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ちゃんちゃん焼き。

「ふぅ……なんとか間に合ったわね!」


アクアマリン領ができて一年。


この一年は、今までの一年よりも早く過ぎていった。


寂れた宿場町もなんとか形になり、貴族の人たちを呼んでも問題ない程度には復興してきていた。


機関車も無事開通し、王都までの行き来も早くなったため、今回のパーティーには国王陛下夫妻も参加してくれるそうだ。


「本当ですね。始めは間に合わないのではないかと思いましたが、何とか形になったようで良かったです。」


フィリベールと一緒に温泉街を歩きながら、問題がないか確認をしていく。


正直、時間がなかったから工事が間に合ったのは表通りだけだ。


裏路地などは来年以降の課題になってくるだろう。


二人で歩いていると、行き交う領民たちが笑顔で声を掛けてくれる。


一年前は皆が笑顔で声をかけてくれるようになるなんて思ってもいなかったけど、少しでも皆が前を向いて歩いてくれているのであれば嬉しい。


まぁ、まだレイナという元凶が残っているんだけど……。


「明日のパーティーですが……ほとんどの領地の貴族が来る予定です。例の領地の貴族もですね……何もしでかさなければ良いんですが。」


例の領地……。


アパタイト男爵、オパール子爵、カイヤナイト男爵が来るということだ。


フィリベールは無事にパーティーを終えたいのだろうけど……そう上手くは行かないことを私はよく知っている……。


だから、今回はあえて貴族たちを集めたのだ。


「そう……。皆来てくれるのね!」


「寧ろ……逆にしでかしてもらいましょう!」


「因みにアレキサンドライト国はどうなっているの?」


出来ればアレキサンドライト国の国王と、第三区子が来てくれると……ステラのことも含めて話ができるから早いんだけど。


「それなら大丈夫だ。アレキサンドライト国の国王には父上からも手紙を送ってくれたからな。」


フィリベールに話しかけたつもりが、全く違う方向から声が聞こえてきた。


「やぁ、ディーナにフィリベール。久しぶりだね。二人とも元気そうで良かったよ。」


「え、エリーにラルフお兄様!」


確か二人は明日来る予定だったはずだけど……ラルフお兄様のゲンナリした顔を見るに、エリーが押し切ってきたということか……。


「二人とも早かったですね! 明日来る予定ではなかったですか?」


二人に駆け寄ると、ラルフお兄様はいつものように頭をポンポンと撫でてくれる。


もう二十歳を超えた大人なのだが、ラルフお兄様はいつまで子供扱いしてくるつもりなのだろうか……。


「俺が、どうしてもディーナに会いたかったんだ。それと二人には確認したいことがあってね。」


会いたいって……。


それは恋人でも作って、その人に言ってあげて欲しいものだわ。


「そう。取り敢えずその話は後で聞くとして……ギョルマーさんからとても立派なサケを貰ったから食べながら話さない?」


「これからちゃんちゃん焼きを作る予定だったのよ! ね、フィリベール!!」


フィリベールに話を振ると、少し目を逸らしてから「そうですね……」と返してくる。


さっきまで、「ちゃんちゃん焼きとは何ですか!?」「早く食べましょう!」とか言っていたのが嘘みたいだ。


エリーはエリーでずっと作り笑顔のままだし、ラルフお兄様はずっと関わりたくないというような顔をしているし……。


そもそも確認したいことってなんだろうか……。


特に何かやらかしたつもりは……無いはずだけど。


今何か考えても話は進まないだろうと思った私は、この雰囲気をぶち壊そうとちゃんちゃん焼きを作ることにした。


今回のちゃんちゃん焼きのため――というより、これからよく使うことになると考えた私は、鉄鉱石を使って鉄板を作ってもらった。


なので今日は邸の外に出て、みんなで楽しく食べる予定だ。


子供たちも久しぶりにエリーに会ったからか、嬉しそうな顔をして駆け寄っていく。


シリウスはまだ赤ちゃんだから何も分かっていないようだけど、リゲルはお兄ちゃん達の真似っこをしているようで、ゆっくり後を付いて行った。


エリーも子供たち皆を抱き込んで楽しそうだ。


エリーは結婚したら子煩悩になりそうだなと思いながら皆の様子を眺める。


エリーが結婚か……。


そろそろ結婚してもいい歳なわけだし、婚約者くらい居そうな歳だけど、そんな素振りは全然ない。


ただ、もしエリーが結婚するとなると簡単には会えなくなるだろう。


そう思うと少しだけ胸の奥がチクリと傷んだ気がした。


「あら……サケの骨でも引っかかったかしらね……。」


子供たちとエリーが戯れているのを眺めながら、私はちゃんちゃん焼きの準備を始めた。


まずは魚を捌いていくところからだ。


今回はかなり大きいため、半身を二つの鉄板で分けて食べる予定だ。


今回はフローライト家だけでなく、ホワイトベリル家もいるため、かなりの大所帯だから食べきれるだろうと思っている。


鱗を包丁の背でガリガリと取ったら頭を落として、腹に切り込みを入れる。


「頭は、今回はカマ焼きにしましょう!」


「塩をまぶして大根おろしで食べたら絶品だと思うわ!」


頭を料理長に渡すと、もう一つ別で用意した網の上で焼き始めてくれた。


続いて、内臓をきれいに取り除く。


よく見てみるとお腹が膨らんでいるなと思っていたが……まさかのイクラがたくさん詰まっていた。


「こ、これは本当にいいサケね!」


「産卵前だから一番脂がのっているときじゃない。」


「いくらもあとで醤油漬けにして、ご飯の上にのせて食べたら最高だわ……。」


まさか、いくらまで食べれるなんて……最高だわ……!


あとでゆっくり作ろうと料理長に氷室へ持っていってもらうと、その間にサケを三枚におろした。


後は酒に塩コショウをふって、バターをひいた鉄板の上で焼いていく。


今回はキャベツと玉ねぎ、にんじんを用意した。


本当はキノコがあればいいんだけど……この辺りは今後サンリードさんに頼んでみてもいいかもしれない。


「あとは、たれをかけてサケに火が通ったら、身をほぐして野菜と混ぜて完成よ!」


たれは味噌と、お酒、それに砂糖を使った。


やっぱりこうやって考えると、味醂がないのが痛い……。


早急に作ることを考えよう……。


どんどんいい匂いが漂ってきたためか、散っていた人たちが私の周りに集まってくる。


「ちゃんちゃん焼きができましたぁ~!」


「さぁ、皆さん好きなだけ召し上がってくださ~い!」


皆が食べ始めると、すごくいい笑顔を見せてくれる。


どうやら皆の味にあったようだ。


私も熱いうちに食べ始めようと、ふぅふぅしてから口の中にいれた。


「ん~~~!!! おいしい!」


「やっぱりお酒が欲しくなるわね!」


試飲会まであと一日。


今度は晩酌しながらちゃんちゃん焼きが食べれますように……。

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