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26 院長先生、語る

 墓参りから戻ると、院長先生は来客対応を終えたようでアマリアを自室に通してくれた。

 最初はレオナルドとユーゴも誘おうとしたのだが、「まずはゆっくりお話をなさってくださいね」とのことなので、厚意に甘えることにした。ユーゴは一人にされるとまた女の子たちのおもちゃになると悟ったようで、いつになくレオナルドにべったりしていた。


「……それにしても。ルフィナが二十歳のときにあなたが生まれたので――あなたももう三十二歳ですか。だいぶ若く見えますね」


 院長先生に言われ、アマリアはどきっとしつつ笑顔を貫いた。


「ええ、よく言われます。今は集落で暮らしていますが、健康には気を付けているおかげかもしれません。果実やハーブで作った紅茶も毎日飲んでいますので」

「確かに、ルフィナの作る香水の中にも美容効果があるものがありましたね。……やはりあなたも、ルフィナと同じ能力に目覚めたのですか」


 どこか遠い眼差しで院長先生が言うので、アマリアはごくっと唾を呑んで少し身を乗り出した。


「あの、私や母の能力について院長先生はどういったことをご存じなのですか?」

「……本当に、多くは知らないのです。ルフィナも、あなたを産む少し前に香水作りに興味を持ち、あの不思議な力を発揮するようになったのです」


 院長先生はせっかくだからとアマリアが淹れたハーブティーを飲み、「……本当に、体が温かくなって力が湧いてきますね」と苦笑した。


 ――母は、両親を事故で失って孤児院にやってきたそうだ。当時院長先生は十代後半のシスターで、母の担当になった。急に両親を亡くして嘆く母を、院長先生はときには甘やかしときにはしっかり躾け、育ててきたという。


 母は子どもの頃から白魔法の才能を発揮していて、白魔法が得意なシスターに師事していた。院長先生は魔法の適性がないので母の特訓を見守り、大きくなったら白魔法の才能を生かせる仕事に就けたらと考えていたそうだ。


 若い頃から、母は香水には興味を持っていた。旅の商人から買った安価な香水が非常に気に入ったらしく、作り方を独自で習い、花やハーブから香水を作ることを趣味にし、いずれ町の市に売り出せるほどの腕前になったそうだ。


「ルフィナの作る香水は好評でした。ただ、当時は香水にこれといった効果はなかったですね」


 院長先生は、当時を懐かしむような眼差しで言った。


 ある日母は旅人の男性と出会い、やがて彼について修道院を出て行った。そして数年ほどして帰ってきた彼女は間もなく妊娠していることが判明し、「この子は絶対に生む。修道院で育てる」と言って聞かなかったそうだ。


「……院長先生は、私の父のことをご存じなのですよね?」


 子どもの頃ははぐらかされたが、今はアマリアも大人になった。まだ緊張しつつ思いきって聞くと、院長先生は少し困ったように目を瞬かせた後、渋々といった様子で頷いた。


「……ええ。あの子が修道院を離れた空白の二年ほどの間にどこにいたのかも、わたくしは知っていますが……ルフィナは、父親のことは誰にも言わないでほしいと言っていました」

「それは、私に対してもですか?」

「……ええ」

「……分かりました」


 ひとまず、アマリアは引き下がった。

 父のことが全く気にならないわけではないのだが、無理をして知ろうとも思わない。母がどうしても言うなと言い残したのなら、よほどの事情があるのだろう。


(……お母さんが最期に残した、「愛している」の言葉――お父さんがいるのならそれだけでも伝えたいと思っていたけれど、無理はできない)


 首を横に振り、アマリアは前を向いた。


「……父のことは、少し気になっただけです。……母の力のことですが、これは白黒魔法とは全く別の分類の能力なのですよね?」

「そうですね。稀にこういった力を持つ者が生まれると言われています。ただ、遺伝しやすいこともあり、昔はこの特殊な力を持つ者を増やすために無理矢理子を産まされたり隔離されたりということもありました。とはいえ、今は探そうと思えば見つけられるはずです」

「えっ、そうなんですか!?」


 思わず声を上げてしまった。


 ――かつて仲間だった黒魔法使いブラウリオは、アマリアのことを「研究材料」と呼んでいた。やっと見つけた、のようなことを口にしていたので、アマリアや母のような能力を持つ者は非常に珍しいのだと思っていたが。


「いるにはいます。……能力持ちはほとんどが女性なので、そういった女性は昔から修道院に逃げ込むことが多かったのです。中には修道院で守れずにむごい最期を迎えた女性もいるのですが……修道院は女同士で助け合う場なので、保護できた女性は修道院でシスターとして暮らしたり、誠実な相手を見つけて結婚したりできました。だから今も、各地の修道院を回れば同じような思いで身を寄せている女性がいる可能性があるのです」

「……そういうことですか」


 納得がいき、アマリアは長い息を吐き出した。


 アマリアや母のような能力は、女性に表れやすい。もし自分の能力に困ったりしたら、彼女らは修道院に助けを求める可能性が高い。昔よりも今の方が修道院の体制も整い、女性を守るための場所として確立されている。だから、「探そうと思えば見つけられるはず」と言ったのだろう。


「この力は、副作用があるとか使うたびに短命になるとか、そういうことはないのですよね?」

「根っこの原理は魔法とほぼ同じだと思うので、能力が原因で体に不都合を起こすことはないでしょう。ただ、内容が内容だけにあまりおおっぴらにすることはできません。ですので、この話は修道院関係者にのみ細々と伝えられていて、公にはされません」

「……王族も知らないのですね」

「今のレアンドラ王家は非常に落ち着いているので、能力持ちの女性の話を奏上すれば保護を提案してくださるかもしれません。しかし、次の国王陛下、その次の国王陛下も同じように保護してくださるとは限りません」


 保護を受けられたら心強いが、悪心を抱く者に情報が漏れれば、悪用される。そう危惧するのは当然のことだろう。


「ですから、能力のことは公にしないのです。中には、生まれ持った力を存分に発揮して国のために貢献した女性もいるそうですけれど、当人が望まない限り、信頼できる相手ではない限り、能力持ちの女性を保護しても存在を広めることはしない。それが、我々修道院関係者の暗黙の了解でもありますね」


(……そっか。ブラウリオのように能力の存在に気づく人はいても、具体的に誰が能力持ちなのかは明らかにされていないから、「やっと見つけた」ことになるのか)


 確かに、ブラウリオのような変態の域に入るような研究者でない限り、他人が隠し持っている能力に気づくことは難しいだろう。


(もしかすると、私が思っている以上に能力持ちの女性がいるのかも? 気づいていない人もいるし、気づいていてあえて力を封印している人、うまく力を使いながら市井に溶け込んでいる人とかがいる可能性がある……)


 アマリアは姿勢を正し、頭を下げた。


「……お話しくださり、ありがとうございました」

「何か、あなたのためになれましたか」

「はい。……私の力は、悪人に利用されかけたことがあります。でもやはり私は、母から受け継いだこの力をうまく使いたいです」


 この力を持って生まれたからこそ、不幸になった女性も多いことだろう。

 だからこそアマリアは、自分にできる形、自分にできる範囲でこの力を有効に活用したい。


 アマリアの言葉を、院長先生は目を細めて聞いていた。そして、「あなたの決めた道が、幸多きものであることを願っています」と微笑んだのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アマリアのお父さんが誰なのか凄く気になります… まだ生きているのならば是非合わせてあげたいと思います。(母の遺言愛してるは伝えてあげたい) いつか教えて下さるって信じてますw [一…
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