。
目の前の剣は、何も変わっていない。
「今のは……何だったんだ……?」
彼には分からなかった。
ただ一つ、確かなことがあった。
あの光景の中には、歴史に名を残した英雄だけではなく、誰にも知られずに生きた人々の人生があった。
そして、自分はそれを感じ取ることができた。
8. 第1話のラスト
リクトは地下通路を出る。
空は明るくなり始めていた。
街では、人々がいつも通りの生活を始めている。
残響を扱える者たちは、今日もその力を誇り、扱えない者たちは、今日もその差を思い知らされる。
何も変わっていない世界。
だが、リクトの中には、言葉にできない感覚が残っていた。
彼は父親の手帳を取り出す。
最後のページを見つめる。
「見えているものが、すべてとは限らない」
そして、初めてその意味を考える。
自分には才能がない。
それは本当なのか。
残響が扱えない。
それは、本当に何も持っていないという意味なのか。
彼は空を見上げた。
「……もう少しだけ、確かめてみよう」
その目には、まだ自信も、希望もなかった。
ただ、ほんのわずかな疑問が生まれていた。
その疑問が、やがて世界のすべてを揺るがすことになる。
最後のコマ。
地下通路の奥。
リクトが触れた剣の表面に、誰にも気づかれないほど小さな文字が浮かび上がる。
「未記録個体、確認」
そのさらに奥。
暗闇の中で、誰かが目を開く。
「……ようやく、始まったか」




