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57.魔王殺しについて3

【二日目 13:00】


「勇者が殺人を行ったのは、私が『死体が消えた』と教授に相談した後です。教授はどうやってシルバさんに連絡したんですか?」

「何かあったらこれで呼んでほしいと、魔道具を預かっていたのさ」


 そう言いながら、キーホルダーサイズの黒い物体を手元に出現させる。形状はポケベルに似ているので、連絡に特化した道具なのだろう。

 シルバは教授にだけその道具を渡していたらしい。あれだけ『人間たちには失望した!』と豪語した直後に、特定の人間を信頼していたとはね。これで、教授が勇者だったら、あっさりと魔王は殺されていた。


 いや、違うか。

 そもそも、調査隊メンバーに勇者が紛れた時点で、魔王の死は確定していた。


「つまり、ロベルト教授以外はシルバさんの行方を追えていなかったということになります。シルバさんが我々の前に現れて初めて、十三層に魔王が一人でいることに気がつく。でも、それならもっと良いタイミングがあったでしょう」


 例えば、初日の朝。

 シルバは、我々を案内するために地上にいた。螺旋階段で降り切るまで数時間かかるので、時間的余裕はたくさんあったはずだ。

 螺旋階段の先にある十一層の扉も、勇者なら容易に破壊できる。魔王城のセキュリティは、内部に入った時点で機能しない。


 他にも、初日の調査時間。

 ロベルト教授、ルピシエ、クラガン、そしてシルバ。この四人は共に調査を行なっていた。この時間帯ならば、安全に魔王討伐ができる。何より、他の時間帯に比べて単独行動が許されていた。

 現に、ヌル・ファイスは十三層に辿り着いている。彼は扉を破壊することもなく、中に入ることができた。

 

 謎の十二人目の首なしの死体が見つかった直後も、いいタイミングだった。シルバは魔王の伝言を伝えるためにこちらにきていた。それに、ヌルのアリバイ証言で、本当に十三層に魔王がいるという裏どりができた。


 なぜだろうか。


 夜の休憩時間中。調査隊の次の集合時間は翌日の十時で、それまでは外出禁止とクラガンが命じていた。

 私が教授に伝えて、他の調査隊員の部屋をノックして回った。その時、中から返事がなかったものはいない。


「確かに、シルバくんが到着するまでの間は調査隊メンバー全員が十一層にいたということだね。これは、あとにも先にも、あの瞬間だけだ」

「そうなんです。勇者が魔王を殺そうと決断したにしては、タイミングがあまりよろしくないと思いませんか?」

「その後ならどうなんだ? ばらばらに十二層に降りていたわけだから、一人くらいいなくても気が付かないかもしれないだろ?」


 我々が十三層に降りてから初めて、ヌルが口を開いた。彼もまた、今までの話を真剣に聞いた上で、考えているようだ。腕を組みながら、眉を顰めている。


 確かに、彼のいう通りその後もシルバは残っている。


 謎の死体のせいで、我々はお互いに不信感を抱いていた。死体が消えたという調査をシルバとロベルト教授が行い、残った我々は犯人探しを始めた。

 治安維持を仕事とするクラガンがいなければ、もっと酷いことになっていただろう。彼は、純愛の魔王を敵とみなすことによって、調査隊の結束力を高めた。


「ロベルト教授はこうなることは予想済みでしたよね。だから、一度シルバを調査隊と引き離すために、二人で天井が崩落した殺人現場にいった。そうでしょ?」

「あっはっはっは。そういう側面も多少はあったが、過大評価だ。このロベルトをもってしても、未来は読めない。クラガン隊長ならうまくまとめてくれると信じてはいたけどね」


 今まで私の話を黙って聞いていたクラガンは、鼻を鳴らすだけだった。すでに維持する治安がないこの状況で、彼の仕事はもうない。彼は再度鼻を鳴らした後、肩をすくめた。


「クローバー。勇者が魔王殺しに踏み切った理由なんて、一つしかないだろう。殺意を抑えきれなかった。それだけだ。純愛の魔王の無残な死に方が物語っているだろう」

「そこですよ。クラガンさん。勇者は、魔王をいつでも殺せた。だけれど、我慢をし続けていた。何で我慢をし続けていたかこそが、勇者の正体を紐解く鍵です」


 四肢を切断し爪をすべて引きはがし、眼球をくりぬき、顔面を三百六十等分にした。それだけに飽き足らず、全身をみじん切りにするように、丁寧に憎悪を込めて切り刻んだ。

 魔王を殺したくて、殺したくて仕方がなかった。憎くて仕方がなかった。

 そんな勇者が、十三層にいつでも殺せる状況で、憎しみを押し殺して我慢をしていた。それ相応の理由がある。


 クラガンも、ロベルト教授も薄っすらと気が付いていたのだろう。何も口にせず、目線を落とした。その先にあるのは、地面にしみ込んだ純愛の魔王の血液。赤色が肯定の意味を示す。

 遅れて、セーレ王女が「ああ!」と大きな声をあげた。


「もう一人、魔王がいますわ!」


 理由なんて、たった一つしかない。

 魔王を殺したくて仕方がなかったけれど、殺意の対象は一つではなかった。調査隊メンバーの中に、もう一人魔王が潜んでいる。その尻尾を掴むまでは、派手に動くことはできなかった。


 最初に走り出したのはシルバだった。続いて、私。その後も、皆走り出していた。

 『傾国の魔王』の炙り出しに成功した勇者は、我慢を辞めて『純愛の魔王』を殺した。


 次のターゲットは言うまでもない。

 勇者は、魔王を殺すためだけに存在する。

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