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ロドウェル領に向かう道中

 ――◆◇◆◇――


 ――ってわけで時間は過ぎ、ローザリアの実家であるロドウェル領まで向かうことになったんだけど……


(さっきから王女のことチラチラ見てるけど、きもいぞ)


 同じ馬車に乗っているティアリアの事を横目で見つつも話しかけないまま時間だけが過ぎていくと、不意にペンネが話しかけてきた。


(仕方ないだろ。相互理解のために話しをしよう、なんて言われたけどさ、やっぱり苦手意識というか、そういうのはあるんだよ)


 それに、これまでがこれまでだったから今更どう接して良いのか分からないし。相互理解のために話をするって、何から話せばいいんだ? 好きなものでも聞けばいいのか?


(ハンッ。随分とガキみてえなことで悩んでんだな)

(生憎と、こちとら正真正銘のガキなんだよ)


 生きた年数は前世も加えるとそれなりになるけど、肉体に引きずられていることもあって精神年齢は相応のものだ。そりゃあ普通の子供よりは達観してる面もあるだろうけど、貴族だの戦士だのといった奴らの中にいるとそんな些細な違いは誤差でしかない。

 つまり俺は今〝ガキ〟だってことだ。


(お前のどこがガキだってんだよ。世界の全員が敵に回っても生き残れるようなバケモノのくせによお)


 そんなこと言っても、ウルフレックには俺みたいに森に突っ込んでいって遊んでるガキなんて沢山いるだろ。むしろ、前世があるせいでどこか他人事のように見ることのできる俺の方が大人しいまであるくらいだ。


(戦闘力の高さと対人経験の上手さは別物だろ。……ま、お前には分からないか。食う寝るしか考えてないわんちゃんだしな)

(この野郎……噛むぞ)

(今出てきたら速攻で影の中に叩きこむぞ)


 こんな状況で出てきたら魔物だと思われるだろ。いやまあ、魔物そのものではあるけど、敵だと思って混乱して暴れられたり、こっちに疑念を持たれてもめんどくさいので大人しくしておいてほしい。


「……エルドさん、どうかされましたか?」


 なんて雑念混じりだったせいか、それまで気取られてこなかったのにティアリアのことを見ているのがバレてしまったようだ。


「え? あ、いや。なんでもない。ただちょっと……あれだ。お姫様なのにこんなに長期間馬車に乗ってて退屈じゃないのかと思ったんだ」


 ……ヘタレとは呼ばないでくれ。

 俺だって、せっかくの機会なんだ。相互理解というか、お互いの意識の違いや目的について話をした医師そのつもりだったさ。でも、いきなり話しかけられると困るっていうか、つい誤魔化してしまっても仕方ないだろ?


「退屈だなんてことはありませんよ。確かに私は王都を出てどこかに向かうという経験はありませんが、長時間座り続けていることはありますから」

「勉強とか書類作業とかか?」


 俺は学園の授業以外ではそれほど長い時間座っていたことなんてないからなぁ。椅子に座っていられる奴らは素直にすごいとは思う。

 前世ではあるけど、あっちの時はもっと柔らかくて人体工学がどうのって感じのいい椅子に座ってたし、こっちの環境で長時間座っている事とは比べ物にならない。


「それもありますが、貴族たちの相手をしているときはどうしても座り続けることになりますので。できる事なら避けたい時間ではありますけど、どうしようもありませんね」

「ああ、それは分かりますわね。わたくしも、他の貴族と面会をする時間は苦痛に感じることもありますもの。礼儀として必要なことだとは理解しているけれど、回りくどい言い回しで無駄に時間を使う話し方には辟易することもありますわ」


 へー。まあそうか。揚げ足を取られたり言質を取られないようにするためにわざわざ迂遠な言葉で話をしているけど、誰だってそんなのは面倒に決まっている。できる事なら何も考えずに面白おかしくおしゃべりしていたいものだろうな。でも……


「良いのかよ、貴族の娘がそんなことを言って」

「構いませんわ。この場にはわたくしたち五人しかいないのですもの。それに、聞かれたとしても誰もが思っていることですわ」

「誰もがそう思いながらも変えることができないってのもおかしな話だよな」


 もっといい方法があると思ってるなら、それを実行すべきだと思うんだけどな。ウルフレックを見てみろよ。あそこだとこうした方が良いんじゃね、って考えがあるとそれが平民だとか貴族だとか関係なしに採用されるぞ。駄目だったらすぐに戻されるけど、だからといって罰則はない。……やっぱりあそこは気楽でよかったなぁ。

 何も考えることなくただ変わらない日々を過ごしていくっていうのも、考えてみれば結構贅沢な話だよな。まあ、命の危険はあるけど。


 でも、安定して生き残れるようになればそれこそ怠惰でダラダラと過ごすことのできるスローライフといっても良いんじゃないか? ……自分で言っておいてなんだけど、随分物騒なスローライフだなぁ。


「それが貴族というものなのですから、仕方ありませんわ。それに、わたくし達よりもずっと警備をしているエリオットのような者の方が大変だと思いますわよ? ずっと話をすることもできないどころか身動き一つ取ることができない状況で立ち続けないといけないのですもの」

「今でこそ慣れましたけど、最初の頃は大変でしたね。立ち続けるというのも意外と筋肉と体力を使いますし」

「まあ、動かないってのはそれはそれで疲れるよな。茂みの中で伏せ続けてもきついものがあるし」


 美術の授業なんかでデッサンのモデルをやったことがある人なんかは分かるだろう。動かないっていうのはかなりきつい。特に、身じろぎ一つが命取りになるような状況では緊張感も相まってめちゃくちゃ疲れるんだよな。


「……それは禁域の中での話でしょうか?」

「ん? ああ、そうだけど? 狩りをする時は得物を追い込む勢子と作戦ポイントで待機している奇襲役が必要になるからな」


 因みに俺は大体奇襲係だ。理由? そんなの魔法の特性だな。俺の平面魔法は結界や障壁属性に比べると丈夫さはないけど、表面に絵を映し出すことができる。まあ魔法の画用紙的な奴と言える。だからそれを使って自分や仲間、罠の周囲に平面を設置し、敵を誘い込むのに適している。それに、突進してきたとしても防ぐこともできるしな。

 そういった理由から奇襲係として潜伏することがほとんどだけど、できる事ならやりたくないくらい疲れる。


「それは分かってるけど……でもそれを禁域でやる人はいないだろうね」

「うちじゃ普通にみんなやるけどな」


 最終的にはどちらかでほぼ固定されるけど、最初の内はどの役割でもやらされる。だから俺以外のガキどもも同じように戦ったり潜んでいたりしているってのは至って普通のことだ。


「ウルフレックがそもそも普通じゃないんだよ」

「疲れるのは、体力的なものだけではなく気疲れもあるんじゃないかしら?」

「まあ、一応命かけてやってるしな」

「比喩ではなく、事実、なのですよね?」

「そりゃあな。失敗すればみんな死ぬかもしれないし、文字通り命かけてやってるよ」


 なんて感じでそれまで無言で進んでいたのが嘘のように和やかに話をしながら馬車は進んで行くのだが、相変わらずティアリアの意識の変化や目的なんかの踏み入った話をすることは出来なかった。


(ヘタレ野郎)


 ……うるせえよ。



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