第81話 ジェラルド兄様の視点3
これでレキスウの勝ちは消えたが、本人は気づいていないだろう。
レキスウが選んだのはポーカーで、手札を五枚配り、その組み合わせでカードの強さを競うというものだ。悪知恵を働かせたつもりなのだろうが、児戯に等しい。
(ポーカーで最も分かりやすいポトムディールと言うのがある。トランプを配るときに、一番上のカードを配っていると見せかけて、実は山札の一番下のカードを配るイカサマなのですが、まさか初手から使ってくるとは余裕がありませんね)
「フン、俺様はストレートフラッシュだ」
「ああ、私はロイヤルストレートフラッシュですね」
「なっ!? は? そんな──馬鹿な」
「運がよかったです。なにせロイヤルストレートフラッシュが出るのは4÷2,598,960×100≒0.00015%。理論上では約六十五万回に一度ですからね」
「そんな……お前のカードはブタだったはず──」
「おや、なぜ私のカードを貴方がご存じだったのですか?」
「ぐっ……! 次だ」
向こうがイカサマしないで勝負してきたのは、チェスぐらいだろう。そのチェスもさほど強くはなかった。それとも負けても武力行使できると考えているのだろうか。
つくづく残念な頭だ。
「スペードのフラッシュ」
「私もダイヤのフラッシュですね。もちろん、7、8、J、Q、Kの並びですから私の勝ちですか」
「ぐっ……! イカサマだ」
「冗談を。貴方のボトルディール、袖隠しもですがもう少し精度を上げないと、ハート皇国の獣人相手にはすぐにばれますよ。彼らは動体視力も嗅覚も鋭いですから」
「……!」
「それと私はカードカウンティングを使っておりまして……。ああ、カウンティングとはデッキの状態がユーザーにとって有利か不利かを見極めるための技術ですよ」
半分は本当だが残る半分は嘘だ。
私もイカサマをしている。もっとも彼のように中途半端なものではないけれど。レキスウはカッ、と血が上ったのかトランプを部屋にばら撒く。その上踏みつけているので、このまま次のゲームには使えそうもないほど折り曲げられていた。
「別のカードを持ってこい」
「は……はい!」
怯えながら女の一人が部屋を出る。その後すぐに新しいトランプをもって帰ってきた。震えながらトランプカードをテーブルの上に置くと、そろそろと部屋の後ろに戻る。
「三連勝。次はポーカーじゃない。ハイアンドローだ!!」
「構わないですが、カードのチェックはさせてもらいますよ」
「ふん、慎重な野郎だ。だが、お前にカードは持たせねぇ。女がカードをもってそれを見る、いいな」
「承知しました」
私が触れようと触れないと関係はない。トランプそのものを見ることが出来ればいいのだから。
しかしハイアンドローを選ぶとは。
使用トランプはジョーカーを入れた五十三枚。カードを切った後で一番上のトランプを表向きにする。その数字より上か下かの二択のゲーム。
最初に出た数はハートの4、低い数の可能性はかなり低い。カードより大きいと思ったら「ハイ」、小さいと思ったら「ロー」と宣言する。
「先手を譲ってやるよ」
「それでは遠慮なく……ロー」
「ダイヤの2……。最初からついているじゃないか」
「次もロー」
「ははっ、エースが来るというのか? そんな訳──」
「スペードのエースですね」
「!?」
「次はハイ、次もハイ、ロー、ロー、ハイ……」
そうやって五十三の全ての数字を当てていく。これはカードを数値化して考えるカードカウンティングと、カードのそのものの傷などを、全て記憶していたからこそできた芸当に近い。
(数学を使ってゲームの勝率を上げる。この考えのきっかけをくれたのも、ソフィでしたね。本当に私の妹は素晴らしい。……あー、早く愛しの妹の元に戻りたいですね)
私が勝負事に強くなったのも、交渉術が卓越するキッカケも全てソフィの何気ない一言だった。
駆け引きのスリル感、交渉後の爽快さと充実感。失敗も多かったからこそ、今の私がいる。
もっともこの技術を使ってもフェイとアレクシス殿下との勝負の勝算は五割だが、レキスウ程度なら負けはない。愛しい妹を侮辱したのだから、全身全霊私の持てるすべてをかけて、この男を叩き潰す。この男をソフィに会わす前に、片付けることができて本当に良かった。
「さて、これで二勝したので賭けは私の勝ちでよろしいですね」
「──ふざけるな! イカサマ野郎が!」
「イカサマをしていたのは、貴方でしょう」
「──っつ、黙れ、黙れ、黙れ!!」
「負けると癇癪を起すとは子供ですね。いくら短気で有名なハート皇国のアレクシス殿下でも負けたからといって武力行使なんてしませんでしたよ」
「あんな蛮族と一緒にするな! 衛兵たち、この男を痛めつけろ」
ドタバタと室内に腕っぷしの強そうな男たちが駆け込んできた。
多勢に無勢。
私も母から多少なりとも武術を嗜んでいるが、ここは荒事専門である彼にお願いするとしよう。
「後は妖精の護衛役。任せました」
「委細承知」
私の背後に黒の燕尾服に身を包んだ老紳士が姿を見せる。優雅に一礼をした瞬間、地面から鋭い樹木の根が彼らを串刺しにした。
鮮血が豪華絢爛な特別室を染める。
女たちは悲鳴を上げて、座り込むか部屋から逃げ出していった。今から逃げても外は包囲されているだろうから、保護されるだろう。
広々とした空間も今や木の根と男たちの死体で窮屈になった。
「ぐぁあああああ、い、ああああああ!」
初撃でレキスウは足だけを貫かせた。これで逃げることも出来なくなっただろう。
悲鳴を上げて転がる姿はかなり無様だ。すでに戦意喪失した者たちは逃げ出しているが、関係者を一人たりとも逃がすつもりはない。この娯楽施設にいたことが不運だと諦めてもらうほかないだろう。
「こ、こんな真似して……タダですむと……思っているのか」
「その言葉そっくり貴方に返しますよ。こちらはグエン国王から勅書も貰っている。賭けも交渉の一つだから問題ではないけれど、ルールを守らず武力行使を先に行ったのは貴方ではないですか」
「それを誰が立証する。これはダイヤ王国の姦計ではないか!」
「はいはい。そういうだろうと思って見届け人を連れてきていますよ」
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