第十一話『神の使いと呼ばれる白銀の獣』
まずは動きを見るために、手を振り態と目立つ。
神の使いは、俺の存在に気づくと突進してきた。
鹿のような角を武器にして、突き上げようとしているみたいだ。
思ったよりも単純な動きに、楽に勝てそうだと考えていると、俺が躱す動作を確認して一つ一つの動きに変化を加えている。
「学習するの早くないか」
俺の問いにも鳴き声を上げることもなく、神の使いは攻撃を仕掛けてくる。
地面を蹴る強さが変わっていくと、途轍もない速さで神の使いは移動する。
速すぎる、目で追うのがやっとだ。
目を曝していると、足を動かすのを忘れ神の使いの角が腕に刺さる。
「うっ!」
深い傷ではないが、血が滴る。
ブラッディベイオネットに血を与えて、目を瞑り一度冷静になる。
目で見ても動きがついていかないなら、音で感じ取るしかない。
冷静になれ、近づいてくる音を体全体で感じて、近づいたと思ったら目を開いてタイミングを合わせて……斬る。
神の使いの右にある角を切断する。
切断されると、憤りを感じたのか更に速さは増して殺意を向けてくる。
「まだ本気じゃなかったのかよ、その異名は伊達じゃないみたいだな」
辺り一面の花関係なしに、走り距離を取り木の陰に木の陰に隠れる。
陰からブラッディベイオネットの剣先を向けて、狙いを定めて撃つ。
運よく右前脚に当たり、体勢が崩れる。時間を空けずに、左前脚にも撃ち込むと倒れるのを確認できた。
「これで後は、近づいて剣をっ……」
と勝ちを確信していると、後ろから憎悪に塗れた殺気を感じ取る。
すぐに、後ろを見ると倒れていた神の使いが後ろにいた。
呆気にとられ、隙が生まれると胸の辺りを狙い片側の角で刺してくる。
貫かれて、力が入らなくなりそのまま振り落とされ地面に転がる。
白銀で包まれた神の使いの、角は赤く染まりこちらを睨みつける。
内臓が潰れたショックで、声が出なくなり地面を這いつくばる。
目に光が無くなっていき、力も何も入らなくなる。
こんところで死んでたまるか……
「俺にはやらないといけないことがあるんだよ‼」
剣を持つ手に力を入れ、神の使い目掛けて振り下ろす。
浅くではあるが、首に傷をつける。
「死ぬのが怖いとかそういうわけじゃない、俺は俺のやるべきことを果たすために、生きていないないといけないんだ」
刺された個所からは、血が流れ出る。
風を切る様に走るたび、その風に乗る様に血も飛び散る。
「内臓なんてどうなったていい、目の前の奴を倒せれば」
剣を振り下ろすが、神の使いは華麗に避ける。
外したもののそのまま地面に剣を突き刺し、勢いよく空に舞う。
予測出来ない動きに困惑する神の使い、目の前から消えたと思い目を様々な場所に向ける。
空から、剣を突き刺すように振り下ろすと、刺さる直前で気付き空中に視線を向ける。だが、もう遅く体の中心に剣が刺さっていた。
暴れる神の使いの動きを止めるために、刺さったまま銃弾を何発か打ち込む。
すると動きが鈍くなり、息をしなくなった。
「何とか倒せたみたいだな」
戦いが終わり安心して、その場に倒れ込みうつ伏せになる。
勝ちはしたが、傷は深く出血の多さから見て死ぬのも時間の問題だ。
目が閉じそうになる寸前で、入ってきた扉からサスが入ってきたのが見えた。
重症の俺を見てサスは、
「偉く派手にやられたな、だけど死ぬことはない大丈夫だ」
と言って横に倒れ込んでいる、神の使いにサスが近づく。
俺がつけた傷に両手を開くようにして、傷を広げると、そこから大量の白い血が噴き出る。
白い血は、湖ができるほど多くの血が溢れ出る。
血の中に沈んでいく俺を無視して、サスは離れていくのが分かった。
「立ち上がれそうになったら出て来い」
扉を閉める音と共に、その声は聞こえた。
白い血の海に身体が全て沈む。
握っていたブラッディベイオネットが、血を吸ってる。
深くなっていく白い血の海、息ができない苦しい。
「くっ……くぁ」
喋ろうとしても、口を開けると血が入ってきて話せない。
溺れて気を失いそうになるが、何とか意識はある。
赤い血と白い血は、中々混ざらない。
それでも手元にある剣は、血を吸い続けている。
血を与えるのに、限界はない様だ。
ドクドクと剣が脈を打っているみたいだ。
生き物でもないのに血を欲するなんて、今考えればおかしな話だ。
だけど……目の前で起きているのは事実。
意識が遠のき、何も考えれなくなると眠るように意識を失う。
「はぁはぁ……息ができる?」
起きた時、周りの血は一滴も残らずなくなっていた。
全てブラッディベイオネットが吸ったらしい。
起き上がりながら、傷に手を当てると、
「あれ、何で治ってるんだ」
傷は完治していて、元通りになっていた。
身体も軽くなり、身軽になっている気がした。
扉に向かい少しづつ、歩いていく。
扉に手をかけて開けると、そこにはサスがいた。
「やっと出てきたな、見た目は変わってないようだが顔つきは変わったみたいだなっ……」
サスが動揺する。
手に持った剣を俺が無意識にサスに振り下ろしていたからだ。
「なっ、これが代償ってやつか」
「ち、違う俺は何もしようとは」
と言った瞬間に、殺気を纏わせた剣を振り下ろし、サスが避けると銃口を向けて躊躇なく打つ。
肩を掠めたサスは、手で押さえながら、
「今は話せる状態じゃないみたいだな、とりあえず俺はここでお前とお別れだ。また会おう、レイ」
サスはその場から、消える。
「ま、待って」
血を吸い過ぎたブラッディベイオネットは、血に囚われるようにして俺の体を操り、周りにある花や木を気が済むまで斬り続けた。




