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おつまみに焼き鳥は欠かせません。

「今度は何をするんですか……?」


大根の漬物と梅干しができてから、試飲会で出す料理を考えていた。


唐揚げに、枝豆、おにぎりと漬物、それに魚の干物を出すことにしているが、どうも物足りない気がする。


試飲会当日は立食パーティーになるだろう。


そうなった時、干物を出すというのはちょっと違う気がした。


「干物は皆にお土産で持って帰った方がいい気がするのよ。」


「ほら、立食パーティーで干物ってちょっと違うじゃない?」


どちらかと言うと、軽くパクリと食べる訳ではなく、ガッツリご飯と一緒に食べたい物だ。


「そうですね……確かに一口サイズで食べれるかと言ったら、そうではないかもしれません……。」


お酒と一緒に食べて間違いないのは分かっているだけに残念ではあるけど……。


一口で食べれて、立って食べても問題なさそうなものを考える……。


お酒と一緒に食べていたもの……。


タコの唐揚げ。たこわさ、あん肝、ししゃも、モツ煮に冷奴……お刺身。キムチ……手羽先に餃子……チヂミ……。


〆はラーメンを食べて……。


あぁぁぁぁ~出来れば全部食べたい!


考えるだけで涎が出てくるけど……でも試飲会で出せるのはタコの唐揚げと餃子くらいだろうか。


んー……それにしても何か忘れている気がする。


しばらく考えていると、すっかり忘れていたあるものに気がついた……。


「そうだ! すっかり忘れていたわ!! 焼き鳥よ!」


急に私が大声を出したからか、フィリベールがびくりと揺れた。


この世界で鶏肉はいちばん食べられているお肉だし、貴族も皆馴染みのあるものだろう。


それに醤油と砂糖、お酒もあるから焼き鳥のタレも作れる。


出来れば味醂が欲しかったけど、そちらについては今後作ることにしよう。


「ふふふ……秘伝のタレは無いけど、ある程度似せることは可能だわ。」


「それに、塩も欲しいし……一度作ってみるのもいいかもしれないわね。」


私は早速、鶏肉と竹串を準備してもらって焼き鳥の試作をはじめた。


焼き鳥といえば……ねぎま、と鶏モモがオーソドックスだろう……。


勿論この二つを外すつもりは無いが……。


「やっぱり鶏皮とつくねも外せないわね。あとはレバーとかだけど……」


正直、この世界で内臓系を食べるのは衛生面上不安がある。


ここは敢えて、ねぎま、鶏モモ、鶏皮、つくねの四種類にしておくのがいいだろう。


私が自分の世界に浸っていると、後ろから肩をトントンと叩かれた。


「ごめんなさい。今とても忙しいから、後にしてちょうだい。」


何を作るかずっと考えていると、もう一度肩を叩かれる。


今そんなに急いで何かしなければならないこととかあっただろうか。


いや……そんなはずはないはずだ……。


全て昨日のうちに、やらなければいけないことは終わらせていたはず……だ。


「もう! 何よ! 今じゃなきゃダメなことなの!? 今忙しいから後にしてって言っているじゃない!!」


自分の時間を邪魔されたことに少し腹を立てて後ろを振り返ると……その後ろには満面の笑みを浮かべたフィリベールが立っていた。


「あぁ~やっと聞こえたようですね。私の声が……。」


「いやぁ、その耳は飾りか何かかと思ってしまいましたよ!」


「それで、その焼き鳥とやらは何ですか?」


「他にも色々と知らない名前が出てきたんですが……それらはもしかして試飲会で出す料理ということでしょうか……。」


「ひゃ……ひゃい!」


フィリベールの迫力に、思わず噛んでしまった。


「そうですか。」


「因みに試飲会まであと一ヶ月もないんですが、それは準備ができるから色々と考えられているんですよね?」


これは要約するに、


『時間がないんだからちゃんと考えないと殺すぞボケが!』


と言っているんだと思う。


勿論、焼き鳥とタコの唐揚げ位であれば準備は可能だが……他のものになってくると難しいだろう。


「え……えぇ、もっちろんよ!」


「準備もできるし……何だったら予行練習だって出来ちゃうんだから!」


「へぇ~……そうでしたか。」


