第75話 キャラバンデート・後編
「そのフェイ様にはいつも素敵な贈り物を頂いていますし、今更ですがお返しに身に着けられるものなど考えていたのですが……」
「私の? ジェラルドではなく」
「兄様? いいえ、フェイ様のことを考えていました」
「なる──ほど。それでソフィは、どれが私に似合うと思う?」
「ええっと……。この銀の腕輪などどうでしょう」
煌星の装飾が見事で、シンプルだけれどフェイ様には似合うのではないかと思った。
「(ソフィからの贈り物!ソフィからの贈り物!ソフィからの贈り物!ソフィからの贈り物!)……ソフィはセンスがいい。では図々しくも頂いても?」
「はい」
私は店の主人にお金を渡す。このお金はお母様から渡されたもので、スペード夜王国の貨幣は銅、銀、金の三種類に分けられているそうだ。
(お母様からお小遣いを貰っていてよかった……)
「それにしても腕輪──か」
「?」
フェイ様は左腕に装着した銀の腕輪に触れ、嬉しそうに微笑んだ。向けられた笑顔に心臓の鼓動が跳ね上がる。
(フェイ様の笑顔、破壊力がすごすぎる……!)
「主人、これを一つ」
「はい、毎度ありがとうございます」
「?」
フェイ様の笑顔にボーっとしていたせいで、彼が何かを買っているということだけしかわからなかった。何を買ったのか聞こうとした、その時──。
「楽しんでいるようで何よりです」
「さすがソウエン兄様」
「さすが兄様」
私たちの前に現れたのは、白と緋色のカンフクに身を包んだ三人の王子たちだった。
第七王子セイエン様は長身で、フェイ様よりも少し背丈が高い。オレンジ色の髪に、紫の瞳の偉丈夫だ。フェイ様よりも年上で、大人びている。
化粧をして女性の服を着ているが、れっきとした男性である。そういった趣向の持ち主なのだろうか。
(そういえば十年前も女装をしていたような……。それともこれも王族で生きるために覚えた処世術なのかしら)
その両隣にいるのは、第八王子のソウハ様と、第九王子ライハ様。
お二人は双子らしくそっくりだが、切りそろえられた灰色の髪と紫の瞳が儚げに映る。背丈は私よりも低く十二、三歳の女の子のように愛らしい。ただ私やフェイ様よりも年上なのだ。お二人は王子なのだが、なぜか女性もののカンフクを着こなしている。こちらも趣味なのだろうか。
「セイエン様、ソウハ様、ライハ様。お久しぶりでございます。本日はお招き──」
「はいはい、ストップ。そんな堅苦しい挨拶はいいわ」
セイエン様は女性のような口調で気軽に接してくれた。ここのキャラバンを指揮しているのも彼のようで店の主人たちは、敬意をこめて次々に王子たちに声をかけて挨拶している。
それを傍で見ていても、慕われているのがわかった。驕らず民に対して親しげなところは好感がもてる。こういう方が王になれば、この国は安泰するのではないだろうか。
「ソフィ」
「はい?」
ぐっと腕を引かれて、後ろからフェイ様に抱きしめられてしまう。彼の吐息が耳元にかかった。
「!?」
「あんまり他の男を凝視してほしくないな」
「ひゃい……」
少し低い声にドキリとしてしまう。人前で抱きしめられているということに気づき、今にも卒倒しそうだ。
(密着度が増している!? フェイ様には羞恥心がないのかしら!)
「次、余所見をしたら私のものだと痕を付けるから」
(あと? あとってなに!? とりあえず不穏当な単語なことだけはわかる)
「そう。それと──」
左手首にひんやりとした金属の感触があった。手首を見ると銀色の腕輪が付けられていた。フェイ様とお揃いの装飾まで施されている。
「これでお揃いだ」
「お揃い……! なんだか嬉しいですわ」
銀色に煌めいた腕輪を撫でる。
「それと恋人が腕輪を贈るというのは、この国では『束縛、傍に居たい、いつも一緒に居てほしい』と、独占欲を表すものだ」
「え!?」
「ああ、知らなかったのか」
「知る訳ないじゃないですか。殿方への贈物なんて初めてですし……」
「……!」
心の許容範囲を超えた展開に、頭がくらくらしそうになる。フェイ様は最初から全部お見通しで──だから、とても嬉しそうにしていたのだろう。
恥ずかしい。一言言ってくれればよかったのに。
束縛、傍に居たい、一緒に居てほしい。自分の心を見抜かれたような単語ばかりだ。しかもフェイ様も同じ気持ちというのは、この上なく嬉しい。
「うわぁ。予想の斜め上をいく熱々ぶりね。これじゃあ私の入る隙はないかしら」
「入れるつもりなど毛頭ないが」
ズバッとフェイ様は言い切った。不敬ともとれる言葉だが、セイエン様は気にしていなかった。心が広い方で本当に良かったと思う。
器が大きいのだろう。こういう人の方が王の資質があるのかもしれない。
「せっかくだから露店を巡ってみて頂戴な。その後で、お茶しましょうね」
「あ、はい」
「それじゃあ、また♪」
本当に軽く挨拶をしに来ただけのようで、さっさと身を翻して去ってしまった。双子たちは一瞬だけ私をじっと見つめていたが、何を言うわけでもなくセイエン様の背中を追いかけていった。
「まったく。油断も隙も無い」
(もしかして人前で抱き着いたのは、婚約者として周りに仲の良さをアピールするため? 政治的な部分もあって、あんな大胆なことを……ふにゅ……)
つい自分だけ楽しんでしまった。本当に私は女王として足りな過ぎる。
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楽しんでいただければ幸いです。




