第74話 キャラバンデート・前編
お母様を送り出したのち、私とフェイ様はカンフクと呼ばれる衣装に着替えた。
女性物のカンフクは胸に帯をつけ、スカートがかなりひらひらしている。
色は白と水色、帯は紺色。袖は花柄の模様が可愛らしい。似合うかどうか不安だったが、フェイ様は「可愛い、このまま持ち帰りたい」と、一刻ほど私を褒めちぎり、抱きしめたまま放してくれなかった。
「ドレスのソフィもいいけれど、この姿はこの姿で可愛らしい」
「フェイ様。褒めすぎです」
「私は事実しか言わないのだが」
(うう……またもや天然発言)
しかし私の頬が熱いのは、それだけではない。
フェイ様の上衣は白で、下着は紺色、広袖掛けコートは薄黄色と思わず見惚れているからだ。黒を着こなすことが多かったので新鮮である。
「そ、その……フェイ様のほうがとっても似合っていますし、素敵です!」
「!」
勇気を振り絞って告げたのだが、フェイ様は苦悶の末、深いため息をついた。お世辞だと思われたのだろうか。沈黙に耐え切れず口を開こうとした瞬間。
「その顔は駄目だ。ソフィを外に出したくなくなる」と真顔で説得された。
「フェイ様の色眼鏡フィルターは、どんどん酷くなっている気が……」
「どんどん可愛くなっていくソフィが悪い」
(私が悪いのですか!?)
そんなやり取りをしつつ、私たちは商隊が行われる広場に到着した。
「わあ」
そこには活気に満ちた声で溢れていた。
城内には兵士たちの稽古用の広場があり、そこでは定期的に商隊を呼んで商いすることを許可しているという。
王族が市井で買い物することは滅多になく、たいていは妃の実家または贔屓している店が城に訪問することが常だそうだが、商隊は各地の特産物や珍しいものも売り出しているので、王族は勿論、女官や侍女たちの間でも人気だとか。
「フェイ様、見てください。食べ物だけではなく、いろんなものが売っているのですね」
「はしゃいでいる貴女も可愛らしいが、はぐれないように」
「はい」
私はフェイ様の袖をちょこんと掴んだ。
それを見て彼は大きく息を吐いた。この国では袖を掴むのはマナー違反だっただろうか。そう思っていると、フェイ様は私に手を差し出す。
「その行動も可愛い──が、こういう時は手を繋ぐか、腕に抱き着く」
「そうなのですか」
「そうだよ」
「では、手を繋ぎたいです」
昔エル様と手を繋いで散歩したことを思い出す。あの時の感覚で手を繋いだのだが。なぜか指と指を絡ませる繋ぎに。なんだか普通の繋ぎ方と違うような。
「ええっと、これは?」
「恋人繋ぎというものらしい」
「そんな繋ぎ方があったのですね」
「ああ。私とだけの特別な繋ぎ方だから、他の男としたらダメだからな」
「わかりましたわ! フェイ様だけです」
「……ソフィが可愛すぎる。天使いや女神」
(だいぶ兄様のような反応をするようになったような?)
手を繋いだだけなのに、見える世界が前よりも色めいてキラキラしている。
歩くごとに様々な露店が現れる。その多さに私は目を見開いた。
テントの色や形までも様々で、見ていて飽きない。人混みも多い。珍しい香辛料、茶葉、砂糖菓子、絹や綿、麻の生地、ハンカチや小物、見事な刺繍の入ったカンフクの衣装、宝石、アクセサリーなどダイヤ王国で見たことのない物ばかりだ。けれどアクセサリーなどは、たまにフェイ様が贈ってくれる装飾に似ている。
(そういえばフェイ様から贈り物をたくさん貰っているけれど、私から何か差し上げたことってあったかしら?)
そう考えると、自分でもなんと酷い女なのだろうかと思い知る。貰うだけもらう意地の悪い女性と思っていないだろうか。フェイ様の顔を盗み見ると、ばっちり目があった。
「何か欲しい物でもあったのか」
「え、ちが……」
「じゃあ、なんだ?」
からかうような笑みに、私は少しだけムッとしつつも、女性物のアクセサリーから男物の置いてある場所に移動する。
「殿方に似合うアクセサリーはないかなと、考えていたのです」
「ふぅん」
隣にいたフェイ様の足取りが止まり、私は自分で言葉が足りなかったことに気づく。
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こちらの作品はコミカライズ連載「やり直し悪役女王は溺愛に惑う~婚約破棄したいのに、王子の愛が止まりません~」タイトルが異なります。
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可愛いソフィーリアと幼馴染のアレクシス殿下もいるよ




