終話 愛する少年
「ダルい…………何か疲れた」
「…………」
あれから数時間後。
完治した鋭太郎と夏織は帰路を歩いていた。
鋭太郎は戦闘終盤の記憶がなく、クロノスを倒したことすら覚えていなかった。
柚乃は先生、生徒たちの記憶処理、校舎の修復作業をするために二人を早くも帰らせた。荘夜は柚乃の手伝いをしている。
「それにしてもねー、俺がエフェクトを使っただなんて信じられねえ話だな」
「…………」
「あっ、もうすぐ家に着くな」
「…………」
夏織は何かを考えるように俯き、立ち止まる。
「?」
鋭太郎もその後に続き、立ち止まって夏織を見る。
「何かあったか?」
「………………………」
夏織が何かを決意し、顔を上げる。
「鋭太郎さん…………!」
夏織が一途な視線で鋭太郎を見る。
鋭太郎は思わず息を呑む。
「ずっと、ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」
とてもシンプルで、愛情がこもった告白。
今更だと言うと失礼だが、夏織は鋭太郎に想いをぶつけた。
鋭太郎は少し間を空けて、返事を出した。
「こちらこそ…………よろしく、お願いします」
鋭太郎は恥ずかしそうに言った。
(瞬時に言葉が思いつかなかったからシンプルにしたけど…………大丈夫、だよな?)
答えを聞いた夏織は目から涙が溢れ出て、鋭太郎の胸に飛びつくように抱きついた。
「よかった…………!」
「…………」
(決めた以上やり通す。これから先、数多の災難が待ち受けていることは承知の上だ。夏織を守り続ける。絶対に、何があろうと――)
鋭太郎が堅く決心したその瞬間――鋭太郎の後ろに見えるマンションのある一部屋が爆発した。
「何だよ! 雰囲気ぶち壊れ――あっ」
鋭太郎が夏織に抱きつかれたままそのマンションを見ると、最悪なことに気づいた。
「どうしました?」
夏織が涙を鋭太郎の服で拭い、抱きしめたまま顔を覗かせる。
「あれ…………俺の部屋だ」
鋭太郎の災難は、まだ始まったばかりである。
第一章 選ばれし少年 完




