第96話 第十王子シン・フェイの視点17
一週間以上時間はかかったが、なんとかソフィのいる空間に潜り込むことができた。「いざソフィを見つけなければ!」と思っていたら、目の前にいた。それもベッドの上で、優しく撫でる手が心地いい。
「あなたどこから入ってきたの? 寒いの?」
(ソフィ。このまま抱きしめたい)
そう思ったのだが、現状では彼女に抱っこされている。これはこれでソフィを独り占めしているようで、嬉しい。あまりにもソフィがいつも通りだったので、安心して眠ってしまった。
翌日、安心して熟睡してしまった自分を殴りたい。精霊の眷族たちは脱出の準備を進めていたというのに、私はソフィが居たことに安心して、爆睡してしまったのだから。眷族たちは、湖の上をせわしく走り回っている。それは帰り道を展開させるために、魔法陣を張り巡らせているのだ。
白銀の子犬──狼にも見えなくはないが、ずいぶんと愛らしいフォルムをしている。正直、私以外にソフィに撫でてもらったり、抱き着いているのを見るのは、複雑な気持ちだ。
(私だけのソフィなのに……。いや、今はそれどころではない)
なんとか屋敷の外にソフィを誘導する。彼女は寂しかったのか私が外に出ようとすると、簡単に付いて来てくれた。無防備過ぎるので、少し不安になる。
(そう簡単に付いて行ったら駄目だと、元の姿に戻ったら釘を刺しておこう)
湖では、子犬たちが魔法陣を完成させつつあった。水面を照らす白銀の煌めきが、魔法陣そのものをうまく隠しており、上手くいけばさほど時間をかけずに道は開きそうだ。
「黒猫さん、こっちで一緒に休みましょう」
「なぅ(ああ)」
湖の近くで日向ぼっこをしているソフィの膝に飛び乗って、体を丸める。彼女は頭や背中を撫でるのが上手い。とても心地よいし、妖精王オーレ・ルゲイエが前に言っていた「撫でるのが上手い」というのを、まさか自分が体験するとは思ってもみなかった。
「なあ(ソフィ)」
「ふふ、はいはい。黒猫さんは甘えん坊ね」
「なぁあー(甘えん坊ではない。この定位置は私のものだ)」
「ん?」
「なうなあ(ソフィに、渡したいものがあるんだ)」
自分の首輪に前足を当てて手紙に気づかせようとするが、彼女は私の頭を撫でた。
「ふふ。黒猫さんは器用なのね。首輪がどうしたの?」
「なう(そう、首輪に手紙がある)」
首輪に付いていた手紙に気づき、彼女はそれを開いた。折りたたまれた小さな紙にはジェラルド特性暗号文字が書かれている。それを真剣に読んでいたソフィは「え、アナグラム方式? ちょ、んー」と難しそうに眉を顰めている。もしかしなくても暗号文を書いている最中にジェラルドの興が乗ったのか、かなりハードルが高い暗号文を書いたのだろう。この非常事態に何してくれているんだ、あの男は。
「えっと、うん。あなたがフェイ様の半身なのね」
「なあ!(違う。本人だ!)」
しばらく手紙を見つめていた彼女は、「ほう」と安堵した吐息を漏らした。瞳は潤んでおり、今にも泣きそうだ。
「なあ(ソフィ)」
「私が感じていた違和感の通り、じい様は聖女アリサを選んでない」
「なぁあ!(当然だ!)」
どうやら記憶の上書きはされているが、彼女の中で記憶に齟齬があると気づいているようだ。ジッと彼女を見つめていると優しく頭を撫でて、肉球に触れる。いつも私から触れることが多かったので、これはこれでなかなかに新鮮だ。つい嬉しくて彼女に擦り寄ってしまう。
「それと……その、フェイ様の婚約破棄は……」
「なあなあ!(それも違う。私が愛しているのはソフィだけだ)」
「ふふ、ありがとう」
(これは──たぶん、あまり期待してないな!)
