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初夜をすっぽかされたと思ったら、崩壊寸前の公爵家と夫の隠し子を押し付けられました 〜旦那様は公爵家がいらないようなので、私がいただいても構いませんよね?〜  作者: ゆずこしょう
ジェラルディーナ・アクアマリン・スフェレライト。

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やっぱりここは干物づくりから。

「ジェラルディーナ。まだ時間がかかりそうでしたら、私達も仲間に入れていただきたいのですが……。」


正直、話すのが楽しくて、フィリベールたちの存在を忘れていた……。


私は自分の後ろに立つフィリベールの声音が、いつもより低くなっていることに気付き、怒っているというのが伝わってくるお陰で、後ろを向くことができずにいた。


ギョルマーさんたちからはフィリベールの顔が見えるのだろう……。


先ほどまでの楽しそうな雰囲気は一切消えて、どんどん顔が真っ青になっていく。


「ジェラルディーナ……もしかして私の声が聞こえていないのですか?」


「いやいや……そんなはずはないですよね。先ほどまでそちらのご老人と仲良さそうに会話をされていたんですから……。」


話している内容までは聞こえていなかったのだろうが、ずっとこちらを見ていたんだろう。


私は小さくため息をついてから、意を決して後ろを振り向いた。


「フィリベール……べ、別にあなたたちの存在を忘れていたわけではないの……ただ、話すのに……その……」


イケメンが無表情でこちらを見ていると、いつも以上に怖く感じるのは気のせいだろうか……。


いや、フレデリクお兄様やラルフお兄様が怒ったときもかなり怖いから、気のせいではないはず……。


ここは正直に謝った方がいいと思った私は、「ごめんなさい。」と謝った。


「……ハァ。まぁいいでしょう。」


「それで話は進んだんですか? これから何をするかも含めて、すべて書き記しますので話してください。」


フィリベールは紙とペンを取り出した。


「そうだったわね……。」


「ギョルマーさん。これから一緒に始めていく事業の一つとして、“干物”と“一夜干し”というものを始めてみたいと思います。」


「手始めに……時期的にもちょうどいいと思うし、アジの干物、イカの一夜干しから作っていこうと思うの。」


干物の作り方は簡単だ。


まず塩水を用意する。


アジや魚の大きさによって変わってくるが、大体塩度は八~十%くらいがちょうどいい。


海水が大体四%くらいだから、その倍以上の塩っぱさが必要になってくる。


「塩水を用意したら、アジの腹を開くわ。」


「開き方については後で図面にして伝えるから安心して頂戴。」


焼き魚でしか食べたことがないということは、魚を捌いて食べるという習慣がない気がする。


アジをさばいた後は、先ほど作った塩水に、一時間くらい漬け込む。


「漬け込んだ後は、軽く水で洗ってね。」


「そして洗った後は魚の水分をしっかりとって、アジを陰干ししていく。」


「陰干しというのは、日の当たらないところに干していくということね。」


干す時間は魚の大きさによるが、四時間から六時間くらい。


「ポイントは身が乾いているかどうか……っていうことかしら。」


「もしアジがあるようなら、一度実践してみるけど、どうする?」


丁度今日の漁でアジを獲ってきたということだったので、イカとあわせて実践して見せた。


「イカの下処理も覚えたら難しくはないから。」


「ちょっと面倒なのは胴の下処理くらいね。」


そういうと、ちゃちゃっと魚とイカを捌いていく。


前世で魚は嫌というほど捌いてきたし、イカも買うときは一尾で買うことが多かったから、捌くのには慣れている。


私がどんどんさばいていくと、


「お~!」


とか、


「魚の中はこんな風になっていたのか~」


とか、


「イカに中身ってあったんだな~」


とか、いろいろな声が聞こえてきた。


「ここまで終えたら、水をくぐらせて干すだけよ。」


「そうね……今から干したら明日の朝にはできていると思うから、皆朝ここに寄ってくれるかしら。」


「漁に出る前に皆で試食タイムと行きましょう。」


外に干すと、今日は解散して、また明日の朝ここに待ち合わせることになった。


***


こんな男性しかいないところに、堂々と寄ってきた女を見たときは吃驚した。


話を聞いていけば、まさかの新しいここの領主と言うじゃないか……。


領主が変わったという話は風の噂で聞いていたが、まさか若い女性に代わるとは誰も思っていなかっただろう。


儂たちのところに近づいてきた新しい領主の名は、ジェラルディーナ・アクアマリン・スフェレライト。


長すぎて言いにくいから嬢ちゃんと呼ぶことにしたが、一切嫌悪感を見せることなく、嬢ちゃんと呼んでも怒ることはない。


そしてもう一つ吃驚したのが、魚についてすごく詳しいということだ。


魚と言えば、貴族にも人気がなく、収穫したところで食べる人は少ないため、廃棄してしまうことが多かった。


そんなとき、嬢ちゃんは魚を使った新たな特産物を作ろうと言い出したのだ。


魚を普段から食べていればおいしいというのは分かるが、初めて食べる人には勇気がいるだろう。


それを特産物にするとは……すごい踏み切ったことをする嬢ちゃんだなと思った。


嬢ちゃんはサクサクとアジの干物とイカの一夜干しとやらを作り、また明日会う約束をして今日は解散となった。


そして翌日。


早めに来たつもりが、すでに嬢ちゃんとその従者とやらが来て色々と準備をしていた。


遠くからでも香ってくるいい匂い。


パチパチと音も聞こえてくるから、恐らくアジとイカを焼いているのだろう。


儂のことに気付いた嬢ちゃんはこちらに手を振って挨拶をしてきた。


「ギョルマーさーーーん! おはようございまーーーす!!」


本当に変わった嬢ちゃんだ。


まるで領主という感じがしない。


ただ、その方がこの町には合っているのかもしれないな。


なんだか一緒に頑張っていきたいと思わせてくれるような嬢ちゃん。


これからきっとアクアマリン領は大きく変わっていくのだろう。


その歴史的瞬間に自分が立ち会えると思うと、少しばかり嬉しくなった。


「嬢ちゃん、おはよう。」


手を振り返す。


それに満足したのか、また魚に目を移した。


「待ってました。ギョルマーさん。」


「これがアジの開きと、イカの一夜干しです。」


「それと魚にピッタリの、おにぎりを用意してきました。」


「それと、魚のあらがありましたので、あら汁も作ってみたんです!」


儂の方に、おにぎりの入った皿とアジの開き、それにイカの一夜干しを分けて入れてくれた。


あら汁というのが何だかわからなかったが、見たところ魚のクズらしい。


「これが出汁がでて、とーってもおいしいんですよ!」


「皆さんの手にも行き渡ったようですし、いただきましょう!」


それだけ言うと、皆が集まっているところにパタパタと走って輪の中に入っていく。


儂は少し大きめの石に座って食べ始めた。


今までにないくらい味が凝縮されて、アジもイカもすべてが今までに食べたことのない味でおいしかった。


これだったら、魚を食べたことがない人も食べやすいかもしれない。


そして、このおにぎりとやらが魚によく合って、さらにおいしさがプラスされる。


「うまいな……」


ボソッと言ったつもりが、隣から声が返って来る。


「よかったです……。」


「ジェラルディーナは少し強引なところがありますが、根はやさしいいい子ですので、今後も仲良くしてあげてください。」


従者の兄ちゃんに、儂の声が届いていたようだ。


儂はゆっくりと嬢ちゃんの元に向かい、アジの開きと一夜干しを作ってみるところから始めることを伝えると、嬢ちゃんは嬉しそうに笑った。

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