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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第二章 愚かな英雄
20/52

第八話 愚者の意思

※2018/02/17追記

 手直しにて、前半部分を追加しました。

 その前半部分に違和感があると思いますが、物語を読み進めていけば、後々解消されるようになってる……はずです!

 また、手直し前にあった鋭太郎パートは、入れられなかった<ケイパビリティー>の解説を含めて後日割り込みで投稿したいと思っています。

 大掛かりな手修正ですみません。

 カオスは、ガイアにとってカメリア家以外で初めてできた友達だった。




「聞いてよカオス、昨日ウラノスが女連れて歩いてたよ」


 神世界――

 ガイアとカオスは、街の中を歩いていた。


「ウラノス?」

「神衛部隊五番隊隊長のことだよ」

「あぁ、あのシスコンがみのことね」

「え、そうなの?」

「皆は勘違いしてるみたいだけど、連れ回しているのは彼女じゃなくて、ウラノスのお姉さん。一度会ったことがあるからわかるわ」

「へぇ~、そうなんだ」

 ※なお、1時間後にはこのことを忘れています。



 こんな何気ない会話ができる程、二人の仲は良かった。


 だが――


「ん? ガイアとカオスじゃねえか」


 二人の前を横切ったアキレスが、先に気づいて声をかけた。


「あっ、シスコン英雄だ」

「誰がシスコンだ!」


 出会い頭の罵倒にキレ気味のツッコミ。

 ガイアとアキレスのやり取りは、神世界でも定番だった。


「でも、妹想いなのは悪くないと思うわ」

「意外だな。出来のいい弟を持つお前からそんな言葉が聞けるとは」

「出来が良くたって悪くたって、心配するものよ」

「確かに、そうだな」

「……………」


 この頃から、ガイアはカオスに嫉妬を抱いていた。

 アキレスとカオスは特別仲が良いわけではない。それぞれ弟妹ていまいがいるため、話が合うというだけで、付き合ってるわけでもない。

 そんなこと、ガイア自身も分かっていた。

 しかし、楽しそうに話している二人を見る度、ガイアは思う――



 ――もし、僕に兄弟がいれば……


 ――別の形で出会っていれば……


 ――カオスみたいに可愛かったら……


 ――カオスと友達にならなければ……




 今頃は、僕と一緒に笑ってたのかな…………?







