今晩の寝床を探します。
よろしくお願いします。
「よし、コブン。腹もふくれたし、魔力も少し戻った。でも、まだ空を飛べるほどじゃない。森は蜘蛛係の魔物が居るから、高く飛ばないといけないしね」
とぶ?くも?レティの言っていることが、いまいちよくわからなかった。
「だから今日中に帰るのは無理だ。よって寝床を探す必要がある。しかも日が沈む前までにね」
うーん?寝る場所って事だよね?
『寝床?ここは?』
若草が芽吹く地面をパタパタ叩いてみた。
「寝床だ。コブン、地面じゃない。・・・今晩は雨が降る、様な気がする。だから、地面など論外だよ。それに屋根も必要だしね」
『そうなの?』
空を見上げてみるが、背の高い木々ばかりで、ほとんど見えなかった。
雨の中、外で寝たことは無いけど、いつも洞窟の中で寝起きしていたので、レティが何故地面を嫌がるのか分からない。
「そうなの。そしてなにより、しっかりとした睡眠こそ、魔力の回復に最も有効だからね」
レティは、お肉を食べて元気になったのか、さっきまで震えていたのが、嘘みたいだ。
でも、まだ疲れが残ってるみたいだし、ゆっくり休みたいって事なんだと思う。
「それでコブンはいつも、どこに寝ていた?」
『僕の塒は近くの洞窟、でもさっき襲われた。今は死体だらけ』
「あ、そうなのか、洞窟か。・・・だから、いっぴ、いや。一人だったのか。では、どうするかな・・・」
『木の上は?』
僕は上を見上げながら、指をさす。
この辺りの木は大きいから、探せばレティが寝っ転がっても大丈夫な枝が、すぐに見つかると思う。
「コブン、悪い提案では無いのかも知れない。しかしアタイは寝相が悪い、起きたら落ちてる自信がある」
レティは困ったぞって感じに、腕を組んでいる。
『レティは、いつもどうしてるの?』
「いつもは、知り合いから買った軽量のテントを使ってる。でも数日前に魔物と戦った時、道具関係はほぼ失ってしまった。今あるのは、この毛皮の入った袋だけさ」
だから服が泥んこなのか。
レティの服は、あちこちが土で汚れているけど、よく見ると破れたりはしていなかった。
『・・・昨日までは?』
「・・・昨日までは心を殺して地面で寝ていた。しかしそれでは、魔力が回復しない。・・・いや、そんな事よりも、あんな、あんな美味しい食事を。・・・そう、文明を思い出してしまった今。また、原始のような生活に戻るなんて、無理」
レティは空になった木の皿を指さして、うったえる。
とっても、真剣な感じだ。
『・・・僕の居た洞窟くる?』
なんとなく、またあの洞窟に入るのは怖かったが、レティが困ってるみたいだから、聞いてみる。
「うーん。・・・最初はそう思ったんだけど、やめておこう。死体がアンデット化している可能性もあるし、その場合は・・・いささか面倒だ」
『レティ、さっきのナイフ貸して』
「どうした?アタイとしては、速めに寝床を確保したいんだけど?」
と言いつつも、貸してくれるレティ。
僕は借りたナイフを咥えて木を登る。
「突然、木に登って、どうした?魔物の気配でもする?」
レティが、首を傾げながら聞いてくる。
木に絡みついてる蔓を取るためだ。
あいにく、今はナイフを咥えていて喋れない。って喋っても伝わらないんだった。
僕はツルを木の幹からベリベリ剥がし、太い巻きヒゲや吸盤はナイフを使って切る。
ある程度の長さのツルを何本か下に落とす。
僕も降りて、落としたツルは、葉っぱを取って行く。
太いモノは、十字に切り裂く。
「相変わらず見事な手際だけど、何をしているの?」
レティは僕の手元を覗き込みながらそう聞いてくる。
『寝る道具作る、ちょっと時間かかるけど、いい?』
「・・・ふむ、いいよ。じゃあ、アタイはここに座ってる。瞑想してるから、何か来たら、一応知らせて」
『わかった』
そう言うとレティは、座って目を瞑り、動かなくなる。
ツルを細く裂いて、編んでいこうとすると、パッと手元が光って伸縮性のある紐が出来た。
思ってたより作業時間が短くなった。
でも、この紐だけだと、網を作った時に、少し柔らかすぎるので、丈夫な紐も必要だ。
僕は近くの木を調べて、太いツルを探す。
よさそうなツルはすぐに見つかったので、早速もう一度登る。
