あとがき
『月は君をみていた』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この春、『シンジケート』や『カモメが翔ぶ日』の執筆を経て本作の結末に向き合ってきましたが、最後の「了」の文字を打ち終えた今、かつてないほどの深い安堵と、心地よい疲労感に包まれています。
本作は、トラウマを共有した少年少女たちの群像劇であり、同時に過去の事件の真相を紐解くサスペンスでもありました。
正直なところ、これほど多くのキャラクターの視点や感情を行き来させながら群像劇を描くことの難しさを、今回ほど痛感したことはありません。
物語のあちこちに張り巡らせた伏線——交差点でのすれ違い、衣服の繊維、三回忌の嘘——を矛盾なく、かつ劇的なタイミングで回収していく作業は、まるで巨大なパズルを組み上げるようで、幾度も頭を抱えました。
それでもこの構成にこだわったのは、中学生という時期特有の「脆さ」と「危うさ」を、どうしても繊細に描き出したかったからです。
大人にはなりきれず、かといって子供のままではいられない。大人の理不尽な力に怯え、自分たちを守るためについてしまった「嘘」。
それは決して純粋な悪意ではなく、彼らなりの切実な生存戦略でした。
その痛々しいほどの弱さと、そこから這い上がろうとする強さを、読者の皆様に少しでも身近に感じていただけていれば作者として本望です。
そして、執筆中にもっとも私自身を苦しめたのが、ヒナという少女の存在でした。
大人たちの身勝手さと、主人公たちの嘘によって、誰よりも重い十字架を背負わされてしまった彼女。
愛する弟を失った彼女の「無念さ」を、物語の中でどうすれば晴らすことができるのか。どうすれば彼女を救えるのか。何度もプロットを練り直し、葛藤し、深く悩みました。
しかし、安易なハッピーエンドで彼女の痛みを誤魔化すことは、この物語が描いてきた「真実」への冒涜になると思い至りました。
だからこそ、彼女には残酷な真実を受け入れさせ、それでも自分の足で別の道へと歩き出す結末を選んでもらいました。彼女の無念さが完全に晴れることはないのかもしれません。それでも、あの冷たく美しい月光の下で、彼女が少しでも前を向いてくれていることを願ってやみません。
彼らは交差点を渡り、別々の道を歩き始めました。
傷を舐め合うだけの関係から卒業し、一人で立てるようになった彼らの未来が、月の光のように明るく照らされることを祈りつつ、この物語の筆を置きたいと思います。
最後まで彼らの軌跡を見届けてくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。