 一ヶ月後――


「…………よう」

「? 珍しいわね、アキレスの方から尋ねてくるなんて」


 アキレスは、密かにカオスと面会していた。


「あー、言いにくいことなんだが…………」


 アキレスが気まずそうに頭を掻いている。

 その様子を見て察したカオスは、彼から顔を逸らした。


「――ガイアのことでしょ?」

「流石だな……少し前は毎日のように遊んでたのに、最近会ってねぇよな?」

「えぇ、その通りよ」


 カオスは、冷たい表情を変えることなく、躊躇いもなく答えた。


「些細な事で喧嘩になっただけよ。あなたが気にすることじゃないわ」

「つってもなぁ……カオスはあいつにとって唯一の友達だから、やっぱ仲良くしてほしいっつーか――」

「あなたは、友達じゃないの?」

「俺?」


 カオスの質疑に、アキレスは頭を抱え数秒ほど考えた後、答えを出す。


「あいつは……家族、だな。もう一人の妹――いや、年齢的に姉か? まぁともあれ、俺にとってガイアは大切な存在だ」

「そう……けれど――」


 カオスは、顔を正面に戻しアキレスと目を合わせて言葉を続ける。


「ガイアは、それを望んでいないかもしれないわ」

「は? お前、『人』から大切にされたくない奴なんていんのか? 少なくとも、ガイアはそんなやつじゃねぇ。嫌なら今頃家を出てる」


 カオスの言葉に、アキレスは怒り気味に反論した。

 彼の反応にカオスはため息を吐き、やれやれと首を横に振った。


「その様子だと、まだ時間がかかりそうね……」

「あぁ? それはどういう――」

「悪いけど、これから仕事があるから。この辺で」


 カオスはアキレスに背を向け、この場を去ろうとする。

 だが、すぐに立ち止まり、振り返らずにアキレスに向けて言う。




「あと、あなたが私の言っていることを理解するまで、ガイアと仲直りする気はないから」




 そう言い残して、カオスは走り去っていった。


「訳わかんねぇよ…………」




 結局、アキレスは理解できなかった。


 恋の経験もない頭で考えたところで、無意味だった。


 何時しか、そのことすら忘れてしまったのだった…………



   ◇



 話は現代に戻る――

 暴風雨。ドス黒い雲が、太陽の光をほぼ遮断していた。


「ちぃ……!」


 秋葉は切断された左腕を押さえ、左膝を地に着けている。

 左腕の断面から水道から流れる水のように血が流れ、雨に運ばれ排水溝に入っていく。


「ガイア……どうゆうことだッ!」


 秋葉は痛みに耐えながら立ち上がり、ガイアを見ると違和感を覚えた。

 ガイアの瞳に一片の光もなく、死んだ魚の目よりも黒く染まっていた。


(病んでてもあの目は異常すぎる! マインドコントロールでも受けてるような――)


「……嘘つき」

「?」



「この嘘つき!!」



「っ!?」


 ガイアは剣を秋葉に向かって振り下ろす。本気で――確実に殺すように。

 秋葉は左に避け、右手の手刀で刃をへし折った。


「何を言って――!?」

「約束、覚えてる?」

「!?」


 秋葉は息を呑み、落ち着いて思い浮かべる。


(約束……もちろん覚えてる。ガイアを一人にさせない。ずっと傍にいると。守ってきたつもりだ。喧嘩をしては離れ、喧嘩しては離れを幾度と繰り返しても、最後には必ず仲直りした。大切な人だから。大好きな人だから。約束を破った覚えは――――)




 この瞬間、秋葉は自分自身の愚かさに初めて実感した。




「俺は…………」

「アキレスが言ってくれた……一人にしないって。でも、あの時もあの時も! 僕の傍から離れていった!!」


 ガイアは折れた剣で秋葉の左胸に突き刺す。


「ッ………………!」


 されるがまま、秋葉の体に剣が刺さった。


「知ってるさ、僕に愛想尽きたんだろ……?」


 ガイアは剣を抜くと、秋葉は両膝を崩した。


「…………」

「ただいじめられてる僕を格好つけて庇っただけで、『かわいい』なんてただの飾り言葉だったんだ!!」


 ガイアは再び剣を刺す。



「僕を家に迎えたのも罪悪感を消すため!」


 剣を抜いては刺し、


「自己満足でやったこと!」


 剣を抜いては刺し、


「愛してくれてるって僕が勝手に思ってただけ!!」


 抜いては刺し、


「結局はカオスのことが好きだったんだ!!」


 抜いては刺し、


「あんな楽しそうに!!」


 抜いては刺して抜いては刺して、


「アキレスのあんな顔! 見たことなかった!!」


 抜いては刺して抜いては刺して抜いては刺して抜いては刺して抜いては刺して。



「僕の事なんか…………僕の事なんか………!」

「…………」


 ガイアは剣を抜くと、力が抜け剣を地面に落とした。


「どうして……どうして黙ったまま…………」


 秋葉の体中にできた傷口から大量の血が流れ落ち、返って赤インクで汚したと間違われてもおかしくない程の、異常なものだった。


「……わりぃ」

「!」


 秋葉がやっと口を開いた。口からも血が流れ出て、喋りにくそうだった。


「本当に俺は馬鹿だよな……気づいてもやれねえなんて。『一人にさせない』つっときながら、一人にさせていたのは俺の方だった……お前の気持ちを理解しようともせず、自分の意思だけをぶつけようと――だはっ!!」


 秋葉は血反吐を吐いたものの、それでも話を続けようとする。

 体は震え、目の焦点も狂い始め、いつ倒れてもおかしくなかった。むしろ、倒れていない今の秋葉がおかしかった。


「俺はもう、死んでもいいさ……」

「…………」

「アイテールの復讐なんて、生きる理由にしかすぎない……」

「…………やめて」

「俺はクズだから、自殺する勇気がなかった……」

「やめて」

「妹のところへ逝かなくっちゃな…………あいつ、ああ見えて寂しがり屋だからな」

「やめて!」

「ガイア、お前に殺されるなら悔いはねえ…………だから――」




「馬鹿!! もういいよ!!」




 ガイアは泣きじゃくる子供の様に、秋葉に抱きつく。


「馬鹿! また約束破ろうとして! アキレスが逝ったら、一人になるじゃないか…………!」


 ガイアの瞳に光が現れ、元の目に戻った。


「わりぃ、そうだな……」


(誰かにそそのかれたにせよ、さっきのがガイアの本音で間違いねえな――ん、待てよ……本当に誰かにやられたとすれば、近くに!!)