すると、木の上の方に虫が集まっている場所を見つける。
僕が近くまで登って行くと、小さい虫たちはみんな逃げてしまった。
そこは木の皮が削れていて、樹液が出ている。
一口なめてみると、甘かった。
どうやって採ろうか考えていると、キラキラになった。
触れると、細長い木の筒が、手の中に現れる。
柔らかい樹皮の栓を抜いて、中を見てみると、樹液が入っていた。
しかも木から直に舐めた時より、風味が良くてさっぱりした甘みでいくらでも舐めれそうだ。
キラキラを採るときは、液体でも集めやすいみたいだ。
僕は樹液を腰に差し、太いツタをまた、バリバリと剥がしていく。
太いツタを下に落として、葉っぱを綺麗に取る。
なんとなく樹液と合わせれる気がした。
ツタに樹液を垂らして、集中する。
すると、強い綱が出来た。
編んだり縒り合わせる手間が省けた。
できた綱は、とても丈夫で引っ張ってもびくともしない、それでいてとても軽かった。
じゃあ急いで紐を編んで網を作っていこうと思ったら、手元が光った。
光が収まると、網のハンモックが出来上がっていた。
すると、目の前が真っ暗になる。
どこかでドサッて音が聞こえた。
「コブン?おい、大丈夫か?」
気が付くと、うつ伏せに倒れていた。
レティが背中を、揺すってくれているのがわかった。
「ダギゴグブ・・・」
『大丈夫、ありがとう』
まだ少し頭がボォッとしてるけど、痛い所もない。
「急に倒れるなよ、驚くだろ。なんともないのか?」
急に頭と体が切り離された感じだった。
音はなんとなく聞こえたんだけど。
真っ暗になって何も見えなくなったし。
『なんか、突然真っ暗になったの。でも痛い所も無いし、もう大丈夫』
「そっか、ならいいけど、立ち眩みかもな。成長期には、そういう事もあるらしい」
って今思えばレティが、思いっきりハンモックを踏んでいた。
『レティありがとう。寝床できたから、だから、足上げて』
僕はレティからハンモックを助け出し、踏まれた汚れをほろう。
「これが寝床?」
レティは、2本の棒に網が巻かれた状態のハンモックを見ても、いまいち使い方がわからないみたいだ。
『レティこの端を持って、そう。で、こう開く。ここを2本の木に縛る。浮く寝床になる』
僕はレティに、ハンモックの片方を持ってもらって、反対側を僕が持って開きながら、簡単な説明をする。
「うは!?何、この見るからに快適そうな寝床は!?今すぐ寝たい!」
さっそく、周囲をキョロキョロと見回して、設置できる場所を探し始めるレティ。
『・・・レティまだ日出てる。移動しなくていいの?』
僕は木の葉に遮られてあまり見えない、空を見上げながら聞く。
たぶん、空の色が変わるまでにはまだ時間がかかるはずだ。
「・・・そう、そうだね。そうだったわ。もう少し日が傾くまで移動しよう」
僕は、余った紐で、鳥の半身を背負って固定する。
ハンモックを丸めたのは、レティが持ってくれた。
移動の途中で、フキみたいな僕より大きな葉っぱの植物や、いくつかのキラキラの所に寄り道して、採取しておく。
「それは?」
『レティは雨降るって言うから、葉っぱを屋根にするの』
「あ!あぁー、そうだね。・・・何と言うかコブンって野外活動に慣れてるね」
『・・・そうかな?なんとなくわかるだけ』
言われてみれば、僕は生まれてから、ほとんど洞窟の中で過ごしたのに、なんでなんだろう?
「あれだね。野生の本能なのかもね?」
『うん、そうかもしれない』
それから二人で日が傾くまで移動した。
「コブン、あそこの木ならちょうど良いんじゃ無い?」
『うん』
そこは森の中なのに木々が無くひらけていて、真ん中は草も生えていなくて地面がむき出しになっている。
その広場の端にハンモックを吊すのに手頃な木がある。
『レティ、この辺りに危険な魔物いる?』
「んー・・・、いないかな」
僕は背が低いので木に登って、ハンモックの紐を縛って吊るす。
作業していてふと思ったのは、ロープや荷物を担いで半日移動したり、木に登ってハンモックを引っ張り上げたり、ロープを弛みなく張るのは、普通の子供ゴブリンにできる事なんだろうか?
レティの言った通り、体が強くなっているのかもしれない。
それとも、野生の何かなのかな?
