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73.調査隊の終わり2

【二日目 16:35】


 十二層から十一層を繋ぐ階段は巨石や岩が敷き詰められていた。人が通れる隙間どころか、ネズミすら十一層に辿り着けないだろう。


 目算がずれていた。地下が崩れる時間が十八時三十分ではなかった。飽くまでも、過去とつながる十二層最北端の部屋が崩れるのが、という話だ。

 最南端にある階段は崩れ去り、私たちのいる大広間も時間の問題のようだ。既に天井や壁面に大きな亀裂が走っている。



「誰か、この状況を打破できる魔法を所持している人間はいますか?」



 苦し紛れの私の声は虚しく十二層に響き渡る。返事を持ち合わせている人間はいない。


 仕方がないことだ。調査隊メンバーは調査を行うためだけに地下に訪れている。岩石を取り除き、地上への道を照らすためにきた人間などいない。


 クラガンならば道を開けることはできるだろう。現に、彼は崩落した岩の中からユア・シフトの死体と『巨大な魔力源』を見つけ出している。


 しかし、彼は気絶しているし、協力してくれるとも限らない。仮に力を借りれても、地上まで二時間かかる道のりを作ることができるとは思えない。



「シルバさんは? 巨塔を作った彼ならばこの状況を打破できるかもしれない」

「彼は『純愛の魔王』を失っているからね。我々を助けてくれるかわからないな」


 教授は悲観的にそう呟く。

 そもそも、シルバは地上に戻るつまりは全く無いようだった。クラガンを無力化して地上を目指す私たちと対照的に、シルバとヌルは十三層に戻っていった。


「しかし、そうだね。クローバーくんのいう通り、シルバさんに助力を求めるしかなさそうだ。ここにいても死を待つだけだ。『不死の浪人』であるヌルくんも十三層についていったわけだし、彼方の方が生存確率が高いかもしれない」

「教授、『巨大な魔力源』はどうですか?」

「ん?」



 私は、『謎の十二人目の首無し死体』が眠る最南端の部屋を指さす。



「『巨大な魔力源』があれば、なんでもできますよね? 魔王召喚でも、タイムスリップでも。自身の体を魔力そのものにすることだってできる。それならば、安全に地上に戻れる道標を作ることだってできるはずです」

「ううん。もう、魔力源は無いだろう? クラガン隊長が使い切り、クローバーくんが消滅させた。ついさっきの出来事だ」



「それは、未来から持ってきた魔力源ですよね? カランがタイムスリップをする際に使った魔力源とは別に、この時間軸に最初からあった本来のものが残っています」



 思えば、『巨大な魔力源』は異常だ。私という魔王を召喚し、時空を超え、クラガンを進化させた。それでようやく、魔力は発散して力を失った。十分過ぎるほどの能力を持っているし、異世界の壁を越えることなんて容易なことがわかる。



 しかも、あの部屋に残されている『本来の魔力源』は未使用である。この時間軸の最初から最後まで起動していない。誰も触れていない。

 できることは、クラガンが手にした未来の魔力源よりも多い。



「だけどよ、おっさん。魔力源を持っても、魔法の使い手がいねーじゃん。カラン・ターマは時空の魔術師だからタイムスリップができたんだ。クラガン隊長が魔力そのものになったのも、命令魔法があったからだ。基礎となる魔法を拡大しているだけなんだぜ?」


「それじゃあ、ビナ。君の転写魔法を拡大して、道を塞ぐ岩を別の場所に転写できないか?」

「できねーよ!」



 力があっても、使い手がいなければ魔法は扱えない。

 まあ、そのクラガンの命令魔法ならば、この状況を打破できる。できるが、彼に以前よりも強力な魔力源を渡して良いものか。


 最悪な場合、魔王召喚された上に魔力そのものに進化されかねない。全てがリセットされるどころか、状況が悪化する。それだけの魔力量がある。



「危ない!」



 と、私の思考を遮るようにアオストに手を引かれる。重心が後方に寄り転びそうになるが、その瞬間、視界に何かが遮る。上から下に。

 私の頭が先ほどまであった位置に、小さな岩がめり込んでいた。血の気が引く。死にはしないだろうが、脳震盪くらいは起きるだろう。それは死んだも同然か。


 天井を見ると、無数の亀裂が蜘蛛の巣のように張り巡らされていている。いよいよ崩壊一歩手前と言ったところだ。



「悪い、助かった」

「お兄さん、考え事している場合じゃないでしょ! クラガンを起こして、魔力源を与えるの! ここで思考を巡らせても、死ぬだけじゃん!」

「そうかもな……」



 彼女のいう通りだ。ここでクラガンが裏切ったとしてもそれは結果論だ。クラガンでなければ状況を打破できないのならば、彼に頼るしかない。



 私は軽く頷き、教授に目をやる。教授も決意を決めたように、深く頷いた。地面に横たわるクラガンの頬を軽く叩き、手に光を宿らせた。

 何らかしらの魔法で目を覚まさせるのだろう。クラガンは教授に任せて問題なさそうだ。



 私はアオストと共に、『謎の十二人目の首無し死体』が眠る部屋の前に立った。タイムスリップをした、魔法の部屋。だが、私たち二人にとってはとっては未使用の『巨大な魔力源』が安置されている部屋だ。



 魔力源を触れるのか、という問題は残っている。魔力をかき消す私が手にすると、強く反発してしまう。逆に、教授たち魔法使いが触ると全身に大量の魔力が流されてパンクしてしまう。


 ルピシエの空間魔法やクラガンの命令魔法で触れずに移動されるしかないが、彼らはこの部屋に入らない。



 だが、悩んでいる暇もない。



 私は手をドアノブにかけて、扉を開こうとした。



 しかし、実際には、ドアノブに触れるどころか、私は一歩後ろに下がっていた。後退りである。



 地震は今なお起きているし、残されている時間はない。躊躇している場合ではない。

 それなのに、私の手が止まったのには理由がある。



「なっ、なに?」



 扉が内側からゆっくりと開いたのだ。一切の予告もなく、自動的に。その現象は、逃げ場のない揺れているこの状況にさらなる混乱をもたらした。



 扉の向こうから、ゆっくりと人の手が伸びてでてきた。



「誰だ!」

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