 秋葉が重要なことに気づき、辺りを見渡したときには――ウラノスがガイアに手をかけようとする寸前だった。


(クソッ!! 間に合わねえ!!)


 秋葉が諦めてしまった瞬間――ガイアと共に体が左に吸い寄せられた。


「!?」


 秋葉達の体は、夏織の目の前で止まった。夏織が【ケイパビリティー】を使って重力を利用し、秋葉達をこちらに引っ張ってくれたのだ。


「わりぃな!」

「私を、忘れて……イチャイチャ、してるから、死にそうに…………!」


 夏織は息を荒らしながらも言った。


(カオスを早くユノのところへ連れて行きたいとこだが、あいつがそんな隙を作らせるわけねえよな)


 秋葉はウラノスの様子を見る。

 笑った顔でこちらを見ていたが、瞳の奥に殺意を秘めていた。


「うーん、イムホテプから教わった<マインド・リバース>を試したが……彼女ほど、上手く使えなかったみたいだ」

「フッ、たかがマインドコントロールくらいで、俺たちの仲を裂くことはできねえよ!」


 秋葉が鼻で笑って言うと、ガイアが前に出る。


「……一応、世話になったから恩に着るよ。でも僕、もうあんたを殺すって決めたから」


 ガイアが強気を見せると、ウラノスはヒューッと口笛を吹いてくる。


「嬉しいねぇ! オレに対して初めて強く出てくれた!」

「ッ!? 気持ち悪い……」

「ガイア、お前は下がっていろ」


 秋葉はガイアより一歩前に出て言った。


「はぁ? 一人で戦う気? その傷じゃロクに動けないだろ!」

「現に動けてるだろ。それに、これくらいがいいハンデだろ。負ける気がしねえ」

「へぇ…………随分と余裕があるね。さすが、神世界を救った英雄さんだね」

「当然だ。お前ごときに負けるようじゃアイテールには勝てねえからな!」


 秋葉は前に手をかざす。すると、何もない空間から秋葉の身長の倍くらいはある巨大なランスが現れ、秋葉はそれを手にする。


「はぁ……仕方ない」


 ガイアはため息を吐き、後ろに下がると夏織を横抱きにどこかへ向かおうとした。

 それを見て察した秋葉はガイアを呼び止める。


「よせ! この場から離れるな!」


 秋葉に言われると、ガイアは動きを止め反論する。


「カオスをこのまま放置するわけにはいかないだろ!」

「その通りだがダメだ! こいつのことだ……他に仲間がいるに決まってる」

「仲間…………そういえばポセイドンがいた」

「はぁあ!? ポセイドンの野郎が!?」


(マズいな……正直、ウラノスよりポセイドンの方が厄介だ!)


「安心していいよ。彼は優秀だからね…………一人でも、鋭太郎を始末できると思うなー」

「えっ…………!?」


 ウラノスの言葉を聞いた夏織の顔が真っ青になる。


「マジかよ…………」

「ガイア…………早く! 鋭太郎さんの…………ところへ――」



(どうする!? 罠だとしたら行かせるわけにはいかねぇ! やはりここに留まらせるか? ――いや、今思えばそれも危険だ! 相手は天空神。戦いが起こればここ一帯は吹き飛ぶと思った方がいい。クソッ! どうすれば――っ!?)


 秋葉が考えていると、それを妨害するようにウラノスが攻撃を仕掛ける。ウラノスが右腕を素早く振り下ろすと、雷が秋葉の真下に落下してくる。

 秋葉は瞬時に後ろに下がり回避する。


「アキレス! 僕は――」

「ガイア!」

「はい!!」


 秋葉はガイアを大きな声で呼ぶ。ガイアは謎の緊張が走り、素直な返事をした。


「カオスをしっかり持て」

「はい!」

「…………吹っ飛んでるわね。あなたらしいけど」

「えっ?」


 夏織が呟いたことに、ガイアは理解できなかった――が、すぐに理解することになる。




「わりぃ、後でプリンおごるから」




 秋葉がランスを地面に置くとすぐ、ガイアの襟を掴み勢いよく投げ飛ばした。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ガイアは夏織を抱き抱えたまま、遠くに飛ばされていった。

 学校がある方向に。


(ウラノスが【ケイパビリティー】を使えばガイアが行く道は塞がれるだろうから、瞬時に投げ飛ばして視線外に逃がしてやった。学校にポセイドンがいても問題ねえ。鋭太郎だけじゃない、ユノもいるはずだからな)