「では丁度明後日。フローライト家とホワイトベリル家が全員集まる日ですから、その日にご相伴にあずかりたいですね……。」


明後日……これはフィリベールからの挑戦だ。


『やれるもんならやってみろよ!』


という副音声が聞こえてくる……。


しかし料理に関して負けるわけにはいかない私は、売り言葉に買い言葉で「わかったわ!」と返していた……。


***


なんだかんだジェラルディーナと一緒にいるようになって二年以上の月日が流れた。


初めは興味本位で始めたジェラルディーナの側近だったが、今ではあっちこっちに行かされ、かなり振り回されている。


それをフレデリクに伝えたところ、フレデリクは笑いながら返してきた。


「フィリベール。ジェラルディーナといるってことは、他の女性よりも倍以上労力がいるんだ。」


「私も初めはこれが普通なんだろうと思っていたんだが、エルミーヌと一緒にいるようになってから全然違うことに気が付いたよ。」


「だからフィリベールがジェラルディーナの側近になると聞いたときは吃驚したもんさ。」


ジェラルディーナの兄自身が、妹といると疲れるっていうのが何とも言えないが……フレデリクは「これが普通」とでもいうように当たり前に行動しているのだからすごいものだ。


しかし、それでも一緒にいて何をやっていくのか見てみたいと思うのだから、私も私で大概なのだろう。


そして、ジェラルディーナが急に焼き鳥を作ると言ってから数日。


本当に作れるように準備をしてきたのだから、ジェラルディーナの本気度がうかがえた。


「フィリベール! 勝負よ。私、貴方においしい焼き鳥を食べさせてあげるんだから!」


それだけ言うと、庭に色々準備をしていくジェラルディーナ。


石を上下において、中央が空いている状態を作っていく。


中央には炭火が入っているようだ。


そして山間の町で作ってもらったであろう細い串を手に持ち、もも肉と長ネギを交互に刺していく。


それとは別に、もも肉のみの串や、お団子がついた串、それと見たことがない少し薄くて弾力がありそうな部位を串に刺した。


「これは一体……。」


「これはね、鶏もも肉とネギが間に入っているから、ねぎまっていうの。」


「こっちのは鶏もも肉だけね。」


「それとこのお団子みたいなのは、つくねよ!」


「そして最後のは、鶏皮……この鶏皮がねぇぇ、焼き鳥には最高なのよ!」


串に刺した肉をタレの入った瓶に入れていき、パチパチと音が鳴る火の上に串を並べて行った。


「さっ、これであとは焼くだけよ。」


暫く焼けていくお肉を見ていくと、段々と焦げ目がついていい匂いがしてくる。


タレが焦げた匂いだろうか。


これがまた食欲をそそる。


私以外にもこの匂いに気付いた子供たちが、「ままー!」と言ってジェラルディーナに近づいて行った。


そしてそれからしばらくすると、串をひっくり返してからハケを使ってタレを再度塗っていく。


この匂いがたまらなく……お腹がぐぅ~っとなった。


「フフフ。この匂いは食欲をそそられるわよね~。」


「さっ! できたわよ。」


ジェラルディーナは焼き鳥を私に渡すと、「さっ! 温かいうちに召し上がれ!」と言ってどや顔をしてくる。


この顔に負けたくないと思いながら……食べてみると……。


醤油の焦げた匂いが鼻腔をくすぐり、口の中には甘塩っぱい味が広がってすごくおいしかった。


「う……うまい……」


私の声が聞こえたのか、満面の笑みを浮かべた。


「ふふふふ。でっしょぉぉぉ~!」


「今日の日のためにタレを作るのに時間をかけたのよ。」


「それと、つくねには軟骨を細かく入れて、食感も楽しめるようにしたの。」


今日のために時間のない中で色々考えて作ってくれたのが、なんだか嬉しかった。


きっとこういった所がエリオット殿下の心をわしづかみにするのだろう。


……まぁ、理解できなくはありませんが。


「えぇ……完璧だと思いますよ。これで一品できましたね。」


それから必死に焼き鳥を焼き続けるジェラルディーナの姿が、貴族の令嬢には一切見えなかったのだが、それはここだけの秘密にしてやろうと心に決めた。

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