表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い通訳者たち  作者: 久遠レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/35

第六章 その後のさざ波


 翌日、施設は封鎖された。

 発表はない。リークもない。ニュースは静かだ。静けさは、国家が何かを抱え込んだ証拠になる。

 隔離区画のガラス越しに、AO系列は普通に食事をしていた。

 食器の音がする。咀嚼の音がする。

 人間と同じ音。人間と同じ生活。

 それが余計に、いま起きたことの異常さを際立たせる。

《アオ》が言った。

「あなたは止めた。止めきれなかった」

 佐伯はうなずく。

 止めきれなかった、という事実は、責任の外に出ない。

「あなたがたは到達を急ぐ。だが到達には、あなたがた自身の形を変える必要がある」

「形を変える?」

「国家という形。軍という形。研究という形。倫理という形。全部だ」

《アオ》は淡い声で続けた。

「あなたがたは、私を落として拾った。私は情報提供者だと言った。だが本当の情報は、技術ではない。あなたがたの矛盾そのものだ」

 佐伯は記録を取らない。

 この瞬間だけは、ログにしないほうがいい気がした。

 ログにすると、国家が“扱える”形にしてしまうから。

 廊下で大佐とすれ違う。

 大佐は、昨日より少しだけ老けて見えた。国家の顔から、人間の顔が覗く。

「先生」

大佐が珍しく先に声を出す。

「……彼らは、兵器になるか」

 佐伯は即答しない。即答は危険だ。即答は、相手に使われる。

「兵器にしたいなら、兵器になります」

「なら——」

「でも、兵器にした瞬間、あなたがたは到達しません。彼らがそう設定しました」

 大佐は口を閉じた。

 国家は、負けるときに黙る。負けるのが嫌だからではなく、次の扱い方を探すからだ。

 さざ波は続く。

 研究者の間に。軍の間に。委員会の紙の上に。

 そして何より、AO系列の生活の中に。

 青い皮膚の彼らは、今日も同じ白い部屋で暮らす。

 人間と同じ食事をし、人間と同じ時間割で眠り、同じように監視される。

 ただひとつ違うのは、彼らが“知っている”ことだ。

 到達より先に、到達が壊すものを知っている。

 佐伯はその知性を、数値で呼びたくなかった。

 IQ一〇〇〇、という札を貼った瞬間、札だけが独り歩きする。札は荒れやすい。

 だから彼女は、別の名前で呼ぶことにした。

 扱いの言葉ではなく、生活の言葉で。

 ——通訳者。

 宇宙と国家と科学のあいだで、

 壊れやすい合意を、毎日更新する者たち。

 合意が揺らぐたび、記録と期限で揺れを抑える者たち。

 その積み重ねが、いつか臨界に達するかは分からない。だが佐伯は知っている。

 大波になる前に、必ず誰かが言う。

「時間がない」と。

 そしてその言葉が、いちばん危険だと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