「女を投げ飛ばすなんて、正気?」

「安心しな。ガイアはあの程度では死なねぇから」


(それに、着地地点にはユノがいるから問題ねぇ)


「さてっと――」


 秋葉は地面に置いたランスを拾う。


「とっとと終わらせるか!」


 秋葉はランスでウラノスに突き刺そうとする。


「勿体ないね~」


 ウラノスはサラッと攻撃をかわすと、秋葉との距離を一気に詰め隠し持っていたナイフで秋葉の首に刺そうとする。

 秋葉は横転しながら足でナイフを弾き、距離を置く。


「その素早い動きに圧倒的なパワーを持っている君に、そのただデカいだけの鈍器は必要ないよ。その武器じゃ、突き刺すこととなぎ払うこと以外使い道がないからね」

「必要ない? よく言われるよ。だが、ちょいとこいつには思い入れがあるんでね!」


 秋葉はランスをウラノスに向けて投げ飛ばす。ウラノスは右に避けると同時にランスの持ち手を掴み取り、衝撃を体を横に回転して和らげてから秋葉に投げ返した。

 秋葉はそれを足を踏み落とした。地面が凹む程強く踏んだが、ランスに傷1つ付いていなかった。


「あれ? それ思い入れがあるんじゃなかったの?」


 ウラノスが煽るように言うが、秋葉は動じずに言い返す。


「さあな、思い入れがあるってだけで壊せないとは言ってない」


(実際、手で受け止めることは余裕だったが、体の状態を考えて下手に負担をかけられねぇ。左腕もねぇわけだし。さっさと片づけてユノに治療してもらうとするか)


 秋葉はランスを拾い、ウラノスに突進する。

 それによって体の傷口が開くが、お構いなく突進を続ける。

 ウラノスは自分の前に竜巻を発生させ、盾代わりにする。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 秋葉は右手に力を入れ、ランスを前に真っ直ぐ突き立て竜巻に突撃する。突進の勢いが強く、竜巻を消し去って直進した。

 しかし、前にウラノスはいなかった。


「甘いよ」


 ウラノスは秋葉の頭上にいた。竜巻に紛れて低空で秋葉が来るのを待機していたのだ。

事前に出した剣で秋葉の頭を切ろうとする。

 今気づいても避けられない――ウラノスはそう確信を持った。


「…………」


 秋葉はウラノスの気配に気づくと、無言で体を倒しながら横に回転し、『何か』でウラノスの右腕を剣もろとも横に斬り裂いた。


「は?」


 ウラノスは信じられない光景に唖然とした。その隙を逃さず秋葉は『何か』で首を切断しようとするが、ウラノスは自身に突風を当て、体を飛ばして攻撃をかわした。


「なぜだ……なぜランスで切断ができる? ……しかもあんな軽く振り回して」


 ウラノスは着地しながらぶつぶつと呟いた。


「まるで何かに――っ!?」


 ウラノスは秋葉を見て初めて気づいた。

 秋葉が持っている『ランス』が、『ソード』になっていることに。


「なんだそれ!? お前! まさか【ケイパビリティー】を――」

「持ってねえよ。それにあれは神以外身についた事例が一つしかねえレアもんだろうが」

「じゃあそれは何なんだ! 自由自在に変化する武器など聞いたことがない!」

「だろうな、これは非売品だ。妹が作ってくれた特注品でな」

「!?!?!?」


 ウラノスは秋葉の言うことに混乱した。


「妹…………?」

「あぁ、俺の妹――アキナスは武器マニアでな、武器を自作しては俺に試させてた。その中には滅茶苦茶なのもあって死にかけたこともあったな。こいつはアキナスの最高傑作の武器で、扱う者の思うがままの武器に変化してくれるらしい。名は確か……『トランス・オールマイト』だったか」


 秋葉は丁寧に説明しながら『ソード』を『ライフル』に変えた。


「俺はアイテールに復讐した後、この武器で自害する予定だったんだが……生きる理由を新しく見つけたからな」


 秋葉は『ライフル』の銃口をウラノスに向ける。





「復讐が終わった後、俺は……あいつを、幸せにする!! してみせる!!!」





 秋葉は強い決心を言い放ち、引き金を引こうとする――


「っ!?」


 その直前、腹部に激痛が走り、思わず口から血を吐いた。



 秋葉は腹部を確認すると、大剣が体を貫いていた。



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