1、転生
気が付けばいつの間にか夜が明けていた。
「ふぃーーーー、三法師で天下統一やったぜ!」
俺はテレビ画面を見ながらほくそ笑む。今回はなかなかの大事業だった。
『三法師様、やりましたね。これで天下も泰平に……』
『いや、まだだ。次は唐高麗ぞ。フフフ……』
十歳の少年・織田三法師は笑みを浮かべる。いや、驚いたな。これ、キャラデザ気合い入ってるな……。
人気の戦国シミュレーションゲーム『天下布武シーズン16』。俺が幼い頃からやり込んでいたゲームだ。
俺は本能寺前夜と言うシナリオを選択し、一歳の織田三法師でプレイするという無理ゲーをやってみた。本能寺の変後に明智光秀を討ち、勝家、秀吉も臣従させた俺はついに最後の島津義久を降伏させた。
妻である美少女の福姫がニッコリと笑いながら人気女性声優の声で話す。耳が気持ちいい。この娘は家康の孫娘だ。
三法師はやる気だが、プレイヤーの俺は冷めていた。他国の侵略などしている暇はない。石田三成ら配下の武将や何より織田信雄ら叔父たちは猛反対している。これは内輪揉めの予感だ。
羽柴秀長は信雄や柴田勝家、毛利輝元、真田信繁、蒲生氏郷、伊勢貞為といった有力大名を取り込んでいる。彼らの反対は無視できん。
史実の秀吉のようになりたくないしな。
まずは山名豊国、徳川秀忠ら奉行衆を使って千利休の茶会を開く。強硬派の加藤清正や小西行長はそれで黙らせる。政治工作もこのゲームの面白さの一つだ。
清正には蝦夷での城作り、小西行長には茶会の企画を考えさせる。二人とも朝鮮出兵どころではなくなる。
そこまで考えて俺はスマホの通知に気が付いた。若い女上司からだ。ゲームの姫のように優しくはない。
そう……現実の俺は社畜だ。平凡な社員に過ぎない。ゲームの中じゃチートスキルの天下人なんだがな……。
何だか眠くなってきた。どうせ今日は日曜だ。寝てしまおう……。
……。
「よそ者をこの中村に入れて大丈夫かのう」
木下弥右衛門は一息つく。織田家に仕える弥右衛門は庄屋から新しい土地の耕作を頼まれていた。
「父上、弱気でどうするのだ。吉法師様も家老の方々もお味方よ。ここで殖産興業をするのだ。西欧列強……南蛮に後れを取るまいて」
「むう……小一郎は難しいことを申すのぅ。なかが本を与えるからかもしれぬが、ここまで利発とはのう」
弥右衛門はじっと倅の顔を見る。怖いとすら思う。妻の教育によって僅か二歳の小一郎は神童に成長した。村の改革案を次々と打ち出し、中村は変わりつつある。
「何やらそなたが父で儂が子のようであるのう。ふむ……」
弥右衛門は倅の顔に内心怯えながらも、頬が緩むのを自覚した。
那古野城の主君は弥右衛門のことを気に入っている。足軽の身分から馬廻り衆に編入されたのが昨日だった。
「農具も変えよう。そうだな。この図面通りに作れぬか。これならもっと早いのだ。銭がない者には銭を貸し付ける。もちろん無理やりだ。なーに、銭がないなどと壺を床裏に隠しておるのだ。百姓なんてそんなもんだ」
小一郎は止まらない。弥右衛門はニコニコしながらも、己の頬が引きつるのを自覚した。
読了有り難うございます。
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