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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第二章 愚かな英雄
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第六話 衝撃の真実

「死ね! バケモノ!」


「消えろ! いるだけで不快なんだよ!」


 ガイアの幼い記憶――

 『醜い人型』であった幼い頃の話

 神世界の住民である男二人は、ただの腹いせで彼女に石を投げつける。


「…………」


 ガイアは何の抵抗もしなかった。

 したところで、何の意味もなかった。



「やめろ!」



「!?」


 ガイアと同じくらいの身長をもつ少年が、彼女を守ろうと前に出た。

 ガイアの人形の如く堅かった表情が揺らぎ、戸惑いが出た。

 自分の事を庇う人は、少年が初めてであるからだ。


「またお前か! クソガキ!」

「今度ばかりは容赦しねえぞ!」


 男二人と少年の殴り合いが始まる。

 言うまでもなく、小学生辺りの少年が、成人の男二人に敵うわけがない。少年は男二人にボコボコに殴られていた。


「…………!」


 このままでは少年の身が危ないと感じたガイアは、力を使い地面から木の触手を生やした。


「うわぁあ!」

「逃げろ!」


 男二人は一瞬にしてその場から逃げた。少年の体は痣だらけで、見苦しいものだった。


「……ごめん、おれが守るほうなのに」

「…………」

「なんであいつらはきみをいじめるんだ? こんなにかわいいのに」

「え……?」


 ガイアは生まれて初めて可愛いと言われ、呆然とした。


「今、なんて…………?」

「ん? かわいいって言ったけど…………まずかった?」

「それ、本気……?」

「うん、本気。かわいいよ」

「かわ…………いい…………」


 ガイアは、少年が発した言葉の意味を噛みしめるよう呟いた。


「あっ、おれ、はやく帰らないとだった! アキナスが待っている!」


 少年は駆け足でその場を離れようとする。


「あの!」

「ん?」


 ガイアは少年を呼び止めた。少年は立ち止まり、振り向いた。


「あなたの…………名前は……?」




「アキレス! アキレス・カメリア!」




   ◆




「おーい、起きろ」


 豪雨が鳴り止まぬ翌朝。

 秋葉の声に、ベッドで寝ていたガイアが目を覚ます。


「うぅ……まだ寝させて…………」


 ガイアは起きたくないと、掛け布団の中に潜り込む。

 漫画とかでも良くある光景だ。


「悪いが今日はカオス達のもとへ連れ出す。お前が来たことで状況が変わったからな、色々と話し合いがしたい」

「えぇー……午後でもいいじゃん…………」

「嫌なことは早めに終わらせた方がいいだろ?」

「メンドクサー…………」


 ガイアは重い体を起き上がらせ、朝食が置かれたテーブルに体を運んだ。


「いただきます」

「いただきます…………」


 二人は朝食を食べ始める。



「なあガイア」

「?」

「ずっと気になってたことが二つあるんだが」

「言ってみて」

「まず一つ。お前、カオスだけ無駄に毛嫌いしてるだろ?」

「…………」

「結構仲良かったと思ってたんだが……何かあったのか?」

「…………」


 ガイアは少し躊躇いながらも、口を開き真実を告げる。





「私の、その…………プリン横取りされた」





「…………………は?」


 秋葉は反応に困った。

 動揺すればいいのか。

 呆れればいいのか。


「私は今でも恨んでい――」

「お前、それ本気で言ってんのか?」

「えっ、うんそうだけど…………おかしかった?」


 プリンを横取りされて、その相手と喧嘩になるのはまだわかる。

 だがそれを未だに根に持ち、絶交し続けていることが幼稚なことであると、ガイアは自覚していなかった。


「あぁ、おかしい。ぜってぇおかしいって!! 壮絶な過去だと大半は思ってたぞ!」

「そんなこと言われても仕方ないだろ! 事実なんだから!」

「あと訂正すると、そのプリン奪ったの妹だわ、すまん」

「そうなの? ごめん」

「……じゃあ、何であの時俺がカオスのこと好きだろって言ったんだ?」

「あれは腹いせもあったけど、アキレスがロリコンじゃないって言い張るからあぁいうのがタイプかと」

「勝手に決めつけんな! 大惨事になりかねん!」

「でも良かった、ロリコンで」

「いやロリコンでもねえから!」




「で、これで終わり?」

「いや、まだ一つ残ってる。どうしてウラノスなんかと付き合ったんだ?」

「あー…………」


 秋葉の質問に、ガイアは目を逸らす。


「荘夜から聞いた時は驚いたぜ。仕事は真面目にやる奴だが、女の前では甘えん坊になるのは前々から知ってた。それに、彼女らしき人――いや、神か? どっちにしろ女を連れ回してるのを俺は見た。それをお前も一緒に見ていたからわかってたはずだ。なのになぜ付き合った?」

