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マラカイト子爵。

マラカイト子爵邸に着くと、小太りのおじさんが邸の中から出てきた。


なんだか以前よりも髪の毛がなくなっているように感じるのは気のせいだろうか。


「よ、よ、ようこそおいでくださいました。カルブンクルス国王陛下。」


前もって知らせていなかったのか、マラカイト子爵は国王陛下が来たことに少し驚いているようだ。


手のひらをこすり合わせながら寄って来るマラカイト子爵が、なんだか虎に睨まれた豚のように縮こまっていて見ていて面白い。


「うむ。急に来てすまぬ。どうしても急ぎ話しておきたいことがあったのだ。邸の中に入らせてもらうが構わぬか。」


国王陛下にそう言われて「ダメです!」なんて言える人はいないだろう。


少し冷や汗をかきながら中へと案内するマラカイト子爵。


後ろにいる私たちの事にも気づいたのか、少し目を広げてから、何か思いついたようにニヤリと笑った。


中に入ってみると、意外にもシンプルな造りになっていて、そこまで金遣いが荒いようには見えない……。


ということは、やはり税金を使っていたのはオディロンとレイナだけなのだろうか。


あの二人もここにいるかと思っていたが、姿が見えないし……。


応接室に案内されると、それぞれが椅子に座った。


「今年は手法を変えてな。一年間の成果を視察もかねて領地へ赴いて確認することにしたのだ。併せて一緒に税金の回収も行おうと思っておる。構わないか?」


急な視察という言葉と税金の回収という言葉に、一瞬目を泳がせたマラカイト子爵。


もしかしたら準備ができていないということだろうか……。


この時期に税金が準備できていないとなると致命的だ。


「え……え、えぇ……問題ございません。」


「ならいいのだが。では、始めようか。この一年の成果について教えてくれ。」


国王陛下が一年間の成果を聞くと、ぺらぺらと話し出した。


「えっと、この一年はですね。不作でしてなかなか畑の作物が育たなかったのです。」


「私が開発した新しい農業を始めてみたのですが、そちらも失敗に終わりました。ですが、来年は成功させて見せますので、ご安心ください。」


「それと避暑地についての売り上げは上々でございます。」


新しく始めた農業って……いったいなんだろうか。


もしかしてそのせいで変な臭いがしたということ!?


であれば土が腐っているとしか思えなかったんだけど……。


「そうか。避暑地の売り上げがよかったということであれば、農業で失敗したとしても税金の支払いは大丈夫ということだな?」


「それで、どんなことをして農業が失敗したのか教えてほしい。」


この聞き方を国王陛下がするということは、全ての理由を知っているということなのだろう。


恐らく……避暑地に関しても売り上げが上々というのは嘘なんだと思う。


「はい、勿論でございます。え、えっとですね……農業が失敗しましたのは、その娘のせいでございます。」


娘!? ってレイナの事かしら。


レイナが農業をするようには見えなかったけど……。


「なに!? 確か娘の名はレイナだったか!? そいつが何かしたということか。」


「それは……領民のせいではないな。領民に税金の支払いはさせずに、代わりにお前が支払うのが義理だと思うぞ。わかっているのか。」


国王陛下の言うことはごもっともだ……。


自分の家族がした失敗は自分の責任であり、領民のせいではない。


もしそれを領民に支払わせるとなれば、領民の不満は募る一方だろう。


そう思いながら話を聞いていると、何故かマラカイト子爵が私のことを指さした。


「違います! ジェラルディーナ・スフェレライトのせいです。私のかわいい娘がそんな失敗するわけないではございませんか。」


「こ奴が間違った農業を教えたからこんなことになったのです!」


「……え……と……!? 私……ですか?」


もらった紅茶を飲もうと口につけた瞬間、私のせいにされたものだから思わず固まってしまった。


しかも私はマラカイト子爵に土壌改良法について話した記憶は一切ない。


寧ろあの時に人の話を聞いて大声で騒いでいた筆頭だから、教える気すらなかったのだけど……。


「そうだ……お前だ。すべてお前のせいだ! だからお前が税金を支払うべきだ!」


「……え!? すみません。私、マラカイト子爵とお話したの今日が初めてだと思うのですが、どこでお会いしましたでしょうか?」


「もしかして夢の中とかですか!? でしたら申し訳ございません。私、夢渡りという能力など持ち合わせておりませんので覚えておりません。」


「ですので教えていただきたいんですが、私が教えたというのは一体どのような農業でしょうか?」


私の言葉を聞いていたフィリベールとフレデリクお兄様が、「クスッ」と笑いをこらえているのが見える。


そもそも私に口喧嘩で勝とうなんて百年早いのよ。


本っ当に何を考えているのかしら……。


「いいだろう……お前が糞を撒けと言ったんだ!!」


「糞を撒けですか!?」


もしかして堆肥を撒くと言ったことだろうか。


それを糞を撒くって勘違いしたってこと?


あんなに人のやること馬鹿にしていたのに実践しようとしていたとか……。


「そうだ! だから撒いたんだ。」


まさか人の行った改良を、さも「自分が考えました!」みたいな言い方していたくせに、都合が悪くなったら人のせいにするというのか……。


くそ過ぎて笑えてくる。


「私がお伝えした方法は、堆肥を撒くということであって、糞を撒くということではありません。」


「ただ、もし堆肥効果があったとしても、マラカイト子爵が考えたものではなく私が考えたものです。その時点でアウトですわ。」


「フィリベール。あれを出して頂戴。」


マラカイト子爵が私に対して色々言おうとしていたようだが、続けるようにして資料を皆の前に差し出した。


「それと、マラカイト子爵には以前から借金返済をお伝えしようと思っていましたの。」


「こちら、子供の養育費と、勝手に税金を持って行った分ですね。」


「税金についてはオディロンとレイナにも責任がありますが、五年間、我が領地から着服した分を持って行っていましたよね。」


「こちらについてはサミュエル殿下が調べてくださり、教えてくださいました。」


「ですので、税金の全額返済と慰謝料の請求を所望いたしますわ!」


息継ぎせずに全てを話し終えると、国王陛下が拍手をした。


「ははは、さすがだなジェラルディーナ。」


「マラカイト子爵よ、そういうことだ。サミュエルから全て聞いておる。」


「横領した税金全額返済と慰謝料の返済は勿論してもらうが、それとは別に儂からプレゼントを用意した。」


プレゼント。


今言うってことは、よくないものなのだろうけど……。


国王陛下の顔を見ると、獲物を追い詰めた虎のようににやりと笑った。

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