第80話 ジェラルド兄様の視点2
部屋の中心に二人掛けのソファが二つ。ソファの間には丸いテーブルが置かれており、酒瓶が周囲に転がっていた。酒の匂いが室内に蔓延している。酒が弱い者ならこれだけで酔ってしまうだろう。
レキスウの後ろには、侍女らしき者たちが数名立っている。みな首に黒い鉄の首輪を付けており、服装は薄着で布面積が少なく露出が高い。亜人の者たちもおり、みな顔を俯かせて震えていた。
(こんなあからさまに奴隷を引き連れて、馬鹿なのですかね。スペード夜王国でも奴隷制度は禁止とされているというのに……)
私が向かいのソファに腰を下ろすと、レキスウは挨拶もなくペラペラ話し出した。すでに酒を飲んでいるようで、呂律が回っていない。狡猾と聞いていたが、どうやらだいぶ尾ひれ背びれがついているようだ。それとも油断させる作戦なのだとしたら、お粗末なものだ。
自称聖女アリサの後ろ盾と聞いて警戒をしてきたが、そこまでの人物ではない。
「第一王子も、第二王子も下手を打ってくれたおかげで、今や王位継承権一位はオレ様な訳なんだが、ここは一つ他国からの評価も欲しいと思ってな」
「なるほど」
「それで頭の足りない馬鹿王女じゃなくて、ダイヤ王国の宰相であるアンタをここに招待したってわけだ」
(………………よし、殺そう)
「ダイヤ王国の王位継承は、妖精王が見えるかどうか何だろう? 可笑しいと思わないか。そんないるかどうかも分からない奴に国を預けているなんて、頭がどうかしている。だいたい妖精の力は物理法則の外だっていうのなら、自分の思うまま金、女、権力も思うがままだと思わないか。それなのに、頭の足りない馬鹿女どもがのさばるなんて吐き気しかしねえ」
ああ、かつて自分も同じことを思っていたと思うと尚更殺意が湧く。
でも、まだだ。
殺すのは、まだ早い。
「レキスウ殿は、女性が自立しているのが好かないようですね」
「たりめぇだろう。お前は違うのか? これが他国なら間違いなくアンタが王太子なのに、選ばれたのは妹なんだぜ。女なんて男がいなければ、なんも出来ない非力で、愚かな生き物だろう。アリサみたいなわかりやすい女は好きだったぜ。貴国に出向いてから音信不通だが元気か?」
愚か──。
この国の王族はこうも簡単に他者を見下す。そんなことをして何が楽しいのだろうか。自分が優位だと、マシだと思い上がり、自分に酔いしれたいと考えるほうがよほど愚かに思える。
「アリサ? さあ、存じませんね」
「あ? なんだ、入れ違いか? あの女がダイヤ王国の次期女王だって聞いたから、面白がって色々手を貸したんだぜ」
ゲラゲラと笑う男には、品性という物がないのだろうか。強欲の塊である男は未だに自分の立場を正確に理解していないようだ。
「──個々人の主義主張に異を唱える気はありません。それで私を呼んだというのは、何らかの交渉があるということですかね?」
この男との会話は耳が腐る。
早々に決着を付けようと本題に入ったが、思いのほか馬鹿な提案をしてきた。チェス、カード、ルーレットゲームでの三回勝負。
「先に二勝したほうが、何でも言うことを聞くってのはどうだ?」
なんだろう、この子供みたいな発言は。
ソフィが言い出したら、純粋に可愛いと思うし、全力で勝ちを取りに行きたい。そして出来るのなら、膝枕または私との一日デートだろうか。この旅行が終わったら是非試そう。フェイがいないときに!
この手の賭けをアレクシス殿下やフェイが出して来たら、十中八九裏がある。レキスウはなんというかそこまで深い考えはないだろう。単に口から出た感が否めない。
「それで、レキスウ殿が勝ったら何をご所望でしょうか」
「決まってんだろう。『ダイヤ王国はスペード夜王国の属領になれ』だ! アリサがもし本当に女王になるんなら簡単だったが、それが失敗しても貴国を手にする好機を俺は見逃す気はないんだよ」
予想の斜め上の馬鹿発言。
どこの世界に自国をかけてカードゲームする享楽馬鹿がいるんだろうか。せいぜい土地や交渉材料などを引き出すところから──余りにも愚かすぎる。第一王子、第二王子の失墜で浮かれているのだとしたら、慎重に行動すべきところでここまで大胆なことを言い出すとは、ある意味大物かもしれない。
それとも勝算があるというのだろうか。《《私相手に》》。
「では私が勝ったら、第三王子レキスウ殿の王位継承権を破棄していただきましょう」
「はっ、男に二言はねぇ。勝負だ」
何とも低度で薄っぺらな意味のない発言。イカサマありで貶める気だろうが、そんなものは無意味なのだけれど。
(誰に喧嘩を売ったのか──しっかり後悔をさせていただくとしましょう。私の妹を馬鹿にしたのですから、一度も勝たせぬまま終わらせる)
最初はチェスでの勝負ということで、盤と駒が用意された。
「俺様はチェスで誰にも負けたことがないんだ」
「それではお手柔らかにお願いします」
その自信はどこからやら。一手積み重ねるごとに、レキスウの表情が青ざめていく。
チェスの駒は六種十六個もあり、最初の一手だけでもチェスには二十通りある(ポーン8×2通り ナイト4通り)。それら全てを演算し、戦術は一手から数手程度で完結する短期的な戦い方と先読み。あえて悪手を打つことで揺さぶりを駆使し、最適解を導き出せば百パーセント私が勝つ。
もっともフェイや父を相手にする場合、勝算はだいぶ減るが。私から見てあの二人は間違いなく化物だ。特にフェイはソフィの事が絡むと演算能力がさらに向上していた。「これが愛の力」とか言い出した時には、だいぶダイヤ王国になったと感慨深く思ったものだ。
「チェック」
「ぐっ、……これなら」
「チェックメイト」
「だぁあああ! 次だ、次!」
ふとレキスウの視界に酒瓶を片付けていた女たちが映り込んだ。「なにちんたらしてるんだ、愚図が!」と勝負で負けた鬱憤を彼女たちで晴らす。蹴りつける暴君に対して彼女たちは身を屈め、亀のように耐えるばかりだ。
「レキスウ殿!」
「んだよ!?」
苛立った声で、レキスウは振り返った。表情一つ変えずにいる私を見て、バツが悪そうに舌打ちする。
あまりにも礼節がなく横暴すぎる態度に私は内心で毒を吐いた。もう面倒なのでさっさと終わらせて愛しの妹に会いに行こう。そうしよう。
「次の勝負をするのではないですか?」
「わかってんよ! カードゲームは連続で三回勝ったほうが勝ちだ!!」
「後からルールを改変するということですか」
「うるせぇ。ハンデだよ、ハンデ。カードゲームだと一瞬で終わっちまうから三回にしてやったんだよ」
「はあ。まあいいでしょう。けれどこの勝負で私が勝てば勝負は終わりですよ」
「んなことは、わかってる!」
自信満々にレキスウは吠えた。よほどの自信があるのだろう。それにしても口調も王族とは思えないほど荒々しい。
「カードに触れてみてもいいかな」
「ああ、構わないぜ。好きなだけ見ろよ。それで結果が変わるならな!」
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