22 顔合わせ
王宮で幼なじみのエルフと打ち合わせをした日の晩。私は、再び例の古文書の写本を物置部屋から出してくると、ダイニングのテーブルに開いた。
魔王の居場所をどのように探したのかについては、何も書かれておらず、勇者一行はあの森に向かったとだけ書かれていた。
私は今日のことを思い出した。息子は嘘をついているようには思えなかった。あれは、やはり「従者の印」の効果なのだろう。
一方、王子の言動は気になった。
王子は、息子のように魔王の居場所について確信を持っていないのに、息子に合わせているようだった。
それに、勇者の印について聞いたときのあの動揺。息子や幼なじみのエルフは別の解釈をしていたようだが、あれは、もしかすると……
「王子様の体に勇者の印はない?」
思わず口に出してしまった私は、慌てて周りを見渡した。妻も息子も寝ているようだった。
もし、王子の体に勇者の印がないとすると、息子の首筋のアザは勇者の印となり、古文書の記述とも合致する。
仮に、息子のアザが勇者の印で、王子には印がないとして、なぜ王子、いや王は嘘をつく必要があるのか。
私は改めて歌劇における勇者と魔王の物語を思い出した。
貴族である勇者が仲間とともに魔王を討ち果たし、王女と結婚して国王になる。
古文書の内容は少し違う。平民である勇者が自らの命と引き換えに魔王を倒す。王女と結婚して国王になるのは、勇者の仲間である貴族だ。
この違いに何かが隠されているのだろうか……
ここまで考えたとき、私は一人苦笑した。仮定につぐ仮定の話だ。証拠は何もない。
だが、念のため気をつける必要はありそうだ。もし、王が何らかの理由で王子を勇者にしたいと考えていた場合、その思惑に反することをしたら……
『組織を信じてはダメだ。組織は個人を守ってくれない』
『自分、そして家族のことは、お前自身で守らなければならない』
私は、昔に父から聞いた言葉を思い出した。慎重に行動する必要がありそうだ。
私は、古文書を物置部屋に片付けると、寝室へ向かった。
† † †
翌日、私と息子は、再び王宮へ向かった。今日は剣士と武闘家の他、討伐部隊の幹部との顔合わせだ。
昨日と打って変わり、息子の足取りは軽かった。息子は王子と気が合ったようで、今日会うのが楽しみなようだ。
近衛師団長の応接室に通された私と息子は、王子や幼なじみのエルフとともに、剣士と武闘家、あと討伐部隊の幹部と面会した。
剣士は如何にも真面目そうな若者だった。何でも、近衛兵の若手のホープだそうだ。
武闘家は、見るからに俊敏そうな若い女性だった。剣士と同じく近衛兵だそうだ。
彼女と話をしたところ、なんと私の妹と知り合いであることが分かった。どこかの武術大会で話をしたことがあるということだった。
彼女曰く、私の妹は「引退するまでは王国内で十指に入る強さだった」そうだ。そんなに強いとは知らなかった。
そして、討伐部隊は騎士団の騎士と近衛師団の猟兵中隊を中心に構成されるということで、隊長を東方侯が、副隊長を猟兵中隊長がそれぞれ務めるというだった。
猟兵中隊と聞いて、私は訝しんだ。
猟兵中隊は、近衛兵の中で魔法銃の扱いに優れた者を集めた部隊とされているが、その実態は謎に包まれている。
暗殺等の特殊作戦に携わっているという噂があるくらいだ。
猟兵中隊長は、鋭い目つきの壮年の男性だった。その目の奥は何を考えているのか分からない怖さがあった。
最後に、隊長の東方侯が挨拶をした。
東方侯は20代。貴族の中で最も序列の高い公爵の息子で、東方の領地に由来する侯爵位を儀礼称号としているため、このように呼ばれている。
彼は、なんと言うか、非常に感じが悪かった。
「王子様には申し訳ありませんが、僅か4人のパーティーで魔王討伐が出来るはずがありません。実際の討伐は我々に任せて、王子様方はのんびり旅をお楽しみ下さいませ」
彼はそう言うと鼻で笑った。
勇者一行は、勇者、魔法使い、剣士、武闘家、そして従者の5名のはずだが、従者は人数にも数えてもらえないという感じだった。
「と、とにかく、これでメンバーが揃ったね。共に魔王討伐に向けて頑張ろう」
王子が嫌な空気を打ち消すように、笑顔で皆に言った。
† † †
顔合わせが終わった後、息子は王子の部屋に招待されることになった。
息子と王子は楽しそうにお喋りしながら、王子の部屋へ向かった。
私は、幼なじみのエルフと一緒に先に帰ることにした。
「控え目でお優しい王子様と違って、東方侯は大変な野心家らしいよ。トラブルにならなければいいんだけど……」
幼なじみのエルフが、タメ息混じりにそう言った。