体を起こして誠心誠意訴えるが、ちゃんと伝わっているか微妙だ。今の私はソフィを抱きしめて、安心させることすらできない。彼女よりも体が小さく、触れようにも手が届かないし、これでは本当に役立たずだ。
だがそれで諦めるものかと、彼女の腕から肩へと駆け上がる。
「なあ(ソフィ)」
「ふふ、はいはい。黒猫さんは甘えん坊ね」
「なぁあー(甘えん坊ではない。この定位置は私のものだ)」
「ん?」
「なうなあ(ソフィに、渡したいものがあるんだ)」
自分の首輪に前足を当てて手紙に気づかせようとするが、彼女は私の頭を撫でた。
「ふふ。黒猫さんは器用なのね。首輪がどうしたの?」
「なう(そう、首輪に手紙がある)」
首輪に付いていた手紙に気づき、彼女はそれを開いた。折りたたまれた小さな紙にはジェラルド特性暗号文字が書かれている。それを真剣に読んでいたソフィは「え、アナグラム方式? ちょ、んー」と難しそうに眉を顰めている。もしかしなくても暗号文を書いている最中にジェラルドの興が乗ったのか、かなりハードルが高い暗号文を書いたのだろう。この非常事態に何してくれているんだ、あの男は。
「えっと、うん。あなたがフェイ様の半身なのね」
「なあ!(違う。本人だ!)」
しばらく手紙を見つめていた彼女は、「ほう」と安堵した吐息を漏らした。瞳は潤んでおり、今にも泣きそうだ。
「なあ(ソフィ)」
「私が感じていた違和感の通り、じい様は聖女アリサを選んでない」
「なぁあ!(当然だ!)」
どうやら記憶の上書きはされているが、彼女の中で記憶に齟齬があると気づいているようだ。ジッと彼女を見つめていると優しく頭を撫でて、肉球に触れる。いつも私から触れることが多かったので、これはこれでなかなかに新鮮だ。つい嬉しくて彼女に擦り寄ってしまう。
「それと……その、フェイ様の婚約破棄は……」
「なあなあ!(それも違う。私が愛しているのはソフィだけだ)」
「ふふ、ありがとう」
(これは──たぶん、あまり期待してないな!)
体を起こして誠心誠意訴えるが、ちゃんと伝わっているか微妙だ。今の私はソフィを抱きしめて、安心させることすらできない。彼女よりも体が小さく、触れようにも手が届かないし、これでは本当に役立たずだ。
だがそれで諦めるものかと、彼女の腕から肩へと駆け上がる。
「黒猫さん?」
「なああなう(ソフィ、好きだ、愛している)」
ソフィの顔がすぐ傍にあり、本能的に頬に頬ずりして自分の物だとアピールし、キスをした。彼女はくすぐったそうに、けれど嬉しそうに私の背中を撫でた。
「密着好きで、キスするのもフェイ様みたいね」
「なあー(だから本人だ)」
彼女は肩に乗っていた私を抱きかかえると、胸に押し付けた。柔らかくて甘い香りに包まれて幸せで、この姿でいるのも悪くないと少しだけ──本当に少しだけ思った。
(いつも恥ずかしがり屋なソフィが積極的なのは、正直嬉しい)
「もふもふの毛並み。猫さんを抱きしめていると落ち着くわ。さすがはフェイ様の半身なのですね」
「なあ(本人だからな)」
頬に触れようと前足を伸ばすが、今は肉球なのであまり触れている感はない。だがソフィは嬉しそうだ。
「黒猫さんは、可愛いですね」
「なーなああ(可愛いのはソフィだ)」
「黒猫さんが一緒なら、外に出るのも怖くないわ」
「なーああ!(ああ、帰ろう。一緒に)」
昨日の夕方から今日の夜まで星焔は、この空間に姿を見せることはない。なぜならジェラルドが足止めをしてくれているからだ。
現在、彼はスペード夜王国に赴きソフィ探索と、今後の貿易についてなどの重要会議を行っている。会議の準備もあって一週間かかった。ソフィを説得するのに、どのぐらい時間を要するのかも不明だった。しかしこれなら、今からでも外に戻ることが出来るだろう。
私はソフィから離れると、湖のすぐ傍へと駆け出す。時の精霊と、光の精霊、水の精霊が帰り道の準備をしている。これを使って、内側から精霊をこの空間に呼ぶことで扉を開く。
その場所というのが湖と、その水面の輝きだ。
ジェラルドにも脱出方法を書いてもらったので、ソフィもこれから何が行われるのかわかっているのだろう。足取りに迷いがない。
「なああ!(ソフィ、こちらに来てくれ!)」
「黒猫さん待って」
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