消えたフレデリック殿下
「シルヴァーレイス、具合はどうだ?」
好物の虹色チューリップを口元に持っていきながら、その日は彼女の様子を見に来ていた。
シルヴァーレイスは、潤んだ目で虹色チューリップを食んでいる。
「…まだ調子が悪そうだな。」
すると彼女の調教師のギャレットも心配そうに近寄って来た。
「容体が思ったより芳しくなくてねえ、医師は安静にしていればすぐに治ると言っていたんだが、魔導士や錬金術師にも掛け合うことも選択肢の中に入れた方がいいかもしれないなあ。」
魔導士や錬金術師。
回復術を扱えて、幻獣が診られる人は、医師よりも高度な技術が必要なため、馬主の金銭事情を考えたら現実的ではない。
もちろん、私の懐事情では到底どうにかなる額では無さそうだ。
転倒した際、馬主の商人に謝罪に行ったところ、彼らは私やシルヴァーレイスのことを心底心配してくれて、心から彼らの力になりたい、と思っているのだが、シルヴァーレイスの容体が思ったより回復が遅い。
彼らとも相談し、シルヴァーレイスについてはまだ様子見することで馬主とも合意が取れているが、休んでいる間は高価な虹色チューリップを餌として消費し続けるのに加え、ギャレットに世話になる代金も払い続けなければならない。
その間、賞金はゼロ。即ちシルヴァーレイスが復帰しない限り軍資金は引かれるばかりだ。
この先のことを思い悩んでため息をついていたところ、慌ただしい様子で高身長の青年が厩舎にかけこんできた。
ブラックヴェッセルの調教師のセドリックだ。
いつもは冷静でクールな顔つきの彼が、その顔に似つかわしくなく、焦りを前面に出していた。
「王子は!?フレデリック殿下はこちらへ来ていませんか!?」
なにやら只事では無さそうな様子に、私の胸もざわつく。
「セドリック調教師、落ち着いてください。一体何があったんですか?」
セドリックを落ち着かせて話を聞く。
「申し訳ございません。私としたことが取り乱してしまい…。」
彼は、咳払いをし、一旦深呼吸をする。
「殿下が、フレデリック殿下が一昨日の狩りから帰って来られないのです。ブラックヴェッセルの様子でも見ているのかと思いきや、王宮でも誰も見かけておらず…。一緒に出かけられた第二王子ユリアン殿下は戻って来られているのに…。」
第二王子ユリアン。ついこの間、フレデリック殿下から聞いた名前だ。
胸騒ぎの原因が明らかになってくる。
「ユリアン殿下に聞いてみたところ、フレデリック殿下は先に戻られたと聞いたのですが、どこにもいらっしゃらなくて、てっきりリア騎手に会いに来ていると思ったのですが、違ったなら仕方がない…他を当たります。」
彼が、すっかり肩を落として回れ右をしたところ、彼の背中に話しかける。
「セドリックさん、私がフレデリック殿下を探してきます。妖精の森はまだ探しに行っていないのですよね?」
セドリックは口ごもった。
「ええ、ですが…、あそこは危険な魔物が出ます。護衛に勇者や傭兵をつけなければ。貴方はユニコーン競馬の騎手ではありますが、剣も魔法も使えないのでしょう?私が兵派遣の手配をするか、ユリアン王子にかけあってみますので、貴方は次のレースに集中してください。」
彼の言うことはごもっともだった。
しかし、フレデリック殿下には窮地を救ってもらい、ブラックヴェッセルに乗せてもらった恩がある。
それに、共に掲げた目標もある。
ここで引き下がれるほど、私は落ち着いていなかった。
「私には剣も魔法もありませんが、心強い相棒がいます。派遣を待つのにまた数日かかりますよね?私がブラックヴェッセルに乗ってくれば、すぐに駆けつけられます。行かせてください。」
セドリックは冗談じゃない、と目を丸くした。
「お待ちください!リア騎手。妖精の森までには通常の馬でも丸1日駆けなければ着けないほどの場所。貴方のような旅慣れていない方が行くのは危険すぎます。それに、コースではないところにユニコーンを連れていって、ユニコーンを狙う輩にでも狙われる危険も…。」
セドリックが、あれもこれもと危険を並べるのを他所に、私は彼が乗ってきた馬車に乗りこみ、ブラックヴェッセルのいる王族の厩舎へと急ぐ。
彼も主人のいないことを心配し、今起こっている事の重大さを分かっているのか、厩舎の柵の中でウロウロ回っているのが見えた。
「ブラックヴェッセル!行くぞ!」
私が声を掛けるや否や、待ってましたと言わんばかりの勢いで彼が飛び出してくる。
私が彼に飛び乗ったときに、ちょうど厩舎の入り口に、いつか見た、フレデリック殿下とそっくりの青年が立っていた。
あれが、第二王子ユリアン―。
「この出来損ないの汚らわしいユニコーンは、やはり不吉の象徴なのだよ。」
彼がブラックヴェッセルに投げた一言と、そして、フレデリック殿下を危険に晒している張本人を前に、私は正気でいられる自信が無かった。
「どけッ!お前のせいで…!フレデリック殿下が!」
彼は目を丸くして突っ立っていた。
おおよそ一国の王子にかける言葉ではなかったし、戻って来た時に首を刎ねられるかもしれなかったが、今の私にはそんなことはどうでも良かった。
こんな男、いっそのことブラックヴェッセルに蹴られてしまえ!
オロオロするユリアンを尻目に、私はブラックヴェッセルの腹を勢いよく蹴った。
ブラックヴェッセルは厩舎中に響き渡るほどの大きな嘶きを上げ、勢いよく地面を蹴り上げる。
颯爽と王宮の敷地を抜け出し、妖精の森へと駆けていく。
今は彼に構っている暇はない。
早くフレデリック殿下を探しださねば!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
果たして彼女とブラックヴェッセルは、無事に殿下を救い出すことができるのか……!?
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