「…………」


 ガイアは目を逸らしたまま、質問に答えなかった。


「……まあいい。終わったことだ。無理に言う必要はねえよ」


 食事を終えたアキレスは、食器を片付けた後、玄関の扉を開け外の様子を伺う。


「んげ、マジかよ…………」


 豪雨の勢いは昨日の倍増しで、シャワーのようだった。雷も止むことを知らず、いつ竜巻が起きてもおかしくない程の突風だった。


「ガイア、俺はカオスの元へ行くからここで待っててくれ。お前が来てくれたことを報告しないとな」

「携帯使えば?」

「……実はメアドも電話番号も聞いてねえ」

「別にいいけどさー、それなら僕を起こす必要あった?」

「話が済んで後でお前が寝てたら元も子もない。場合によってはここを立ち去ることになる」

「引っ越すの?」

「あくまで最後の手段にしておくがな。ここがバレたら対策の仕様がない。かといって一カ所にまとまるのも良くはない。そこら辺はちゃんと話し合ってくる」

「おっけ。行ってらー」

「おう」


 秋葉は靴を履き、恋侍から預かっている傘を持ち出し外に足を踏み入れると、何かを思い出し足を止めた。


「俺合い鍵持ってるから。俺以外の奴が来ても絶対に開けるなよ」

「おっけ」


 秋葉は外に行き、扉を閉めた。



   ※



「あー、やっぱ傘持たなくて正解だわ」


 まともに歩くことすら困難な暴風雨の中――

 鋭太郎は傘も差さず、びしょ濡れに鳴りながら平然と歩いていた。

 柚乃に呼びだされたため、学校に向かっている。


(標識が飛ばされてる……俺の異常さが改めて理解できるな)


 鋭太郎が辺りを見ながら歩いていると、不運にも落雷が鋭太郎を襲った。


「あぶぁばぁ!!」


 傘は壊れ、髪がチリチリになり、全身が黒焦げになった。


「ゴホッ! ゲホッ!」


 雷に直撃した鋭太郎であったが、意識はあった。今の鋭太郎の体では、フルスイングで飛ばされた野球ボールが頭に直撃した程度の痛みだった。それでもかなり痛く意識が飛ばなかったことが不思議なくらいである。


(トラップの電流とはわけが違うのか!? リストバンド――のせいじゃないよな?)


「月<リウィンド・ヒール>」


 鋭太郎が疑問を浮かべていると、背後からエフェクトを唱える柚乃の声が聞こえてきた。

 すると鋭太郎の体の状態が元に戻り、痛みが消えてなくなった。

 鋭太郎は後ろを向き、柚乃の姿を確認する。

 柚乃は傘を差していなかったが、体はどこも濡れていなかった。おそらくエフェクトか何かで防いでいるのであろう。


「ありがとうございます――てかいつの間に!?」

「この天気だから心配になって、ついテレポートして来ちゃった」


 柚乃は笑顔で言った。その笑顔は好きな人と話せている時のような眩しいものだった。


「他の皆さんは?」

「えっと、夏織は何をしても起きる気配がなく、秋葉は連絡先わからないので呼べず、荘夜は朝八時半からやってるモエキュアがみたいとかで来てくれませんでした」

「そうなのね。でも今日は鋭太郎くんだけで十分」


 柚乃がそう言うと、鋭太郎に抱きついてくる。


「っ!?」


 鋭太郎が驚くと同時に、目に映る景色が一変した。

 体育館の中――。

 気づけば自身の服が乾いていた。


「テレポートと<モイスター・イバボレーション>…………にしても、抱きつく必要ありますか?」

「特に何も」


 柚乃は誤魔化すかのように、鋭太郎の頭を撫でた。


「ぇ…………?」


 鋭太郎は何か違和感を覚える。

 撫でられる感触、感覚がぎこちなく感じた。



 極悪の環境で育った彼に、母のぬくもりと感じることはできなかった。



「それじゃ、特訓を始めましょう!」


 柚乃は鋭太郎から離れ、彼の特訓を始めようとする。


「今日は雨がひどいから、早く切り上げるわね」

「はい」


(ひどいとかそういうレベルじゃねえけどな!)


