17 二人の事情①
ひとまず、アマリアはレオナルドを家に招いた。
話が面倒なことになりそうなのでユーゴは別室待機させようと思ったのだが、「邪魔はしないから、一緒にいたい」とお願いされたので、頭が痛くなりつつユーゴも同席することになった。
昼前に淹れた茶が残っていたので、それをレオナルドに出す。外套を脱いだレオナルドはやはり革鎧姿で、腰や胸回りなどは子どもの頃とは比べものにならないほどしっかりしていた。体質の問題なのか、ポルクにいる他の若者に比べると華奢な印象があるが、体付きはしっかりしているし腰には剣を提げている。アマリアがいない間に剣術を身につけたのだろう。
レオナルドは最初はそわそわしていたが、アマリアが出した冷茶を飲むと眉尻を下げ、ふっと笑った。
「……おいしいです。子どもの頃、アマリア様がお茶を淹れてくれたことを思い出します」
「……そうね。レオナルドは子どもの頃は蜂蜜を入れないと飲めないって言っていたけれど、苦いのも平気になった?」
「ええ、僕だって大人になりましたから」
そうして笑い合うと、張りつめていた緊張が少しだけ緩んだ気がした。ユーゴも先ほどの宣言通り、部屋の隅で木製のおもちゃを積み重ねて静かに遊んでくれているのでありがたい。
「それで――なんというか。色々と困ったことになったというか」
「そう、ですね……えっと、アマリア様。まずお伺いしたいのですが――」
そこでレオナルドはちらっとユーゴを見た後、咳払いした。
「……五年前、ギルドから修道院宛てに、あなたの登録解消通知が来ました。それについて教えていただけませんか?」
まずはそこから来たか、とアマリアも紅茶を飲みつつ渋い顔をしてしまう。
(……まあ、仕方ないか。レオナルドが気にするのは当然だし、これからどの話をするにしてもこの件は絡んでくるよね――)
「……十年前、だったかな。私はギルドの冒険者であるアルフォンスたちに誘われて修道院を出たわ。そのことは覚えている?」
「もちろんです! 連中に付いていくと報告するあなたの顔を見て、僕も将来ギルドの傭兵になると決めたんですから!」
熱を込めて語られると、なんだか無性に恥ずかしくなってきた。
孤児院にいた頃のレオナルドは、女の子に見間違えられるような可愛らしい顔をしていた。だというのに、十年の年月を経てすっかり男らしく、それでいて中性的な美しさを残しているのだから、非常にたちが悪い。この顔で優しく微笑めば、多くの少女の初恋を奪ってしまうのではないだろうか。
「私が彼らと同行したのは、結局のところ一年程度だったの。それは知っている?」
「……はい。といっても、僕がそのことを知ったのは傭兵になり、連中と会ってからでしたが」
「えっ、アルフォンスたちに会ったの?」
思わず聞き返すと、レオナルドは頷いた。だが、その表情は険しいし、アマリアが「アルフォンス」と言った瞬間ものすごく嫌そうな顔をしたことに気づいた。
「……あなたの登録解消通知を受けたのが、五年前の秋。その頃僕は体を鍛えながら孤児院で働いていたのですが、意を決して傭兵になりました。あなたの生存を信じつつ、僕は基本的に一人で傭兵活動をしていたのですが――活動を始めて一年ほど経った頃だったでしょうか」
レオナルドがものすごく嫌そうな顔で語ってくれたことによると。
ギルドでの活動を始めてから、アマリアの死を信じないレオナルドはアルフォンスたちの情報を精力的に集めてきた。見つけたらアマリアのことを問いつめるつもりでいたという。
そうしてある中規模都市のギルド支部で、彼はアルフォンスの噂を聞いた。どうやら「黄金の竜を討伐した一行のリーダー」として名を馳せていたアルフォンスはギルドを引退し、エスメラルダと結婚していたという。
「……うわー、なんだかそんな感じはしていたけれど。結婚していたの? あの二人」
「はい。アルフォンスは身分を持たない冒険者ですが、一度エスメラルダ王女を助けたこと、そして王女と共に黄金の竜を討伐したということで、国王も渋々結婚を認めたそうです」
西の隣国キロスの王女であるエスメラルダは王位継承権は持たないものの、夫婦で裕福な暮らしをしているらしく、レオナルドはキロスに渡ることを決意した。
……話を聞いたアマリアは、嫌な予感がして眉根を寄せた。
「キロスに行ったの? でも、アルフォンスがあなたとの面会を許すとは思えないのだけれど」
「僕も、断られる覚悟で乗り込みました。でも、アマリア様の名前を出して僕がアマリア様に育てられた身だと証明すると、思ったよりあっさり面会が叶ったのです」
王女とその婿が一介の傭兵に過ぎない若者と面会するので、当然警備は固められた。だがレオナルドは体を縛られたり押さえつけられたりすることなく、アルフォンスと話をすることができたという。