雨除けの屋根はハンモックの上に強い綱を張って大っきな葉っぱをかける。その下を開いてロープで固定し、山型屋根の完成だ。縦から見るとAに近い横棒がハンモックだ。
『レティ毛皮もってた。あれハンモックの上に敷いたら?』
「おぉ!了解。うわぁ!すごい寝心地良さそう」
レティは毛皮を何枚か持ってた、どれも虎柄の毛皮だ。
すべての設置が終わった頃には日もだいぶ傾いていた。
もう辺りも赤くなっている。
開けた場所なので、空が見やすい。
『レティお腹減った?』
「お、なんか作るの?」
『昼間の鳥肉、まだ残ってる』
「いいね!じゃあ魔力も戻りそうだし周囲に結界を作るよ」
『ケッカイ?』
「認識阻害のね。アタイ達が見えなくなって、結界内に入ろうとすると、無意識に避けちゃうんだ、だから虫とかも防げるのさ。まぁ魔力があまりないから、小さいのだけどね」
そう言って、レディは近くの石を拾いながらハンモックの周囲の木に何かしている。
僕はさっき移動中に採れた、薄い紫の小さい花と黄色い根を、残っていた半身の地鳥の肉と合わせる。
そういえばこれを合成というらしい、レディが教えてくれた。
出来たのは、『ザンギの甘酢あんかけ』だ。
いつもより大きな木の大皿の上には、細かくきざまれた山盛りの野菜の葉と衣を付けてこんがりと揚げられた一口サイズの鳥肉。
さらにその上にはトロッとして透きとおる黄金色のあんがかけられている。
「お!できたの?って凄い量だね」
昼の鶏肉と同じぐらいの量だけど、唐揚げなので、大きく見える。
『あとこれも』
よく採れる小リンゴを合成して作った『リンゴ水』だ。
レティがお皿の前に座ってたので、リンゴ水を渡して向かいに座る。
「ギィタダキァズ」
『いただきます』
手を合わせる。
「・・・それはなに?」
僕が何回か手を合わせる所を、見たので興味を持ったみたいだ。
・・・でも、うまく説明出来なくて少し考える。
『・・・地鳥に、感謝した』
「地鳥に感謝?」
『襲われたけど、地鳥のおかげで僕とレティがお腹いっぱいになる。だから感謝した』
「クックックック、アーハッハッハ、はぁあ、あー、お腹痛い。そうかぁ、ゴブリンは地鳥に祈るんだね。いや、コブンだからなのかな?」
なんでレティがお腹を抱えて笑ってるのかわからない。
でもなんとなく少し照れくさいので、またごまかす。
『レティ、冷めるよ、食べよ』
「あぁ、そうだね。いただきます」
そう言ってレティも僕のマネをした。
「って、うっま!なんじゃこりゃ?!」
また、レティが一口食べて驚く。
『ザンギ、トリを油で揚げたもの』
「外はカリッとしてるのに噛むと中から肉汁がジュワッと染み出てくる。しかも!これは?!ほのかに香るショウガの風味!それがトリ肉の本来の風味を、より引き立たせ、さらには後味をもよくしている!」
『ショウガさっきみつけた』
「この上にかかっているのは?」
レティは木の匙で、興味深げにあんかけを口へ運ぶ。
『甘酢あんかけ』
「なんてことだ、なんてことなんだ!?このあんかけを付けて食べると、カリッとした食感の後にこのトロッとしたソースが舌を包み込む、そしてその甘味とほのかな酸味が、新たな革命を起こすのかと思いきや、主役であるザンギの塩味!そして噛めば噛むほど溢れる肉汁の襲撃!しかし!それらがまさか手を取り合い
お互いを更なる高みへと誘う!まさに、まさに新たなる味の革命、いや、新時代だ」
『レティ、野菜も食べる』
「あぁ、そうだな、あまりの衝撃に我を忘れていた」
『ちがう、ザンギと一緒に食べる』
「!!?・・・まさか!まさかこの様な境地が存在していようとは、脂っこさを感じさせずに旨味を更に引き出すという・・・」
また難しい事を言い始めた。
これはとまらないのかな?
『口直し、リンゴ水飲む』
「なんと!このさっぱりとした味わいの水は?!口の中を洗い流し、今一度ザンギと向き合えと・・・」
止まらなかった。でもレティが嬉しそうだから、僕も嬉しい。
お肉も美味しいし、地鳥ありがとう。
食べ終わったころ、ポツポツときた。
『レティ、そろそろ寝る』
「そうだな。ホントに降って来たな。ってどこ行くの?」
『僕は木の枝で寝る』
隣に広場があるけど、ここの木も葉っぱがよく茂っているので、枝の上で寝れば、雨にはあたらなそうだ。
「ん?なぜ?ハンモックはこのために作ったんでしょ?」
『それはレティの、僕はどこでも寝れる』
「コブン、雨の日の朝は冷え込む、一緒に寝よう」
『僕は寒いの平気』
「違うよ、一緒に寝てアタイを温めてって意味」
『わかった』
僕とレティは一緒にハンモックに入った。
僕の背だと大変なので、レティに抱えてもらってだ。
「やっぱりゴブリンは温かいな、鼓動もはやい」
『そうなの?』
「あぁ、・・・おやすみコブン」
『おやすみなさい』
生まれて初めて温かい夜になった。
毛皮とレティのおかげだ。
・・・あと、背中がとても柔らかかった。
読んで頂きありがとうございます。
作者の描写力がないこともあり、この作品は詳しく説明せずに進むことが多々あると思います。
ご理解いただきたく思います。
食べ物の描写って難しいですね。
いつか読んでくださった方の涎が溜まるような表現がしたいです。
(そんな事を思っていた時期もありましたが、この作品はそういう方向にはあまり進んでいません)
2017年8月13日2時ごろ、修正させて頂きました。
主にレティシアさんの性格のブレをなくす方向です。
そのため、大きく削った個所もあります。
しかし、展開的にいじりにくかった場所もあり、普段より陽気な感じのレティシアさんになっていたりしますが、魔力枯渇の影響だと開き直る事にしました。
人間でいう所の、徹夜明けのナチュラルハイって感じでしょうか。
読者様のイメージを損なう修正になっている可能性もありますが、ご了承ください。
よろしくお願いします。