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捨てられ白魔法使いの紅茶生活  作者: 瀬尾優梨
第1部 秋から冬
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18 二人の事情②

 ……ごくっと、アマリアは唾を呑む。


「……なんというか、あなたが無事に戻ってこられて本当によかったわ。それで、アルフォンスは私について、なんて言っていたの?」

「……僕があなたの名前を出すと、まずエスメラルダ王女が泣き始めました」


 レオナルドは腕を組み、難しい顔で答えた。


「ひどい怪我をしたアマリアを助けられなかった、彼女には申し訳ないことをした、とずっと泣き叫んでいました。あまりにも落ち着かないのでエスメラルダ王女は途中で退室し、アルフォンスと話をすることになりました。……まあ、言ってることはエスメラルダ王女と大差なかったです」

「……私を助けられなかったことを悔やんでいたってこと?」

「そんな感じでした。黄金の竜を倒すことはできたけれど、一行はひどい怪我を負っていて歩くのもやっとだった。だからアマリア様は最後の力を振り絞ってアルフォンスたちを回復させ、自分はそのまま力尽きて倒れてしまった。アルフォンスたちはアマリア様に感謝しながら、泣く泣く山を後にした――とのことですが、やっぱり嘘ですよね?」


 レオナルドに問われ、アマリアはぎゅっと唇を噛みしめて頷く。

 そうしないと、とんでもない罵声を口から放ってしまいそうになったからだ。


(何が……何が、泣く泣く山を後にした、なの!?)


 アマリアには命の限界まで回復魔法を使わせ、自分たちはさっさと下山した。エスメラルダに至ってはわざわざ爆発を起こして黄金の竜を呼び寄せアマリアを襲わせ、自分たちが逃げる時間稼ぎにさえ使ったというのに。

 そもそも、黄金の竜は今アマリアの隣で積み木遊びをしているので、倒されてすらいない。


「そんなの大嘘よ! 私、私は……アルフォンスに言われて、無理矢理回復魔法を使わされた。私は捨て置かれたし、エスメラルダ様に至っては私を囮にして竜に襲わせようとしたし――!」

「ああ、やっぱり黄金の竜を倒したというのも嘘なのですね。あの日を境に竜が姿を消してあの山も落ち着いたとはいえ、討伐した証拠になる牙や角を持って帰らなかったというのだから、アマリア様を置き去りにして自分たちだけ逃げ帰ったのでは、と思っていましたよ」

「……アルフォンスとの面会は、それで終わったの?」

「他にも質問はしたかったのですが、長居すると僕の首が飛びかねなかったので。最後にはアルフォンスも泣きながら、『どうかアマリアの死を無駄にしないで、君は立派な傭兵になってくれ』とまで言うものだから――」


 当時のことを思い出したのか、レオナルドは端整な顔を怒りに染め、ぐっと拳を固めた。そのときアルフォンスの顔面を殴り飛ばせなかった怒りが、拳を震わせているかのようだ。


「……それからというものの、僕は毎年この時期になると、竜の山を訪れるようにしました。アマリア様はきっと生きている。もしかすると、何か痕跡が見つかるかもしれない、と思って」

「……」

「……僕が最初にこの集落に来たのは今から四年前のことなので、アマリア様が失踪して六年経っていました。望みが薄いとは分かっていたけれど――諦められなくて」

「……レオナルド」

「でも……諦めなくて、よかった。僕は、あなたに会えた。昔と全く変わらない、優しくて清廉なあなたの姿を見ることができました」


 レオナルドはそれまでの怒りの形相をさっと消すと、胸に手を当てて微笑んだ。


「本当は、あなたを見つけたら孤児院に一緒に帰りたいと思っていました。でも、あなたはこの集落でご自分の生活を送っているのですね。……お子さんもいらっしゃるようですし」

「あぇ……え、えっとね――」

「ママ、言っていいよ」


 個人的に一番困ることについて言及されて戸惑っていると、それまで大人しくしていたユーゴがはっきりと言った。


 彼は積み木をおもちゃ箱に入れるとアマリアの隣に来て、ポンポンと膝を叩いてくる。抱っこの合図なので抱き上げて膝に乗せると、彼は真っ直ぐレオナルドを見つめた。


「おれ、この人なら信じてもいいと思う。この人、ママのことが大好きみたいだし」

「だ、大好きって……いや、確かに君のお母さんのことはとても大切だし、素敵だと思うし、尊敬しているよ。でも――」

「チッ……青二才の分際で一丁前に照れおって。おい、ママ。こいつは味方に付けると非常に助かると、我のカンが言っておる。いっそ我のことも打ち明けて、逃げられんようにしてしまってはどうだ?」

「…………え?」


 それまでの舌っ足らずな子ども口調から一転して地の口調になったユーゴを、レオナルドは信じられないものを見る目で見ていた。


(いや、「どうだ?」って言っているけれど、素の態度になられたらこっちも打ち明けるしかなくなるんだけど!?)


 アマリアとの相談なしに物事を進めようとするユーゴにお尻ペンペンしたくなりつつ、アマリアは額に手をあてがって唸った。


 もう既に、レオナルドはユーゴの正体を怪しんでいる。こうなったら「いや、とってもませた子でねー」と言い訳することもできない。


(まあ、ユーゴ本人が正体を明かしてもいいと言っているのだし、レオナルドは昔から誠実な子だったから信頼に値するし……いいよね?)


 観念し、アマリアはすうっと息を吸った。正面で、レオナルドも同じように息を吸っている。


「レオナルド。一番に言っておくと、この子は私が生んだわけじゃない」

「…………は、はい。そうかも、とは思っていました」

「さらに言うと、この子は人間でもない」

「…………そ、そうなのですね」

「もうちょっと付け加えると、この子の正体はかつてあの山で昼寝をしていた黄金の竜なの」

「…………りゅう?」

「さらに言うと、私は十年前からほとんど年を取っていないわ。昔と全く変わらないって言ってくれたけれど、そのとおり、私の体はまだ二十一歳程度なの」

「…………すみません。ちょっと僕、理解が追いつかなくて――もう少し詳しくお伺いしてもいいですか?」

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