「まず、鋭太郎くんにプレゼント」

「?」


 柚乃は隠し持っていた木刀を、鋭太郎に渡した。

 鋭太郎は受け取り、木刀を眺める。

 片手で扱うように短く、全身が黒塗りだった。少々傷も目立つ。


「昨日の鋭太郎くんを見て、相手との間合いがイマイチだっわかったの。それを補うために武器が必要と思って、その木刀をあげることにしたわ」

「いいんですか? これ、かなり使い込まれているようですが」

「いいのよ。それ私のじゃなくて、夫のだから」

「いや余計にダメでしょ!」

「大丈夫よ。彼の要望からだから」


(見ず知らずの俺に? 一体誰なんだ?)


「うーん、本当は荘夜くんに稽古を頼むつもりだったけど――」





「隙あり!!」





 突然何者かが、柚乃に襲いかかる――




   ※




「遅いー!」


 マンション――ガイアは携帯ゲームをしながら秋葉を待っていた。


『こちらは文月市のお天気カメラの映像です! 凄まじい豪雨で町が全く見えません。各地で突風も起きており、いつ、どこで竜巻が発生してもおかしくありません! 絶対に外に出ないで下さい。また――』


 点けっぱなしのテレビから流れた音声である。


「……あいつなら問題ないか」


 そう呟くと、インターホンが鳴った。


「ん? 誰?」


 ガイアはゲームをやめ、流れるように玄関に行ったところ、秋葉の言葉を思い出した。



 ――俺以外の奴が来ても絶対に開けるなよ



「…………」


 ガイアは黙って様子を伺うことに。


「おーい! 俺だ! 開けてくれ!」

「!!」


 扉の奥から秋葉の声が聞こえた。その声にガイアは安心感を覚えたが、一瞬にして疑惑に変わった。

 秋葉は、合い鍵を持っているからこそ開けるなと言ったのだ。

 エフェクトを使って声を変えている――ガイアはそう考えた。


「起きてるかー?」

「合い鍵があるだろ! 自分で開けろよ!」

「それが合い鍵を家に忘れちまって――っ!? 誰だおま――ぐはぁ!!」


 扉の奥で秋葉が何者かに襲われた鈍い音が、ガイアの耳に入ってきた。


「アキレス!?」


 ガイアは疑うことを忘れ、慌てて扉を開ける。



「――迎えにきたよ、ガイア」



 そこに秋葉の姿がなく、微笑みながらガイアが出てくるのを待っていたウラノスがいた。


「えっ?」


 ガイアが唖然として間もなく、背後から当て身を受け、意識を失った。

 それを実行したポセイドンは、倒れゆく彼女の体を支え、横抱きにする。


「ありがとう、ポセイドン。それとさっきの大丈夫だった?」

「心配ないです。痛くもなんともないですから」


 先程の声の正体は、ポセイドンだった。

 声だけではおびき出せないと推測した彼は、ウラノスに頭を強く殴るように仕向けたのだ。

 思考が単純なガイアなら焦って開けると、ポセイドンは確信していた。


「すみません、これから用事があるので少し抜けますね」


 そう言って、ポセイドンはガイアをウラノスに預ける。


「オーケー。ここからは一人でも大丈夫。君も大変だね、妹に振り回されて」

「俺は何とも思いませんよ。大切な家族の頼みですから」


 ポセイドンは一人、マンションから走り去っていった。



「…………」


 横抱きにしているガイアを見て、ウラノスは薄気味悪い微笑みを浮かべる。




「覚悟しておくんだな、アキレス。これからお前は、地獄を味わうことになる」




※2018/01/09追記

 ポセイドンの一人称を『僕』→『俺』に変更しました。

 その理由と詳しい詳細は、まだ読み終えてない人のネタバレになってしまうので、第二章の手直し完了時の活動報告にて説明します。

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