21 魔法使い
翌朝、私と息子は、徒歩で王宮に向かった。
「今日は馬車は来ないんだ……行くの面倒だなあ」
「昨日は特別だ。そんなに距離はないんだから、億劫がらずに歩きなさい」
「はいはい」
「『はい』は1回!」
「はーい! あーあ、帰りたいな」
などと、ぶつくさ不満を言う息子を何とか歩かせ、私は王宮の魔法省へ向かった。
私と息子は魔法省の特別会議室に通された。今日は勇者一行のメンバーとなる魔法使いとの顔合わせをすることになっていた。
「この偉そうで風船みたいに太ったハゲ親父って誰?」
「何代か前の魔法大臣だな……他の人の前ではその言い方するんじゃないぞ」
息子と2人で室内の肖像画を見ながらしばらく待っていると、入口のドアが開き、お付きの者を連れた王子と、フードを被った魔法使いが入ってきた。
私は頭を下げた。息子も慌てて頭を下げた。それを見た王子が笑顔で言った。
「我々は魔王討伐の仲間だ。そんなに畏まらないで欲しい」
「あ、ホント? それじゃ王子様、今日からヨロシク!」
王子の言葉を聞いた息子は、頭を上げると王子に歩みより笑顔で握手をした。
私は心臓が止まる思いだったが、幸い王子は気分を害することなく、むしろ少し嬉しそうだった。お付きの者は息子を睨み付けていたが……
そんなお付きの者の視線など気にせず、息子が王子と話し始めた。
「ねえ、王子様、この絵の元魔法大臣に会ったことある?」
「あ、ああ。確か勲章の親授式で見かけたかな……」
「この人、歩くより転がった方が早そうだよね」
「……」
「もしかすると魔法で風船みたいに飛ぶのかな」
「……ふふっ、あはは」
息子の話を聞いて、王子が堪えきれずに笑った。2人で楽しそうに話し始めたので、私は魔法使いと話をすることにした。
「魔法使い殿は、確か昨日の謁見室でいらっしゃいましたでしょうか?」
「ええ、そうです。お二人を見て驚きましたよ。あ、そうだ、これを。まさかお返し出来る日が来るとはね」
そう言うと、フードを被った魔法使いは私にハンカチを手渡した。古いが綺麗に手入れされた子供用のハンカチだった。
それを見た私は思わず叫んだ。
「も、もしかして君はあの幼年学校の?!」
「嬉しいよ。覚えてくれていたんだね」
魔法使いがフードを脱いだ。あの幼年学校時代の面影が残る、大層美しい顔立ちのエルフだった。
† † †
「君とこのような形で再会するなんて、まさに奇跡だよ」
幼なじみのエルフは嬉しそうに言った。
幼なじみのエルフは、王都に来てから魔法の才能を開花させ、魔法学校に進学したそうだ。
今は魔法学校で教鞭をとる傍ら、王子の魔法の教育係をしていて、今回の魔王討伐に参加することになったということだった。
私は彼との再会を心から喜んだ。
しばらく幼年学校時代の思い出話に花を咲かせた後、私と幼なじみのエルフは打ち合わせを始めた。
息子と王子は、すっかり仲良くなったみたいで、王子が息子の『従者の印』を興味深そうに見ながら何やらお喋りしていた。
「さて、剣士と武闘家との顔合わせは明日になるんだけど、これからの大まかな流れを説明するね」
幼なじみのエルフが手帳を開いて話し始めた。
「勇者一行と共に魔王討伐に向かう討伐部隊を、近衛兵や騎士団から選抜して編制しつつ、各地の守備隊等が魔王の居場所を捜索する」
「魔王の居場所が判明次第、王から魔王討伐の勅命を受ける儀式を執り行う。国を上げた式典になるらしいよ」
「そして、勇者一行と討伐部隊で一気に魔王を攻撃するという流れだそうだ」
歌劇とは異なり、勇者一行が王国各地を旅して回ることはなさそうだ。
幼なじみのエルフが苦笑しながら言った。
「ただ、問題は魔王がどこにいるか……」
「あの森でしょ?」
突然、王子とお喋りしていた息子が我々の方を向いて言った。私が驚いて尋ねた。
「あの森? 実家近くの森のことか?」
「うん。魔王はあの森にいるよ」
息子がごく当たり前のように言った。
「どうしてそう思うんだい?」
幼なじみのエルフが息子に聞いた。息子は首を傾げながら答えた。
「上手く説明できないんだけど、魔王はあの森にいるってハッキリと分かるんだよ」
私は幼なじみのエルフと王子を交互に見ながら言った。
「もしかすると、『従者の印』の力なのかな。王子様はいかがですか? 何かお感じになられますか?」
「う、うん。そのような気もする……」
王子が少し戸惑いながら答えた。その言動が少し気になった私は、ちょうどいい機会だと考え、勇者の印について王子に聞いてみることにした。
「そうですか。勇者の印にもそのような力があるようですね。不思議な力だ……」
「やはり勇者の印は歌劇のように胸の辺りに現れたのですか? 息子と同じような印なのでしょうか?」
「え? そ、それは……」
王子が驚いた顔をして言い淀んだ。すると息子が笑いながら言った。
「お父さん、それ以上聞いちゃダメだよ。ちょっと見えにくくて見せられない場所に現れちゃったんだよ、きっと」
王子が顔を赤くしたのを見て、幼なじみのエルフが笑った。
「ははは。勇者の印がどういうものなのか私も1度拝見してみたいところですが、そういう訳だと仕方ないですね」
「魔王があの森にいるかもしれないという情報、あとで侍従に伝えておきますね」
その後、私達はしばらく雑談してから解散した。
続きは明日投稿予定です。




