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53.ゼロからイチへ1

【二日目 12:20】


 さて、謎の十二人目の死体については、解決の目処が着いた。これでようやく本題、つまり次の事件について考えることができる。

 私が生み出した殺人鬼こと望月茜。その生まれ変わりである『純愛の魔王』が全身をバラバラに解体された殺人事件。


 この事件が起きた直後に気絶してしまったため、あらゆる情報が欠けている。アリバイ情報なし、証拠情報なし、現場状況不明。


 ということで、とりあえず走ることにした。



「これは何の意味があるのですか!」

「十三層までたどり着く時間を測っているんですよ」

「走る必要はありませんわー!」



 と、セーレは走りながら叫んではいるが、彼女の方が一歩前を走っている。私は素の身体能力だけで走っているが、彼女は強化魔法を使っているのだろう。一切の息切れなく、一定のペースで走っている。

 強化魔法なるものは誰の魔法免許証にも記載がなかったにも関わらず、地下に向かう螺旋階段で全員が使っていた。免許証に記載がなくても使える、一般魔法があると考えて良いだろう。


 十三層は続く螺旋階段の前に着いたのは、走り始めてから三十分が経過した頃だった。この世界で非力な部類に入るセーレ第一王女様が三十分と考えると、より強い魔法で強化した人間ならば十五分程度でいけるかもしれない。


 私が十二層の大広間から歩いた時は、片道で一時間かかった。往復で二時間。魔法使いが全速力で三十分。


 十三層に向かう前に、小休憩とばかりに壁に寄りかかる。息を整える必要があるのは私だけだが、セーレも一緒に待ってくれた。


「それで、クローバーさん。何がわかったんですか?」

「『純愛の魔王』が殺害されたのは、シルバさんが十三層を離れてからになりますよね。それで、シルバさんを十二層に呼んだのはロベルト教授で、死体が消えたと私が言ってからになります」


 あれは確か、昨日の二十二時頃のことだ。シルバとロベルト教授の二人で崩落の調査を行っている間、私とクラガンで十一層で休んでいるメンバーを集めていた。


 『純愛の魔王』のバラバラ死体を見つけたのは、二十五時付近だ。つまり、この三時間の間に殺人が行われたことになる。

 

「この三時間の間に、今計算した時間分、姿をくらましていた人が犯人と推測できますよね」

「た、確かに。クローバーさんの考えだと、往復の時間分の三十分間いなかった人ということですよね。そんな人いましたか?」

「それはわかりません。三時間の間、私は集団から外れて行動する機会が多かったんですよ」


 ヌルの部屋に一人で入った。アオストを幽閉する際も、個室の中にシルバと三人でいた。その間、外の調査隊メンバーが何をしていたかはわからない。

 外の調査隊メンバーの一人だったセーレは、心当たりがなさそうに首を振る。


「わたしの記憶の限りだと、三十分も離席していた人はいませんでした」

「ま、そうですよね」


 私もそこまでうまく行くとは思っていない。そもそも、アリバイ調査とは二人で行ってどうにかなる話ではないのだ。人一人から話を聞いて矛盾を探す、地道な作業である。


「そうでもないと思うけど」


 と、突然声がする。

 壁に寄りかかっていた私達は、思わず辺りを見渡した。といっても、声がしたことに驚いたわけではない。我々が今いる場所に、三人目がいることは百も承知だったし、こういった会話が聞こえる声量でわざと話していた。


 問題なのは、声が聞こえた方向だ。

 

 十三層に繋がる螺旋階段、その両端にある右側の扉の中から声がした。



「アオスト、なぜ君がこちら側にいる?」



 『傾国の魔王』こと、モニ・アオストは左側の小部屋に幽閉されていた。私もこの目で見ていたし、間違いない。何より、クラガンが壁と扉を一体化して施錠していたはずだ。

 それなのに、右側の部屋から聞こえる。扉に手を当てて耳を澄ますが、やはり中にいるようだった。聞き間違いではない。扉を引いてみると、施錠されていた。扉の材質も変わっていて、クラガンの魔法が使われたことがわかる。


「そのクラガンが移動しろって言ってきたのよ。天井が崩落するとか何とかいっていたわね」


 彼女の一言に、私は胸を撫で下ろした。部屋を移動させるトリックを考慮しなければならないかと思った。タネも仕掛けもないのならば、何の問題もない。

 既に、アオストは終わった人間だ。魔法を使えない彼女のことは、推理の枠から外して良い。

 私は扉のドアノブに触りながら、部屋の中にいるだろう彼女に叫ぶ。


「で、何だって? 何がそうでもないだよ」

「往復三十分って話さ。勇者がそんなに遅いわけないでしょ」

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