第1話 家督承継
第1章 古代編
「俺は嫁取りもしねーし、子どもも作んねーから、俺になんかあった時の跡目は速勝彦で決定な」
火草刈屋敷の大広間で郎党を呼び集めて宣言した。
結構な人数が逃げたはずなんだが、意外に多い。
半分以上は見覚えの無い新顔だ。
今のところ、負けなしのウチだが、暇さえあれば身内で殺し合いするのが家風の火草刈家に寄って来るなんて、皆、頭のイカれた野郎どもに違いない。
生意気にざわつく奴らが居たので、片膝立てて「あぁん?」と凄んで見せたら、「火宅」からパチパチ火の粉が舞い散り始めて、皆、静かになった。
まあ、いいかと思って胡坐をかいて座りなおしたら「火宅」も静かになった。
胡坐をかいた膝の上に寝かせてた速勝彦がグズり始めたので乳母に連れていかせたところで、最前列に居た大叔父が膝行り出てきた。
相変わらず酒臭えなと思いつつ、発言を許可した。
「坊、今、ワシらがデカい顔できるのは、坊が手あたり次第に暴れ回っとるからじゃ。坊が睨みを効かせて、坊の血を引く子が、また手あたり次第に暴れ回るようにならにゃあ、火草刈は寄って集って袋叩きじゃで」
ああ、だから嫌なんだよ。
ここら一帯の破落戸どもを足腰立たねーようににしてから、何の恨みも買ってない速勝彦に跡目を譲るんだ。
「今日はこれで、お開きだ。皆、出ていけ。叔父貴は残ってくれ」
皆、動きは鈍い。
試されてると思ってるんだろうな。
大叔父に同調するべきか。
それとも俺が起こすかもしれない癇癪の尻馬にのって、叔父貴を血祭りにあげるのを手伝うべきか。
イラついて床板を殴ったら、皆、慌てて出て行った。
床に穴が空いた。
どうしよう。なんか敷いて隠すかな。
「なあ、叔父貴、アンタは御先祖様達の末路を知ってんだろ。俺や俺の血を引いた子じゃあ、どうなるか分かってるだろうに」
「もう、どうにもならん。燃えながら進む。呪われながら殺す。坊は「縁」を結んだ相手を半殺しにして言うことを聞かせる。そして、坊の子も「縁」を結んだ相手を半殺しにして従える。火草刈は「火宅」に飲み込まれとる。いつかは滅ぶにしても、その日が来るまでは、そうするしか、ありゃあせんがの」
火傷で引き攣った右半分の顔が疼く。
「火宅」が焦げ臭い。
俺がイラつき始めると家人は皆、逃げていくのだが、酔いの回った叔父貴は気が付かないのか、それとも、焼け糞なのか、動じる気配はない。
「血の気の多い奴、悪知恵が働く奴は皆、俺がヤキを入れる。全員残らずだ。その後、まだ俺がフラフラ、その辺を歩き回ってたら、血の気の少ない奴も、頭の鈍い奴も、俺に追い込まれるんじゃねーかとビビって、おかしな気を起こす」
焼けただれた顔を右手で撫でる。
右手も火傷のせいで指が癒着してしまっているので、物を掴むぐらいは出来るのだが、箸を使うような繊細な動きはできない。
だから拳骨で摩る。
「あらかた、目につく奴にヤキをいれたら、俺はバックレる。俺に半殺しにされて生口にされると分かってて「縁」を結ぶ家があるかよ。負い目の無い速勝彦に跡目を渡して手仕舞いを狙うしかねーだろ」
「縁組なぞ、どうにでもなるわい。目ざわりな家の娘を攫って妻にすればよい。息子がおれば捕らえて養子にでもするか」
叔父貴、アンタの方がよっぽど「火宅」の持主に相応しいよ。
「なあ叔父貴、これから一緒に焚き火しようぜ」
酒臭い割には素早い足取りで大叔父は広間を出て行った。
帰って良いって許可してねーんだけどな。
誰も居なくなった大広間で伊岐里彦は溜息を吐いた。




