△ 私の憎悪
「……なに…これ……」
アミニスが戦闘を終え、全速力で村に来る数分前。ボロボロの体を引きずって村に帰ってきたディネリンドは目を疑った。
村の中央に磔にされたサキュバスが見える。足元には家の素材だったのだろう、木材が山積みになって黒い炎が燃え上がっている。
「リアは…!?どこにいるの…!?」体の痛みに耐えながら駆け出す。炎魔法で焼いて塞いだ傷口が開いていくのがわかる。
「どこ…ねぇ!どこにいるの!?リア!」
辺りに転がるのはサキュバスの死体ばかり。一刀両断された死体や、原形がなくなるまで刻まれた死体など。肉が焦げ付く臭いが鼻を突く。
「リア…どこに……」背後に気配がする。振り返ることなく、ディネリンドは問いかける。「……リア。なに、やってるのさ。」
「…ふむ、どう説明したものか。」後ろから、リアの声がする。
「行こ…リア。アミニスのお守り、大変だったんだよ。」言葉を続ける。…なんとなく、分かってる。向き合おう。振り返る。目の前の存在が、とても愛おしくて憎らしい。…黒髪を揺らし、一本の角を生やし、黒い剣を携えた紅色の目の少女が。
「ワタシは、リアであってリアじゃない。魔族の血…言うなればリアの悪意そのもの。」
「…ふふ…あははっ…知ってるよ……」笑いが止まらない。たまらなく嬉しいのだ。
「…アイシクル、ストーム」氷の渦が辺りのものを引き裂く。…避けられたようだ。ひらひらと見覚えのある、深緑色の布が宙を舞っている。
「その口は──」
「流星」
言葉を遮るように空から大小様々な隕石が落ちてくる。口元をふとさすると…マスクがないことに気づく。
「………」
手を伸ばし、マスクを拾ってつけ直す。
「私の前に出てきてくれて感謝するよ。リアを絶望させたもう一つの元凶を殺せるなんて、嬉しくて仕方ないからね。」
自分でも少し驚いている。人間や魔物を殺すことに恐怖していた私が、まさか親友を殺すことを喜べるなんて。
「ワタシを殺せると?人間風情が?」
偽リアは黒い炎を纏った剣を構える。構え方までリアそっくりだ。…リアの闇なら、当然か。
「殺せるよ。だって私は、『人見知りの魔法使い』……こんな二つ名…もう、いいか。……『英雄殺し』…ディネリンド。」
自分で言っておいて、かなり大層な二つ名だと思う。…まぁ、いい…よね。だって私はずっと──
「アナタにワタシは殺せない。…燃え尽きろ。」
「ずっと、殺したくて仕方なかったんだから──!!」偽リアが剣を振る。黒い炎が斬撃として放たれるが、溜めた魔力で氷の防壁を生成。音を立てて溶けていく氷の防壁。
「……バレていないとでも思ったの?ウィンドブラスト。」背後に向け、ディネリンドが風魔法を放出。
「アイシクルランス」大きく吹き飛ぶ偽リアに追撃の氷の槍。これまでの魔法よりも確実に規模が大きい。そんな氷の槍が偽リアを貫き…
「……あっけなかったね。」
「アナタが、ですよ。」
反射的に魔力障壁を全力で展開。とほぼ同時に黒い炎を纏った刃がディネリンドの右腕を切り裂く。氷で出来ているから溶けるだけで済んだが、切り口から黒炎の延焼が止まらない。魔法を解除して氷の右腕を消し去り、改めて戦闘態勢。
「ミラージュ…相手に幻覚を見せる魔法……黒い炎といい、魔法、使えたんだ。」…偽リアは私との会話を答えるつもりはないらしい。
「…防ぐとは。なら…これはどう?」バキィッ、という音が響くと同時、偽リアの姿が消える。一瞬で偽リアが目の前に現れ…
「雷鳴刺突。」目にも留まらぬ突きがディネリンドを貫こうとし──
「……かは、っ…」
黒炎が、着物を着た少女を焼き焦がす。




