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前世は九十八歳のおばあちゃん。

「そんなに自分で“前世”という言葉を言ったつもりはなかったけど、無意識に結構言ってしまっていたらしい。」


特にフィリベールは最近、領地経営について話したり、一緒にいることが多かったから、余計に私の独り言を聞いていたのだろう。


これまでフィリベールには沢山お世話になってきているし、フィリベールが嘘を言うような人じゃないということは、一緒に仕事をしてきた私が一番よく知っている。


それでも前世について話すには、それなりに勇気がいることだった。


「……そう。私はそんなに“前世”という言葉を使っていたのね。」


二人の間に無言の時間が続く……。


「……はぁ……わかったわ。フィリベールには全てを話す。でも……聞いたところで、もしかしたら信じられないかもしれない。その時は無理に信じなくて――」


「いえ、信じますよ。ジェラルディーナに聞いた事なら全て信じます。」


正直、私が話したところで簡単に「はい、そうですか!」となることは難しい。


私だって逆の立場だったら、


「そんなことあるわけないじゃないー!」


ってなってると思うし……。


でもそのくらい夢物語のような内容だ。


それを聞く前から「信じます」って言い切れるフィリベールを見て、愚痴愚痴考えている自分がアホらしくなった。


「そう。では今から話すことは他言無用でお願い。まぁ、誰かに話したところで信じる人なんてほぼいないと思うけど……」


「わかりました。約束しましょう……。」


私の言葉に悩むこともせず返事をしてくるあたり、本気のようだ。


私は、一度目を閉じて一呼吸おくとゆっくりと話し出した。


「私には、この世界とは違う前世の記憶があるのよ!」


「前世の記憶ですか?」


「そう……前世の記憶よ! それもね、九十八歳まで生きたおばあちゃんの記憶が……」


そこから私は前世の話をした。


前世の私は、普通の家庭に生まれたどこにでもいる子供だった。


兄弟が多く、兄一人と弟二人に妹二人の六人兄弟。


昭和初期の私の時代は兄弟が多いのが普通だったから、六人兄弟くらいは当たり前のことだった。


「その世界では色々なことを学んだわ。戦争の辛さに、戦争後の復興の大変さ。それに地震による災害……。たくさん絶望も味わったわ。それでも幸せの方が大きかったの。だからかしらね……オディロンのことがあっても絶望しなくてすんだのは……『あぁ~こういうクソ野郎はどこにでもいるのね~!』としか思わなかったもの。それに、そのお陰で領民たちの大変さや苦しさがわかると思うの。」


戦争で父と母を亡くした私は、そのあと弟と妹を育てるために必死になって働いた。


兄はいつの間にか家から出て行ってしまって帰ってこなかったから、最期どうなったのか知る者はいない。


「弟妹とはね、年が離れていたの。普通だったら他の血縁の家に引き取られてもおかしくなかったんだけど、私が十八歳の時に皆十二歳くらいだったから、私が育てるという条件で家族一緒にいることができたわ。」


弟妹が大きくなって、私の元を離れた後、今度は結婚を勧められた。


その時にはすでに行き遅れと言ってもいい年で二十五歳だった私は、このままずっと一人でいてもいいかもと思っていたのだけど……折角お見合いを紹介してくれた人の気持ちは無碍にできず……流されるような感じで結婚することになった。


まるで、オディロンと結婚した時のようだ。


オディロンと結婚した時も、お父様とお義父様が仲が良かったという理由で、そのまま流されるように結婚した感じだったし……。


まぁ、前世の記憶があって、男の人を心の底から信じられていなかったのだと思うけど。


「農家に嫁に行って、子供にも恵まれて孫にも恵まれたんだけど、どうしてか……男運がなくてね。結婚した男は愛人を作って家を出ていくし……その結婚した男の父親も酒ばかり飲んで働かない、おまけに暴力まで振るうようなクソ親でね……まぁ、そのお陰で農業について少し詳しいってわけ。」


あまりお金にも恵まれていなかったから、自分で作るというのは当たり前だったし、買うっていう選択肢はそこまでなかったかもしれない。


それこそ、お金が安定してきたのも農業が上手くいきはじめてからだったし……。


「それは……大変な人生を歩んできたんですね……」


別に同情してほしいと思ったことは一度もない。


絶望ばかりしていても仕方がないと感じてからは、何をやる時も前向きに行おうと思えるようになったものだ。


だって、これ以上落ちることがないなら、あとは這い上がるだけだと思えるようになったから。


「そうね! とても大変だった……けど、その分楽しいこともたくさんあったの。それに今があるのはその時代を生きたお陰だもの。あの時大変な思いをしたから今の私がある。そう思えば、全然大したことじゃないわ!」


別に強がっているわけでも何でもない。


本当にそう思っている。


フィリベールに色々話したら、なんだかすっきりしてしまった。


ずっと誰にも話さないでため込んでいたからだろうか。


そんなフィリベールはずっと下を向いているけど……。


「フィリベール……どうかした? 別にあなたが落ち込む必要ないのよ?」


フィリベールが反応しないため少し待っていると、「ククッ」と笑い声が聞こえる。


「ク……クク……クハハハハ」


フィリベールが笑うなんて珍しい。


あんな風に笑う姿、初めて見たかもしれない。


「あぁ……すみません。前世の記憶があったことについては分かりました。それもこの世界と違う記憶で、ここよりも発展している世界……ということですよね。きっと機関車もその世界の物なのでしょう? だから作れるという自信があった。つい笑ってしまったのは、そんな大変な人生を生きてきても前向きに生きようって思えるのがジェラルディーナらしいと思ったんですよ。ジェラルディーナには前向きの方が似合いますし。」


そう言って笑うフィリベールの笑顔は、今までで見たことのないくらい綺麗な笑顔だった。


きっと、こんな笑顔を他の女性が見たら恋に落ちてしまうだろう。


「そうよ、機関車についてはね。孫と一緒に行った電車の博物館で作り方を見たのよね。それと、子供の時に父と一度だけ機関車に乗ったことがあるの。それを覚えていたのよ。」


子供たちが大きくなって、農家を引き継いだ後は、孫と一緒に色々なところに行ったり、老人会で旅行などにも行った。


博物館や植物園……それにビール工場や酒蔵巡りや温泉巡り……本当に色々だ。


私が死ぬ時だって、子供や孫、それに弟妹達が見送りに来てくれたし。


人生それぞれだけど、最後は本当に幸せだったわ。


「なるほど、これで全て納得いきました。ありがとうございます。この秘密は墓場まで持っていきましょう! これからもよろしくお願いいたします。ジェラルディーナ……」


フィリベールが手を出してきたので、私はその手を取って改めて固い握手を交わした。


「えぇ。これからもよろしくね! フィリベール。」

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