19余震4
【一日目 17:45】
「さあ、話してもらおうか」
「そうだそうだ! 話せ!」
純愛の魔王城地下十二層、左大通りの中腹。私とアオストは地べたに座る少年を囲うように見下ろしていた。身長百八十後半の私と、その年齢と性別にしては随分と高い百七十後半の身長を持つモニ・アオストの高身長ペアによる威圧感は、相応なものだ。
それにもかかわらず、ヌル・ファイスはあくびを漏らしているだけだった。アオストと同じく、外見年齢が未成年にも関わらず大人びている。話を聞かない分アオストより子供か?
あどけなさが残るその顔からは、とてもじゃないが気迫を感じない。後、やる気も全く感じられない。
時の魔術師の護衛をしている時は、魔王使者シルバのような重圧感を感じていたのだけれど。もしかすると、その幼さを隠すために銀の仮面をつけていたのかもしれない。
「お兄さん、こいつやっちまいましょうよ。僕たちに隠し事できるって勘違いしてるんですよ。舐められてます。一発懲らしめて、上下関係を叩きつけないと」
訳のわからないことを言い始めるアオストを無視し、私はしゃがみ込んでヌルに目線を合わせた。
「我々調査隊は、手と手を合わせて進まないといけない。そのことはわかっているよな?」
「暑苦しい考え方だな」
「合理的に考えた結果だ。我々は協力するべきだ。だがそんな時に、カラン・ターマは重傷を負って離脱した。その時の経緯を話してもらえないかな」
「俺から話せることは何もないぜ」と、ヌルは素早く返す。
「あるだろう。何か事情があること理解するが。それでも、カランが怪我を負った理由を教えてくれないと困る。危険分子は先に取り除きたい」
「だから、話せることはないって」
ふむ。頑なに口を割らない……、というわけでもなさそうだ。彼からは強い意思を感じない。アオストは不審がって、「何も知らないの?」とまともな質問をした。
「ああ。カランのやつは、俺が合流した時には血まみれで倒れていた。既に事後だったというわけだな。だから、話せることは何もない」
「ますます意味がわからないぞ。奴は、早朝に一人で地下に向かったのか? 護衛もつれていかずに? それならあんたは何をしていたんだよ」
「朝だから寝てたに決まってるだろ。単独行動するようなやつを守れるかよ」
本当に、何も知らないのか。現状、彼の話から矛盾を見つける方ができないし、嘘をついている様子もない。
「それなら、貴方は何しにきたのよ」
と、アオストは被せるように言った。
それもそうだ。護衛ならば、寧ろ傷ついたカランの元にいるべきだ。それなのに、瀕死の護衛対象を置いて地下に来る意味がわからない。
「カランに頼まれた。多分、未来視を使ったんだな。『調査隊として行く末を見届けろ』だってさ。だからこうして、適当に地下を歩き回っているわけ」
「全く、人使いが荒いよなぁ」と愚痴をこぼすヌル。母親のお使いに来た高校生のようだった。
アオストも彼から興味をなくしたらしく、「こんなやつ放っておいて先に行くわよ、お兄さん」と私の服を引っ張る。お前と行動する理由も特にないんだけどな。
「しかし、トール・クローバーだっけ? お前も大変だな。そんな厄介な奴に気に入られて」
「知った風な口ぶりだな」
「モニ・アオストというよりも、アオスト家はかなり有名だぞ。パラス王国の歴史ある村の長を代々引き継いでいる家系だ。数年前に『天使の魔王』を倒した勇者一行の中に、アオストという戦士もいたな」
パラス王国というと、ロベルト教授の話で出てきたな。教授が勤めている魔法学院がある東の国だったはずだ。
アオストの傲慢さが両親の溺愛による賜物ということならば、少しは微笑ましいな。確かに、服装も他の調査隊メンバーに比べて、金がかけられている。勿論、一国の王女様であるセーレとは比べる程ではない
当の本人は「あらら」と口元に手を当てている。何だ、その表情は。
「お嬢ちゃんということか。確かに、王女よりも上から目線だしな」
「そこじゃない。その村の中で、大量殺人が起きた事件は耳に新しい。モニ・アオストが無関係だとは思えない」
「殺人事件、ね」
「あー、あったわねぇそんなこと」
アオストは笑いながら振り返る。
「でも、それが何の関係があるのかしら? 故郷の村で人が死んでいたから、この調査隊でも人を殺すんじゃないかって?」
「そうは言っていない。というか、その方がマシだ。舞台に立つ覚悟もないお前みたいな傍観者が紛れていると迷惑だって言ってるんだ」
「なんですって!」
喧嘩は勘弁してほしい。大人びた風貌なだけで、両者とも精神年齢はしっかりと子供だ。歳が近い人間といたほうが本来の自分を表に出せるのかもしれない。
彼女達は、それからも何往復も言い合い始めた。アオストは、「未来視できる人間と共に行動していたくせに、何も知らない役立たず」とヌルを貶す。対して、ヌルは「経歴から行動まで何もかも胡散臭い、調査のできない無能」と言い放つ。
どっちもどっちだし、どうでもいい。
いっそ、このまま二人で仲良くしていてくれたらそれに越したことはない。美少年と美少女がいちゃついているだけに見えてきた。
何より、ヌルの警戒度を高めなければならならい。彼は基本的には真実ばかり言っていたが、明確に嘘をついた瞬間があった。目線の動きや、急に話が具体化になったなど、明らかにおかしい。
『調査隊員として行く末を見届けろ』だったか。カランにそう告げられてここにきたと言っていたが、ここで確実に嘘をついている。根拠も証拠もないが、怪しいという疑惑だけが残る。これは、探偵の勘と言ってもいい。
しかし、そうなると別の意味でまずい。
戸締りされていて、十一層には進めない。そんな状態で、血だらけで地下から登ってきたカラン。
この状況だと、ヌルがカランを始末したと考えることだってできる。動機や目的が意味不明だが、それだけの力を『護衛』である彼は持っている。
少年だと侮ってはいけない。
言い合いを続けている彼女たちを置いて、次の部屋に移動しようとしたその時だった。
大地が揺れた。




