どうやら転生したらしい
この度新作を書きました。
これまで私の作品を読んでくださっていた方も、これから新しく読んでくださる方も楽しんでいただければ幸いです
基本的に毎朝七時に更新するので、読んでいただければと思います。
なんだかあったかい気がする。
自分は死んだ。そのことは意外なほどにすんなりと受け入れられた。
なんだろうこの暖かさは。万能感や安らぎを覚えるこの感覚。これこそ母親の胎内にいる時に感じるという感覚だったりするんじゃないだろうか。それとも普通に天国か? 地獄には流石に言ってないと思うけど……でも地獄に行く条件って調べてみると普通に満たしているんだよなぁ……。今と昔じゃ生活や常識が違うから仕方ないと思うけど、肉を食べただけで地獄行きって酷くね?
ああ……でもなんだろう。だんだんこの安らぎが遠ざかっていく気がする。
「旦那様、奥様……残念ですが……」
最初に聞こえたのはそんな言葉だった。
「そんなっ……!」
「ほ、本当にダメなのか!? 何か……何か手はないのか!」
うるさい。何か悲しいことがあったんだろうけど、今はこの幸せな余韻に浸らせてくれ。
せめて耳をふさごうとしたけど、なんだか体が重くてうまく動かない
「うっ……うう……!」
苦しいって! なんでそんな押しつぶそうとして来るんだ! やっぱりここは地獄だったのか!?
止めてと言いたいけど、声が出ない
「っ! ま、待って! 今……今この子が動いたわ」
「なにっ!?」
「ですが奥様……確かに心臓の鼓動は……」
「でも動いたのよ! 絶対に間違いなんかじゃないの!」
マジでうるさい……。しかも圧迫感が強くなったし、やめてほしい。いい加減温厚な俺でも怒るぞ。
と思ったけど、押し返そうとしても腕は動かないし、声もまともに出ない。なんだろう。なんかが詰まったような、そもそも喉の神経と脳からの命令系統がうまくつながってないような、薄い膜を一枚挟んだような妙な噛み合わなさがある。そのせいで声を出すことすらできない。
そんなもどかしさでイラついて、動かないと分かりつつもムキになって力を込める。……あ、やっぱり厳しいかも。
「っ!? お、奥様! ご子息をこちらに!」
あ……圧迫感から解放された。でも何だか悲しい気がするのはなんでだろう。
「……! い、生きています! 先ほどまで止まっていた心臓が、再び動いています!」
「「っ!!」」
「そ、それじゃあこの子は……!」
「分かりません。ですが、このまま泣かないとなると……」
「そんなっ……!」
圧迫感から解放されたのはいいんだけど、体が動かないのは変わらずなんだよなぁ。マジでどうなってんだ? 死後の世界ってこんな苦しいものなの……あ。もしかして地獄に来ちまったとか?
いや、でも地獄にしてはぬるいっていうか、地獄ってもっと厳しい責め苦が待ってるんじゃないのか?
「ちょっと失礼しますよ!」
何だ? なんか急に船酔いみたいな気持ち悪さが……って、いったあ!? 誰だこの野郎! 叩きやがったな! もしかして本格的に地獄の刑罰が始まったのか!?
「貴族様の間じゃあやらないかもしれないんですけどね、あたしら庶民じゃあ産まれて泣かない子がいたらこうするんですよ」
いてえ! いてえって! なにすん……いてえって言ってんだろ! マジでふざけんなよ!? ここが地獄なんだとしても看守てめえ! 後で絶対ぶん殴ってやるから覚えとけ!
「おあ……おぎゃあああああ!」
そんな怒りがきっかけとなったのかなんなのか、それまで感じていた薄い膜のような邪魔も消え去り、思い切り叫ぶことができた。でも……なんか叫び方がおかしくね? いや、死んだんだから普段の叫び声とは違うのは当然と言われればそれまでなんだけどさ。
「よし! まったく、手のかかる子だねえ」
あれ、なんだろう? さっきまでとは違ってなんだか周りの声がすんなりと頭の中に入ってくる。叫んで不満を吐き出したから、ってわけでもないよな?
「あなたっ……!」
「ああ! よくやった……本当によくやった……」
……それにしても、話している言葉の意味は分からないけど、なんだかそこには優しさというか慈悲……慈愛? のような感情が込められているように感じられるのは気のせいだろうか?
「マリンダ。ありがとう。本当にありがとう!」
「目の前で助けられるかもしれない赤ん坊がいるのに放っておくことができる程、あたしは薄情な人間のつもりはないんですよ。それよりも、さっきお二人のご子息の尻を叩いちまったことは、許してくれやしませんか?」
「ああっ、もちろんだ! そんなこと、罪に問うはずがなないだろう!」
痛みはなくなったし、船酔いみたいな不愉快さもなくなった。何がどうなっているのかよく分からないけど、眠いからとりあえず寝るとしよう。
「産まれて来てくれてありがとう、エルド」




