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第89話 第七王子セイエンの視点1

 ソフィーリア=ラウンドルフ・フランシス。

 その名を知ったのは、ダイヤ王国で行われるパーティー会場だ。その時、彼女が披露した歌を聞いて身震いがした。


(あの歌は、俺の母が口ずさんでいたものと同じ……)


 俺の母は国王の子である俺を生んだのち、姿を消した。国王は子供のいなかった側室の一人に面倒を任せたのだ。それが俺、清星焔(シン=セイエン)

 俺の育ての母はいい人だった──もっとも第八、第九王子が生まれるまではだが。側室の実家である郭家(カクけ)は、俺のことを駒としてしか見ていなかった。まあ、この国ならそれは当然だろう。


 王族である以上、飢えで死ぬことはないし、物にも困りはしない。高望みせず、周囲の顔色を窺って上手に渡り歩き、けっして王位など望んでいない。

 そう装うため口調を女言葉にして化粧をする。オレンジ色のカツラもそうだ。無難に生きていくつもりだった。

 清飛(シン=フェイ)()()()()()()()()()()──。


 同じ父と母を持つというのに、俺と弟は全く違った。

 弟は母と父に守られて、何も知らず、何不自由なく恵まれていたのだから。母親の唯一の思い出である歌すら、弟は当たり前のように知っていた。

 俺は実母と会話一つしたこともなく、勝手に死んだ。


(ああ、でもこれで弟は独りになる。俺と同じ立ち位置に──)


 そう思うと少しだけ溜飲が下がった。

 ソフィーリアとの婚約は、俺にとって希望だった。この国から出るための唯一の方法。それなのにダイヤ王国王妃との面談で『不合格』となった。代りに弟はダイヤ王国に留学することになり、ソフィーリアとの婚約が決まった。


 なぜ弟は俺の全てを奪っていくのか。

 なぜ弟が選ばれて、俺の手には何も残らないか?

 最初に見つけたのは俺なのに。ずっと追いかけて、手を伸ばして、もう少しで手に入りかけたところで、奪われていく。

 惨めで、気が狂いかけたまさにその時──女は俺の前に現れた。


「自分の大切な者が奪われる気持ち、わかるわ」

「誰だ、お前」


『原初の魔女』と名乗った女は俺にある計画を持ちかけ、様々な魔道具の数々を無償で提供してくれた。魔女は聖女アリサという手駒も用意し、舞台を整え、いくつもの布石を打った。その手際は見事で、ダイヤ王国の様子もある程度水晶を通して見ることができた。

 だから、そう。

 弟から奪おうと思った。

 慎重に。確実に。

 この薄暗く、血なまぐさい世界から抜け出して、楽園でソフィーリア──ソフィと暮らす。


 ソフィがスペード夜王国に来ると決まった時から、この国盗りゲームは始まっていた。

 スペード夜王国の正妃と第一王子の暴走も、第二王子の暗殺の手配も、第三王子の悪事も──全て事前に準備してお膳立てする。聖女の役柄を与えられた転移者(アリサ)は、ソフィからフェイを引きはがす役回りとして、第三王子に接触できるように手を回した。


 アリサはソフィを傷つけるだけで、婚約破棄には至らなかった。なんとも使えない女だったが、布石としては十分に役に立ったのだから良しとしよう。

 捕縛されたアリサは、クローバー魔法国に捕虜として引き渡されたらしい。密輸や人身売買にも関わったのだから、拷問を受けたのち奴隷になっているかもしれない。


(……まあ、手駒として、まだ役に立つかもしれないから動向は探っておくか)


 俺には帰る場所がない。

 居場所が欲しい。こんな暗く閉じた世界じゃなくて、日の当たる世界で幸せになりたい。

 それが出発点。


 そのために手駒を作った。

 使い捨てできる商隊の連中と、四大名家以外の官僚、それと奏波と来波ぐらいだろうか。郭家では双子は忌子とされており母親に見限られたあの双子は、俺無しでは生きられない。

 だからこそなんでも言うことを聞くし、逆らわない。愛情と共感、そして飴と鞭をうまく使い分ける。彼らは良く働いてくれた。今後も重宝するつもりだ。


 だが居場所ではない。

 静かで、休まる場所が欲しい。

 いや、もう手に入った。

 俺だけの居場所。

 もう誰にも渡さない。


(それにしても兄たちが転落していく姿は、シナリオ通りで面白かった。痛快劇と言えるだろうか)


 お膳立てを整えてはいたが、不測の事態というのはいつでも起こりうるので、第二第三の策も巡らせていたが──無駄になってしまった。

 そう考えると一手でこの結果を導き出したダイヤ王国側の手腕が見事だったというしかない。特に面倒な第三王子は、宰相ジェラルドが当たってくれたのがよかった。

 ソフィでは相性が悪い。あの子が困る姿は見たくないから。


『セイエン様、ソウハ様、ライハ様。お久しぶりでございます』


 ソフィは俺の女装を見ても、なんら変わらなかった。値踏みするような目も、嘲りもない。

 やはりこの国の女とは違う。

 慎ましく、明るくて、笑顔がよく似合う。太陽のような少女だ。これは惚れる。傍に居るだけで愛おして、愛らしくて、庇護欲に掻き立てられる。

 自分だけのものにして大事にしたい。


お読みいただきありがとうございます⸜(●˙꒳˙●)⸝!

やり直し悪役女王は溺愛に惑う~婚約破棄したいのに、王子の愛が止まりません~

現在、めちゃコミにて15話まで公開中

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